第百四十八話:拳で示すもの
【セテカー】の力によって、砂の流れを上がり地下からギルドへ戻る。
穴からはい上がると、纏わりついていた砂がサラリと落ちていく。
凄いなこれ、便利なもんだ。他のメンバーも無事戻っている(小清水は顔を真っ青にしていたけど)
「お帰りなさい。待っていたわよ」
顔を上げると、アナさんが腕を組んでいた。その姿は武装メイドとも表現すればよいのだろうか?
フリルで装飾はされているものの、腰からは甲虫を思わせる金属板がスカートを覆っている。
何かのゲームで見た、プレートアーマーとメイド服が融合したデザインだ。
うん、似合っているけど、似合ってはいるけれども。
「メイドである必要あります?」
「当然」
反論の余地などないと断言される。
まぁうん。そういうの大事だよな。
「あら、帰ったのねぇん。待っていたわよ」
ヒットさんの姿はグローブに最低限の皮装備といった軽装だった。
しかし、どの防具も手入れされており脆弱な印象はなく、玄人の雰囲気が出ている。
こういう恰好が似合う大人になりたいもんだ。
「僕等の装備は整いました。現状はどうなっています?」
「街は、半ダンジョン化のせいで混乱しているわ。特に闘技場近辺はすでに地下から魔物も出現しているそうよ。斥候に比較的安全なルートを探らせているわ。連絡によればあと一刻で最後に斥候に行ったチームが戻って来るわ」
ギルドを見渡すと、斥候を買って出た何人もの冒険者が倒れこんで休んでいる。
少なからず外に出ることで街の影響を受けている、それにも関わらず交代で僕等の為にルートを探ってくれているのだろう。アナさんが地図を広げた。
ギルド冒険者達により情報が書き込まれているそれを見ると、現段階まででおおよその道筋は決まっているようだった。
「今のうちにやることを、整理するわよ。これはデルモが仕掛けた陣取りゲーム。取る場所は【闘技場】とそこから行ける地下ダンジョンの【狩り場】ね。闘技場の観客はすでにダンジョンに取り込まれて魔物化しているようだけど、不思議なことに観客は席から動いていないそうよ。闘士達は……魔物化が進んで魔人となっている可能性が高いわね。かなり厄介だわ」
アナさんが指を鳴らすと、砂で作り出された駒が地図に出てくる。
目的地を示す旗の駒を闘技場に置き、もう一つを地下の狩り場に置く。
何それかっこいい。
「地下はデルモのダンジョンとして完成していると見ていいわね。もともとダンジョンの一部を改造していたものだし、先程の様子から転移者もデルモに操られている可能性が高いわ、転移者のスキルによって強化された魔物に罠だらけのダンジョンになっているでしょうね。そして儀式の核には当然ダンジョンマスターのデルモがいる。正直ここに戦力を多めにを投入したいのだけど、冒険者の報告によれば近づくほどに魔物化の影響が強まるせいで近寄れない。となると問題はチームなのだけど……」
「浄化は、私かアナスタシア様しかできないから、私達二人は別れるよね」
叶さんが指摘すると、叶さんとアナさんのデフォルメされた姿の駒が現れて二点に分かれる。
……セテカーさん芸が細かいな。アナさんの後ろに立つ蠢く砂塵を見るが、その表情は当然わからない、というか顔がない。
「ダンジョン化のことを加味すると、攻略の難易度は地下の方が高いでしょう。地下へはご主人様が行くべきですね。当然、私はご主人様と一緒です」
「旦那様とファスが行くならオラも地下だな、旦那様のおかげか、まださっきの白い羽の力が体に満ちてるべ。これなら魔物化の影響はなさそうだ」
「ボクもー」
トアとフクちゃんの駒が【狩り場】に置かれる。
「なら私も地下に行くよ。ファスさんや真也君と連携の練習をしたこともあるし、パーティーとして動けるから。言っとくけど慣れてない人が真也君のパーティーに入って連携するのは難しいと思う」
「そうなの?」
「そうなのでしょうか?」
