第十六話:飛ぶ斬撃とか躱せるわけないだろ!いい加減にしろ!
目を開けると全身泡だらけになっていた。
なにを言っているのかわからないと思うが、僕も何が起こっているかわからない。シーツを床に敷きその上で寝かされているらしい。わずかに青みがかった泡が顔以外を覆っている。
そして安定の膝枕だ、ファスと目が合う。
「ご主人様、おはようございます。お身体は大丈夫ですか?」
(マスター、オハヨー、カラダイタクナイ?)
「うん、おはよう。それで、なんで僕は泡まみれになってるの? 体は……あれ? 痛くない」
フクちゃんから引き受けたダメージもここ数日の筋肉痛もまったくない。それどころか体が軽い。
(ナオス、アワダヨ)
そう言いながら、フクちゃんが蟹のように泡を吹いていた。なんだか初めて会った森での卵を思い出すな。
「話を聞いた推測ですがヒールサーペントという蛇の魔物が持つ特性をフクちゃんが【簒奪】を使って自分のものにしたようです。ヒールサーペントは大きな蛇の魔物で傷を治す粘液を出すことができると本で読んだことがあります」
「フクちゃんがそれを使うと泡がでるのか、ありがとうフクちゃん。おかげですごく調子いいぞ」
もう少し膝枕で寝ていたいが、体内時計によるとそろそろ給仕がくる時間だ。さすがにこのままでは不味いだろう。
体を起こすと、ファスが身体を拭いてくれた。あまりに手際がよいのでされるがままに……。あれ? 下がスースーするんですけど。
「真っ裸かよ!!」
上半身はもちろん、下も何も履いてなかった。慌てて、隠そうとする。
「フクちゃん、縛ってください」
(アイアイサー)
細い糸が手足に巻きついて身動きができなくなる。ちょ、全然動けないんですけど。なんという強度……フクちゃん恐ろしい子。
「やーめーてー」
「観念してください、はい綺麗になりました。この泡には体を清潔に保つ効果もあるようです」
(エッヘン)
結局体を余すことなく拭かれた後に解放され、さすがに着替えだけは自分でやった。もうお婿にいけない。
一息ついて、給仕が朝ご飯を運ぶまで暇なのでフクちゃんを鑑定してみる。あとダメージの肩代わりのスキルを確認するために自分も鑑定してみようか。まずはフクちゃんから。
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名前:フク
クラス▼
【オリジン・スパイダーLV.18】
スキル▼
【捕食】▼
【大食LV.11】【簒奪LV.13】
【蜘蛛】▼
【毒牙LV.15】【蜘蛛糸LV.16】【薬毒生成LV.8】【回復泡LV.5】
【原初】▼
【自在進化LV.5】【念話LV.3】【戦闘形態LV.1】
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LV.18だと!? 前回と比べると11レベルも上がっているのか。
新しいスキルは【回復泡】と【戦闘形態】か、【回復泡】はさっきの青みがかった泡だよな。
「フクちゃん、すごいぞ」
「これは、本当にすごいです。やはりフクちゃんは突然変異で生まれた上位種の魔物のようですね」
(エッヘン)
僕とファスに褒められて嬉しいのかピョンピョン跳ねている。
「ところでフクちゃん戦闘形態ってなんだ?」
(チョットオッキクナル)
そう言うと、フクちゃんの体が変化した。両手ですっぽり覆えるサイズから60cmほどに、ただ体だけ大きくなるのではなく、牙も鋭くなり脚も大きくなっている、足先は爪で覆われて鋭い。なにそれカッコイイ。
「おお、カッコイイぞフクちゃん。強そうだ」
「見たことない形ですね、オウガ・スパイダーとも違うようです」
(ツカレルカラ、モドル)
すぐにシュルシュルと小さくなっていつもの可愛いフクちゃんに戻った。うん、さっきの形もいいがやっぱりこっちのがしっくりくるな。
次に自分を鑑定してみる。
――――――――――――――――――――――――
名前:吉井 真也 (よしい しんや)
性別:男性 年齢:16
クラス▼
【拳士LV.8】
【愚道者LV.11】
スキル▼
【拳士】▼
【拳骨LV.6】【掴むLV.5】【ふんばりLV.6】
【愚道者】▼
【全武器装備不可LV.100】【耐性経験値増加LV.5】【クラス経験値増加LV.4】
【吸呪LV.8】【吸傷LV.5】【自己解呪LV.9】【自己快癒LV.9】
――――――――――――――――――――――――
鍛錬でもレベルは上がるのか、まぁあれだけ鍛えて変化ないと凹むが。
【吸傷】ってのが新しく追加されているな、だんだん愚道者がどういったクラスなのかわかってきた感じだ。
「まぁ、思った通りだな、最後にファスも見てみるか」
「はい」
―――――――――――――――――――――――
名前:ファス
性別:女性 年齢:16
状態
【専属奴隷】▼
【経験値共有】【???】【???】
【竜の呪い(侵食度49)】▼
【ス※ル封※】【クラス封印】【】【忌避】
――――――――――――――――――――――――
「おっ、見ろファス。【スキル封印】がもう少しで解けそうだぞ」
「あ、ありがとうございます。経験値共有は文字通り経験値を一部共有できるスキルです。現状ではあまり意味がありませんが、きっといつかクラスを解放してお役に立ってみせます」
胸の前に両手の手を握りフンスと鼻息荒く気合を入れている。
「ああ、その時は頼む」
「はい、必ず」
そうこうしているうちに給仕がやってきて。そのまま朝食を食べて、練武場に案内された。
フッフッフ今日の僕は絶好調だ、なんでもかかってこい。
なんて余裕をこいてると、調子が良いのがわかったのか昨日の比ではないくらい鉄の棒で叩かれまくった。なるほど、昨日はあれでも手加減してくれてたのね。
「おい、同じことばかり退屈だろ? ちょっと面白いもん見せてやるよ」
「えっ?」
全身を叩かれて、フラフラになっているときにギースさんにそう言われた。ギースさんは少し遠めの間合いで剣を担いだ。
警戒して両手を中段に置き構える。ただ踏み込むにしても距離が遠い。一体何をするつもりだ?
「オラァ!!【空刃】」
魔〇剣じゃん。と呑気にも思ってしまった。某有名ゲームの技を思い起こすそれは、ファンタジーではお約束ではあるが、いざ目の前で使われると強力かつ圧倒的な性能を誇る『飛ぶ斬撃』だった。
空間を蜃気楼のように歪ませながら斬撃が飛んでくる。
初見でかわせるかこんなん!!
ふんばりと拳骨を魔力マシマシで発動するが衝撃を受け止めきれず盛大に弾き飛ばされる。
「今のが真剣だったら、腕ごと真っ二つだな」
「……でしょうね、受けもへったくれもないです。あんなのされたら格闘術なんて意味がな……ヘブッ」
愚痴を言い終わる前に、棒で顔をひっぱたかれる。
「だったら死ぬか?」
ギースさんがこの技を見せた意味なんてわかりきっている。
「すみません、もう一回さっきのお願いします」
「じゃあ、とっとと立てこの野郎!!【疾風刃】」
「さっきと違うじゃん!! ゲブゥ」
今度は横切りの『飛ぶ斬撃』だった。為す術なく直撃し、毒入り豆スープをリバースしてしまった。
結局その後は、立ち合いの稽古に『飛ぶ斬撃』を織り交ぜられて対処のしようがなく。もはや定跡も間合いもあったもんじゃない異世界の洗礼を受け、二日連続で騎士たちに運ばれる羽目になった。
ステータス入れると話が進まない……次回は進めます。
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