第百四十七話:誇りある仕事
屋敷の拠点化が終わった僕等は、街の様子を見る為に外へ出た。
とりあえず、地下と冒険者ギルドの様子を見る予定だ。
アナさんは残っても良いと思ったが、皆一緒の方が危険は少ないと言われたので、結局皆で行動している。
「これが、ダンジョン化か……」
「正しくは、中途半端なダンジョン化と魔物化よ」
デルモの家の門を潜ればすぐに異常に気付く。
カジノの近くにあるこの区画は、貴族達が女性を侍らせながら歩いていた。
今も見かけだけならそうだろう。
金の装飾品をかき鳴らし、道を行く角の生えた人々はただ歩くだけだ。
その目は紅く、腕は黒い毛で覆われ、その顔は山羊のようだ。
彼等は笑いながら、つれている同じ山羊頭を引き摺り回していた。
道には幻燈の金貨がまばらに落ちており、デルモを讃える声のみが響いている。
「道行く人々に敵意はない様子です。とりあえずこの区画をでましょう」
「賛成だべ。ここはどうにも香油の臭いが強すぎるべな」
ファスの意見に全員が賛成し、とりあえずギルドへ向かうことにした。
道中観察して気づいたが、魔物化は人によって違うようで、ただハイになって騒ぐだけの人もいるようだ。
貴族の区画が魔物化が激しかったようで、そのほかの地区は姿まで変わった人間はいなかった。
ただ様子は普通ではなく、ボーッと立っていたり、地面に落ちている触ることのできない金貨を必死に取ろうとしている。
辛うじて意識がある人もいるが、頭を抱えうずくまっている。
「大丈夫ですか? うーん。だめっぽい幻聴が聞こえているみたい……」
叶さんが話しかけるが、会話できる状態ではない。
「【浄化】か僕の【解呪】なら戻せるかな?」
なまじ、軽度の影響の為に苦しんでいる人を見過ごすのは心苦しい。
「無駄よヨシイ。焼け石に水、街の住人全てを直している時間も余力もないわ。とにかくギルドへ行きましょう。あそこは予め【セテカー】の結界を張っていたから。ある程度は無事なはずよ。急いで穢れを浄化して魔法陣を書き換えないと、本当にダンジョンになってしまうわ」
「……わかりました」
納得できるわけじゃないが、優先すべきことはある。
急ぎ足でギルド向かい、狭い入り口を入ると浅黒い肌に紅い髪の女性が、腕を組んで仁王立ちしていた。
「遅いじゃないかい。街はこんな有様だし、やられちまったのかと思って荷物をまとめるところだったよ」
「あっ、貴女は……」
「ん? ファス。知り合いか?」
女性を見て、ファスが反応していた。
「はい、スタンピードの際、私に魔力の消し方を助言してくださった【魔術師】です」
「……久しぶりだね【氷華の魔女】。アンタがいるってんでギルド側に残ったんだからね」
「カシャは、ギルドとデルモの二重スパイをしてくれてたのよ。デルモの能力や転移者の動向を探ってもらってたわぁん」
ヒットさんがクネクネしながらそう言う。かなり危ない役目をしていたんだな。
優秀な冒険者なんだろう。ファスもお世話になったみたいだしな。
「僕は――」
「知っているよ。ヨシイだろ? スタンピードの本当の英雄にして【リトルオーガ】。あたしはカシャ、B級の冒険者さ。後ろにいるのは、聖女様一行かい? 手でも合わせようかね」
カシャは軽口を叩きながら、酒瓶を呷る。
「それで、カシャ。ギルドはどうなってるの?」
いつもとは少し雰囲気の違う、ギルドマスターとしての表情でヒットさんが尋ねた。
周囲を見ると、数人の冒険者は無事なようで地図を広げたり、物資を運んだりと慌ただしい。
「姫様とそこの【紋章士】様の結界のおかげで、ギルドの中にいる連中は比較的無事だよ。薬漬けだった連中は暴れだしたから外へほっぽりだすか、懲罰部屋にぶちこんだよ。あたし等もちょいと外に出る分には大丈夫だけれど、長時間はきつそうだね。とりあえず、交代で街の様子を調べている所さ」
「上出来よ。ここは大丈夫そうね。後は……」
「地下の職人が心配だな」
ナルミがポツリと呟く。
