第百十五話:聖女一行と合流
この場で教会に目を付けられるのは不味いと、短い腕を組んで悩んでいるボルテスさんだったが、うん、実際はもっと簡単な話だと思う。
しかしどうやって説明しようか。
『実は、教会の聖女様に告白されたことがあります』
とか言った日には説明するのが死ぬほど面倒だ。というか恥ずかしい。
どうしようかと悩んでいると、コンコンとノックの音がする。
「何も注文してないんだがな」
訝しむボルテスさんがドアを開けるが、誰もいない。
微かに空気が動く感触。
フクちゃんが隠密を使っている時と同じだ。
「【隠密】系のスキルです。誰かいます!」
【拳骨】を強めて防御を強化する。ファスが居れば【精霊眼】で、トアが居れば嗅覚で、フクちゃんがいるなら糸で索敵できるが、あいにく僕にそんなスキルはない。
……言ってて悲しい、ホント僕って肉壁以外でパーティーで貢献できない奴なんだよなぁ。
「まったく気配を感じない! 高レベルの暗殺者かもしれないぞ……」
ナルミが低く構えつつ、スカートをめくり太ももから抜き出したナイフを構える。
なにそれエッチだな。
一瞬褐色の太ももに視線が持って行かれそうになるが鉄の(自称)自制心で我慢だ。今はそれどころじゃない。
集中する為に息をゆっくりと吐きだし、気配を探る。
「そこだッ!」
向かって右隅の天井に跳び上がり抜き手を打つ。
「わ、私ですぅ~。す、すみません」
不意に視界に出てきたのは、日野さんだった。
片足を壁に【ふんばり】片手を天井に【掴む】で固定して、ギリギリで止まる。
あ、危ない。マジで当てるとこだった。
「……あの、ち、近いです」
手刀もギリギリで踏みとどまった為、顔と顔の間が10㎝もなかった。
違う意味でも危ない!
「ごめん。すぐ離れます」
「いえ、私が悪いんで……キャッ」
おかしな姿勢で居たために、もつれた状態で落ちてしまう。庇おうとするが、日野さんは空中で猫のように体を捻り、これまた息が合わず僕が上に乗った状態で落ちてしまった。
体のあちこちから感じる柔らかな感触。
「ふぇ、す、すみません」
色んな意味で顔を真っ赤にしている日野さんから離れようとした瞬間、開けっ放しのドアから真っ白ローブを着た叶さんが飛び込んで来た。
「失礼します! あのマスクの奴隷についてお話を……」
「…………」←僕。
一瞬目が合う。
叶さんの口角が上がり、一般的には笑顔と呼ばれる表情を作るが、その額には青筋が浮かんでいる。
あまりに怖くて、声が出せない。なんという禍々しいオーラ、あのデーモン種の魔王に匹敵する威圧感に冷や汗が止まらない。
さらに最悪なことに、後ろから小清水が入ってくる。
「叶落ち着きなさい。まったく、あの男のことになると貴女は……」
「…………」←僕。
一瞬目が合う。
その後小清水は、僕の下にいる日野さんに目線を下げ無言で鯉口を切った。
死ぬ! その現実感に叶さんの恐怖から解き放たれ飛び退く。
「誤解だ。これは日野さんって知らなくて!」
「【斬閃】」
「【星涙光鎖】」
小清水による突撃のスキル。ほとんど踏み込みの無い動作で距離を詰め、横薙ぎが首筋を狙ってくる。
前に出て、抑えようとすると宙に固定された光の鎖が両手両足を拘束する。
「ウォオオオオッ!!」
前に出れないので、鎖のたるみを利用し全力で体を反って回避! 鼻の先を刃が通りすぎる。マジで殺す気か!!
「チッ」
すごい目で(豚を見るような目でした)睨み付けてきた小清水が流れるように二撃目を繰り出す。
【呪拳・鈍麻】を発動し、光の鎖を弱らせ、引き千切る。
ギリギリで刃先を真剣白刃取りすることでこうちゃく状態ができる。
命乞いするなら今しかねぇ!!