僕とファスが顔を見合わすとトアがため息をついて説明してくれた。
「まぁ、旦那様の速度にファスの魔術、フクちゃんの変則攻撃に合わせるのはある程度練習しないと無理だべな」
「前、一緒にデュラハンと戦った時は支援職の限界に挑戦している気分になったからね。……むしろついていけているトアさんが凄いよ」
まるで僕等が変わったパーティーみたいなことを言われた。いやいや、ファスとフクちゃんはともかく僕は普通に前衛していると思うんだけど。
「じゃあ、ダンジョン化している【狩り場】へは僕、ファス、トア、フクちゃん、叶さんの五人で行きます」
僕の宣言に伴い、僕の駒が【狩り場】に置かれ叶さんの駒がそこに移動する。
「デルモを倒したら、財宝は取っておけよ。我が家の宝もそこにあるはずだ」
ナルミがビシッと人差し指を突き付けてくる。まぁ余裕があればできるだけ持って帰ればいいか。
「今回は叶に譲ろうか、頑張ってくれ真也」
「……私だって、そこの変態に合わせられるわ。ただ今回は……そうね譲ってあげる。た、大将首のことよ、別にそこの変態のことじゃないわよっ!」
「私達は闘技場ですね。で、でもどうすればいいでしょうか?」
日野さんが首を傾げると、残りの駒が闘技場に集まった。
「私、ヒット、コシミズ様、ヒノ様、ナカモリ様、ナルミさん。他、動ける冒険者全員を投入して闘技場を攻略することになるわね。いい? 大事なのは、穢れを浄化することによってダンジョン化を反転させることだからね。ダンジョンマスターになっているデルモをその前に殺すと、ダンジョンが崩壊。つまり半分ダンジョン化した街や魔物化した住人に被害がでるわ。ナカモリ様、魔法陣の反転は大丈夫?」
「問題ない。街中に【紋章】を仕込まされたからね。穢れの浄化さえ成れば【セテカー】殿の力を借りて、ダンジョン化の魔法陣を遠隔からでも書き換え儀式を反転することで街や人を元の姿に戻せるさ」
紬さんの一言に全員が頷く。
作戦会議は終わると、ヒットさんが近付いてきた。
「ヨシイ、ギルドマスターとしてお願いがあるわ」
差し出されたのは、返したはずのマスクだった。
「このマスクを持って行って欲しいの、私にはこれを持つ資格はないわ」
「……僕に殺してくれと言った彼は待っています」
チャンピオンは待っている。ヒットさんと同じスタイルで戦うことで玉座を守っている。
だから彼は闘技場から出なかったのだと僕は思う。
薬漬けにされ、デルモなんてクズに操られても彼は待っている。
「私は戻れないわ。この街をこうしたのは私のせいよ……冒険者だけがデルモを止めることができたはずなのに……」
「ヒットさん、僕等は冒険者であると同時に【拳士】です。僕等にできるのは拳を叩きつけることだけです。……僕も怖いし逃げ出したいって気持ちもあります。でも僕等には譲れないものがあると思いませんか?」
拳を突き出す。僕は死にたくない。
それはつまり、悔いのない生き方を選ぶことだ。
あの夜僕にそれを教えてくれたファス。
虐待されようと料理人の誇りを示したトア。
格上の魔王種に命を懸けて立ち向かってくれたフクちゃん。
奴隷になろうとも、異世界で生きようとも、自分の好きな生き方を選んだ叶さん。
彼女達の横に並ぶにふさわしい生き様を示す。
武人にとってその方法は単純だ。
ヒットさんは、差し出していたマスクを握りしめ、拳を作り僕に合わせた。
「そうね、私。考えすぎちゃったわ♪」
いつもの軽い調子、しかし握られた手は血がにじむほどに固い。
「ヒットさん、一つだけお願いがあります」
「何かしら?」
マスクの代わりにデルモの元へ持って行きたいものがある。
最後の斥候が戻ってくるまでの時間でその準備をヒットさんと行った。
話の進み遅くてすみません。更新頑張ります!
吉井君パーティーで動くのは久々ですね。
次回:王者の帰還。
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