第百十六話:【紋章士】中森 紬
再起不能になり唸り声をあげながらソファーで寝込む、ナルミとややゲッソリしたボルセンさんを置いて叶さん達とギルドへ向かうことにした。
とりあえず、叶さんが聖女権限でとった別室に移動する。
「ギルドへ行こうにも、このマスクに、叶さん達じゃいくらなんでも目立ちすぎるな……」
ここは高級ホテルなので一応ガードは固い、野次馬も簡単に入ってこれないから良いものの、叶さん達がギルドへ行けばちょっとしたパニックになりそうだ。というか忘れそうになっていたけど僕って一応お尋ねものだしね。
「あんたね、マスクとって、適当な布でも顔に巻けばいいでしょ」
呆れた様子で小清水に言われる。そういやそうか。【鑑定防止】が無くなるのが怖いが、走って移動すれば【鑑定】されることもないだろう。
「外に教会の護衛もいるし、私達を連れての移動は大変だと思う。アナスタシア様の居場所が周囲にバレるのも大変だしね」
ウンウンと叶さんも頷く。そしてチラっと横の中森さんを見た。
「わかってるよ、私の出番だね。【紋章士】の力を真也に見せるとしよう」
芝居がかった仕草で一歩前へ出て胸元からしっかりとした作りの万年筆のような物を取り出し、おもむろに壁に筆を走らせる。
「下の名前!? 紬、そういうのは違うと思うなっ!」
「狭量だぞ叶。私達はある意味では同志のようなものだ。仲間を名前を呼んでも問題はないだろう?」
「私はゴメンだわ。この、女の敵っ!」
「ち、千早ちゃん。落ち着いてっ」
何もしていないはずなのに、小清水に罵倒されてしまった。
そんな会話をしながらだったが、中森さんの筆は止まらない、引いた線は生き物のように蠢き、微かに発光を始める。中森さんは手を止めずに線を描き組み合わせていく。
「砦で移動用の魔法陣を使ったのを覚えてる? あれも紬に作ってもらったの」
「私のクラス【紋章士】は魔法陣を描くスキルだ。魔法陣について理解はあるかい?」
「いや、まったくないな」
実際これまで、ほとんど使った覚えはないし、発火石とかに刻まれていたかな?
あと、フクちゃんを従魔として契約するときの紙に書かれていたのも魔法陣だったりするのか?
「まぁ、元の世界での電気回路のようなものだ。電気の代わりに流れるのが魔力という違いがあるけどね。文字を刻むものもあれば、図形を組み合わせるものもある。この世界では【スキル】を持たないものでも魔法陣を使えば、魔力を流すだけで様々なことができる。この魔物の素材でできたペンと知識があれば【クラス】を持たない者でも書くだけなら可能だ」
「フムフム、めっちゃ便利そう」
実際移動の魔法陣とかチートだよな。
「確かに便利だが、実はかなり面倒なものでね。【クラス】無しでの魔法陣は書き込める情報が少ない、何時間もかけて精々『魔力を込めると温度が高くなる』くらいが関の山さ。書き込める情報量を増やすには素材の質を上げることが第一、第二に情報量を増やす【スキル】が必要だ。【召喚士】【錬金術師】あとは武器や防具職人などの【クラス】は魔法陣に情報量を増やすための【スキル】を覚えるが汎用性はほとんどない。つまり魔法陣というのはこの世界では決して万能ではないというわけだよ。そこで私の【紋章士】の話なんだが……感覚的に言うなれば、通常の魔法陣を電気回路とするならば。【紋章士】が描く魔法陣はアートだと私は思っている。より直感的に意志を図案に描く、解釈は私しだい。円を描けばそれは太陽にもなるし、完全とか永遠とも解釈できる。線を引けば地面になるし、決別ともとれる。そんな感じさ。まぁわかりづらければ、普通の魔法陣よりもローコストに複雑なことができると受け取ってもらえればいい」
「それは……ヤバイね」
チートが過ぎる。例え話通りなら、中森さんの解釈次第でくっそ複雑な魔法陣と同等以上ものができてしまうわけだ。実際は魔力の消費とか色々ありそうだけど。
「アッハッハ。つい調子に乗りすぎて、色々な紋章を描いてテンプレートにしていたら目の色を変えた貴族に薬漬けにされそうになってしまってね。千早が持ってきた解毒薬がなければ貴族にいいようにされていただろうね」
「あぁ、そういえば。そんなこともあったような」
初めて小清水にあった時にフクちゃん謹製の解毒薬を渡したっけ。
「あの薬は君が千早に渡したと聞いている。だから私は感謝しているんだよ。どうだい? 私の能力は便利だろう? ハーレムに加える価値はあると思うがね」
中森さんがズイっと顔を寄せてくる。近くでみると中性的と感じた顔は確かに女性のものでドギマギしてしまうが、叶さんが体を入れてブロックしている。