「話を聞いて、何でもするからッ!!」
「なら、死になさい!!」
小清水はどうあっても僕を殺したいようです。
「千早ちゃん、落ち着いて。違うの、本当に何にもないの!!」
そんな日野さんの悲鳴によって刃が収められるまで、闘技場なんて比較にならない恐怖を感じる羽目になった。
閑話休題。
とりあえず場を落ち着かせるために皆座った後、……ボルテスさんがお茶を注文しナルミが震える手でお茶を配った。
「いやぁ、ごめんね真也君。思わず全力で千早ちゃんを援護しちゃった」
テヘペロみたいな感じで謝る叶さんだけど、あの一瞬の殺意は忘れようがない。
今後絶対に怒らせないようにしよう。
「紛らわしいというか、実際組み伏せていたんだから、切られても仕方ないわよ。というかあのタイミングで完璧に防ぐなんて、本当に化物ね」
「ハッハッハ、叶の拘束術はハイオーガでも破られているのを見たことないよ。良いものを見たね」
そう言うのは、演劇部の子だったはずだ。隣のクラスなんで名前は覚えてないが学年問わず女子から人気のあったのは知っている。まぁイケメンって感じだしな。男子にもそれなりに人気があったとは思う。
「フン、そんなに見るなよ。照れるじゃないか」
「あぁ、えっとすみません」
なんか敬語で喋っちゃうな。
「なんで敬語なんだ? なんだ、私が誰かわからないのか。髪を切ったからかな? さっきの男子はすぐに気づいてたのだが……隣のクラスだし、まったく気づいてもらえないってのも悲しいな。中森 紬だ」
「顔はわかるんですけど、名前が出てこなくてすみません。吉井 真也です」
勘違いされてしまった。いや、知らないわけないじゃん。
それにしても、叶さんに小清水、それに中森さんか。日野さんも可愛い女子の話題になると名前が挙がっていたし、学年の中でもトップの美少女が集まっているわけだ。
叶さんは話したことはあるが、普段はヒエラルキー下の方のオタクなもんで、圧倒されてしまう。
「それで、真也君。さっそく質問してもいいかな?」
「あぁ、こっちもちょうど良かったと思う。この街の現状を……」
「そちらのメイドさんはまさか吉井君のメイドさんじゃないよね?」
笑顔での質問だが、やはり冷気を感じる。ここは誤解が無いようにしないとな、うん、言葉を慎重に選ぼう。
「そこの男の従者ですが?」
首を傾げてナルミが言う。
「へぇ、また増やしちゃったんだ」
よしっ、終わった。ファス、僕はここまでかもしれない。
心で遺言を呟いた後、必死で弁明する。
「違うから、小清水、抜刀しようとするな!」
「いやはや、まったく大したものだ。いっそ私も厄介になるのもありかな?」
「中森さん! お願いだから、そういう冗談はやめてくれ!」
「うん? 私は割と本気で検討しているが……」
「紬! ダメだよっ!?」
「いつのまに紬を、やはり女の敵ね」
「ち、千早ちゃん落ち着いて!?」
「おい、帰っていいか? 頭が痛くてな……」
「待ってボルテスさん置いて行かないでえええええええええ」
再び混乱が起きたが、日野さんがなんとかなだめてくれてなんとか収束。
とりあえず、ナルミは協力関係にあるだけだということで叶さんには納得してもらった。
そして、ようやく話し始めれると、僕の現状を話す。ついでにボルテスさんに僕が転移者であることも話す。ぶっちゃけこの状態から嘘なんてつきようがないしね。無反応で意外と落ち着いているのかと思ったら、今はソファーで寝込んでいます。うんごめんなさい。ナルミもその横で緊張で固まっている辺り、この世界における転移者とか聖女様って本当に凄いんだなぁ。
とりあえず、この街に蔓延している薬に追放された人達、その人達を助ける為に今はデルモに近づこうと潜入しようとしていることなんかを話した。僕が奴隷の振りをしている件では少し残念そうな顔しているような気がしたけど気のせいだよね?
「――というわけで、今はそれぞれ分かれて潜入しようとしているってわけです」
「うんうん。狙い通りだね。じゃあ私達の説明もするね。といっても、詳しく説明するほどでもないんだけど――」
叶さんも色々考えがあったようだが、大まかに言うと、貴族から逃げて教会に保護されている女子の転移者達が、教会に利用されないように独立して動くようにしたが、貴族を始め様々な(宙野とか宙野とか宙野とか)妨害にあって身動きがとりづらい現状だったようだ。
「とにかく、後ろ盾がないと何かと都合がつかなくて、バルさんと困っていたんだけど、そこに救いの手が来たってわけ」
「救いの手?」
「うん、このラポーネ国の第一王女ネリネスト・ラポーネ・ハルシオン様だよ。依頼を受けてね、教会や貴族から離れたい私達にどうしてもお願いがあるって、内密にお会いしたんだよね」
「それは……また凄い所から手が伸びたね」
「うんうん、ここからは秘密なんだけどね……その依頼というのは、この街に第三王女のアナスタシア様がいるらしいの、すごく優秀な方らしいんだけど、そのせいで第二王女から命を狙われてるんだって、ネリネスト様はそれに心を痛めていてどうにかして助けて欲しいって話なわけ。アナスタシア様となんとか連絡が取れればいいんだけど……」
ん? あぁしまった。そのこと話忘れていた。
「えと、ゴメン叶さん。言い忘れていた。実は僕等その第三王女からお願いされてギルドの隠密としてデルモの不正を暴くってのもあったんだよ」
「え?」
ドターン、後ろから大きな音が聞こえた。
呻き声をあげるボルテスさんの横で、ナルミが後ろにひっくり返っていた。
更新遅れてすみません(土下座
というわけで、死にかけた吉井君です。話が進まなくてすみません。次回は進めたいと思います。
ブックマーク&評価ありがとうございます。励みになります。
感想&ご指摘助かっています。本当にやる気がでます。ありがとうございます。






