第百三十九話:全てのチップを賭けた女。
「紹介しますわファスさん。こちらは、闘技場で素晴らしい戦いをされた闘士様です」
「まぁ、勇敢なのですね」
「……恐縮です」
「ハハハ、謙遜は行き過ぎるといけないな、闘士殿」
猫被り状態の叶さんと、アナ姫に立ち振る舞いを叩きこまれたファス、そしてそれに乗っかるように紬さん。そして、冷や汗ダラダラの僕だ。
表向きはとりとめの無い会話をしながら【念話】で会話をしている。
というか、どうして女性陣は話しながら【念話】できるんだよ、頭がこんがらがりそうだ。
(ご主人様、デルモが何をしているのかまではわかりませんが、この屋敷にはやはり仕掛けがあります)
ファスが、身体を寄せてくる。いやいや、綺麗すぎて動悸で話に集中できない。
くっ、指先で首元を触るちょっとした動作ですら、蠱惑的だ。
アナさん、なんて恐ろしい技を教えてしまったんだ。
(真也君? 話に集中しようね)
叶さんが、笑みを浮かべながら釘を刺してきた。
集中ができない要因の一つは君でもあるんだけどね。
(ごめん。話は聞くけど【念話】は集中できない)
これ意外と神経使うんだよな。
(説明を続けますよご主人様。事態は深刻かもしれません)
その言葉で、茹でた頭が冷える。
デルモを見ると、一心にこちらを見ている。あれは完全に気づかれてんな。
スニーキングミッションのつもりが強攻策になりそうだ。
(手短に頼む、デルモがこっちに気付いていると思う。三馬鹿は叶さん達をどうにかするつもりだ。アナさんこれ、ピンチじゃないですか?)
(そりゃ、主役が勝手に集まったらこうなるでしょ。うーん、情報通りなら、スキル対策はあっても盗聴みたいなことはないはずだったのになぁ)
(……今は貴族連中はフクちゃんに釘付けよ。さっさと話してしまいましょう。うーん、ちょっと怖いわぁ)
(人間っておもしろーい)
人垣で見えない広間の中心はフクちゃんが支配しているらしい。
フクちゃん……恐ろしい子。
(では、端的に説明を。まず薬を加工する場所はわかりました。地下に魔法陣に似た魔力の流れを感じます。この屋敷の地下ですね、敷地の外へ繋がる通路が見えますが、そこへの行き方がわかりません)
(それなら心当たりがあるだ。地下の食料置き場あたりに料理人以外の人がいたから、怪しいと思うべ。そんなことより旦那様、広間の周りに兵隊が集まってるだよ。薬漬けにされた冒険者もいるべ。ファスもわかってると思うけんど、明らかに罠だべ。ただし、すぐに戦うという感じでもなさそうだべ。少なくともオラを見ても動かないから【念話】は大丈夫っぽいべな)
(ギルドへはそんな情報なかったね。うーん、私ってば騙されすぎ)
広間でメイド姿のアナさんがたはーと頭を抱える。おいおい、やっぱりと言えばやっぱりだけど、どこから気づかれてたんだ?
(ならば、こちらも気づかない振りをして時間を稼ぎましょう。他にも問題はあります、先程から地脈の魔力が異常に活性化しています。ダンジョンの魔力のせいで気づけませんでした。そして魔力だけではありません、何かが渦巻いて集まりつつあります)
(何かって?)
(わかりません。魔力以外の何かです。それがこの街の地下へ向かっています)
(アナさんどうしますか?)
中庭から、広場に戻りながら確認する。貴族達は椅子に座ったフクちゃんに集まっているようだがファスや叶さんが来ると、そっちにも注意を向けて来た。
(……どう動くにせよ街に蔓延する薬は無視できない。ゴメン皆、予定通り無茶苦茶するわ。ヨシイと紬様はトアさんと合流して地下へ向かって。聖女様、コシミズ様、ヒノ様は囮になってこの場所で時間を稼いで、紬様が地下の魔法陣を書き換えたら、全員脱出っ!! せめて茶番を長引かせて、ヨシイ達が魔法陣を破壊する時間を稼ぐわ。多分、無理だけど)
開き直りやがったかのアホ姫様!? というか潜入とか、ドレスとかあんまり必要なかったじゃん。
こんなの正面突破と同義じゃん!!