「紬~。いい加減にしなさい!」
「おや残念、この場は引こう。プレゼンも終わったしね」
そう言って、魔法陣(この場合紋章になるのかね?)にサインのようなものを書き込むと、発光が収まった。そして革製の小さなハンドバックから30、40㎝ほどの幅の皮を渡してきた。
明らかに見かけより多くのもの入ってそうだ。多分アイテムボックスなんだろう。
あるいは【紋章士】の力かもしれない。
「それを王女様の元に設置して、君の魔力を流してくれ、そうすればこちらの紋章を辿って君の元へ召喚される。私のもう一つのジョブは【召喚士】だからね。こういうのは得意なんだよ」
「わかった。ちょうどいい時間だし。アナさんが許可したら、こいつを起動させるよ」
「あっ、ちょっと待って。これネリネスト様からの書簡。アナスタシア様に渡してくれれば、信用してもらえると思う」
というわけで、適当な布を頭に巻いてホテルの窓から飛び降り、屋根づたいにギルドを目指す。
こっちの方が人目に付かないからな。
さくっとギルドに着いて奥の部屋に行くと、皆帰っていたようで迎えてくれた。
トアだけはなんだかぐったりしている様子だ。
「おかえりなさい。ご無事でよかったです。ご主人様」
「おかえりだべ旦那様。いやぁ、疲れただよ~」
「マスター、おかえりー」
ファスはいつものように、丁寧にお辞儀してくれるが。……なんかいつもと感じが違うな。どこが違うんだろう?
フェイスカーテンをしていても普通に美人なのはいつも通り、まさか数時間会ってなかっただけで、ファスに会えないのが辛かったのか僕? それは流石に女々しすぎる。
「どうかしましたか?」
「いや、なんか雰囲気が違う様な……」
「フフーン、流石私だねっ」
「そりゃあ、そうでしょうよ。猫被り姫の薫陶だものねぇ」
いつの間に居たのかアナスタシア第三王女ことアナさんがメイド服で立っていた。
ヒットさんも一緒だ。
「頑張りました」
褒めて欲しいとでも言うようにファスが寄ってくる。どうやらファスの特訓の成果のようだ。何したのかはわからないが、人目が無ければこのまま頭をナデナデしたい。
とは言っても、まずは叶さんのことだよな。
それとなくトアの疲労を【吸傷】で受け入れながら(「大丈夫だべ」とか言われたけど)簡潔に闘技場から叶さん達と合流までの話をした。
ネリネスト王女の書簡を渡すと、ニンマリと笑顔を浮かべ。説明を求めて来たので、闘技場からホテルでの合流までの流れを簡潔に話した。
話し終えると、なにやら考えこんでブツブツ言ってる。
「――なるほどなるほど、さすが政治だけは優秀なネリ姉さまだね。ここで聖女の権威を使えるのはでかいし。マル姉をやり込める地盤固めには絶好……グフフフフ」
グフフとか言ってるよあのメイド王女様。
「それで、叶さん達を呼んでもいいかな?」
「もちろんだよ。呼んじゃって」
親指を立てて許可してくれた。この人本当に王族なのだろうか。
「カナエに合うのは久しぶりですね」
「オラ達わりと長い間砂漠を漂流してたからなぁ」
「サソリいっぱい食べた」
あの生活を思い出すと涙が出そうだ。
そんな辛い思い出はさて置いて、床に陣を敷いて魔力を流す。
陣が発光すると、叶さん達が床から這い出してきた。
「あの、真也。普通、壁に張るとかしてくれないと、どうにも恰好がつかないんだが……これではまるでゾンビだよ」
「横から入ったら、上に上がるのって変な感じ……」
「あー、ゴメン。何も考えなかった」
小清水にいたっては無言で睨み付けてきた。怖いから止めて。
日野さんは割とスタイリッシュに飛び出してきた。さすが【忍者】身軽だな。
「ファス、トア、それにフクちゃーん!! 久しぶりっ! それで、アナスタシア様は今どちらに?」
周囲を見渡して叶さんが聞いてくる。いや目の前にいるじゃん。闘技場で見ているはずだけど。
「叶ちゃん。このメイドの方だよ……」
日野さんが小清水の背中に隠れながら言うと。叶さんが無言でこっちを向く。
「……ねぇ、さっきのナルミさんもだけど。真也君ってメイドフェチなの?」
「誤解だ!!」
「なるほど、いい趣味じゃないか。ただ私には似合わないかな?」
「この、女の敵っ!」
その後自分がメイドの格好をさせたわけじゃないと、必死で周囲に説明する羽目になってしまった。
どちらかと言うと作者が好きなんですけどね。というわけで更新が遅れまくってすみませんでした。(土下座)
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