第百三十七話:演者が集う
紬さん、ナルミと一緒に酒を飲むふりをしながら周囲を観察する。
このバカでかい屋敷の大広間であるこの場所は、中央が舞台になっており、奥に宮殿の王様が座るような玉座がある。
玉座の主はまだ現れていないようだ。
舞台でヴェールを被った半裸の女性が踊っており、その舞台の周りにはこれまた女性を侍らせた貴族と……黒髪の男が一人、多分転移者がいた。
戦闘には不向きな肥満体型をしているが、持っている武器は魔力を帯びており、美しい。
あれもこの街の職人が作ったものだろうか?
「不思議なもんだな」
「何がだい? 真也」
「こっちの世界の格好をしていても、転移者ってのは遠くからでもわかる」
「……彼か、この街に呼ばれた転移者のうち、デルモが役に立つと判断した【ジョブ】でないものはああして女と娯楽を宛てがわれるそうだね」
正直、呆ける気持ちはわかる。高校生があんな待遇を受けたら余裕で心を奪われそうだ。
僕の場合は命に関わるから無理だけど。
というか、見ず知らずの女性に寄って来られても怖くて逃げると思う。
ファス達以外とはそういうの、無理だな。
しかし、彼を責める気にはならない。小清水とかは怒るだろうけど。
「【転移者】は異世界の戦士と思っていたが、そうでもないようだな」
ナルミも転移者達には気づいたようで、首をそらしてその様子を見ていた。
「僕等はただの子供だよ」
「その通りだ、だからこそ成長を要求されている。っと真也。張本達だ」
舞台周辺の転移者とはまた、別の扱いを受けているのかやや高い位置に設けられた台座に三人が座った。香炉のようなものが設置され、細長い壺のような容器から伸びているパイプを三人で吸って煙を吐いている。
意外なことに、彼等の席には女性はおらず、真剣な表情で何かを話し合っていた。
「何を言っているか気になるな」
「相手は転移者だ。下手に近づいて【スキル】に絡めとられると目も当てられないぞ」
地下で悟志と七瀬さんが教えてくれた情報によれば、三馬鹿のジョブは【扇動者】【幻魔術師】【魔獣使い】だ。カジノでの様子から張本は【扇動者】だと思う。
人や魔物を挑発し、煽動する。下手に挑発されて、情報を口にすれば計画は破綻する。
「トアかフクちゃんなら遠くからでも聞こえると思うけど……」
「呼んだべか?」
トアの声が後ろから聞こえ、振り向いたところでフリーズする。
「……ジーザス」
なんてこった神よ。ファスのドレス姿が天使ならそれはまさに、悪魔的な光景だった。
「えっと、フクちゃんがオラの分もドレスを用意してくれてな。一応ホラ、屋敷の間取りとか把握しているし、ここいらで旦那様に合流して様子を伝えておくのも悪くねぇかなぁと……あの、やっぱ料理人の服装の方がいいだか? この服ちょっとキツイし……」
ブンブンと尻尾を振りながら、ワタワタと言い訳をしているその間も圧倒的な胸部が主張を続けている。
彼女が着ている群青のドレスは、ファスのそれよりはずっと露出は少ない。
肩こそ露出しているものの、ドレスと同じ群青の手袋が落ち着いた印象を与える。
胸にはバラのコサージュがついており、デザインとしては穏やかだ。
しかしドレスそのものは体に張り付くようにフィットしており、鍛えられた体幹によるくびれたウエストからの胸のふくらみは正に圧巻で、無理やり抑え込まれたその肉感により、隠しきれない色気を振りまいている。
その腰回りは深いスリットが入っており、白い太ももがチラチラと見える。
絶対不可侵ともいうべき美しさのファスに対して、挑発的と言うか誘っているようなその姿は周囲の視線をかっさらっており、貴族達がトアの身元を探るように従者に指示を出していた。
「どうすればいいかは置いといて、そのドレス、とても似合っている」
「!!っ、ありがとうだべ、旦那様」
ニッと快活に笑う彼女のその表情にまた、ノックアウトされそうになる。
いやちょっと、今日一日だけで、マジで心臓に悪い。
爺ちゃん、こういう時どうすればいいんですかね?
