第百二十九話:高校生は戦闘狂
壁の上では、闘士達が気が狂ったようにスキルを撃つことで魔物を倒している。
向こうも気になるけど、今は転移者が気になるな。壁の影に隠れながらなので良く見えないが、降りて来た男女のペアは、片方が短髪で剃りこみが入った髪型に175㎝ほどの身長の男子(ちなみに僕は166㎝ほどです)。そして、もう一人が茶髪のショートヘアにスレンダーな体型の女子だった、身長は小清水より低いくらいか。
二人とも、二本の剣を装備していた。女子の方は顔を覚えていないが、男子の方は一年生の時同じクラスだったはずだ。バレたら面倒だし、ここは隠れよう。
「二人とも、すみません。あの二人転移者です。男性の方は僕のこと知っていると思うので……」
「わかった。もう少し下がるか、狩り場の位置は把握したしな」
「そうね、闘士達の様子も気になるのだけれど……」
ヒットさんが壁の様子を見ていると、転移者二人が一直線にこちらに歩いてきた。
とっさに身を引っ込めるが、そのまま二人は近づいてくる。
「こっちに気付いているのか? おいヨシイ、あいつらの【ジョブ】はわかるか?」
「僕は他の転移者とほとんど関わりないんだよっ」
「うーん、このまま見つかるのは不味いかしらぁ」
あの二人のうちのどっちかが、日野さんのような【忍者】のようなジョブなら逃げるのは難しい。
ミスったな。ここで転移者がいるとは思わなかった。
相手がデルモや宙野側の人間なら全員見つかるわけにはいかない。
「……ナルミ、ヒットさん。先に行ってくれませんか。僕は彼等と話をしてみます」
「……知り合いなのか?」
怪訝な表情でナルミが聞いてくる。一応は心配してくれてんのか。
「一応。……敵ではないと思いたい」
「時間がないわね、こっちに気付いているし。ここは任せるわ」
ヒットさんが音もなく走り出した。流石に判断が早い。
「……ここで騒ぎを起こすと、動きづらくなるぞ。精々気をつけろ」
「わかった。ありがとう」
ナルミも走り出した。そしてすぐに後ろの壁から、ニュっと男子が顔を出した。
「おっ、ホントにいた」
「でしょ? あたしの【直感】に間違いはないんだからっ。他にも何人かいたかも?」
そして茶髪の女子が後ろから覗いている。なんか小動物感ある子だな。
観念して、ターバンを取る。
「あー、久しぶり」
ちょっとドキドキ、これでお前誰だよとか言われたら心が折れる自信がある。
デルモとか宙野側の人間だと攻撃もあり得るので、一応【拳骨】を強めておく。
「お前っ、吉井じゃねぇか! なんでこんな所に!?」
男子の方は、覚えていてくれたみたいだ。……ゴメン僕は名前思い出せない。
いや、もう喉まで出かかってんだけど、誰だったかなぁ。
「誰? 転移者だよね?」
女子が首を傾げる、うん、この子の方は本当にしらない。
「一年の時、同じクラスだったんだよ。吉井、ついてこい。向こうに俺らのテントがあるから」
そう言われ、ついて行くとそこそこ広いテントに案内された。狩り場の方に魔物が集まっているせいかダンジョン内なのに周囲に魔物の気配はない。スタッフもここまでは来ないようだ。
例によって魔術による拡張が施されているらしく、中は外観よりも広い。
テントは二人の私物なのか、二人の服や持ち物が雑に床に放り投げられている。
「いやー、お前のこと気にしてたんだぜ。特に桜木なんてお前が行方不明なったときなんか半狂乱でよ。すぐに落ち着いたけどな」
肩をバンバン叩かれる。
なんかめっちゃフレンドリー。そうそう、こういう奴だった。さて名前だ。
「安否を手紙で知らせたんだよ。それでえっと、うん、久しぶり……」
ダメだ思い出せん。
「吉井? お前まさか、俺の名前が出てこないなんてことないよな?」
「……まさか、そんなわけないだろ?」
