第百十四話:銀髪メイドのわけ
一夜で世界が変わるということを言葉にすると何だっけ?
アメリカン・ドリーム? 墨俣一夜城?
何でもよいけど、今の状況もそう言ったものだろう。
ついさっきまで檻で運ばれ、魔物と上半身裸のマスクマンで戦っていたはずだ。
それが……。
「これが、正式な闘士としての証明書だ。まったく、やってくれたぜ」
右を見れば、フルーツの盛られた皿。左を見れば、積み上げられた金貨。
天井はシャンデリアのような光る硝子細工がぶら下げられ、床には塵一つ落ちておらず、僕は何かの毛皮のソファーに座らされている。
試合後、かなり長い時間神輿に担がれて闘技場中を回り、観客達に見世物にされたと思ったら馬車でこのホテルまで運ばれたってわけだ。これでもかってくらい成金趣味な部屋で正直かなり居心地が悪い。
ちなみに目の前にはクタクタになったボルテスさんがいる。
変装の為に付け髭と眼鏡をしているが、元が小人族なので酷くアンバランスだ。
「結局どうなったんですか?」
「大成功だよ。おかげ様でこっちはお前を売ってくれと貴族共に頼み込まれてる。デルモと近い貴族からも連絡が来ているぞ。上手く懐へ入りこめりゃいいがな。ただ……問題もあってな。それは後でいいとして、まずこっちの紹介だな」
高級そうな封蝋がされた手紙をめんどくさそうに机からどかして、机に置かれていたハンドベルを鳴らす。
微かに魔力を感じるな。怪訝そうな顔をしていると。
「【呼び出しのベル】だ。錬金機械だよ。例え音が聞こえなくても対になっている、もう一つのベルが鳴って使用人を呼び出せるって代物だ。こういう高い宿には良くあるから覚えておきな」
「へぇ、便利ですね」
皿からフルーツ(赤い果肉の柑橘系の果物だった)を食べつつ。30秒ほど待っていると、メイドが一人入って来た。
黒いロングスカートにフリルの無いエプロンを着けている。どっちかというと昔の看護婦のような恰好に見える。
背は165~170㎝の間くらい、かなり細身で肌は褐色。
髪の毛も瞳と同じ銀髪だが男性のように短く揃えている。服装が女性の者でなければ男性にも見えたかもしれない。
その薄い銀色の瞳には見覚えがあったが、何よりもその耳に注意が引かれた。
というかびっくりしてフルーツを落とす。
「失礼する。なんだその反応は?」
フンッ、と鼻を鳴らすその微かにしゃがれた声は間違いなく闘技場で同じ檻に居た。
銀眼の男、いや男のような恰好の女性だったわけだ。しかしいくらなんでも女性を男性に間違うか普通、体格から違う気がする。よっぽど僕の眼が節穴だったのかな。
「いや、そりゃ、驚くでしょ。女性だったんですね。というかその恰好は……」
「憐れむような目で見るな! 似合わないことはわかっている。そこの小人族にその恰好の方が都合が良いと言われて仕方なくだ! 本来ならこの耳を晒すことも嫌なんだ」
そう言って顔を逸らしながら、その尖った耳を触る。いやいや似合ってますよ。
闘技場ではターバンを巻いていてわからなかったが、間違いなくエルフの特徴的な耳だ。
この場合はダークエルフとか言うのだろうか?