(ならば、私はヨシイと行こう。地下なら私の探すものがあるかもしれない)
叶さんによって、調子を取り戻したナルミが、スッと離れる。
後で合流ってことね。
(囮ね、いいね。そういうのしたかったんだっ! 千早ちゃん、武器を取り出す準備だけしとこうね)
ニンマリと笑うのは叶さん。砦でのワープといいなんで君はいつも、危険に飛び込むのかね。
(吉井。わかってるわよね? さっさと戻ってきなさいよ。それと……留美子)
(うん、千早ちゃん。アナスタシア姫、私は地下組の方がいいと思います。もともと隠密が得意なので……だよね? 千早ちゃん)
一瞬で日野さんが、消える。マジか、フクちゃん並みの【隠密】だ。
(わかったわ。もちろん地下組だって危険だから気を付けてね。さて、今夜は私も暴れるわよ~)
(アタシも拳が疼くわ、我慢できないかも)
罠があるってのに皆怖くないのか? ファスと叶さんを見るが、ファスは穏やかに、叶さんは猫被りではない不敵な笑みを浮かべている。
本当に……僕が君達を守れるのはいつになるんだろうね?
(わかった。ここは任せた。速攻で地下の魔法陣だっけ? 破壊してくる)
(ご主人様こそ気を付けてくださいね)
(まっかせてよ。私だって、ある意味これがハーレムメンバーとしての初陣だしね)
(だいじょぶだよ、マスター。皆ボクが殺すから)
(……女の敵)
皆からのエール(と殺意)が頭に響く。ファスと叶さんが前にでて、注意を引くと、フクちゃんがそれに合わせて、僕と紬さんの対角線上に動く。
隣を見ると、紬さんと目があった。
(盛り上がって来たね。隠密用の紋章を服に描こう、本職の【スキル】より影響は薄いが付け焼刃でもないよりはましだろう)
(潜入ってのはどこに行ったんだろなぁ。……行こうっ!)
紋章が付与され、広間から離れるその一瞬デルモと目が合ったような気がした。
その顔は……笑っていた。
広間から出るとナルミが待機していた、そのまま進んで【位置捕捉】でトアと合流、日野さんもいつの間にか後ろで追走している。
「旦那様、急ぐだよ」
はい、もうなりふり構わない爆走です。だって広場を出たのデルモに見られているし。
「トア普通に喋って大丈夫なのか」
「いまさらだべ」
「私が……取り乱さなければ」
ナルミがすまなそうにしている。
「いや、多分。これ規定路線のような気がする。紬さんは知ってたのか?」
「どうだろうね? まぁ、もとより敵の懐に入り込むということはこういうことさ」
走りながらであるはずなのに、涼しい顔で紬さんがそう言う。
……思い返せば、紬さんは事前にメモを貰っていたし、ボルテスさんが頑なにここへ来なかったのもこうなるからだろう。
あれ? これ知らされてなかったの僕だけじゃね?
使用人用の通路に入り、スタッフを押しのけて奥へ走る。
流石に兵隊がいるが、日野さんが手裏剣を投げ、僕が殴り飛ばす。
トアは潜入任務をしっかりとこなしていたらしく、屋敷の大まかな通路を把握しているようだ。
「こっちだべ、使用人用の通路はほとんど把握しているだ。旦那様、わかっているだか?」
「今が緊急時ってのはわかってるよ」
「姫様は、この場所に罠があることはわかっていたべ」
だろうな。短い付き合いだけど、あの強かな姫様が一方的に嵌められるとは思えない。
トアは走りながら言葉を続ける。
「その上で、聖女であるカナエも、多分『姫』である自身もチップとして差し出しただ。カナエもそのことはわかっているだと思うだよ」
「なんでそんなことを」
「チャンスだからだべ、この場所に旦那様を送りこめるこのタイミングに賭けただよ。罠があり、聖女も姫も敵の手に落ちるかもしれない。ギルドマスターまでこの場所にいるべ、ここで負ければこの街の全部が終わる。その危険を天秤に賭けて、旦那様に一点賭けをしたんだ」
……そんな馬鹿な。そんな危険を犯す価値なんて僕にあるとは思えない。
この街へ来て、アナ姫と話したことが頭に浮かぶ。
『私はね、自由に生きたくて、実際に自由にしてきたけど、やっぱりしがらみも多かったわ。だからずっと憧れてるの、さっきは冒険者をしている転移者の価値なんて言ったけど、もっと大事な価値は貴方自身。しがらみなんて関係なく誰かを助けるヒーローに【クラス】でも【スキル】でもない、ヨシイ シンヤに期待しているの』
あの言葉に込められていた思いの強さを今、思い知らされている。
「姫様は旦那様が気負わないように、この状況になることを黙っていたんだべ」
「なんで、トアは話してくれたんだ?」
トアは、こちらを見て、ニッと笑う。
「そこは姫様とオラ達の付き合いの差だべな。オラ達の旦那様は期待には応える男だべ」
鳥肌が立つ、ここまでされて失敗するわけには行かない。
紬さん、日野さん、ナルミもこっちを見ていた。
「皆っ!! さっさと魔法陣をぶっ壊して、戻るぞっ!!」
アナ姫、僕に賭けたこと。絶対に後悔させないからな。
アナスタシア姫の思いとか、紬さんのこととかもいずれ書きたいですね。
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