「そうだよな。一年の時一緒に球技大会で結構いいとこまでいったし、班も何回か同じだったし」
「あー、ドッジボールだっけ? わりと頑張ったよね」
「そうそう、お前と葉月、そしてオレでクラス対抗の最後までいったじゃんか」
「……そうだな」
「……」→男子
「……」→僕
「絶対忘れてるっしょ」
茶髪女子が沈黙を破った。観念しよう。
「ゴメン、ほんと、喉元まで来てんだけど、名前わからん」
「この野郎っ、マジか、二年になってからあんま話さなかったけど。名前くらいは覚えておけよ。島田 将司だ」
あー、そうだった。思い出した。爺ちゃんのこととか、借金とかで余裕がなくなって、二年生になってからはほとんど友達と遊ばなかったので、名前忘れてた。
「マジでゴメン」
「いいけどよ、それでお前大丈夫なのか? 宙野がお前が桜木を攫ったって言いふらしているけど。葉月が否定してよ、そしたら次はお前なんか犯罪者になってるって? 葉月のやつ、お前のこと心配してたぞ」
そうなってんのか、宙野の奴やりたい放題だな。島田はどうやら敵意はないみたいだけど、他の転移者は僕に対して悪い印象持っていると思った方が良さそうだ。あと悟志ゴメン。心の中で親友の葉月 悟志に謝っておく。そういや、交易の町で手紙を出したっきりだったなぁ。
「かな……桜木さんなら普通に教会に戻っているし、なんならこの街にも来てるよ。それでそっちは?」
「ちょーっと、待ってよ。あたしが置いてけぼりなんだけど」
茶髪ショートの女子が、間に入る。距離感的にも将司と親しそうだ。
「そうだな、紹介しとくよ。コイツは七瀬 菜々緒。ナナこいつは――」
「吉井 真也君でしょ。闘技場の試合あたしも見てたし。うーん」
七瀬は頭を寄せて、こちらをジロジロ見ている。
「何?」
「……うん。悪い人じゃなさそう【直感】でわかった」
「だろ? 悪いな吉井。ナナのジョブは【魔剣士】と【巫女】なんだ。スキルに【直感】ってのがあって色々わかるんだよ。的中率は微妙だけどな」
「なによー。7:3で正解引くんだからっ。……コホン、改めて。あたしのことはナナでいいよ。こっちきていろいろあって、一応マー君とは付き合ってるの」
「一応ってなんだよ。吉井俺のことも将司でいいぞ」
やはり、二人は付き合っているようだ。お似合いだと思う。
「わかった。僕も真也でいい。彼女ができたのか、おめでとう」
「ありがとな。それで俺達のことか。まぁ別に話してもいいけど……それよりちょっと付き合えよ」
「付き合う?」
将司は腰の双刀に手を当ててニヤリと笑った。
「お前の【ジョブ】宴会芸人なんかじゃないんだろ?」
「なるほど、あんまり時間ないんだけど……」
勝負事が好きな印象だったが、異世界に来てから戦闘も好きになったらしい。
まぁ僕もだけど。
「固いこと言うなって、お前のこと結構噂になってんだよ」
「噂?」
「宙野がお前のことめちゃめちゃ敵視しているだろ? それなのに、お前を捕えていない。だからもしかしたらお前ってクソ強い【ジョブ】なんじゃないかってな」
……なるほど、まぁ実際【愚道者・拳士】の組み合わせはそれなりに強力だとは思う。
「大事なのは、どう使うかだと思うけどな。いいよ、ちょっとなら相手しよう」
僕としても、転移者と戦う機会は大事にしたい。狩り場のことはナルミとヒットさんに任せよう。
「よしきた。人のいない場所知ってんだ。話なら、勝負が終わってからでいいだろ。行くぞ真也」
ということで、久々に転移者と勝負をすることになった。
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
次回:VS魔剣士
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