「嫌なら、隠しててもいいですけど……。えと、どこから質問すればよいのか」
「俺が説明するよ。嬢ちゃんに任せると長くなりそうだ。ヨシイが観客席を回っている間に一通り話は聞いておいた」
ボルテスさんがため息を付きながら、話に割ってきた。
「このエルフの嬢ちゃんは、旅の途中で砂船で奴隷狩りに遭って唸るほどの白金貨でこの街の貴族に買われる予定だったんだとよ。隙を見て逃げ出したのは良いが、ヘマをして変装した状態で捕まってそこらの奴隷と一緒に檻に入れられたらしい。そんで聞けば、嬢ちゃんはこの街でどうしても手に入れたいもんがあるんだとよ」
そこまでボルテスさんが言ったところで銀髪さんがこっちを見て、口を開いた。
「私の家の宝なんだ、お人好しの父が盗まれてしまって……何代も受け継いだ大事なもので、それが無いと私の家は取り潰されてしまう」
「つまりその宝を取り戻すことを協力して欲しいってことですか?」
うーん、協力するのはやぶさかではないが、今はデルモのこともある。正直余裕はない。
ボルテスさんだってその辺りは良くわかっていそうだものだけど。
「お前の考えてることはわかってるよ。おい嬢ちゃん見せてやりな」
目配せを受けて銀髪さんが、魔力を練りあげる。
「【変容】」
短くそうつぶやくと、一瞬姿が揺らぎ褐色の肌の男性がその場にいた。
銀髪さんの面影はあるが、完全に別人に見える。
驚いていると、ボルテスさんが膝を打って笑う。
「『シェイプシフター』超レアスキルだ。この能力があるから逃げ出せたってわけだ。そんでこの嬢ちゃんが欲しがっている宝だが、内容は教えてくれないが、エルフの秘宝ともいえる代物らしい。その話が本当なら……」
「なるほど、この街で一番の金持ちが持ってる可能性が高いわけですね」
「そういうわけだ、当面はこの能力を使ってヨシイの付き人になってもらう。嬢ちゃんのジョブは【狩人】らしいから、潜入も得意なはずだ。嬢ちゃんには家宝を探しつつ、薬の製造や金の流れを調べてもらう」
「だてにエルフの身一つで旅してないからな。潜入は得意だ」
胸を張って、メイド服の銀髪さんが言う。
「いや捕まりましたよね」
「グッ、あれは……路銀が尽きて……空腹で【変容】が解けたんだ……」
なんかブツブツ言い始めたぞ。
「とにかく、闘技場での約束は期間限定だということだ」
「約束?」
「わ、私が従者になるというヤツだ。忘れたとは言わせんぞ」
恥ずかしいのか顔を赤くして言われた。
忘れてたや。まぁいいか。勝手に奴隷が増えたってなると、ファス達に怒られそうだし、期間限定の方がこっちとしても面倒がなくてよい。
「わかりました。よろしくお願いします。僕の名前はヨシイ シンヤと言います」
「ナルミ イワクラだ」
えっ? 日本人みたいな名前だな。
「何を惚けた顔している?」
「いや、似た名前だと思いまして」
「フン、東方民族なら珍しくもないだろう。イワクラの家は古くは東から移住したエルフの一族だ」
そうなの? 異世界でアラビアな世界観で凄い浮いている感じだ。
「さて、嬢ちゃんのことはこれで良いとして。問題の方だ」
深刻そうな顔でボルテスさんが、一際綺麗な開封済みの手紙を取り出す。
そういや、そんな話もあったな。
「どんな問題なんですか?」
「いや、それがな、なんでこんなことになったんだか俺にもわからないんだよ」
手紙を受け取り、文字に意識を向けると転移者のチートで何となく意味合いが頭に流れてくる。
その内容は……。
『白星教会の聖女として、貴殿の奴隷であるマスクマンを是非購入させていただきたい。金額に糸目はつけません。火急的に、すみやかに、今すぐ、絶対に、私にマスクマンを渡してください。渡さない場合は強硬手段をとる場合があります』
というような内容が流れてきた。途中から声まで聞こえてきそうだったな。
「なんで闘技場の闘士なんて聖女様が欲しがってるのか、ヨシイ、お前わかるか?」
「……えと、とりあえず、ごめんなさい」
さらにややこしくなった話に思わず頭を抱えるのだった。
というわけで、吉井君は叶さんに買われてしまうのか?
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