「ボルテスさんはホテルにいるんだっけか?」
「いや、作りたいものがあると言って地下に戻ったはずだ……」
「アナさん……」
「ダメよ。理由はもう説明したわ」
バッサリと切り捨てられる。そうだよな。今は体力を温存する方が先だな。
「マスター、マイセルが来たよー」
「えっマジか!?」
入口を見ると、帽子を被った少年が転がるように飛び込んで来た。
僕等が地下で助けた、マイセルと言う名前の少年だ。
「良かった。ここに居たんだな。アニキ、地下へ来てくれっ!!」
ガクンガクンと身体を揺すぶられる。
「落ち着けマイセル。お前は無事なのか?」
見たところマイセルは特に変わったと頃はない様子だ。
「なんでか、子供だけは無事なんだよ。そんで……いいから来てくれよ。他の人達も来てくれ渡したいもんがあるんだ。皆待ってる」
ちらりとアナさんを見ると、彼女は大きなため息をついた。
「ハァ……。まぁ今闘技場へのルートで罠や敵の状況を調べているから、少し時間はあるわ」
「よしきた。急げアニキ」
「待てよマイセル」
マイセルは僕の手をとって引っ張る。
「時間がないんだろっ! ボルテスさんがアニキ達がこれから戦うって地下の皆に伝えたんだ」
「まったく【セテカー】通路を移動しなさい」
見かねた、アナさんがそう言うと、再び砂塵が人の形を作った。
そして、両手を広げるとその足元に穴ができる。
「地下まで繋がっていますね。【精霊使い】というのは便利です」
ファスが驚いている。マジで姫様チートだな。【転移者】並みじゃないか?
「その分制約がめちゃくちゃ多いのよ。さぁ皆入って頂戴」
「ギルドの床に穴が……まぁいいわぁん。私は残って皆が戻る前に闘技場へのルートに罠や待ち伏せがないか調べておくわね」
「お願いします。よし行くぞ」
「ご主人様、抱きかかえてくれますか?」
「……尻尾をしまっとくだ」
「ボク、これスキー」
「あー、ファスさんずるい。私達も行ったほうがいいよね、ほら留美ちゃん、千早ちゃん、行くよ。紬はどうする?」
「私は遠慮しよう。少しでも魔法陣を書き換える準備をしておかないとね」
「えっ、ちょ、叶。私は、私はいいわよ。こういうの苦手っていやあああああああ」
「あっ千早ちゃん……じゃあ私も入りますね」
ということで、ヒットさんと紬さんが残り。残りは穴に飛び込んだ。
ウォータースライダーでもなかなかないような、急降下と急カーブを挟み地下の職人達の元へ運ばれる。
「うぉおおおおおおお」
ファスを抱えながら【ふんばり】を使って何とか出口から飛び出て着地する。
「あぁ、口の中がジャリジャリする。」
「ありがとうございますご主人様」
ファスを降ろすと、後ろからトアとフクちゃんが出て来た。
「お、お尻が痛いべ」
「もっと、グニャグニャしたのがやりたい」
後ろから叶さん達やマイセルが出て来た。
そして、僕等のことに気付いたのかなんか擦り傷だらけの子供達が走り寄ってきた。
その中にはマイセルの妹分のシアの姿もある。
「待っていました。こっちへ来てください」
「ほら、走るぞ。アニキ」
子供達に急かされながら案内されると、地下の職人達が青い顔で必死に作業をしている。
僕らは椅子に座らされ、巻き尺で手足の長さを図られたり、型紙を当てられたりとされる。
「……待っていたよ。少しだけ辛抱しとくれ。最後の調整だけだからね」
立つこともままならない様子のキルトさんが、歯を食いしばりながら編み機を糸と針を動かし、シアもそれ手伝う。
周りを見れば、他にも彫金、木工、鍛冶、他にも様々な職人が呪いの影響を受けながらも懸命に作業を行い、それを元気な子供達が手伝っている。
「叶さん【浄化】を」
「うん【星光清祓】」
叶さんが杖を振ると、優しい薄青の光が地面に染み込み。地脈を浄化する。
職人たちは、それを見て驚いた顔をするがすぐに作業に戻る。
「吸呪もしておくよ」
「必要ないぜ。俺達ができることはもうないからな」
ボルテスさんが、子供たちに体を支えられながらやってきた。