「……ブツブツ……トアさんまで、これでは私の立つ瀬が……ブツブツ……」
なんか横で、紬さんが頭を抱えていた。
「なるほど、ヨシイ。私が従者にならなくても十分というわけだ」
「別にそういうんじゃないから」
しかし、トアが来てくれたとはいえ、流石にこの姿で張本達に近づかせるのは危険だ。
絶対、言い寄られるぞ。というか個人的に行かせたくない。
「ところで旦那様はさっき、なんでオラの名前を?」
「あぁ、いやえっと……」
言い淀んでいると、ナルミが立ち上がった。
「ハリモトという転移者達が良からぬことを話してそうだから、耳の良い獣人がいれば助かるという話だ」
「なるほどだ、あそこだべな」
普通にトアが行こうとする。いやいやちょっと待って。
「ちょっと待った。流石にその姿で行くと、目立ちすぎるし危険だ」
「なら、私も行こう。なに転移者に捕まらなければ良いのだろう? 男の扱いは慣れている」
ナルミが立ち上がり、銀髪を揺らす。
高身長でスタイルの良い二人が並ぶと、それはもはや映画のワンシーンのようだった。
「オラは、そういうのからっきしだから、ご教授願うだよ」
「そうか? 随分堂々としていると思ったのだが」
あぁ、制止も空しく二人が行ってしまった。
大丈夫だろうか?
「一応、二人のドレスには耐性付与の紋章をつけている。【スキル】に対して一定の効果はあると思うが……」
二人を眺めていると、まずナルミはそれとなく、他の男性に声をかけた。
一人が寄ってくると、二人三人と人が寄ってくる。
人が人を呼ぶように、あっという間に人垣ができた。
ナルミとトアの姿はすぐに見えなくなる。
そのまま人混みは、転移者達の台座の後ろ辺りまで移動していた。
「見事だね。ああなれば、転移者達もすぐに声をかけることはしないだろう。もし寄って来ても、人混みに紛れて逃げることも、あの二人ならできるだろうしね」
「人を隠すなら、人の中ってか」
その人混みを自身の魅力で作るってのも、非現実的だけどな。
とりあえず二人は大丈夫そうだ。
僕等の方は相変わらず手持無沙汰だけど。
トア達の様子を見ていると、不意に広間の入り口の方から歓声が聞こえる。
その方向を見ると、人垣が割れて道となっており、その中心にドレス姿の叶さん、小清水さん、日野さんがいた。
ギルドでも見たけど、皆とても似合っている。その中でも叶さんのドレスは聖女ということもあって、清楚な白色で、黒髪と相まって遠目で見ても綺麗だ。
三人が現れると、中央の舞台での踊り子はすぐに引っこみ、曲芸師たちによる演目へと変わっていた。
舞台の横にいた転移者の男子も、同学年の女子をみて恥ずかしくなったのか、そそくさと侍らせていた女性達を下がらせていた。
貴族達は襟を正し、列を作って叶さん達へ挨拶を行っている。
叶さんは、それらに丁寧に答えているようだ。
異世界に来てこういった催しには、参加し続けてきたのだろう。どこからどうみても、聖女様と言った具合だ。
小清水もなれたもので、話しかけてくる男性たちを袖にしている。
日野さんも、周囲を無視しているよう……というより、緊張して答えられないっぽいな。
緊張しすぎて、一点を見つめているようだ。
一瞬叶さんと目が合う、パチッとウインク。バレるから止めてください。
「ハハッ、叶も準備万端のようだね。後でファスさんと合流するという手はずだが……」
ファスはまだついていないのか【位置捕捉】を使いたいが、スキルは使わない方が良いとアナさんに言われたからなぁ。
「これはこれは、聖女様。このような場所へよくぞ来てくださいました」
大広間に響く大声、奥の部屋から手足の長いやせ型の大男が現れる。
砂漠の首魁、サルコ・デルモは周囲を見渡し、口角を引きつらせるような不気味な笑みを浮かべた。
というわけで、舞台は整いつつあります。叶さん達のドレスの描写もしっかりしたかったのですがそれはまた別の機会に。
次回:デルモの狙い
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