第百二十一話:死闘開幕
ホテルからでて、馬車で移動する。昨日で人気が出たせいか、かなり丁寧に迎えられた。
ボルテスさんと入り口で別れ、ナルミと一緒に闘技場へ入る。案内されるままに控室へ向かう。
ちなみにナルミは闘士の付き人ってポジションらしい。闘士ともなると、奴隷でも付き人が付くのか。
歩きながらナルミが話しかけてきた。
「そのマスクなんとかならないのか? 正直気味悪いぞ」
メイド服から男物の服装に着替えたナルミは、【変容】のスキルで体付きまで男性になっている。
というか、男の姿だとめちゃくちゃイケメンだな。優男というか、なんか既視感あるような……。
「このマスク。気に入ってんだけどな……あっ、わかった、シー〇だ。ゼ〇ダ姫が変装してたやつ」
「急にどうした、なんだゼル〇姫って?」
往年の名作ゲームのキャラにそっくりだ。
「ナルミってどっかのお姫様だったりする?」
ゴフゥ。とナルミが噴き出す。
「なっ、バ、馬鹿な。そんなわけないだろう。わ、私はべべ、別にエルフの姫とかそんなわけがっ」
露骨に慌てている。まさか当たりじゃないだろうな。それはそれで面倒なので聞かなかったことにしよう。
「悪い、悪い。っとついたな」
そんな、話をしていたら鉄の扉がついている部屋につく。ここが控室ね。
一応ノックをして、入る。
木製のベンチが乱雑に並べられていた。部屋には闘士の他に付き人もいるようで、首枷のついた女性に体を揉ませているものもいた。
他には食事をとっているもの、武器を手入れしているもの。壁にシャドーしているもの。
思ったより、ちゃんとしてる印象だ。
そんな、奴らが一斉にこっちを見る。
視線で産毛が逆立つ。魔物とは違う緊張感だな。
まずは、新入りとして挨拶でも……。
「おい、話題のルーキーが入って来たぞ。付き人もいるぞ」
「誰か、この部屋の使いかたを教えてやれよ」
ずいっと、大柄の男が寄ってくる。190㎝くらいか、筋骨隆々という感じだが、歩き方は戦士のそれだ。隠しもしない、溢れている魔力に殺気、普通に強そうだ。
「俺は、バルゴってんだ。ここじゃあ、ちょっとした顔よ」
「どうも、よろしくお願いします」
普通に礼をすると、そのまま頭を押さえつけられる。痛いけど、まぁ新入りだし我慢しよう。
というか力強いな。
「礼儀正しいじゃねぇか。最近はわかってねぇ奴が多いんだよ。ホラ、お前のブックだ」
頭から手を放し。薄い、メモを束ねたものを渡される。
ブック、つまり台本だ。プロレスにある(とされる)観客を盛り上げる為に行う筋書き。
合気道でも自由演舞は事前に打ち合わせして、盛り上がるように受け身をとる。
そういう意味では、合気道ってプロレス的な所あるんだよな。
プロレス、僕も大好きだ。受けの美学どんとこい。
というわけで、生まれて初めてのブックにワクワクしながらメモをめくると。
異世界の文字で、簡潔にこう書かれていた。
『豚のように死ね』
「……なるほど。わかりやすい」
「プククッ」
「猿でもわかんだろ? いや、豚か、ギャハハハハッ」
本当にわかりやすいな。横のナルミを見ると、手を当てて笑いをこらえている。
良い性格してんなコイツ。
ただ、このブックのおかげでやりやすくなった。
バルゴの前でブックを真っ二つに破る。
他の闘士達もこっちを見ている。
「テメェ……闘技場に上がるまでもねぇ。この場でぶっ殺してやる!!」
掴みかかろうとする。バルゴに反撃の姿勢をとろうとすると。
【威圧】で注意を集められた。その鋭い【威圧】の先を見ると、上半身裸でバンデージを巻いた男が座っていた。乱雑な髪に無精髭が生えている。表情は見えない。
「馬鹿が、ここで殺しても金になんねぇだろうが……」
「ヘッ、ヤク中が久しぶりに人の言葉喋ったな」
軽口を叩いてはいるが、バルゴは冷や汗をかいている。
バルゴって人もかなり強そうだが、奥のバンデージの人はさらに強そうだ。
「人のこと言えるのかよ? 『狩り場』でレベル上げしただけのデクの棒が、偉そうにしてんじゃねぇ」
「……チッ、冷めたぜ」
捨て台詞を残し、バルゴは酒瓶に手を伸ばしに行った。
助けられたのかな? 手持無沙汰になったので、バンデージの人の方に行こうとすると。
後ろの扉が開く。やけに太った人だ。誰だコイツ。
やけに高そうな貴金属の装飾品を身に着けている。アロハみたいな恰好だけど、首に巻いているスカーフみたいな物に付いているのは、叶さんとこの白星教会の紋章だ。
「ポル神父様。さっさと例の奴頼むぜ」
「待ってたぜ」
「さっさと、出せ、生臭坊主」
「ホッホッホ、皆さん。今日はデルモ様が来られるそうですぞ。もし気に入られれば特別な『狩り場』に行けるかもしれませんな。そして! そして! なんと、聖女様も来られるかもしれません。これは素晴らしいことですぞ。今日は女神の奇跡を奮発ですぞ! いつもよりも特別なものを振舞いますぞ!」
