第百二十八話:狩り場に高校生
顔に巻いた布越しに鉄の匂いがする。血の匂いだ。
癖で、手甲を締めなおそうとするが、手に巻かれているのはバンテージのみだ。
「……やっぱ、あったほうがいいな」
「何してんだ? ヨシイ、ボサッとするな。魔力が淀んでいる……悪魔でも出てきそうだな」
ナルミは男性の姿のまま、ナイフを構える。ヒットさんは冷静な表情で正面を見据えている。
日野さんの地図を見ると、この場所は完全にダンジョンの中のようだ。砂岩の道を進むと、徐々に壁が動く砂壁に変わっていく。
「ここからは、完全にダンジョンね。人の気配もするけど、下手に脇道に入ると戻れなくなりそうね」
「少なくともここには、魔物避けの結界と虫避けの香が焚かれているようだ。人の気配もするが、このまま素知らぬ顔で通ればいい。いざとなったらヨシイが何とかしろ」
「……迷うよりは気が楽だし、それでいいです」
時折、流動する砂壁から脇道が現れるがすぐに閉じる。こんなとこ入ったら絶対迷うぞ。
ファスかフクちゃんでもいないと厳しそうだ。ここはヒットさんとナルミの言う通り、人が来ようとこの道を進むべきだろう。
と言ったら、正面に人影が……というか、大勢の人がいる。
開けた通路にテントや、補給の物資、炊き出しまで行っていた。
書類を整理するもの、木箱を運ぶもの、中には魔物の死体を解体するものもいた。
「狩場への中継点ね」
「ここを迂回するのは面倒だ。さっさと突っ切るぞ」
何でもないように【変容】しているナルミについて、通路を進む。
しばらく進み、何事もなく通りすぎたと胸をなでおろしたとき、不意に話しかけられる。
「おいっ!」
グエッ、気づかれたか。ナルミが振り返り返答する。
声をかけてきたのは、汚れたエプロンをつけた男性のスタッフだった。
「なんだ?」
「見たことない闘士だな。狩り場へ行くのか?」
「そうだ。何か問題が?」
「ん、いや、ここまで来てるのなら、許可は下りているのだろ。俺に止める権利なんてないよ」
「なら、呼び止めるな」
イライラした調子でナルミが答える。正直僕は心臓バクバクです。
「悪かったって、でもどうせ上に戻るんだろ。伝えて欲しいんだ。撒き餌がなくなりそうなんだ。死体の補充を頼むって」
……撒き餌? そして死体の補充?
「それくらい、自分で伝えろ。俺は忙しい。ほら、お前等行くぞ」
「ちぇ、坂道戻るの面倒なんだよなぁ」
エプロンの男は戻って行った。
そのまま僕等は、何人かの人とすれ違いながら、舗装されたダンジョンの道を進んでいく。
「撒き餌ねぇ。絶対碌なことじゃないわねぇ」
周囲の人が途切れたのを見てヒットさんが呟く。
「闘技場では前座で、魔物と奴隷を戦わせて楽しんでいます。死体はあるでしょうね」
「短い耳のやることはいつも下劣だ」
ナルミが吐き捨てるように言う。
「昔はそんなこと絶対になかったわ。というかここ最近までそんな野蛮なショーしていないわ、デルモがこの街の頂点に立っても、ここまで好き放題はしなかった。原因は転移者の存在が明らかになってから……精々ここ数ケ月の話よ。薬も金も10年以上かけてゆっくりと手回しした男が、急に表立って動き始めた。そして、街の住民もあっという間に血を求めるようになったわ」
「原因は……転移者ですか?」
「原因は彼を止めなかった私達よ、だからヨシイちゃん、そんな顔しないの。ただ、きっかけにはなっているでしょうね」
「血の匂いが強くなってきた。どうやらついたようだぞ」
どうやら『狩り場』についたようだ。壁に張り付いて、こっそり様子を探ってみる。
そこは複数の通路の合流点になっていて天井や壁の側面に空いた穴から、虫や魚の姿をした魔物達がウゾウゾと集まっていた。
複数の通路から、魔物がやって来ては狂ったように突進をしているが、厚みが十数メートルはある金属のデカい壁にぶつかり、泥の沼で足を止められた後に、鎖で繋がれた魔物達が足止めされた魔物を攻撃している。不可解なのは突進してる魔物は壁を回り込むこともなく、ただまっすぐ進んでいるだけだし、鎖に繋がれた魔物に対して反撃すらも行っていない。壁から左右は砂が流れており、あぶれた魔物は部屋の後ろに流されていた。
「これは、魔物同士で戦っている?」
「それだけじゃないわ、ホラ、壁の上」
ヒットさんが指さした、先では、黒髪の男女が、遠距離のスキルを弱った魔物にひたすら打ち込んでいた。
その横では、スタッフが何かを空中に撒いている。死んだ魔物は砂の中に沈み、壁の後ろに浮かび上がっていた。
パッと見でわかるのはこの程度だ、これ以上は近づかないとわからないだろう。
「ヒットさん、ナルミ、もう少し近づきませんか。魔物達がどうして集まっているのか、鎖につながれている魔物も気になるし。壁の後ろの様子も見たいです」
僕の言葉に、二人は頷き近づく。魔物は砂の流れを超えて壁を回り込むようなことはせず、ただ突進をしており、魔物が魔物にぶつかり渋滞をしていた。
壁の後ろでは、二、三十人ほどのスタッフが忙しなく動いている。
そして、さらに信じられないものがあった。
「オオオオオオオッ」
「イッヒヒヒヒヒ」
「ギャッヒヒヒヒヒ」
闘士達が、狂ったように笑いながら、弱り切っている魔物を刻んでいた。
傷の様子はまるでないが、その目は紅く、全身から黒いオーラが噴き出している。
「おーい、もう疲れた。降りるぞー」
「はぁー、そこそこ、レベル上がったかなぁ」
そう言って、壁から階段を使って男女が降りてくる。
高級そうな武器を持つその二人は紛れもなく高校生であり、僕と同じ転移者だった。
更新遅れてすみません。新しい転移者が出て来たようです。
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