第百九話:アラクネと機織り
詳しいことは明日話すと言われ、部屋を追い出される僕達。
他にやることも思いつかないので、とりあえず冒険者ギルドに戻ることにした。
「そういや、ここってどうやって戻るんだろ?」
「少々お待ちください。砂の流れの中に上に行く流れもあるようです」
落りるのはわかるけど、上がる流れもあるのか。
「じゃあ、そこを通って帰るか」
「待つだ旦那様。ここはここで、色々物が売ってるみたいだべ。どうせなら見て行かねぇか?」
言われて、周囲をよく見てみると、穴倉の端にバザーのように地べたに品物が並べられている箇所があった。
「おっ、いいな。というかよく見えたなトア」
「うんにゃ、オラはファスみたいに目は良くねぇべ。ただ、匂いがしただ」
「匂い? 何の?」
「あぶらの、においするねー」
フクちゃんが答える。油の匂い?
近寄ってみてみると、どうやら食べ物も売っているようだ。
なにか黒い団子が積み上げられている。
「おや、見ない顔だね」
地面に直接鉄鍋を置いて次々と黒い団子を揚げていくおばさん。
「これはなんでしょうか?」
「これかい? ほれっ」
おばさんが手に持っていた、木の箸でまだ揚げてない団子をつつくと団子が開いた。
「ダンゴムシじゃん」
「マルムカデの幼虫だべな」
「け、結構大きいですけど、これで幼虫なのですか?」
「じゅるり……」
掌より少し小さいくらいの大きなダンゴムシをそのまま油で揚げるというヤバイ料理だった。
匂いは悪くないけど。フクちゃんは食べる気満々のようだ。
試しに、一つずつ買って食べてみる。なんか僕も慣れて来たもんだな。
サクッとした食感で中にはプリっとしたみずっけの多いエビの身みたいな肉が入っている。
味付けもなにもないが、それなりに食べれないこともない。塩味があれば普通に美味しいと思う。
「モグモグ、おいひいです」
「主張しない感じだべな、調理しがいがある食材だべ」
「おいしい!!」
皆はそれなりに好評のようだ。特にフクちゃんはかなり気にいった様子だったので、おかわりを買ってあげる。虫系のものが好きなのだろうか?
「こんなものをありがたがるなんて、苦労してるんだねぇ。サービスしとくよ……!?ちょっとそこのお嬢ちゃん! あんたその服は……」
「ありがとー、モグモグモグモグ」
次々と巨大ダンゴムシのから揚げを食べていくフクちゃんの服 (ややこしい)の端をおばさんが掴んでいる。どうしたんだ?
「あんた、この服をどこで手に入れたんだい!?」
うわぁ凄い食いついてきた。
「フク、ボクはフクだよ」
「いや、フクちゃん。着ている方の服だ」
「あたしゃ、ここに来る前は裁縫師をしてたんだよ。こんな上等の糸は見たことないよ。魔物の素材だね。こう見えて、一級の仕事だってなんどもしてきたんだ。だけどこんな素材はみたことないよ、込められた魔力の質があまりにも高すぎる。ここまで高い魔力を持った素材は見たことない、しかも加工も完璧じゃないか、あんたら何者だい?」
フクちゃんの服はフクちゃん自身が出した糸で作られているからな、加工というか編んだのもフクちゃんだし。
「えっと、この服の素材が上等なのは知っていたのですが、加工も大変なんですか?」
試しに聞いていみる。
「魔力を帯びた素材の加工は、大変なんだよ。だから大体は魔力を抜いてから加工してその後に魔石で魔力を通すんだよ。これは素材をそのまま使ったみたいだね。縫製は甘いけど、一体どうやって作ったのか見当もつかないねぇ、女神様のお召し物だって言われても驚かないよ」
なんか興味わいてきたな。ちょっとフクちゃんを呼び出して、おばさんに見えないように糸を一束出してもらう。フクちゃんは指先からシュルシュルと糸を出してあっという間に束にしてまとめた。
「魔王種のアラクネの糸です。ご覧になりますか?」
実際はフクちゃんの糸だけど。
「ま、魔王種!! しかもアラクネ!! あ、あんたら、一体?」
「まぁ色々ありまして」
おばさんは揚げダンゴムシをひっくり返して、糸を観察する。
「ちょ、ちょっとあんたらついておいで」
言われるがままについて行くと、さっきのボルテスさんの部屋より広く奥行きがある横穴に通される。
通路には横たわった小人族や子供が何人かおり、みな調子が悪そうだ。
おばさんは、ズンズンと進んでいく。
「あの、彼等は?」
「この子らは、サルコ・デルモが作った薬の実験台にされた挙句捨てられた子達さ、生きてりゃだいたいこの穴倉に落とされるからね。逃げてきた子もまとめて面倒みてんのさ。【解毒】の毛布を作ってあげれんのは私くらいだからね」
話を聞くだけではいまいち現実感が無かったが、こうして苦しんでいる人を見ると、やるせない気持ちが湧いてくる。
「寝具にエンチャントを着けれる職人はそうはいないって聞くだ。おばさん腕がいいんだべな」
「確かに、布から魔力を感じます」
「……腕なんてよくないよ。効果が無いんだからね」
「効果がない?」
「マスター、あいつの匂いがする」
フクちゃんが僕の手を掴みながらそう言ってくる。
ファスも少し考え込んで、僕に耳打ちをした。
「あの悪魔と似た魔力を感じます。薬というよりは呪いに近いのかもしれません」
「なるほど、それなら僕の出番か」
呪いという呪いを受けまくっている【吸呪】の久しぶりの出番だ。しかしなんであの悪魔の呪いがこんなところに出てるんだ。
「何話してるんだい。ついたよ、これだけは必死に守り通したんだ」
横穴の奥に隠すように置かれているそれは機織り機だった。かなり立派なもので、高さは2m、横幅は3mほどありそうだ。木製でピアノの中身のように複雑に部品が組み合わさっている。
織機だけなく、糸車やそのほかにも縫製の為の鋏に針、まるで小さな工房がそこにあった。
「かっけえええ」
ランタンの明かりも相まって、美しい光景だ。直接見たことはないけど職人の職場って感じ。
「魔力は一切感じませんね」
「その通りさ、せっかく魔力抜きをした素材に変なクセがついたら台無しだからね、今じゃあ蒸気の織り機もあるけど、質の良いものを作りたいなら今も昔もこれに限るよ。それでお願いだよ。職人の血が騒いじゃってね、さっきの糸を織りたいんだよ。普段は砂蚕から糸をとってたんだけどね」
「わぁあ」
フクちゃんが蝋燭に引き寄せられるように、近づいていく。
「どうしたフクちゃん?」
「マスター、ボク、これやりたい。これなら作れる」
「ちょっと、勝手に触られると困るよ!」
そりゃそうだ、これだけ複雑な作りの機材だ簡単に壊れそうだ。
止めようとするが、フクちゃんは唐突に糸を吐き出した。
「おばさん、これ、ボクの糸、教えて、人間の技」
ランランと紅い目を光らせ、満面の笑みで蜘蛛の女王はそう命じた
新年あけましておめでとうございます。
パソコン壊れたり、骨折したりといろいろありましたが、今年もよろしくおねがいします。
今回はちょっと書きすぎたので二話に分けました。明日のうちにもう一話投稿します。
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