第百十一話:それぞれの修行
結局のところ、トアが用意した蠍料理は手持ちの調味料と油をふんだんに使うことでそれなりに食べられるものにまで高められていた。普通に食べるとかなり不味い素材をあそこまで調理してしまうあたりトアの執念を感じる。
宴会にはボルテスさんも現れ、僕らが薬(呪いだったけど)の副作用を消したことを知ると、呆れた顔をした後に感謝してくれた。
マイセルやシア、他の子供達も食事を楽しんでいた。もっと良い食材でトアの本気の料理を食べさせてあげたいもんだ。
地下で時間を使いすぎたので、マイセル達に挨拶をして地上へ戻る。
砂の流れを上り、ゾンビのように地面から這い出ると冒険者ギルドへ戻った。
狭い入口を通り、扉の横にある部屋で砂を落とすともう一度ギルドの様子を観察する。
確かに活気はあるが、切羽つまったように依頼を受ける冒険者がいるように感じる。
「なるほど、こうしてみてみると。確かに違和感あるな。ファス、カルドウスの呪いは感じるか?」
「……この距離では感じませんね。その薬の現物を見れば何かわかるかもしれませんが……」
「とりあえず、ヒットさんの所にいくだ。いろいろあって混乱しそうだべ」
「マスター、後ろー」
足音と殺気。振り返ると眼前に靴の裏側が……。
「あぶねええええええええええええ」
横面の捌きではたき落とす。チラっと白いモノが見えたぞ。
「チッ、流石に体術じゃあだめですか」
スカートの裾を直しながら、メイド姿のアナスタシア姫さんがこちらに向きなおった。
「何するんですか!?」
「大丈夫ですかご主人様?」
「何してるのってこっちのセリフですからね!! なんであんなことになってるんですか!? さっさと奥に行きますよ!!」
「ちょ、引っ張らないで」
というわけで、アナ姫に引きずられギルドの奥へ入るとヒットさんがグラスで酒を飲みながら出迎えてくれた。
「あらぁん、お帰り。ずいぶん騒ぎになってるみたいね」
もしかしなくてもカジノの件だろう。
「すみません。いろいろありまして、後いくつか確認したいことができました」
「そう、やっぱり先に街を見て正解ね。ささ、皆座って頂戴」
促されるままに、アナさんも一緒に部屋に座り、カジノでの流れと地下の様子を話した。
薬についても悩んだが【吸呪】によって治療が可能だったと説明すると、ヒットさんとアナさんは顔を見合わせ少し考え込んでいた。
「カジノのことは知っていたけど、薬が呪いの性質を持っているってのは初めて知ったわ……どうりでねぇ」
「これは、かなり大事な情報かもね。ギルドや貴族の間でもデルモの薬は広がっていてどうにかしたかったの。お手柄ね。流石わたしの直属!! だけど信頼を得るためとは言えバッジを割ったのはやりすぎだよ」
ニコニコと笑顔だが、アナさんの目はいっさい笑っていない。うん怖い。
「割ったのはオラだべ。あのバッジを使ってデルモの懐へ潜入する予定だったんだか?」
「そうそう、でも流石に目立ちすぎてそっちの線は難しいね。というか改めて聞くけどヨシイ君達は協力してくれるってことでいいの?」
メイド服で足を組み、じっとこっちを見てくる。つまりここで協力してアナスタシア姫につき、この街を支配している、サルコ・デルモを失脚させる手つだいをするかどうかってことだよな。
「勇者に狙われていますし、お尋ねものの件が片付くなら協力してもかまいません。それに……」
「それに?」
「地下の人のことが気に入りました。この街の正しい姿を見てみたいです」
パンっとアナさんが手を叩き、ヒットさんが穏やかに笑った。ファス達も頷いている。
「ありがとう! それが決まったのなら、さっそく動くわよ」
「それはかまいませんが、僕らは具体的にどう動けばいいですかね?」
当初の予定では商人として街の中枢に潜り込む予定だったのだろうけど、それはもう難しそうだ。
