第百四十六話:身勝手な言葉
叶さんとアナさんによる屋敷の浄化はもう少しかかるようだ。浄化に関われない者は自由に行動している。
こちら側の怪我人はほとんどなく、疲労もない。
……あくまで身体的にだが。
「大丈夫、千早ちゃん?」
「……大丈夫よ。叶に精神の保護をかけてもらったしね。腰に真剣下げているもの、こうなることはわかっていたわ」
戦闘が終わり気を抜いた後。魔物化した人間を殺したことに、一番ショックを受けているのは小清水だった。
柱にもたれ額に手を置いており、日野さんに肩をさすられている。
……次点でショックを受けているのは恐らく僕だろうけど。
日野さんと叶さんは、表面にでるほどの動揺は見られない。
アナさんやヒットを始めファス達、異世界組はすでに気持ちを切り替えているようだ。
小清水に近づく。彼女は手で顔を隠し、涙声で応じた。
「……何よ、私を笑いに来たの?」
「さっき、向こうの柱で吐いてきた」
ファス達にめっちゃ心配されました。
「あんたが? 嘘ばっかり」
「見てくればいいよ……。いつか、こういうことになるって思ってた」
「そうね」
「殺してから気づいたんだ。今殺したのが人間だったって」
「私は……わかっている状態で殺したわ。別に何とも思っていなかった。躊躇なく刀を振ったわ。……私……大丈夫だと思ってた」
「千早ちゃん……」
「……ここには、叶さんや紬さんが結界を張るらしい。屋敷の中に居ればもう戦わなくていい」
「あんたは?」
手をどけて、小清水がこちらを見る。その目は赤く腫れていた。
「浄化が終わり次第、街の様子を確認しに行くよ。僕にできることは戦うことだけだ」
ここで、立ち止まるわけには行かない。
もし止まってしまったら。僕を信じているファス達に顔向けできない。
あのクソ野郎に、この拳をぶち込むまでは、絶対に止まってやるもんか。
「私は……どうしたらいい?」
「知らない……僕には僕のことしかわからない。だけど、もし小清水が一緒に戦ってくれたら心強い」
それだけ言って、ファス達の元に戻る。上手い言葉なんて思いつかない。
「……嘘つき」
背中にその呟きが投げられた気がした。
ファス達の元に戻ると、トアがスープを持ってきてくれた。
わざわざ厨房まで行って料理してくれたらしい。
「時間が無いもんで、できあいで悪いけんど腸を整えるスープだべ」
「浄化はまもなく終わります。ご主人様は今は休んでください」
「マスター、だいじょぶ?」
フクちゃんの頭を撫でて、スープを匙で啜る。
叶さんが回復のスキルをかけてくれた。
「千早ちゃんを励ましてくれて、ありがとね」
「叶さんが言った方が良かったと思うけど」
「……どうだろうね。今回は真也君の方が適任だと思う。トアさん私にもスープをくれる?」
「私もお願いします。パンも欲しいです」
「ボクもー」
「そう言うと思って、鍋ごと持ってきただよ。パンもあるべ」
「おっいいわね。浄化はセテカーに任せて私も休むわ」
「私も紋章を描き終わったよ。ワインも欲しいね」
「私もご相伴に預かるわぁん」
「私も貰うぞ」
アナさん、ツムギさん、ヒットさん、ナルミもやって来た。
「ナルミ、エルフの宝はあったのか?」
彼女は、宝を探して屋敷を回っていたはずだ。
「宝物庫は空だった。フン、大方デルモが一緒に持って行ったんだろう。守銭奴の貴族らしい行動だ」
「……蠍姿で、宝をかき集めたのか。間抜けだな」
「奴を倒せば、まるっと私達のものねっ!」
スープを豪快にかっ込みながら、アナさんが盗賊みたいなことを言う。
この人一応一国の姫様なんだよなぁ。
「私もスープをもらえるかしら」
後ろから小清水が近付いてきた。日野さんも一緒だ。
なんとなく恥ずかしいというか、かける言葉もないので無言でスープを啜る。
小清水はやや乱暴に僕の横に座り、渡されたスープを匙で口に入れた。
「あんたが……」
「うん?」
「あんたが、どうしても、どうしても私がいないと困るって言うなら。手伝ってあげるわよ」
腫れた目でそう言いながら、スープを飲み続けている。
「……うん、頼むよ」
彼女は、ここに居た方がいいかもしれない。これ以上辛い戦いをさせる必要はない。
でも……多分それを彼女が望んでいないだろうと、僕は無責任に思うから。
残酷な言葉を彼女に渡して、一緒にスープを飲んだ。
短くてすみません。書かなくてもよい部分かとも思いましたが、吉井君にとって大事な場面だと思ったので閑話のような感じで書きました。次回はすぐに投稿できると思います。
次回:職人達の意地
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