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第十三話:ゆっくりと確実に

 立つことはおろか、具足を自力で外すこともできなくなるほど走らされた。最終的にはぶっ倒れて気絶したらしい。水をぶっかけられて起きたけど。

 明日も走らせるぞ、倒れた状態でギースさんに声をかけられなんとか「ありがとうございました」というのが精いっぱいだった。稽古終わりはこれを言わないとな。


 その後は給仕の人に具足を外してもらい、最後の気力を振り絞って牢屋に戻ってきた。

 ドアを開けそのまま倒れこむ。あぁ床が固いなぁ。


 給仕がいるからか、ボロ布を深くくるまったファスが駆け寄ってきた。ガチャリと鍵が掛けられ足音が遠のく。


(モウダレモイナイヨ)

「ご主人様、大丈夫ですか!! やはりあの男がご主人様を亡き者にしようと、……許せません」

(カル?)

「いや、稽古だからね。多分。フクちゃん狩っちゃだめだからな」


 というか返り討ちにされたらどうするんだ。


「まずは体をお拭きします」


 その後は抵抗する間もなく服を脱がされ(恥ずかしがる気力もない)全身しっかりと拭かれ用意された服に着替えさせられベッドに運ばれ、ご飯まで食べさせてもらった。完全に介護である。


「悪いファス、なにからなにまで」

「いえ、私はご主人様の奴隷ですから」

(マスター、ダイジョブ?)

「大丈夫だぞ、ほらおいで」


 枕もとで心配そうにウロウロしていた、フクちゃんを抱き寄せフワフワの毛を撫でる。あぁ癒される。


「……(ジー)」


 無言でファスが見てくる。これはなでろってことか? ゆっくりとボロ布を脱がし(頭部分だけね)ファスを撫でる。シャワシャワしてる。髪の毛が生えてきているのか。


「あ、あの、ご主人様」

「……あー、悪い。撫でられたそうにしてるのかと思ってな、違ったか」

「えと、その、違いません」


 最後は消え入りそうな声で返してきた。うい奴め。


「それで、あのご主人様。呪いのことなのですが」

「あぁ、大丈夫だ。吸呪するぞ」


 正直体を起こすのも辛いが、どうせ吸呪したらしばらくは寝転ぶし問題はないだろう。


「待ってください。吸呪はもうしなくてよいと思うのです」


 えっ?なんで。ポカーンとしているとファスは話を続けた。


「あのご主人様、私の顔を改めてみて気づくことはありませんか?」

「可愛いな」

「い、いやそうではなく。あの耳を見てください」


 そう言い、ファスは完全にボロ布から頭を出して耳をだす。その耳は細長く尖っている。


「エルフじゃん」


 思ったことがそのまま声にでてしまった。この世界にエルフという概念があるのか知らないが。


「はい、いままで鱗でおおわれて私自身知らなかったのですが、私の種族はエルフであるようです。呪われ者であるとはいえ、エルフという種族は価値があると思われます。そのことがここにいるものにばれるとどうなるかわかりません。もちろんバレないよう気を付けますが、呪いにある【忌避】があればそもそも人が寄ってこないのでより安全だと思うのです」

「なるほど、ちなみに種族って他にどんなものがあるの? なんせこの世界のことわからなくてな」

「はい、私が知る限りこの国では種族としては、人間、エルフ、ドワーフ、獣人、竜人、小人、巨人があります。基本的にこれら以外は魔物として扱われます。といっても血が混じることもありますし、明確に決まっているわけではありませんが」


 人っぽくて意思疎通ができたら人か、多種族な世界だとそれくらいアバウトなほうがいいのかな。


「エルフがこの国にいるのはおかしいことかな?」

「珍しいとは思いますが、おかしいことではないと思います。エルフの里もありますし、少ないとはいえ都市部に行けば一定数はいるでしょう。それにこの国ではエルフが貴族として治める領地もあると本で読みました」

「奴隷としてのエルフの価値は?」

「えと、一般的にその見た目から高価であるということ以外はあまりわかりません。エルフは魔法を扱うための素養が高いので、愛玩用として以外にも魔術師としての価値もあります」


 なるほど、確かにファスがエルフだとばれ、呪いが解けているとなったらどうなるかわからないな。

 かと言って呪いをそのままにするのもなぁ。


「ファスの言いたいことはわかった。ようは【忌避】が残っていればいいんだろ? ならそれ以外を吸呪すればいいわけだ」

「そんなことが可能なのですか?」


 その件に関しては当てがある。そもそも最初の吸呪は喋るのが辛そうだと思っていたら喉を治したし、二回目は見た目を気にするファスをどうにかしようとキスした結果だった。

 どちらも気になった部分が治っている。おそらくは吸呪を行使する際に無意識に優先を決めていたのだろう。だとしたら【忌避】を残すことだって可能なはずだ。顔部分の鱗はほとんどとれているとはいえまだ手足に少し残っているし、完全に治るギリギリ手前まで治したほうがよいはずだ。その旨を伝えると。

 自分の為にそこまでしなくてよいというファスと、無理やりにでも治すという僕の、少し前にやった議論がまた起こったのでお互いの妥協点を探した。


「わかりました。では少しずつご主人様の負担にならない程度に吸呪していくというのはどうでしょうか?」

「そうだな、それがいい。じゃあさっそく……」

「今日は休んでください!!」


 怒らなくてもいいじゃないか。というわけで今日はゆっくりと寝ることにした。するとそれまで撫でられていたフクちゃんがピョンと腕からすり抜け。


(キョウノ、カリ、イッテクル)


 と言って、窓から出て行った。大丈夫かな? 何をしているか気になるが、あぁダメだもう睡魔に耐えられそうにない。


「すまん、ファス。もう限界だ今日は寝るよ」

「はい、ゆっくりお休みください。私も休みます」


 そう言って、ベッドに座っていたファスが床に寝転がった。いやそれはどうなの?


「ファス、一応聞くけど。どこで寝るつもりだ」

「勿論床ですが?」


 当然だとでもいうように返ってきた。本当にこの子は……。


「……ファスこっちこい」

「えと、ご主人様はお疲れですし。私はまだ呪いが」

「いや、ファスが僕とベッドを使うのがいやならいいんだ。ただどっちにしろファスにはベッドを使ってもらう。ファスがベッドで寝て僕が床で寝るか、僕と一緒にベッドを使うかだ」

「フフ、なんですかその二択」


 ファスがゆっくりとやってきてベッドの軋む音を聞いた時点で、本当に限界が来てしまい。眠りに落ちた。 

やっと鍛え始めたと思ったら、いちゃこらし始めました。次回は鍛えさせます。

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― 新着の感想 ―
[一言] oh・・・種族・・・寿命差のがorz悲しい定めがorz
[一言] オレ フクチャンナラ ダケル
[一言] イチャコラ上等!ファスさん可愛すぎる
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