まぁ僕はボルテスさんの言う拳闘士としての潜入をするつもりだけど。
潜入してなにするのかってのもあるよな。
「それについてはあたしが説明するわ、実はオババからあなたたちのことを聞いて腹案があったのよねぇん」
ヒットさんが前に出てくる。
そしてビシッとトアを指さした。
「うん? オラだべか?」
「トアちゃんは、デルモがオーナーのホテルの厨房に入ってもらうわ。一流の厨房の中はある意味冒険者よりも実力主義よ、料理が旨ければ指名される。一流といわれる料理人と戦いデルモの目に留まるほどの成果をあげてもらうわ」
「お、オラがか? まってけろ、オラは宿屋や酒屋の料理くらいしか作れねぇだ。そんな貴族様の食べるもんなんて作れねぇべ」
「なら、ここで学びなさい。トアちゃん。よく聞きなさい。この砂漠の街には近隣から最高の食材が湯水のように運ばれてくるわ」
「だから、そんなもん調理したことないべ」
「そうね。いまだ見たことない食材に、美食に浸りきった相手だからこそ、料理人としてこれ以上の修行場はないわ。これはラーバお姉さまからの手紙に書いてあったことよ」
「女将がか?」
「えぇ、トアちゃんは最高の環境を知って全力をぶつける必要があると」
僕自身その言葉には思うことがあった。障害が残るレベルのケガを負った状態で、決して最高とは言えない食材を使い宿を人気店にまで押し上げた彼女はある意味ではその全力を発揮する環境からは縁遠かった。
「トア、いいチャンスだと思う。絶対大丈夫だ。トアがすごい料理人ってことは僕らが一番わかってる」
「そうです。それに、もっとおいしい料理を学んで、私達に食べさせてください」
「楽しみにしてるねー」
「適当に言ってくれるだなぁ。……わかっただ。ギルマス、その話受けるだ」
トアは強く頷き、ヒットさんと握手した。
そして次にヒットさんはファスを指さした。
「そして、ファスちゃん」
「はい、私ですね」
「あなたにも、ある意味では課題をこなしてもらうわ。明日からアナ姫様がみっちり修行するわ」
「修行ですか、魔術の? それとも体術でしょうか?」
ヒットさんは指を振って否定した。
「違うわ、この修行はオババからの依頼でもあるの。貴女が新しく身に着ける技術があるの、厳しい修行になると思うけど、これはヨシイちゃんと一緒にいるうえで必要になることよ」
「ならば、迷うことはありません。ご主人様と一緒にいるために必要ならどんな修行でも受けます」
「いやいや、内容が気になるんだけど」
怪我とかするようなことならさせないぞ。
「危ないことはしないわ。ねぇ 姫様?」
「うん、ただ。秘密にしたほうがきっと面白いってだけ。ヨシイもびっくりするだろうしね」
「危なくないならいいけど」
「頑張ります! ご主人様!」
ファスはなんかやる気らしい。
「ボクは、マスターの、装備作るねー」
フクちゃんはキルトさんの所で織機の使い方を学ぶと同時に装備を作ってくれるらしい。
「地下の職人達なら地上の職人たちよりしっかりしたものができそうね」
「それに関しては助かるね、必要な素材は、カルノーの所からもらってきたものがあるから使ってね」
「確か張本が世話になっているこの街の貴族でしたっけ」
そういや、負けたら『なんでもしてやる』って言った部分についてアナさんが話をつけたんだっけ。
「そうそう、ムフフ、かなり上等な素材を根こそぎ持ってきたからね。使ってくれていいよ」
「わーい」
うんうん、あの織機は手入れも行き届いていたし、ボルテスさんも腕は確かなようだ。
これは期待できそうだ。
こうして、この街での僕らのやることが決まったのだった。
というわけで、やっと話が進みました。ファスの修行内容はなんなのでしょう。
次回予告:吉井君闘技場へ行く。
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