第百二十五話:ポニーテールとツンデレ
通路に出たところでバンテージの男は治療班を自称するスタッフに、半ば強引に回収される。
彼はうわごとで「殺してくれ」と呟き続け、結局【吸呪】はできなかった。何か条件があるのだろうか?
他の闘士達も、ポーションと回復魔術を浴びながら闘技場の奥へと連れて行かれた。
僕はと言うと、昨日とは打って変わり、殺戮ショーを台無しにしてしまったと観客達からブーイングの嵐だったが、我関せずと控室に戻る。
「おい、あの新入り……」
「見たかよ、あの試合、アイツが細切れになるはずだったのに、薬を飲んだ奴らを一方的に……」
「化け物……」
ヒソヒソと噂話をされる。ちょっとストレスだ。
あぁ、ファスはどうしているかな?
「おい、まだ生きてるな。ご主人様」
「そりゃあ、生きてるよ。あとご主人様は止めてくれ」
男性の姿に【変容】したナルミが隣に座る。
周囲の人間は僕達から距離を取っているので、小さな声で話せば聞かれることはないだろう。
「……私が探している『家宝』を探すために、色々調べたがこの闘技場にはほとんどデルモの情報はないようだ。その代わり、この闘技場に地下へ行く通路があるのがわかった。どうにもきな臭いが、警備が厳重で私だけでは無理だ。傷ついた闘士や貴族達はその通路の先に向かっていたぞ」
ナルミが探しているという、エルフの宝も気になるけど、地下通路も気になる情報だ。
「助かる。さっそく行ってみてもいいけど、叶さんと合流したいな」
『狩り場』のこと何かわかったとか言ってたし、どう動くか整理したい。
「聖女か、昨日よりなぜか敵意のこもった眼で見られるのだが……」
「……ナンデダロウネ」
目を逸らしつつ答えるが、ああ見えて色々なことにアクティブな叶さんだ、いつ「私もメイド服を着る!」とか言い出さないか心配だ。
もしそんな所を他の転移者にでも見つかった日には、同級生にメイドコスプレを強要している変態と呼ばれるだろう。というか小清水に殺される。
彼女がナルミに対して敵対心を持っているのは、多分僕の叶さんに対する姿勢に迷いがあるせいだろう。同級生をパーティー(ハーレムとか言えない)に加えるということをどうすべきか、考えるべきだとは思う……けど、今はデルモのこと優先だよな!(現実逃避)
そんなことを考えつつ、先程貰った念話用の【紋章】が書かれた石、を使って【念話】を飛ばそうとするが、手ごたえがない。うーん、距離が離れているのか?
仕方がないので、ナルミを連れて、控室を出ようとするとスタッフに呼び止められた。
デルモからのようだ。二本の角が交わる紋章が描かれた蝋印が押されていた。
開けてみると、今晩の食事に誘われているようだ。デルモの屋敷の地図まで入っていた。
「招待状みたいだな」
「ほう、いいじゃないか。絶好だ」
どうにも薄気味が悪いというか、ぶっちゃけ僕のことバレてない? とか思わないでもないが、断る道理もない。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。トアも入り込んでいるし、僕等もいた方が良いだろう。
ナルミはやる気のようで、デルモの屋敷に入れると鼻息を荒くしている
とりあえず叶さんに今晩のことを伝えたいが、周囲の噂話を辿るともうデルモの屋敷に移動したようだ。心配だが、ここの地下通路のことも気になる。うーん、どうしよう。
(ちょっといいかしら? 今どこにいるの?)
不意の【念話】、この声は小清水だ。
(貴族達の観客席周り、叶さんを探していた)
(なら都合がいいわ、一旦合流しましょう。闘技場の外にいるから、私が分かったら連絡して、その場で話し合わずしばらく歩きましょう)
(了解)
ナルミに小清水と合流する旨を伝えて一緒に外へでると、小清水を見つけた。黒髪のポニーテールはこの街では意外と目立つな。
(見つけた、後ろにナルミといる。叶さんは?)
