第百十七話:ハンモックで話す夜
叶さんの誤解を解き、今後の連絡方法を確認してその場は解散となった。
アナさんは、これから忙しくなると部屋に引きこもったし、僕等もヒットさんが用意してくれたギルドの一室で休憩することにした。
叶さんが普通に付いて来ようとしていたが、流石に長時間ホテルを離れると教会の護衛に気付かれると小清水に半ば強引に連れていかれた。
正直ちょっと、いやかなり安堵している僕がいる。いや叶さんと過ごすのは別に嫌じゃない。叶さんの気持ちを受け入れる覚悟もある、というより僕自身一緒にいたいと思う。だけど元の世界の女子と一緒に夜を過ごすってのはどうにも想像できないというか、どうすれば良いのかわからなくなるってのが本音だ。
だって、普通に同じ学年の女子が部屋に来るって想像できない。
叶さんはその辺どう思っているんだろうか?
なんて一人で悶々としながら、ヒットさんに案内されて、休憩用の部屋へ案内される。
入口は狭いがこのギルドはそれなりに広いらしく、使っていない部屋は結構あるようだ。
一階の解体場の裏にあるこの部屋にはガラスがはめられた窓があり大きなハンモックが何個か吊るされていた。
何気に人生初ハンモックだ。
「カナエは残念そうでしたね」
「まぁ、話ではこの件に決着がつけばもっと自由に動けるようになるらしいべ。そうなりゃ一緒に旅もできるだよ」
「マスターと寝るー」
グエッ、やっぱ叶さんのこと考えてたのはファスやトアには気づかれたか。
そしてフクちゃんは可愛い。頭をナデナデしてあげよう。
別に非難されている感じはしないので、純粋に叶さんのことを気にかけているようだけど……なんか気まずいので話題を変える。
「ところで、僕は今日一日さっき話した感じなんだけど、皆はどうだった?」
「私は、アナスタシアさんと秘密の稽古でした。さてご主人様、身体を拭きますよ」
ファスは部屋に置いてある桶に魔術で水を入れて、清拭の準備をしてくれたようだ。
砂でジャリジャリしているので、部屋着に着替える前に体を拭くのは賛成だ。
「自分でできるけど……」
「私の仕事です」
笑顔で返される。うん、まぁわかってた。この辺は譲ってくれないので、恥ずかしいが服を脱いでなすがままになる。
ギースさんの訓練を受けていたころは、自力で体を動かせない日が多く、よくファスに拭いてもらってたっけ。その習慣が続いていて、今も清拭の時はファスが体を拭くと言って譲らないのだ。
「ボクもふくー」
「じゃあ、オラもだべ」
「順番ですよ、はいご主人様腕を上げてください」
「あの、前は自分でやるから……」
フクちゃんの泡も使いながら、全身を綺麗に拭かれる。【回復泡】の効果で体の細かい傷が治るのは本当にありがたいな。
僕の番が終わると、次は各々体を拭くわけだけど、中々に刺激的な光景だ。
フクちゃんは蜘蛛の姿に戻ればすぐに終わるはずだけど、練習も兼ねて人間の姿で体を拭いているので。
色んな意味で直視できない。
「あの、ご主人様。何も壁の方を向かなくても。別に私達は見られても構いませんし……あの痩せていますが……」
「旦那様は時々、こうなるだなぁ。今更だと思うべ」
「マスター、恥ずかしいの?」
「皆、自分の容姿に頓着が無さ過ぎるんだよ!」
さっき叶さんのことを考えてしまったせいか、変な意識をしてしまう。
というか皆さん、元々、めちゃくちゃ綺麗だったけど最近磨きがかかってない? 僕の気持ちの問題か?
明日のこともあるので、今晩いたしてしまうのは不味い。ここは鉄の精神(自称)で我慢だ。
――なんとか天国のような地獄のような、時間を乗り切り、ハンモックに入る。
皆同じハンモックに入ろうとする。元々一人用の大きさなので四人一緒は無理かと思ったが。
フクちゃんが、糸を使って全員が一緒に寝られるようにハンモックを広げてくれた。
天井に糸をかける様は、正しく蜘蛛のそれで改めてみると神秘的だ。
砂漠の夜は寒いものだが、このギルドでは昼間の熱が建物に籠っているのか、やや熱いくらいだ。ハンモックでも問題ないだろう。
「ありがとうございます。フクちゃん。じゃあ私は【氷華:マツリカ】」
部屋の隅や天井の糸を飾るように、小さな氷の華が咲く。冷気が降りてきて心地がよい。
冷房まで完備なのか……。
あっという間に快適空間になってしまった部屋で皆で拡張されたハンモックに横になる。
「そういや、さっき話が止まっちゃったけど。トアやフクちゃんは一日何してたんだ?」
「オラは地方の料理人として、貴族の厨房へ入っただ。ただ、あんまりにも普段と勝手が違うもんで上手くいかねぇべ。明日時間があれば、旦那様に料理を食べてもらいたいだ」
トアは苦戦しているようだ。トアの料理はめちゃくちゃ美味しいし、好みなんだけど、高級レストランって感じではない。量を食べたい定食屋って感じだからやはり難しいようだ。
「料理に関して特に意見できる気はしないけど、僕でよければ協力するよ」
「助かるべ。なんていうか、女将がなんでオラに高級な料理を作るように仕向けたのか、そこが分かればなんとかなりそうなんだけどなぁ」
そう言うと、ギュムっと左側から抱き着いてきた。別にエロい感じではなく、珍しく甘えたいという感じだ。
「ボクは練習、人間の技っておもしろい」
フクちゃんは手ごたえがあるらしい。赤い瞳をキラキラさせている。
「どうおもしろいんだ? フクちゃん?」
「あのね、人間ってね。難しいことを簡単にするのっ! だからボクね、キルトおばちゃんにじゃあもっと難しいことを簡単にするねって、いろいろしてみたの。できることいっぱい増えたよ!!」
興奮気味に身振り手振りを交えながら、今日したことを教えてくれる。
学ぶということが楽しくてしょうがないらしい。
……ただ、とんでもないものができそうな気がする。まぁ、フクちゃんが楽しそうなので大丈夫です。
「むぅ、私の特訓はまだ秘密なので、話せないです」
少しいじけたファスが、構って欲しいと横から抱き付いてくる。
その後もそれぞれの話をしながら、砂漠の夜は更けていった。
ハンモックいいですよね。話が進まなくてすみません。頑張ります。
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