第百三十話:VS魔剣士
狩り場から奥に行くと、壁が流砂から砂岩に切り替わり、ちょっとした道場くらいの部屋が現れた。
「もともと、この辺は魔物の巣があったんだよ」
双刀を抜きながら将司が振り向く。刃渡りは60㎝ほどで大きな反りに、波紋のない刃だ。
武器そのものから魔力を感じる。業物であることは間違いないな。
「狩場のせいで魔物が集まっているから、空洞があるんだろ。街の地下でも見たよ」
バンテージのたるみをきつく締める。合掌して息を吐く、両手を中段へ。
「じゃあやるか」
「いつでも」
部屋の中心から畳二枚分の距離で向かいあう。
七瀬が中央に行き、片手を審判のように上げた。
「……なんか、この街に来てからマー君おかしくない? まぁいいけど、怪我しちゃダメだよ? じゃあ……えと、ヨーイ! ドン!」
振り下ろされる手を合図に、踵に重心を移動して脱力。
突っ込むのもいいけど、まずは将司の技を見せてもらおうか。
「【雷炎空刃】」
「マー君っ!? やりすぎだよっ!」
この世界で死ぬほど見た【空刃】。しかし、転移者である将司の【空刃】は右に炎、左に紫電を纏わせたものだった。
「ハッ、ヤバすぎ」
速さは普通だが、距離を増すごとに炎と雷が広がり回避の目算が狂う。
初見でこれは避けきれない……じゃあやることは単純だ。
「握り潰すっ!」
【掴む】で左右を受け止める。痛い、熱い、痺れる……だけどファスの炎弾ほどじゃない(カルドウス戦で掴んだ時は腕が吹き飛ぶかと思いました)
【呪拳・鈍麻】で勢いを弱め、一気に二つの【空刃】を砕いた。
微かに掌が切れるが、一瞬で塞がる。
「流石転移者のスキル、強力だな」
腕を振って熱と痺れをとる。将司と七瀬は……ドン引きしていた。
「いやいや、何だ今の。素手で俺のスキルを砕いたのか……」
「……そういや、闘技場でも宙野のスキルを叩き落としてたね」
「おーい、続けていいか?」
めっちゃ隙だらけだが、ここで攻撃してもなぁ。
「お、おぅ。いいぞ」
「じゃあ、遠慮なく」
正面から踏み込むとあの【空刃】の餌食だな。
【流歩】で左右に動きながら、距離を詰める。
「うぉ、早い。【聖十字】」
「応っ!」
将司は後ろに飛び退きながら、両手を十字に振った。
出たスキルはラッチモが使ったものと同じ、淡く光る十字の【空刃】。
あの斬撃は対象に当たっても進み続ける。
【流歩】からスイッチ、軸足に全開の【ふんばり】をかけて体を固定。
足指から力をひねり出すように、勢いをつけて右の直突き。
拳に刃が喰いこむが【拳骨】を強めて、そのまま振り切り【聖十字】を破る。
拳が割れ、血が飛び散るが構わず突撃。
将司の着地を狙って、左鉤突き。
「【水陣武刀】!」
左右に水刃が展開し拳が防がれる。自立して動く魔力の刃か、これは初めて見るスキルだな。
【拳骨】から【手刀】に切り変えて、隠剣の構えを取る。
ギース流剣術『交差』。
剣先で軌道をそらすように、相手の水の刃に手刀を合わせて左右のはたき落とし。
「いや、ちょ、待っ!」
スキルを潰され、苦し紛れに振られた剣戟はあまりにも拙い。
握る指に拳を打ち込んで剣を落とさせ、喉元に手刀を突き付けた。
この距離まで迫れば、スキルに頼る闘い方では僕に勝てない。
「まだやるか?」
「……いや、完敗だ。俺って他の転移者と比べても真面目にレベリングしてたんだぜ……」
「僕も、色々鍛えたからな。さてと……【吸呪】」
「わっぷ、何を!?」
【手刀】を解除して、将司の頭にアイアンクローをかます。
微かに、呪いを取り込んだ感触があった。
「やっぱり、影響を受けてたか。普通に殺意ある攻撃だったしな。バンテージの人と違って【吸呪】できて良かったよ」
「痛い、痛い、痛い、ギブギブギブ」
「マー君! ちょ、大丈夫?」
手を離すと、しばらく頭を抱えていたが、将司は起き上がり目をパチクリとしていた。
「あれ? 俺。今マジのスキル使ったのか? 友達に……マジかよ。悪い真也」
「いいよ。七瀬さんは影響受けてはいないっぽいな。とりあえず、この街の現状を説明するよ」
謝り続ける将司とテントに戻り、この街がデルモに支配され、元居たはずの職人は地下に押しやられていること、冒険者達も『狩り場』のせいで魔物を狩ることができず仕事を管理されていることを話す。
「――ってわけで、今はデルモの悪事の証拠を集めるために地下に来たんだよ。あと、闘技場の闘士達もそうだったけど、おかしな薬が蔓延しててさ。さっきの闘士達も薬飲んで攻撃的になってたんだ。黒いオーラ見たろ。闘技場の観客達も様子が変なんだ」
さっき『狩り場』で黒いオーラを出しまくってたしな。
「オーラ?」
将司の方は首を傾げている。えっ? 心当たり無いのか?