(留美子と先にこの街の教会へ行ったわ。その後デルモの屋敷の会食に出る予定よ)
(僕等も、デルモから招待状を貰った。屋敷で合流できそうだ。あとナルミが闘技場の地下に通じる怪しげな通路を見つけたんだけど)
周囲の人混みを逆らうように進みながら、適当な酒場に小清水が入った。
この辺は治安も良いようで、酒場と言っても個室で話ができる高級店のようだ。
こなれた様子で、酒場に入るとタイミングをずらして同じ個室に入った。
先に入った小清水の前には瓶とグラスが置かれている。まぁ小清水が酒を飲むとも思えないが部屋代だろう。
「ふぅ……。やっと普通に話ができるわね」
「【念話】でも良かったけどな」
フクちゃんとの会話で慣れているし。別段問題はないが。
「これ、地味に魔力を使うじゃない。会話に気を取られそうになるし」
「魔力使ってたのか」
「……気づいてなかったの? まぁいいわ。それよりも、私達が調べた情報をメイドさんに伝えて欲しいの」
メイドさん……ナルミのことではないだろう。つまりアナさんに伝えることか。
別に周囲の部屋とも離れているし、問題ないと思うけど。
「わかった。それで情報ってのは?」
そう聞くと、小清水は横に置いた日本刀を少し傾けた。その先は天井……。
ネズミってことか、まるで時代劇のやり取りだ。
「なるほど、古典的だな。お代官様ほどでは、ってか」
「えぇ。でも情報を持って来たことには違いないわ。あと、それだと私達が悪役みたいじゃない」
異世界人同士のやり取りに、困惑するナルミだが、小清水の意図は伝わったのか、机の下でナイフを手に取った。
「大丈夫よ、ここは私達で十分」
ナルミに対し小清水が一言。そして――
「【空斬】」
天井に向かって斬撃。それと同時に僕も跳びあがる。
「グッ」
「しまった!」
ネズミが二匹落ちて来た。空中で姿勢を取ろうとするが、遅すぎる。
「しばらく、大人しくしてもらおうか」
二人を掴み【呪拳・鈍麻】で動きを封じて、締め技で落とす。
身体はもちろん、思考力すら鈍らせる、【呪拳】により拘束完了。
小清水の斬撃は恐ろしく静かで、落ちてくる木材の音で周囲に異変が知れるが、その時には僕等は酒場を飛び出し、二人の間者は僕が抱えながら裏路地を走り出していた。
転移者の速さについてこれないナルミは途中で、人混みに紛れるように別れた。
合流場所はギルドなので、はぐれても問題ないだろう。
「このままギルドへ行くと、流石に人目につくぞ」
「そうね一旦止まりましょう。適当なズタ袋にその二人を詰めるわ」
というわけで、適当な路地裏で立ち止まり二人を袋に詰める。完全に犯罪現場だけど気にしないようにしよう。
「それで、こいつらは?」
「闘技場から私達を付けていたのよ。結構レベルも高そうだし、色々知ってそうだから叶と別れて囮になったの。叶には留美子がついてるわ。私の方に二人も来てくれたのは運が良かったわね」
「無茶するなぁ、いくら転移者だからって。危険だろうに」
そう言うと、小清水は少し顔を背けながら(手際よく袋に人を詰めながら)。
「フン、貴方がいて不覚を取ることもないでしょう」
普段、不機嫌な表情の彼女の耳が微かに赤い。
「随分信用してくれてんだな」
蛇蝎の如く嫌われていたのかと思っていた。いや、嫌われているけど、評価はしてくれているのか。
「勘違いしないでよね。貴方は私が必ず倒すわ。この女の敵ッ!!」
「ここに来てツンデレ……だとっ!」
「なによ、ツン、デレって?」
アニメかラノベでしか見たことない台詞に戦慄するが、本人はいたって真面目な様子。
まぁ、僕に対して何か特別な感情があるわけではないだろうけど(殺意はありそう)、何となく得した気分になるね。うん、ツンデレは文化です。
オタクとして、貴重な体験をしたと思いながら、袋に入った間者を抱え僕等はギルドへ向かった。
……あれ? 小清水さん?
更新が遅れてすみません。次は並べく早く投稿します。
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