第百三十六話:交差する想い。
門を潜ると、至る所に私兵が配置されているのがよくわかる。
……その中にはギルドの冒険者らしき者もちらほらいるようだ。
金で雇われたのか薬に誘われたのか。
僕等を確認するとすぐに使用人が寄ってきた。
懐から招待状を差し出す。紬さんはゆったりと身を寄せて僕に抱き着いて使用人に見せつける。
「闘士として招待されている、こちらは転移者の中森様と、僕の付き人のナルミだ」
「今日は闘士殿と一緒に楽しもうと思ってね」
動きを邪魔しないように体重を預けてこない辺り芸が細かい。ナルミは付き人らしく一歩下がった位置で無言で立っていた。
正規の招待状ということもあって、特に怪しまれることもなく僕等は広間まで案内された。
入口でほとんど裸の女性に、そっと包みを渡される。
中身を見たら、茶色がかった葉っぱが入っていた。広間ではすでにこれを楽しんでいる人も多くいるようだ。
「露骨すぎて、言うことはないな」
「大事に取っておきたまえ、さして意味は無いだろうが証拠にはなる」
「チッ、穢れた魔力だ。それにしても貴族どもの棲家らしく、警備が厳重で無暗に動けないな。……こっちだヨシイ」
ナルミの立ち振る舞いは中々に堂に入っており、侍女にハンドサインで飲み物を持ってくるように指示を出し、目立たない場所まで僕等を案内してくれた。
……やっぱりエルフのお姫様だったりしそうだな。そうでなくとも、良い生まれであることは間違いなさそうだ。
「わかったよ。さて、とりあえずは情報班からの連絡を待つか」
「そうだね、心苦しいが時がくるまでは壁の花となっておこう」
周囲の様子を探りながら僕等は広間の中腹辺りに移動した。うーん、他の人達は上手くやれてるかなぁ。
※※※※※
〈ファスside〉
アナさんが手配した馬車はほとんど揺れることはなく、中もやはり拡張されているのか広めでした。
ご主人様からの警告を受けて、私もやや緊張しています。
馬車の中には、私、フクちゃん、アナさん、ヒットさんがいます。
フクちゃんもドレスを着てバッチリめかし込んでいます。フクちゃんは髪の毛の長さをある程度自由にできるらしく、いつもは耳にかかる程度の髪を背中まで伸ばして、綺麗に結ってもらっています。
とっても可愛らしく、ご主人様もきっと褒めてくれるはずです。
「ご主人様はすでに屋敷の中に入ったようですね」
「フフフ。男の子ねぇ」
口当てをつけて顔を隠し、髪型も変えたギルマスが笑っています。意味がわからず私が首を傾げていると、アナさんが説明してくれました。
「自分から、全体に言葉を投げるなんてリーダーのそれよ。きっとファスさん達を前にして頑張っているのね」
「マスターかっこいい」
フクちゃんがパチパチと手を叩きます。
なるほど、そういうことでしたか。カッコイイですご主人様。
私も負けないようにしないといけませんね。
「その通りですフクちゃん」
横に座るフクちゃんに強く同意しながら頭を撫でていると、今度はアナさんは私達を見て少し渋い顔をしています。
「それにしても……やりすぎちゃったかなぁ」
「そうねぇ、もはや傾国とすら形容できそうな光景だわ」
二人はこちらを見て、ため息を吐いています。
よくわかりませんが、私達も頑張りますよご主人様。
見ていてくださいね。
あと、これ以上パーティーを増やすのは要相談ですよ。
心の中で考えていると馬車が止まります。どうやら、屋敷についたようです。
アナさんに教わったように、指先まで仕草を意識して馬車を降りることにしましょう。
※※※※※
〈トアside〉
旦那様が屋敷に入ったようだべな。昼間にこの屋敷の料理人を任されて、やっとこさ調理器具の配置を覚えてたと思ったらてんてこ舞いだ。
だけんども、やっぱ料理には色々仕込まれているべ、砂海でとれる一見魚介に見える虫達を捌きながら、少し使うだけで金貨が飛ぶような香辛料を料理にかけるのはどうにも慣れねぇなぁ。
厨房に入る時に料理に使うように言われたもんは、使わないようになんとか誤魔化すけんども、流石にここまでだな。作った料理は渾身のできだべ、屋敷の大まかな間取りもわかったしちょっくら出てみるか。
「料理ができたべ、次の調理の為に、素材を取ってくるだよ」
そう言って、厨房を出る。
この屋敷に充満する甘ったるい匂いには辟易するだ。
旦那様も来ているし、薬を作っている場所だか証拠だか見つければいいんだべな。
お姫様が言うにはオラは、ファス達が集めた情報をもとに旦那様がすぐに移動できるように屋敷の構造を調べるのが大事らしいけんど……。
「しっかし、お姫様も無茶苦茶言うんだもんあぁ」
『せっかくなら、トアさんもドレスあったほうがいいよね!!』
そう【念話】で送られ、屋敷に入る前に渡されたドレス。
オラになんか、こんなの似合わない……。
そんなことはわかっているだけんども。
ええい! 女は度胸だべ。倉庫へ向かい変装用の装飾品と一緒にドレスを着てみるだ。
ちょ、ちょっと胸が……。フクちゃん、ちゃんと計ったんだべか?
※※※※※
〈桜木 叶side〉
真也君の【念話】が切れる。こっちからも何か言いたかったけど……紬のせいで集中できなくて【念話】を送れなかった。魔力も温存しておきたいしね。
というか真也君、全員に【念話】を送るとか地味に魔力の消費大きいと思うんだけど、大丈夫なのだろうか?
「まったく、あの女の敵は、あぁ腹が立つ!」
「お、落ち着いて千早ちゃん」
真也君よりも先に屋敷についた私達は、ゲスト用の部屋に案内された。
ご丁寧にも、異世界人用に和風の調度品が置かれている。
砂漠の歓楽街に掛け軸ってのもおかしい話だと思うけど、この辺の気遣いもこちらのことを理解しているとでも言いたげで、警戒心が高まる。
【聖女】としての勘なのだろうか、やはりこの屋敷からは変な感じがする。
呪いよりももっと生理的に嫌悪感を催すような何かだ。
あと……見過ごせない点がもう二つ。
「千早ちゃん、紬の件で怒ってるんだよね?」
「そうよっ、あいつ。いつの間に紬まで……」
「千早ちゃん?」
「ちょ、近いわよ叶。どうしたのよ? あんただって吉井には怒っていたじゃない」
「……」
うん、これはまだ自分で自覚してないパターンだ。下手に指摘して意識すると問題になりそうなのでスルー安定。
我ながら、ずるい女だと思う。でもただでさえファスさん達について行くのがやっとなんだ。
胸に手を当てて真也君のことを考えると、動悸が少し早くなる。
元の世界に帰れなくてもいい、一番じゃなくてもいい。
嘘だ。一番がいい、私を見て欲しい。私の恋はやっと始まったばかりなんだ。
だから、君のそばにいてもいいよね。
「よしッ」
頬を叩いて気合を入れる。私の気持ちは決まってた。
紬に頼んでいた【契約書】も完成しているし、この一件が片付いたら、真也君との関係を一歩進めるんだ。
その為にも。
「障害は全部、壊すからっ」
覚悟してよね、真也君。
吉井君、のんびり中。
次回からは、視点は吉井君がメインとなります。
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