「えっ、マー君見えないの。さっきの筋肉の人なんか黒いモヤみたいのでてんじゃん。うっすらとだけどね」
「ナナは見えてたのか。俺は全っ然わからん」
「……見える人と見えない人がいるのか? 僕もてっきり皆見えているものだと思ってた。ともかくこの街で怪しげな薬を飲んだ覚えはないか?」
「あー、なんかレベルアップ用の何かって渡された気がする」
「誰に?」
「張本だけど、なんかの葉っぱだったかな?」
「だから言ったじゃん、なんかヤな感じだし、張本だっけ? あいつ目線がエロいから信用しない方がいいって」
「悪いって、断ろうとしたんだけど、なんか挑発されて飲んじゃったんだよな。まぁそんな変わった感じもしなかったけどな。ただ、まさか人に向かってガチの【スキル】振っちまうとは思わんかった。俺ってやつは……」
やはり張本か、あいつらもしかして薬の形で出回っている呪いと関係あるのか?
「気にしなくていいよ。多分張本は【挑発】系の【スキル】に特化した【ジョブ】なんだろうな。僕もカジノで体験した」
「俺の、薬だか呪いの効果は吉井が解いたのか?」
「そうだけど、僕の【スキル】は」
【吸呪】の【スキル】を説明しようとすると、将司が手で制した。
「説明はいいぜ、俺がズバリ当ててやるよ。お前のスキルはズバリ『スキルを無効にするスキル』なんだな」
「……違うけど」
【呪拳・鈍麻】はあくまで、鈍らせる効果だし【沈黙】もアクティブ系の【スキル】が使えなくなる効果だ、デバフしかできん。
後はひたすら力と体術でゴリ押しているだけだ。実際今の戦闘では拳に刃がめり込んでめっちゃ痛かったし。
手を見ると、傷はすでに消えていた。この世界に来て、痛みに慣れたなぁ。
「いいって、いいって、わかってるよ。こういうのは秘密だもんな。でなければ俺の【スキル】を素手で潰すなんてできっこないからな」
「いや、ほぼ素手で潰したけど」
「なるほどなぁ。やっぱ、宙野が警戒していたのはお前もチートだからかぁ」
なんか一人で頷いているけど、違うんだってば。
「まぁ、なんでもいいけど。【スキル】なら正直、将司のスキルの方が強いと思うぞ」
パッと見ただけで、炎、雷、水、聖、と様々な属性の技を使える感じだったし、汎用性・威力ともに優秀だった。ギースさんを始めファス達に鍛えてもらっているからなんとかなってるだけだ。
「そういうことにしとくぜ、やれやれ系ってやつだな。アニメで見たぜ」
「でも、実際マー君って他の転移者と比べてもかなり強い方だからね。『竜の武具』の装備条件を達成しそうって貴族の人にも言われてたし」
竜の武具? ファスの呪いのこともあるし、先日見た明晰夢も竜が出てきたような気がする(あんま覚えていない)。気になるな。
「その竜の武具ってなんだ」
「真也は知らないのか? あぁ、失踪してたもんな。『竜の武具』ってのは昔の転移者達が竜王っていう当時の化け物を倒して、その素材で作った武器とか防具だよ。装備条件が色々あって、転移者しか装備できないんだ。特に武器は超強力で、これがあれば魔王種の魔物も倒せるらしいぜ。あまりにも強力だからほとんどは国が管理しているらしいけどな。レベル上げした転移者はパトロンの貴族を通じて『竜の武具』が使える状態かどうか試せるんだ」
そんなものがあるのか……えっと、僕は【全武器装備不可LV.100】のせいで武器が使えないんだけど。
これから他の転移者達が『竜の武器』を装備してパワーアップしていくわけか……。
よし、筋トレしよう。筋肉は全てを解決する。もっと強くならなくちゃなぁ。
地味にショックな事実だったが、そもそも、まともに戦えなかった所からここまで来たんだ。
これからもやることはかわらん。
「まぁ『竜の武具』はわかった。後は……『狩り場』について聞いてもいいか」
僕の問いかけに、二人は顔を見合わせて頷いた。
更新遅れてすみません。やっと竜の武具が出てきました。
ちなみに吉井君は【鈍麻】なしでも【掴む】だけでスキルを粉砕していたと思います。
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