第百四十四話:カルドウス襲来
青と白の光が広間を埋め尽くす。
触手たちは光に焼かれ、砕けた氷は獣の爪牙の様に敵に喰いこんでいった。
「あ……こんな、馬鹿な……」
光が収まると、デルモが地面に這いつくばっていた。
その身体は黒ずみ、炎に焼かれたようだ。
「決着だ」
油断はしない、落下と同時に前へ詰め【手刀】を発動。
そのまま右抜き手。
満足に動けぬ、デルモに対し命中を確信するが、唐突に出て来た黒い手に阻まれ弾き飛ばさる。
「がっ……お前は!?」
「ご主人様!?」
「【星涙癒光】、フラグ立ってたし、やっぱり出てくるよね。カルドウスだっけ?」
10mは飛ばされ、ガードした腕が痺れるが、すぐに叶さんの回復が入る。
回り受け身ですぐに構えを取る。小清水が大上段に構えをとり、ヒットさんも間合いを詰めて連携を取れるように陣形を整える。
アナ姫様は何かスキルを使っているのか周囲に砂塵が渦巻いていた。
「やれ、また貴様か……『竜の後継』……今夜は白竜姫の匂いがするな」
少年の声と老人の声が重なったような、気持ちの悪い声。
病的に痩せた姿、死人のような青白い肌。
捻じれた角に頬まで裂けた口、真っ黒な眼。
忘れもしない、デーモン種の魔王、カルドウス・キスピオがこちらを見ていた。
「ギースさんの仇だ。今度は仕留めてやる」
闘争心のギアを一段階上げる。【呼吸法】で集中力を上げ、いつでも突撃できるようにする。
「あぁ……残念だったな。余はここにはいない」
その言葉の真意を測りかねていると。カルドウスが右手の人差し指を掲げ、その周囲に黒い玉が複数個浮かび上がり、そのすべてがデルモに吸い込まれた。
ギースさんの胸に埋め込まれたものと同じ物、だとしたら不味い。
「叶さんっ!!」
「了解【星涙光の浄化域】」
僕の意図を察してくれた叶さんが、アンデッドを浄化する結界を張ろうとする。
あの珠は死者を操り強化する。デルモは勿論、魔人達を使いまわされるわけにはいかない。
「許さん」
デルモがマジックキャンセル。それに合わせるようにファスから氷弾が、アナさんから砂塵が撃ち込まれる。
僕は踏み込んで、突撃。
「行くわよぉん」
「わかってるわ【斬閃】」
「【飛斧】だべっ」
【ふんばり】で一歩一歩踏み込んで加速していく。ヒットさんと、小清水、トアも並ぶ。
「邪魔だ」
左手を払うとファスの【闇斥】のように、黒い衝撃がぶつけられ、ヒットさんは回避するように跳び上がり、小清水は直撃し後ろへ飛ばされる。トアは斧を回収しながら、逆らわず後ろに飛んでいる。
「きゃあああ」
「旦那様!?」
「グッ、どらあああああああああああああっ!!」
僕は床をぶち抜くほどに、踏みしめて飛ばされないように耐える。
腰を落とし、前にでる。この拳をかならずぶち込む。
カルドウスの横にいるデルモは、痙攣し、のたうち回り、狂人のように地面を叩く。
退けたはずの触手が再び床から顔を出す、やばい感じだ。
「相変わらず、醜い奴だ【呪槍】」
衝撃波が途切れ、デルモの上に骨が集まってできた槍が呼出された。
発射され、躱すが、その隙をつかれ衝撃波で飛ばされる。
「おまえ、きもち悪い」
衝撃波を出したカルドウスの隙を狙った背後からの奇襲。
ドレス姿のフクちゃんが、手を振りカルドウスとデルモの首が落ちる。
「ほぅ……【聖糸】とは流石だ、余の百番目の妻、人の姿もまた美しいな」
首だけの状態でフクちゃんの頬に舌を伸ばそうとするが、頭部に氷柱が突き刺さる。
首のない身体にヒットさんが接近し、炎を纏った拳でフック、ぶっ飛ばされた体はアナさんが放った砂塵と、小清水の飛ぶ斬撃が浴びせられるが、破壊には至らない。
