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第十四話:自分のことは棚に上げよう

 次の日も、その次の日も、ただひたすらに走り続けた。短期間で持久力なんてつかないと思っていたが、【自己快癒】のスキルもあって、体が引き裂けそうな筋肉痛(もういっそ肉離れのような痛みだ)に苛まれながらも順応していった。


 三日目には余裕をもって日暮れまで走れるようになった。四日目には具足の重さが増加され、丸太を引いて走らされた。靴が破れたので代わりを要求したら突っぱねられそこから裸足で走っている。五日目は丸太が増やされ、速く走るように怒鳴られ続けた。六日目には岩が載った荷台をロープで引かされた、重たく到底引けないと思ったが、【ふんばる】で地面を蹴り【掴む】でロープを引くことにより少しずつ進めることができた。さすがにこの日は気絶した。


 そうして今日は七日目になる。ちなみにファスへの吸呪も続けてはいるが【クラス封印】【スキル封印】を消すことはできておらず、芳しくない。こればっかりは【吸呪】のレベルを上げるしかないのかもしれない。


 ファスは何もできない自分を責めているらしく、一人で牢屋にいる時は瞑想をし続けているらしい。いつか呪いが解けた時に魔力を使うクラスを解放するためだとか。フクちゃんはここ数日いつもケガをして帰ってくる。狩りの相手が強敵らしい、どんな相手か聞いてはみたが「(スコシズツ、ヨワラセテイル、モンダイナイ)」と言い詳しく話してくれなかった。


 さて、見張りの給仕に連れられ練武場にやってきた。今日はなにを引かされることやら、昨日の荷台引きはかなりきつかった。全身筋肉痛でもうどこが痛いのかもよくわかってない。


「やっと来たか、お前の足は飾りなのかいつも俺を待たせる。この場で切り落としてやろうか」

「遅れてすみませんでした!!」

「黙れ!! 誰がしゃべっていいと言った!!」


 このやり取りも慣れたもんだ。しばらく怒鳴られてから具足が投げつけられ無言でつける。さぁ走ろうか。


「構えろ」


 はい?と聞き返すと、剣を模した鉄の棒でしばかれた。


「おいおい、これでは速すぎるか、本当に役に立たない転移者だな。王都では勇者の転移に成功したというのになぜここにはお前のようなゴミが来てしまったんだ」


 勇者が呼ばれたのか、さぞ強い能力なんだろうな。ところでその鉄棒本気で痛いんで叩くのやめてくれませんか? まぁ無理だろうな。


「ほら、これなら躱せるだろ。ひどいもんだ。農民上がりの新兵だってまだお前よりは良い動きをするぞ」


 そう言って、今度はゆっくりと鉄の棒をふるう。さすがにこれは躱せるが、少しずつ速さが上がっていき。最後には躱しきれずに強かに叩かれる。

 走ることと違って、制動が求められると具足の重さが致命的になる。なんせ防ごうにも腕が思うように動かない。

 一発くらうと、怒鳴られまた最初のようにゆっくりと鉄の棒が振られる。これを躱したり腕で防ぐ度に速度があがり叩かれるという一連の流れをひたすらに繰り返す。そのまま全身痣だらけになり動けなくなると、そこから走り込みを強制させられる。しばらく走るとまた、構えさせられさきほどの稽古が始まる。


 ギースはしっかりと構えてから、ゆっくりと剣を振る。その動きはまさに型と言えるもので剣の軌道であったり体の動きをよく見ることができる。それが繰り返し少しずつ速くなる。

 なるほどこれはよい稽古だ。ギースは自分の剣技を見せることでその防ぎ方を習得させているわけだ。なかには軌道がわかってもよけにくく何度も躱し損ねる技もあった。


「こんなゆっくり振っているのに、防げないのか、見ろ。皆がお前をみて笑っている!!」


 ギースがそう言うと周りの騎士は僕を指さして笑う、というより笑わなければならないらしい。だいたいそんなときはアグーだとかローブの男が見に来ているときだった。


 ギースの型は間合いによって構えを変えそこからフェイントを入れて技に入る、上段、中段、下段への構えに変化し足さばきで距離をつめ斬撃、突き、さらには肩から入るタックルなど様々な技を繰り出した。特に上段からのスネ打ちは間合いの妙も相まって、ゆっくり振られても躱せなかった。道場ではせいぜい型の中で決まり事の剣を受ける練習しかしたことがなく、実戦を想定した剣技の捌き方は習っていなかった。後悔しても遅いがそのせいで下段の変化は対応することがまったくできない。


 具足の上からでも手足がはれ上がり熱を持つのがわかる。【拳骨】がなければとうに折れていただろう。

 最終的には足を打たれすぎて動けなくなり倒れこんでしまい。それでその日の稽古は終わった。


「……ありがとうございました」


 その後騎士団数人に担がれ牢屋に戻り、ファスの介護を受ける。


「なんてひどい、体中痣だらけです。腕と足がパンパンに膨れ上がって……すぐに冷やします」


 ベッドで寝転んだ僕の手足に濡らした布を当ててくれた。あぁ気持ちいい。「あ゛ー」と思わず風呂に入ったような声がでる。

 それを見ていた、フクちゃんが胸にのり。決意を固めたような強い語気で話しかけてきた。


(……マスター、マッテテ、キョウコソ、シトメル)


