第百四十五話:姫を奴隷にするところだった話。
フリルのついたスカートをつまみ、カチューシャをつけた頭を下げるメイドのその表情は獰猛そのものだった。
「この街で、ダンジョン化の儀式が進んでいることは知っていたわ。私の【クラス】は【精霊使い】その土地に住む精霊と契約しその一部を触媒と魔力を以って顕現できる」
親指で隣に立つ蠢く砂塵を指す。なるほど? あれが砂漠の精霊ってわけだ。
「【精霊使い】は転移者か特別な血統にのみ発現する【クラス】だと聞いたことがあります」
ファスが感心したように説明してくれる。
カルドウスはすっかり静観モードに入ったのか、デルモの鋏に座り話を聞いている。
「【セテカー】に聴けば、随分前からおかしな儀式をしているって聞いたから調べたら。カジノ、闘技場、ダンジョン、様々な場所を使って地脈を穢していることがわかったわ。となると最近各地で起きている、ダンジョン化や魔物の暴走と関係がないわけがないでしょう? カジノで金を集め、その金で闘技場で死体を作り、地下で魔物を寄せる餌に加工してばら撒く。あぁ……ここ数ケ月は転移者様の【スキル】も使っていたようね」
「ハハハハハハハッ、けなげですな姫様。そこまで調べていながら、結局薬の正体にも気づけず、儀式を止めることもできなかった」
蠍の姿となったデルモがケラケラと笑う。
嘲笑を受けてもアナさんはその余裕を崩さない。
「そうね、正直な所。手詰まりだったわ。街も冒険者達も貴方の支配が完成していた。だから外から力を借りたのよ」
「【竜の後継】あの老害達の呪いか……そして聖女、女神の奇跡……」
カルドウスが僕をみてそう吐き捨てる。前回の戦いでも僕等のことをそう言っていたな。
なんか、こう、あれか? 僕とかファスに特別な力とか? 何それちょっとワクワクする。
期待して、アナさんを見るが目があった、赤毛を揺らしながら彼女はこっちをみると笑みを深める。
「その通り。ぶっちゃけ、よくわかってないけどね。個人的に行方を追っていたし、スタンピードでカルドウスを退けた本当の英雄って元王立騎士団の団長が言うから賭けてみたのよ。予想以上だったわ!! 聖女様もなぜかこっちに来たし、生まれて初めて女神様に感謝したわね」
「えー……」
脱力してしまう。賭けだったのか。まぁ藁にも縋る思いだったのかもしれない。
まぁ、騎士団団長ってのはライノスさんだろうし、ナノウさんとも繋がっているだろうから情報は集められそうだけど。
「結局【竜の後継】とは何なのですか? 私の呪いと関係あるのでしょうか?」
「詳しくは後で、簡単に言うと、過去にあの悪魔と対立していた竜王達と関係ある者を指すわ。ポンコツ勇者はマル姉様についているし、聖女様は教会に囲われて私からは接触できなかったし、正直対抗できる心当たりがヨシイしかいなかったのよっ」
行き当たりばったりすぎる宣言を胸を張って言われる。わーぶっちゃけたなー。
「本当に、ギリギリだっわね。藁にもすがる思いで呼び出したヨシイ達は一向に来ないしねぇ」
「【セテカー】に頼んで探して、何とか合流できたんだよね」
ギルマスと頷き合っている。ダンジョンの出口で待ち構えていたのは【セテカー】に聞いたからか、というかダンジョンに引きずりこまれたのもアナさんのせいじゃね?
心の中で突っ込みを入れると、やれやれと首を振る中森さんが前にでる。
「そして、偶然叶についてきた私が【紋章士】の力で街全体の儀式を読み取り、その性質を反転させる浄化の【紋章】を描いて回ったというわけだ。ただここでも問題があった」
中森さんがデルモを見る、デルモはその巨大な頭部で怒りの表情を作る。
「【紋章士】、魔法陣に長けた【クラス】。しかし、私の儀式は完璧だった。いくら【セテカー】が力を貸そうともあの儀式を止めることなどできるわけがない」
デルモのその言葉を聞いて、中森さんは深く頷いた。
「その通りだ。デルモ、君は見事だったよ。実際私は頭を抱えたものさ、地脈に穢れを流し込みダンジョン化させる魔法陣を描き換えようにも、何十年も溜められた穢れはあまりにも強大だった。ダンジョン化の儀式はすでに止められない状態でね。だが、偶然にも対応策を私は用意していたんだよ、いや、させられていた」
「もしかして、私が頼んでいたやつ?」
叶さんが自分を指さす。
「その通り、叶に依頼されて船旅中に書いた【奴隷契約の紋章】のスクロール。それが鍵となった。アナスタシア姫がとった作戦はこうだ。まず、アナスタシア姫自身と叶を囮にどちらかを儀式の核に送り込む、堕落に執着するデルモが儀式用に貯め込んでいた穢れを流しこもうとすれば、より強い契約で上書きすることで穢れを防御し、さらに儀式の核に女神の浄化か【セテカー】の浄化を叩きこんで儀式を破綻させる。流石に【カルドウスの誓約】なんて強制的な契約と触手攻撃は想定外でゾッとしたけどね」