「決定打ではありませんっ! ご主人様っ!」
「わかってるっ!!」
前回あいつにダメージを与えられたのは【掴む】を使った攻撃か、ファスの【息吹】、もしくは叶さんの女神の奇跡だ。
フクちゃんの【聖糸】もダメージがありそうだが、油断はできない。
氷柱に刺さっている、頭部へ【ハラワタ打ち】を入れるためにもう一度接敵、叶さんも光弾を発射しようと構え、ファスは【息吹】でデルモの身体を焼き尽くそうと息を吸った。
拳を振り上げたその時だった。地面より湧き出る、魔力と闇が視界を攫う。
「フム、間に合ったな」
空間が歪む酩酊間。この感覚は……ラッチモの時と同じ、ダンジョンが誕生する時の感覚だ。
瞬き一つで世界が変わる。デルモを見ると、首だけの歓喜の表情でこちらを見ていた。
異世界の扉が開かれ、狂った法則が現実を侵食する。
「くっそっ!」
ビビってる暇はない、闇雲に出した拳は空を切りカルドウスの首はすでに消えていた。
すぐに下がり皆と合流する。
周囲を見ると、戦闘によって破壊されたはずの広間は作り直されたように、豪奢な作りとなっている。
床や壁には金貨が積まれ、人間の影が賞賛の声を上げる幻燈が周囲を走りまわる。
先ほどまで首だけだったカルドウスは何事もなかったようにもとの姿に戻っていた。
デルモも立ち上がり、こちらを見る。その身体はもはや人の物でなかった。
蠍……その姿は二本の鋏に針を持つ、巨大な蠍の身体に先程切り落とされた頭部が無理やり張り付けられたような歪なものだった。元々大柄の身体はさらに巨大となり、地下で戦ったヴェノム・スコルピオよりもさらに大きい。
「おぉ、我が主、感謝します」
「臣下に尽くすのも王の務め。しかし……儀式は不十分のようだ。フンっ、貴様の仕業か【精霊使い】」
デルモがアナ姫を睨み付ける。
「【セテカー】っ!!」
アナさんがそう叫ぶと、彼女の周囲の砂塵が蠢き、人の姿を形どる。
セテカーと呼ばれたその、蠢く砂塵は慇懃に礼をした。
蠢く砂塵が両手に見える部分を翳すと、砂が吹き荒れ広間は元の破壊されつくした部屋に戻った。
「……」
「何だとっ!?」
無言のカルドウスと驚愕するデルモ。
そしてアナ姫の後ろから、ジュストコールをなびかせ紬さんが出て来た。
「ふぅ、まったく。非戦闘員には怖すぎる場所だね。姫様、言われた通り街中にしかけた【紋章】は機能しているよ。砂漠の精霊【セテカー】殿の力を借りて、地脈の魔力は浄化されつつある。もっとも、先程まで完全に乗っ取られそうだったけどね。叶が堕とされていたらと思うとゾッとするね」
「残念だったわね。カルドウス、ダンジョン化は止めさせてもらったわ」
なるほど、状況が全然わからん。
とりあえず挙手をしてみる。
「アナさん状況がまったくわかりません」→僕
「だべな」「そうですね」「コロさないの?」→トア・ファス・フクちゃん。
「うん? ちょっと待って、考えさせて。こういうのは自分で気づきたいから」→頭を抱える叶さん。
「さっさと、説明させればいいじゃない」→小清水。
「え、えと」→キョロキョロしている日野さん。
「貴様らと付き合っていると、気が狂いそうだ……」→ナルミ。
「ごめんねぇ皆。耳が良い敵がいるから、説明できなかったのよぉ」→ヒットさん。
「ニヒッ、さて答え合わせをしましょうか、ご主人様方?」
メイド姿の姫は、スカートを摘み上品に礼をした。
というわけで、色々暗躍していた姫様です。
次回:グランド・マロ争奪戦。
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