そう言って、小瓶に入った草を配っている。先程のバンデージの人もバルゴと名乗った偉丈夫も皆この草を口に含んだ。
聖女って叶さんだよな。僕との繋がりが見つかると不味いので闘技場で一緒に行動はしない話だったはずだが。そんなことを考えているうちに闘士達が薬を口に運ぶ。
「あぁ~。いいぜェ。今日は効くな」
「ハッ、最低だな。最低だ。本当に……」
「ウヘェ、アァ、力が湧くネェ」
鍛えられた戦士が、呆けた面で虚空を見上げている。どう考えても薬じゃん。
「おや、貴方は昨日の! 素晴らしい成果でしたぞ、さぁさぁ、貴方もどうぞ」
小太りのアロハ(神父って言われてたな)に小瓶を差し出される。
「これは?」
「おぉ、『女神の奇跡』を知らないのですかな。これは闘士に特別に配られるものですぞ。口に含めば恐怖が消え、体力、魔力がモリモリですぞ」
あからさまにヤバイ。というか、これって……。地下で子供たちが苦しんでいた景色が脳裏に浮かぶ。小瓶を握りこみ【吸呪】を行う。拳を開くと、中の葉っぱは枯れていた。
やっぱ、呪いの類か。枯れた葉を見られないように服の中にしまう。
「こういうのは、頼らないタチなんで」
「……それはそれは、余計なお世話でしたな。しかし、それを使わないと、ここでは生き残れませんぞ。ここで生き残れば、『狩り場』でレベルを上げてもらえますからな。それにパーティーに入れば転移者の恩恵もありますぞ」
この人、めっちゃ情報くれるじゃん。ありがたい。
「へぇ、興味ありますね。噂の『狩り場』ですか?」
「そうですぞ【扇動者】と【魔獣使い】の転移者様によって作られる。夢のような場所ですぞ」
ボルテスさんが言っていた。転移者のせいで儲けが無くなったことと繋がってるっぽいな。
「転移者ですか。いったいどんな――」
カーン、カーン。
甲高い鐘の音が響く。
「おっと、これはこれは、デルモ様がいらっしゃったようです。私は、もてなしがあるので。皆さん今日も期待しておりますぞ」
そう言いながら、去っていった。うーん、もうちょい話を聞きたかったな。
すぐに、別の人が入ってくる。
闘技場のスタッフだろうか、闘士達に鉄の手枷をはめていく。
付き人のナルミにはついていないようだ。手枷に困惑していると、ため息を付きながら解説してくれた。
「演出だ。闘士達が闘争心を抑えているというアピールさ。それが闘技場で外される」
「なるほど、確かに盛り上がりそう。……行ってくる」
「あぁ、行ってこい。精々死なないようにな」
そう言って、控室の奥に行く。ここで情報を集めてくれるようだ。
闘技場の入り口の下は、第二の控室のようになっており、一応医者みたいな人もいるようだ。
手枷についている鎖を引かれ、闘技場へ出る。
右に二人、前の入り口からも二人。待って、皆武器持ってんだけど、ステゴロじゃないのか? しかも複数人。全然説明されてないんだけど。
『さぁ、さぁ。今日は特別な出し物だ!! 昨日の『素手のマスクマン』に『巨獣のバルモ』『人切大鋏のカトル』『人切り兄弟』と闘技場のスターが目白押しッ、出し惜しみはなしッ、金を吐き出す準備はいいかあああああああ。ルールは簡単。最後まで立っていたものが、勝者、そして、この生き残り戦を二回行い。勝ち残った二人が一騎打ちを行う。勝者にはデルモ様から直々に恩賞が与えられるぞおおおお』
実況が響き渡る。観客も異様に盛り上がっている。壁を見ると、前座の名残か痩せた奴隷達の死体が転がっている。その中にはまだ年端もない子供の死体も見られた。
これが、毎日行われてるわけだ。胸糞悪い。
どうやら、デルモが来るってんで、特別なショーになっているようだ。観客席を見渡すが、それらしい人影はない。VIP席がどっかにあるのだろうか?
「……さっさと、終わらせなきゃな」
「そうだな、お前を一番に殺すぜ」
僕のぼやきにバルゴが反応する。この乱痴気騒ぎを終わらせるつもりで言ったのだが勘違いされたようだ。
客を焦らすように、ゆっくりと一人一人の枷が外され各々の得物が渡される。
曲刀を持った剣士二人、バルゴは戦斧、カトルとか呼ばれていた人はでかい鋏のような武器だ。
バンテージの人は別グループか。
手甲がないのが寂しいな。安物でもいいから、買っとけばよかったか。
呼吸を整え、合掌。
一瞬の静寂。手枷を使った偽物の殺意じゃない。本物の殺意が僕に向けられる。
モテモテだな。闘技場の話題をさらった新人。闘士達にはさぞ、面白くない相手だろう。
カアアアアアアアン。甲高い鐘の音。そして歓声。戦いが始まった。
遅れてすみません土下座。というわけで闘技場です。長くなってしまったので、明日また投稿します。
ブックマーク&評価ありがとうございます。嬉しいです。
感想&ご指摘いつも助かっています。モチベーションがガンガンです。
 






