第百二十七話:地下へ潜入
闘技場の地下を調べるために、戻ろうとするとフクちゃんの念話が届いた。
(マスター、てっこう、かしてー)
「手甲? 僕のは壊れてて……いや、一つあったな」
アナさんが持ってきてくれた、ギースさんから貰った手甲。
この異世界で修行中につけていたもので、戦闘で使おうにもボロボロすぎて諦めたやつだ。
(フクちゃん。ギースさんから貰ったやつならあるけど、これでいいのか?)
(うん、それがいいー)
フクちゃんが欲しいなら渡すけど、何に使うんだ?
部屋にある荷物から、手甲を取りだす。装備すると、重りとなるこの手甲を憎んだこともあったが、あの日々があったから今の僕がある。
つい最近のことのように思い出すけど、ギースさんはもういないんだよな。
「こんなもの、ずっと持ってたって……ギースさん……」
フン、どうせ。僕がセンチな気持ちになってもあの人は笑うだけなんだろうな。
手甲はこれから地下の職人の元へ行くという、ファスに預ける。
「ほい、フクちゃんに渡してくれ」
「わかりました。ご主人様、気を付けてください」
いつものローブに着替え、フードを目深に被ったファスに手甲を手渡す。
さて、いよいよ状況も煮詰まって来たな。
成り行きでこの街に来て、今も成り行きで動いているけど、とりあえず動かなきゃ進まない。
「行ってくるよ。夜に会おう」
「はい、また後で」
入り口にはヒットさんが待っていた。
ヒールではない、革靴に指ぬきグローブ。腹筋を露出させたジャケットのような上着にナイフを数本装備したズボン。モヒカンも相まって、そうとう似合ってる。
「こっちは準備できたわよん♪」
「そっちのが、ずっと似合ってます。マスク返しますよ」
「これは……いいわ。私はもう闘士じゃないもの」
受け取らないヒットさんに無理やりマスクを押し付け、自分はターバンを顔に巻く。
「闘技場でヒットさんとよく似た戦い方の人を見ました。彼はそのマスクを見て、僕をヒットさんだと勘違いしています」
「そう……何て言っていたの?」
「殺してくれと、言われました」
背を向けた彼の表情はわからない。
「……行きましょう」
ヒットさんはマスクを被らなかった。ただそれを乱暴にズボンのケツに突っ込む。
その後、砂除けの顔布をつけてターバンを巻いていた。普段が目立つ格好なので、彼だと見抜くのは難しいだろう。しかしわざわざ、入り口でしなくても……他の冒険者にもばっちり見られてるけどな。
扉を出る際に、浅黒い肌に紅い髪の妙齢の女性とすれ違う。狭い入り口なので肩が当たるほどの距離で目が合う。こちらを見て微かに笑ったような気がした。
「ヨシイちゃん? どうしたの?」
「……いえ」
気のせいかな? 扉を出て、人混みに紛れて動く。音もなくナルミが横に並んできた。
「まったく、主は先に行きすぎだ」
「主って、ヨシイでいいぞ」
主従の口約束なんて、守ってもらおうと思ってないしな。
「そうか? まぁなんでもいい。それでそこの男は? かなりの手練れと見受けられるが」
「ヒットよ、よろしくねぇん♪」
「……ヨシイ、説明を」
鍛えられた肉体から、ねっとりした裏声、うん、怖いよね。
「あぁ、会ったことなかったか」
歩きながら説明をする。
三人とも、人混みを避けることに慣れているのでスイスイ進む。
現状を説明すると、ナルミは「了解した」と短く言い、その後は黙って付いて来る。
なんか沈黙に耐えられないので、ギルマスに話しかける。
「ギルマスと――」
「ヒットでいいわ、ヨシイちゃん」
「ヒットさんと、闘技場のバンテージの男はどういう関係なんですか?」
「……昔、私が『炎の剣闘士』と呼ばれ、闘技場の王者だったころ、闘技場に放りこまれた子がいたわ。まだ、この街が冒険者と職人のものだったころよ。それでもあの子のような子は一定数いたわ。同情はしなかったわ、ただ……才能があったから、ちょっと鍛えただけよ」
「足運びも、フェイントもそっくりでした。デルモが言うには闘技場の王者だったと……」
「知ってるわ。さっさと闘士なんて辞めなさいって、何度も言ってたのに」
「なんで辞めなかったんですかね?」
「……」
ヒットさんからは無言が帰ってくる。
「そこまでだ。着いたぞ」
ナルミの声に立ち止まる。目の前には闘技場、さぁどっから入るかな?
「おい、ヨシイ手伝え」
「なにすりゃいい?」
「……攫うぞ」
「えぇ……」
物騒な……ということでヒットさんと僕は路地で待機で、ナルミだけ闘技場に入る。
しばらくすると、男性のスタッフと女性姿のナルミが腕を組みながら出て来た。
ナルミは服装こそ男性だが、胸元をはだけさせ(意外とあるっぽいぞ!!)、顔を寄せている。
すぐに、スタッフが鼻の下を伸ばしながらこっちに入ってきた。
「やるわね」
なんか、ヒットさんが悔しそうにしているけど、無視して男を捕まえて【呪拳・鈍麻】で眠らせる。
「男ってアホばっかだ」
ナルミが男性の姿になりながら、吐き捨てるように言い放つ。
「やぁん、そこが可愛いのよ」
「……僕には君の気持ちがわかるぞ、スタッフさん」
心の中で合掌しながら男の服を脱がす。男はオッパイには勝てないのだ。
すぐにナルミが服を受け取り【変容】をする。
完全に同じというわけではないが、パッと見スタッフの男性と似た見た目になる。
これで、スタッフに化けたナルミに案内される形で侵入できるわけだ。
マスクマンとしての僕はそれなりに目立っていたが、この格好なら問題ないだろう。
ヒットさんも変装しているしな。
中に入って、地下への通路を進む。
地図を頼りにわかりづらい道を進むが、途中に見張りが立っている。
やっぱ厳重だな。
「おい、ここは立ち入り禁止だぞ。奴隷は上の階だろ」
武器を持った男二人に注意される。ナルミが適当に誤魔化し、近づいた隙に僕が【鈍麻】で思考力を鈍らせると、男達はボーッとして簡単な説得で先に進めた。
「……ヨシイ、お前のスキル便利すぎないか? 転移者ってのはつくづく異常だな」
「あんまりこういう使い方はしなかったけど、自分でもそう思えて来たよ」
ここに、フクちゃんの毒とファスの【恐怖】があれば、余裕で人を前後不覚にできるからな。
つくづく僕等のパーティーってアウトローみたいなスキル構成だ。
「ほんと、イヤになっちゃうわ。ギルドが散々探りを入れても、どうにもならなかったのにね」
まさか、こんな方法で正面から突破するとは相手も思ってないよなぁ。
実際地図がないと、ここまでスムーズに来ることもできなかったし。
そんなことを何度か繰り返し進むと、舗装された壁から土色がのぞき始め、階段から坂道へ道が変わっていく。
「ダンジョンっぽい雰囲気になって来たな」
「ここからは、横道も多くなるわ。できるだけ人を避けて進みましょう」
「フン、血の匂いがする」
ナルミの言葉で注意してみると、鉄のような匂いが漂うのがわかる。
さて、何がでるかな?
ナルミさんが動き始めました。
ブックマーク&評価ありがとうございます。モチベーションが上がります。
感想&ご指摘いつも助かっています。嬉しいです。