 そう言って、格子の隙間から外へ出て行った。


「まて、フクちゃん仕留めるってなんだ?」


 問い詰めたいが体が動かない。ファスが布を交換しながら説明してくれた。


「ご主人様がいないときにフクちゃんと少し話したのですが、この屋敷にいる魔物。おそらくは従魔を狩ろうとしているようです」


 従魔? あー、もしかしてアグーが転移者に用意したものの中に従魔もあったのかな?


「どうやら、従魔の中に傷を癒す能力を持った魔物がいるらしく、ご主人様の為にその力を奪おうとしているようです」

「奪う、そんなことできるのか? というか危ないんじゃ?」

「【簒奪】のスキルを使えば可能なのかもしれませんが……」

「なんで話をしたときに止めなかった? フクちゃんはまだ生まれたばかりだぞ!」


 思わず、責めるような言葉が口からでてくる。


「私がフクちゃんの立場だったら間違いなく同じことをしたからです!!」


 ファスが強い声で返してきた。


「ご主人様が毎日、疲れきってケガして帰ってきているのに、なにもしないなんて、なにもできないなんて辛いに決まっているじゃないですか、私だって、できることがあるのなら多少危険でも迷わず行います!! なにもできない辛さは私が一番わかっています、恩を返すと言ったのに何もできない。してあげられない悔しさをわかっているのに止めれるわけがないじゃないですか!!」


 ぐぅの音もでない。待っている一人と一匹の気持ちをまるで考えてなかった。


「……悪かった。ファス、僕はまた自分のことだけ考えてた」

「い、いえ。すみません、声をあららげてしまって。布を替えますね」


 その後はなんとなく気まずくて無言の時間が流れる。寝てしまえばよいのかもしれないが、もしかしたら今戦っているかもしれないフクちゃんのことを考えると気になって眠れない。吸呪をしているときに覚えた痛みを和らげる呼吸をしつつフクちゃんの帰りを待つ。ファスはベッドの横でこまめに布を替えて手足を冷やしてくれた。


 何時間経ったかわからないが、窓からカサリと音がする。見ると、ボタリと黄色の体液を吹き出しながらフクちゃんが床に落ちていた。


「フクちゃん」

「きゃああああ」


 飛び起きる僕とフクちゃんを見て叫ぶファス。


「だ、大丈夫か!!」


 呼びかけても反応がない。


「ど、どうすれば」

「フクちゃん、フクちゃん!!」


 明らかにマズイ。微かに足が動いてはいるが体液が止まらない。どうしよう、僕のせいだ、フクちゃんのことを気にかけていれば。


「わ、わた、私が止めていれば」


 ファスは過呼吸を起こしているのか胸を押さえてヒューヒューとおかしな呼吸をしていた。ファスのせいじゃないと言いたいが焦ってしまって声がでない、どうすればいい、そうだスキルだ【吸呪】ができるのならダメージを引き受けることもできるんじゃないか?

 フクちゃんを慎重に抱き寄せ、必死に祈る。


「頼む、なんでもいい。僕が引き受けるから、お願いだから、助けさせてくれ、神様、お願いだ」


 なにも起きない、ダメかと絶望しかけるが、ドロリと目の前が赤くなる。見ればシャツも赤く染まっている。痛みがやってきて、それと同時に胸に希望が湧いてくる、より強く念じダメージを引き受けるようイメージする。


「ご主人様!?」

「大丈夫だ、ファス。大丈夫だ」


 そのままフクちゃんを胸に抱き続ける。ワシワシと足が動いて、黄色の体液はもう出ていない。


「フクちゃん、返事してくれ」

(……マスター? ボク、ナオス、チカラ、モッテキタ……エッヘン)


 フクちゃんの念話が聞こえる。あぁよかったと安心した瞬間に意識が暗転しそうになる。しかしもう慣れたものだ。


「ご主人様、あぁこんなに血が」

(マスター、チガデテル、ナンデ? ボク、ノセイ?)


 意識が完全に飛ぶ前にこれだけは伝えなくては。


「……二人とも、心配しないでいい。多分大丈夫だ。だから自分を責めないでくれ。お願いだ」


 まぁ数分前に自分を責めていた人間になに言ってんだとも思うが、自分のことは棚にあげとこう。

気絶落ちが板についてきましたね。

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― 新着の感想 ―
[一言] コレフクちゃんが主人公なのでは?
[良い点] 「フクちゃんはまだ生まれたばかりだぞ!」 キュン…… ママ? [一言] フクちゃん助かって良かったよおおおあああぉん
[一言] こういうの、いいよね。ファス、フクちゃん最高。 吉井くんは甘やかされていなさい。
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