第百四十九話:砂漠の冒険者達
冒険者ギルドへ戻って来た最後の斥候により、僕等の進むルートが整えられた。
「よく頑張ったわね」
ヒットさんの労いに応答はない、ほとんど魔物化している上に全身怪我だらけで戻ってきた名も知らぬ冒険者は今は拘束されている。
その手には、意識があるギリギリまで情報を書き込んだであろう紙が握られていた。
チームで行ったはずだが戻ってきたのは彼一人で、その意味は考えるまでもない。
「行くわよっ!!」
アナさんが号令を出すと、動ける最後の冒険者達が雄叫びを上げた。
もちろん僕も叫ぶ、声を出していない人もいるが気合は十分。
ギルドから飛び出すと、最後まで温存されていたギルドの冒険者八名が先陣を切り走りだし、僕等のパーティーと姫様のパーティーが追走する。
彼等は、紬さんがギリギリ用意できた紋章入りの防具に叶さんのバフがかかっているおかげで魔物化の影響が最低限となっている。
その中にはファスの知り合いだったカシャさんも入っていた。
しばらくは魔物化の影響を受け、前後不覚に陥っている街の人々を横目に走るのみだったが、闘技場に近づくと街の様相はガラリと変わっていく。
斥候になってくれた冒険者達のおかげで魔物が少ない通りを進めていたが、ここからはそうはいかなそうだ。
「ご主人様、魔力の質が変わっています」
「だな。チラホラ魔物化したやつや魔物そのものが出て来た」
ファスの注意通り、虫型の魔物や薬の影響が大きかった魔物化した住人、魔人と言われる奴らが出て来た。今までと違いこちらへの敵意があり、攻撃しようと飛び掛かってくる。
最初に飛び掛かってきた虫型の魔物にカシャさんが放った火球が命中し、文字通り戦闘の口火が切られた。
「やっと、出番さね」
「行くぞ、野郎どもォ!」
「「応」」
前に出ていた冒険者達が、武器を構え魔物達に立ち向かう。
「援護します」
「だべな【飛……」
ファスとトアが攻撃をしようとすると、カシャさんが手で制止した。
「待ちな。アンタ達は少しでも体力を残しとくんだ。屋敷でも戦り合ってたんだろ?」
「【重撃】ィ!! おうとも、仲間達が作ったこの血路。ここが俺達の花道よっ!」
「見せ場を盗られちゃ堪らねぇなァ!【角蠍切り】」
豪快に斧を振り回す者、双刀を振るう者、彼等は鬼気迫る様子で襲って来る魔物を吹き飛ばし道を開ける。
「フン、やるじゃないか。流石精鋭と言ったところか」
ナルミが感心するように言葉を漏らす。実際、彼等の動きは見事だった。
「皆、ごめんなさい」
ヒットさんが申し訳なさそうに謝る。すると冒険者達は振り返らず言葉を返した。
「何言ってんだ。ギルマス、アンタこれから誰よりも活躍してくれんだろ?」
「俺達の代表なんだ。いい所見せてくれよっ!」
「何、しおらしくなってんだい。このオカマっ! アンタが誰よりも街の為に戦ってきたことくらい。あたし等は知ってんだよっ! 【火蛇】」
ギルドの冒険者達は、出し切るようにスキルを連発し闘技場まで止まらず駆け抜けていく。
「マスター、見えたよー」
フクちゃんが前を指さすと闘技場が見えた、そして近づくほどに謎の歓声も聞こえる。
それまで先頭を進んでいた冒険者達は左右に開き、その間を僕等が走り抜けた。
振り返ると彼らは足を止め他の魔物達に向かい合っている。
「ヨシイ、振り返らないで」
ヒットさんが前を走り、僕に檄を飛ばす。
まったく、カッコイイ大人達だ。
闘技場の入り口につくと、作戦通り二手に分かれる。
ここからは僕等の番だ。
上の闘技場へ向かうアナさん達と地下の狩り場へ向かう僕等で別れる。
「じゃあ、僕等は地下に行きます。ファス道はわかるか?」
「お任せくださいご主人様。淀んだ魔力の流れが集まる場所までばっちり見えます」
「たのしみ―」
「頑張るべ」
「初めてのパーティー戦だよね。前回から鍛えたから、期待してよね」
ファス達はやる気十分なようだ。
「任せるわ。闘技場と狩り場の浄化が完了次第、ダンジョンマスターになったデルモを倒して。期待しているわよヨシイ」
「私が渡した、アレ届けてね」
「こっちはさっさと浄化するわ。ヘマしないことね」
「が、頑張ってね吉井君。叶ちゃん」
「真也。戻って来たらのんびりと観光に行こうじゃないか」
「さっさと、片付けて宝を持って帰れよ」
皆からの激励を受けて、僕等は地下へと走り出した。
予定まで進まない……次回こそチャンピオンが出てきます。短いですが、ここで視点が変わるので一旦区切ります。
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