なるほど、随分危ない作戦だな……ん!? まてまて、となると……。
同じ考えに至ったのか叶さんが手を挙げる。
「ストップストップ、私はアナスタシア様から、いざとなったら奴隷契約で身を守れって言われてたけど、じゃあもしデルモの狙いがアナスタシア様だったらどうしたんですか?」
「もちろん、私がヨシイの奴隷になる予定だったわよ」グッ。
「マジですかっ!?」
サムズアップで返答され、奴隷契約のスクロールを取り出される。
危うく一国の姫を奴隷落ちさせるところだったのか僕。
「パーティーに入る際は、私を通してください」
「いや、ファス。そんな話じゃねぇべ」
「マスター、またふやすの?」
「増やさないよ、フクちゃん」
「もう締め切りだよね、真也君?」
「待ってくれ真也。私はまだ立候補しているが?」
「いい加減にしなさい、この女の敵っ」
「お、落ち着いて千早ちゃん。敵の前だよ」
「おい、ギルドマスター。こいつらが救世主でいいのか?」
「何言っているの、若い炎よっ。燃えるわぁん」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ、僕等だったが、突然周囲の風景が再び揺らめき、ダンジョン化が進む。
「【セテカー】っ!」
「!?【星光清祓】しつこいっ」
すぐさま、アナさんと叶さんの浄化が入り、ダンジョン化は拮抗状態で止まる。
カルドウスが立ち上がり、気怠そうに頭を掻いた。
「なるほど、運命が回っていることは理解した。今代の敵は貴様のようだな【竜の後継】……忌々しい封印は未だ顕在……後は臣下に任せて余は眠るとしよう」
「ええ、我が主。必ずやダンジョンを作り上げ、穢れを以って封印を破ってごらんに入れます」
初めからそこにはいなかったように、カルドウスは姿を消した。
残るのは僕の身長ほども肥大した頭部を蠍の身体にひっつけた化け物のようなデルモだけ。
「あんただけで、僕等全員に勝てるとでも?」
浄化をしている二人の前に出て、構えを取る。
「そう急くことはないだろう。ここで私を倒すことは容易いが、儀式はそれで終わりだ。その後この街はどうなる? 地下の職人や冒険者どももな」
「何言ってんだ? お前を倒せば終わりだろ?」
命乞いなら受け付けていない。すぐにでも終わらせてやる。
そう思っていたが、意外な所から反論が来た。
「残念だが、真也。ことはそう単純じゃない。今この街はダンジョン化と薬に侵された者たちの魔人化が進んでいる。デルモを殺しこの屋敷を浄化できたとしても、街の住民たちの呪いは解けない。君のスキルならばある程度は可能かもしれないが、人が多すぎるし、完全に魔物化してしまえば元には戻せない」
紬さんの言葉に思わず歯を食いしばる。デルモはニヤニヤと笑みを浮かべる。
「その通りだ【紋章士】。しかし、全てを元に戻す方法はあるぞ。勝負をしよう、ねぇ姫様?」
「アンタが言いそうなことは見当がついているわ。ダンジョン化の儀式の要は薬を作り出していたこの屋敷、そして薬をばら撒き生贄を作り出していた闘技場、最後に魔物を呼び寄せていた狩り場。この三つ。つまり陣取りゲームをしようって話ね」
「その通りです姫様。だから貴女は儀式を破壊せず、地下の魔法陣も書き換えたのでしょう? 儀式を性質を変えようとした。つまりダンジョン化を反転し言うなれば正常化の儀式に変えることで、魔人化を人間化とでもいう浄化に置き換える。……素晴らしい発想です」
「おためごかしはいいわ。この場所の魔法陣は押さえた。残りの闘技場と狩り場を浄化し、儀式を反転させる。そうすれば街ごとダンジョン化も魔人化もきれいさっぱり無くなる」
「……じゃあやっぱり、この場でデルモを、殺さないように取り押さえればいいんですね」
「手足と尻尾を潰しましょう」
「毒でうごけなくするー」
僕の提案にファスとフクちゃんが魔力を練り上げる。
「おっと、これは恐ろしい。私は狩り場で転移者様と貴方がたを待ち受けることにしましょう。闘技場はもっとも信頼するものが守っておりますしね」
言うが早いか、デルモは蠍の身体で地下に潜っていく。
させるか、引っ張り上げようと走りだすが、一瞬だけ屋敷のダンジョン化が進み、金貨の壁に阻まれる。浄化により金貨の壁が取り払われると、デルモの姿はすでに無かった。
「チッ……逃げられた」
「まぁ、でしょうね。とりあえずこの場所の浄化はきっちりやるわ。街の様子も気になるし、ここを拠点にして、対策を練るわよ。次は装備も整えて完膚なきまで叩き潰すわよ」
アナさんがそう宣言し、屋敷での戦いは一応の終了を迎えた。
というわけで、危機一髪だった吉井君でした。
話は変わりますが、ご意見をいただきまして、章管理をすることにしました。
見やすくなれば幸いです。
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