「姫様からの手紙で知ってよ。お前等デルモと戦いに行くんだろ?」
「はい」
「なら、せめて。俺達にもできることはないかってな。ドレスを作り終わってからは、貴族達から姫様がぶんどった素材を使って。ずっと装備を作っていたんだ、おら腕を出せ」
手を出すと、子供たちが木でできた枠を当てて、木炭で印をつける。
その後にボルテスさんが手で僕の手をなぞり形を把握していた。
「お前さん等はそこで座って、俺達の仕事を見ときな」
「支えるぜ、オッサン」
マイセルがボルテスさんを支える。ボルテスさんは小さな工具を使って細かい部品を調整していく。
他の職人達も子供と協力しながら、自分の作業をこなす。
革細工職人は皮包丁を真剣な表情で引き。
裁縫職人のキルトさんはフクちゃんがあつらえた布を加工していく。
木工細工職人は、部品を削り出し複数の木材を組み合わせる。
子供達は必死で部品や材料をリレーのバトンのように職人間に運び、慣れない作業で自分の手がボロボロになるのも気にせず、職人たちを手伝っている。
全員にフクちゃんが作った布で作られた服が配られ。次に防具が渡された。
着替えると、身体に張り付いていた砂が落ちていく。
肌触りがよく、よく伸びる。
防具はヴェノムスコルピオの素材がメインで使われており、それを金属で補強されているようだ。かなり丈夫そうなのに異様に軽い。前衛と後衛でデザインが違うようで、前衛組はやや分厚いプレートが付けられている。
革靴は冒険者の靴らしく、丈夫で壊れにくい作りでありながら
履き心地は柔らかい。
ファスと叶さんにはローブが渡され、ファスには簡素な装飾のロッドと叶さんには木製のワンドが渡されていた。
二人に渡されたローブは防具の上から羽織ることを想定しており、至る所に魔法陣が書き込まれていた。その緻密さは狂気のような執念を感じる。
小清水と日野さんには刀や暗器が滑らないように手袋が渡され、ベルトも金属製の固定具が付けられ、様々な姿勢から武器を扱えるように工夫されている代物だった。
ナルミには、アマゾネスのような弓に投げナイフと武器が渡されていた。
ファスが言うには、エルフの伝統装備らしい。
フクちゃんは、一見日常で着るようなワンピースを渡されていたが。
これはキルトさん渾身の作品で。
服そのものが、フクちゃんの魔力を感じ変形するものだった。
そして僕には……。
「白い嬢ちゃんが土台と内張を作ってくれてな、後は俺が仕上げた」
ギースさんから貰った。修行の際に使ったボロボロの手甲だった。
それが、真新しくなって生まれ変わっていた。
フクちゃんの糸が使われたそれは、上腕から手の甲までをカバーし、素手の可動域とほぼ変わらない柔軟性に、取り手を想定して指先がのぞく作りだった。
籠手のように金属板が付けられているが、奇怪なほどに薄くあくまで可動を阻害しないようになっている。
見た目は地味そのもの……僕がこの世界に来て最初に付けた防具。
ボルテスさんが仕上げた金属の曲面は肌と一体化しているようだ。
留め具を強く締める。
ギチギチギチ
何度も耳にした懐かしい音。
「良い仕事だろ?」
「最高です。本当に……」
僕等が装備を身に着けるころには、職人達はすっかりへたり込んでいた。
しかし、その表情は満足そうだった。
「俺達が作った防具を着けていくんだ。絶対に負けるなよ」
「満足いく仕事ができたよ。あたし等のことなんて気にせず、思いっきり暴れておいで」
ボルテスさんとキルトさんが座りながら、僕等を送り出す。
「アニキっ。その手甲。俺も手伝ったんだ。シアも針を持ってよ。へへっ俺生まれて初めて褒められたんだ」
「ありがとう。マイセル、行ってくる」
マイセルの頭を撫でて、僕等は地下を後にした。
やっと吉井君に手甲が戻りました。ちなみにファスがちゃんとした杖を持つのは初だったりします。
ブックマーク&評価ありがとうございます。励みになります。
感想&ご指摘いつも助かっています。モチベーションがあがります。






