第百二十一話:VS闘士
「【【【空刃】】】」
「ですよねっ!!」
全員からの空刃が飛んで来る。砂河で生み出した、流れるような運足【流歩】で蛇腹に下がり躱す。
『おっと、新人に闘士達からの洗礼だあああああ。しかし新人躱す躱す。なんだあの速さは!』
ご丁寧にも、逃げ道を塞ぐように散開しながら全員が距離を詰めつつ、追撃の【空刃】を飛ばしてくる。
いままでの、雑魚や魔物と違う。ちゃんと人を倒すための動きだ。躱しきれない。
呼吸を止めず、拳で魔力の刃を打ち砕く。
「オオォオオオオオオ【重撃】」
頭上から雄たけび、見上げると、跳びあがったバルモが斧を叩きつけてくる。
鉄の匂いが感じられるほどに引きつけ、体を開き躱す。
巻きあがる土埃の中、一足の間合い。揺れる地面も【ふんばり】なら強く踏みしめられる。
がら空きのドテッ腹に鉤突きを叩きこむ。
「オラアアアアァアアアアアア」
雄叫びを上げながら右腕を振り切る。【重撃】の効果が残っているのか、岩の塊を殴っているようだ。
ジンジンと痺れる拳。間髪容れず微かな足音。
砂ぼこりの左右から曲刀が生えてくるように出てくる。【手刀】で魔力の刃を纏い受け止める。
「ギャヒヒヒヒ」
「イッヒヒヒヒヒ」
二人の曲刀使いが狂ったように笑いながら、切り付けてくる。
引きが早く、突き出すような角度の斬撃。見たことない軌道の剣術だ。
【ふんばり】を使って、踵だけでバックステップ。
甲高い金属音が交差する。
『さぁ、変幻自在の砂海剣術が新人を襲うぞっ!!』
実況はもはや戦闘に追いついておらず、ワンテンポ遅れた場面を叫ぶ。
「ギャヒヒヒ【角蛇切り】」
「イッヒヒヒ【角蠍切り】」
魔力の高ぶり、スキルの予兆。高速の連撃が変化する。
這うような姿勢から、波打つ軌道の足切り。
上下のフェイントを絡めた、逆手の突き刺し。
【手刀】じゃ抜かれる。無理、躱せない。
「ッ!! 【拳骨】ッ」
魔力を強めて【拳骨】を発動。腕と足に刃が喰いこむが。強化した手足を切り裂くに至らず刃が止まる。
突き刺してきた方の曲刀使いを掴み、引き落としの要領でもう一人にぶつける。
刃が抜ける。踏みつけでとどめを刺そうとすると、うなじに殺気。とっさに屈む。
チョキン。
「へぇ、ヤルゥ」
調子の外れたような声。首のあった場所にハサミが閉じられる。
アブねぇ。死んでた!!
屈んだ姿勢から海老蹴り(合気道の技じゃないけど)で反撃。
感触はない。見えないが多分躱されてる。
次の攻撃の気配が察知し、足を引っ込めて跪坐(爪先を立てた正座)。【呼吸法】で刹那の集中。
一秒の十分の一それよりも、もっと短い時間。
一連の動きで、吹き飛ぶ砂ぼこり。
現れたのは正面左右から二本の曲刀、右後ろから鋏。
……かつて、正座が公の場で取られていた時代。その時を狙った攻撃に対応するために作られたのが『座技』の始まりだという。
不意打ちされることを前提に作られたこの技術は、複数人による武器での攻撃も想定されている。
そんな状況現代ではないだろうと思っていたけど。
そんなことできるはずないと決めつけていたけれど。
「今ならやれるっ!」
右前に膝行の要領で大きく一歩、『座技正面打ち一教』手刀の構えを相手の側面へ差し出す。
肘を掴み、関節を極めながら爪先で【ふんばり】を発動。左膝を中心に回転。
呼吸投げへ変化、左側に居た曲刀使いへ、投げつける。ゴキリと押し出した相手の肘の折れた音がした。
流れのままに勢いを殺さず反転、膝をたたみ、クラウチングスタートのように力を溜める。
上から差し込まれる鋏のさらに下を潜るように、滑り込み踏み出す。
【ふんばり】体が流れないように固定、アッパーのように掌底を突き上げ、顎に手を当てる【掴む】で固定。カチあげて、今度は上から下に脳天を叩きつける。
果物が地面に叩きつけられたのような音が響く。
手ごたえあり!
追撃に備えて、横っ飛び。
立ち上がり息を吐いて、中段の構え。
ドシャ降りのように歓声が沸きおこる。
『これは、これはあああああああああ、素晴らしい。素晴らしすぎる。まさかまさかの、ルーキーが闘士達を相手に一歩も引かない!! こんな展開はだれが予想できたでしょうか!!』
切られた手足は、問題なく動く。鋏使いとバルゴは倒した。後は曲刀使いが二人……。
「イッヒヒヒヒヒ」
「ギッヒヒヒヒ、折れたぁ、折れたぁ」
「痛い痛い、頭の骨が折れたヨォ」
「……マジか」
普通に立ってるんですけど。割と本気で頭から落としたはずだが……。
「ゴブゥゴブ、ゴラァ!! 俺が殺ズッ、殺してやるぅ”」
向こうでは、バルゴも斧で体を支えて立っていた。血を吐いているが、まだまだやる気のようだ。
ダメージの限界を無視している。明らかに普通ではない。
全員から黒いオーラが浮かび上がっている。『薬』とやらの効果か。恐怖も痛みも感じてない様子だ。それどころか感じる魔力は今までよりもさらに強い。
『狩り場』とやらで強化されたレベル、闘士としての技術。『武器』との戦闘。
想定したよりも遥かに相手は強敵だった。
正直なところ、魔物との戦いで少しは自分が強くなっていると思っていたが、どうやらまだまだなようだ。
闘士達からの殺気が突き刺さる。
恐怖が消え、魔力を滾らせる相手はまるでいつかの宙野のようだ。
あの時と同じような闘技場。
あの時と同じような歓声。
敗戦の悔しさは、今もまだ魂に焼き付いている。その痛みと恐怖も。
あぁ、爺ちゃん、ギースさん。見ていますか? 僕、ピンチです。
『真也、大丈夫じゃ。楽しみなさい』
『俺が鍛えたんだ。負けたらただじゃおかねぇぞ!』
なんて二人なら言うんだろうな。まったく厳しい師匠達だよ。
呼吸を一拍、指先まで気を張る。引きつるようにコケ脅しの笑みを浮かべる。
覚悟は決まっていた。
「かかって来い!!」
その言葉を合図に、五人の闘士が一斉に、走り出した。
もうね、書くのが楽しくて、長くなっています。いやぁ、戦闘は楽しいなぁ。
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