第百四十三話:異世界ハーレムに竜の祝福を
「契約成立? ってうわあああああ」
空中で彼女を抱きとめ、庇う為に僕が下になって落下する。
唇の感触に心を奪われそうになるが、衝撃に備え、叶さんを抱きかかえ僕が下になって地面へ落下する。
黒髪が垂れ、見上げると叶さんと目が合う。彼女は眼だけで笑い、杖を捨て両手で僕の頭を深く抱き、もう一度顔を近づけた。
「むぐぅ」
ちょ、深い深い深い。時間にしてたっぷり五秒位ほどキスをされ、離れる。
「ワァオ、モーレツねぇ」
「……うわぁ」
「それでこそ、私の直属っ!!」
ヒットさんが拍手し、小清水がポカンと口を開けている、アナさんはガッツポーズをしていた。
パニックになった僕にポタリと水滴が落ちる。
見上げる叶さんは泣いていた。
「……叶さん」
「私がっ、どれだけ…うぅ……大好きなの……元の世界に戻れなくてもいいの……ハーレムでもいいからっ! もう二度と私の前から消えないでっ!」
それは彼女が抑えていた想いだった。
僕はそれに気づかず図書館に彼女を一人置き去りにして、勝手に死のうとしていたのか。
「ごめん」
それしか言えない。
「……許してあげない」
涙を拭い、僕等は立ち上がった。そして叶さんはポシェットからなんか巻物? を取り出して広げた。
「グスッ……コホン……えっと『宣誓は不要、この者は口付けを以って主であることを示し。私、桜木 叶はそれを受け入れた。【紋章士】中森 紬が奴隷契約を完了したことを保証する』っと。これでいいはず」
叶さんがそう言うと、スクロールから魔法陣が現れ、彼女の身体に吸い込まれる。
「いや、そんな無茶苦茶な。わっ!?」
後ろから抱きしめられる。振り向くとジト目のファスがいた、そして顔が近付けられる。
叶さんよりもさらに容赦のない、長いキス。
「ぷはぁ、ファス!?」
「私が一番奴隷です」
「わかってるよ。でも立場はイーブンだよね」
僕の肩越しから、半目でファスが叶さんを睨む。
「マスターボクもー」
「フクちゃ……わっぷ」
どうやって移動したのか、上から降ってきたフクちゃんが右の頬にキス……というよりチューをする。
「何してるんだべ旦那様」
触手を斧で切り落としながら、トアもやってくる。
そしてそのまま額へキス。
「トア……」
「続きは後で、だべな」
トアの言葉で全員がデルモに向き直る。
なんていうか……なんて言えばいいんだ!?
とにかく、頑張らなくちゃな!!
茹で上がった頭では、まともな言葉なんて出てこないが、全身が熱く、強く拳を握ってしまう。
今はそれで充分。
というか、深く考えると、パンクしちゃうからな(現実逃避)。
「な、何が起きている? まさか、我が主の誓約を新たな主従契約で上書きしたのか……そんな真似がただの人間にできるはずが……」
デルモが唖然としていた、気持ちはわかるぞ、というかなんでこんなこと(ハーレム)に?
思わず、デルモに共感しそうになるが、その視線が僕等以外に向いていることに気付く。
周りを見てみると、白い光が鳥の羽のように不規則に落ちて触手を退けている。
まるで、熱いものに振れるように、触手たちは白い光の粒から逃げているようだ。
叶さんのスキルか? そう思って見るけど叶さんも焦っているようだった。
「何だろう? 私じゃないよ」
キョロキョロと周囲を見た、叶さんが首を振る。
「え? 違うのか、じゃあなんなんだ? ファス、わかるか?」
「……わかりません。ただなんでしょうこの感覚、どこか懐かしいような……」
「マスターの匂いがするー」
『しゅ……く…ふ…く……を…』
どこかで聞いたような、老齢の女性を連想させる落ち着いた声が頭に響く。
「なんか、腕がムズムズするだ」
「ひかってるー」
トアが右腕をこすると、普段は消えている奴隷紋が浮かび上がり白く光る。
同時にファスの胸元からも光が漏れる、フクちゃんに至っては全身が光る。
「トア、奴隷紋が……私も光っていますね」
「えっ、私は? 紬によれば、どっかに奴隷紋がでるはず」
「太ももが光っていますよ」
「マジっ? あっホントだ」
「叶さん、スカートめくるの止めてくれっ! というか本当になんだこれ?」
光は収束し、影を浮かび上がらせる。
それはわずか一瞬であったが、まるで翼を広げた竜のようだった。
「馬鹿なっ!! 今の影は……あいつらは我が主により滅ぼされたはずだっ!! ぎ、儀式を完遂すれば、この街をダンジョンに変えれば……」
デルモが叫ぶ、白い光は消え、激昂するデルモの叫びと同時にまた触手が生えてきた。
咄嗟に【手刀】で切り落とすと、いつもと違った何かにしっかりと引っかかる芯をとらえた感触。
切断された触手はそれまでと違い、血を吐くように黒い煙を出しながら消えていった。
他の触手がまるでそれを恐れるように、引いて行く。
それまで、無限とも感じるほど生えて来た触手は毒が回るように、苦しんでいる。
「なんかわかんないけど。さっきよりも手ごたえがあるな」
「先ほどの光の力が、私達に宿っているようですね。デルモの力を退けているようです」
「これなら押し返せるね。よくも好き勝手群がってくれたわね」
「マスターのちからー」
「このまま、触手ごと儀式を砕くべ」
「さ、させるかァアアアアアアアアアアアア!!」
デルモの絶叫が響き、触手たちがデルモを中心に群がり、黒い塊になる。
うん、気持ち悪い。というか触手がどんどん増えていくぞ。
「……カナエ、あれをやりますよ」
「【魔術合わせ】久しぶりだね。真也君行ける?」
腕まくりをする叶さんと、集中し両手を突き出すファス。
「いつでも……お手柔らかに頼むぞ」
この技ラッチモ戦以来だな。
前傾して、突撃。塊から触手が伸びるが拳で殴り砕く。
飛び上がり両手を振りあげると、両手に魔力が集まる。
「【氷華:ホウセンカ】」「【星涙光鎖】」
間合いに入った僕の周囲に二人の魔力が集まる。
【掴む】で発動前の魔力に干渉し、混ぜ合わせる。
というか、練習していない組み合わせをぶっ放すの止めてくれない? ミスったらどうするんだよ。
冷や汗を掻きながら、手中で魔術を組み合わせて発動させる。三人が即興で魔術を形にする。
「行くぞっ!【魔術合わせ:星花大分銅】」
出てきたのは、光の鎖で結ばれたバカでかい氷塊。
氷塊からはスパイクのように青い光が飛び出している。
「おっりゃああああああああああああああ!!!!」
軌道にのって発現した氷塊を振り下ろし、黒い塊に叩きつける。
氷塊は炸裂すると内部から光を伴い爆発した。
吉井君、無理やり契約させられる。砂漠編も佳境です。
更新がんばります。
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