第百八話:金と薬
「ギ、ギルドの隠密だって!?」
小人族の男が声を上げる。いや、僕もよくわかっていない。
「そうだべ、オラ達はこの街の正規のギルドから派遣されているべ。バッジを割ったのは貴族についてないっていう証拠だ」
正規? ということは非正規のギルドもあるってことか?
トアはカジノで情報を集めていたらしいし、何か知っているっぽいな。
「とにかく、ここじゃあ落ち着いて話すこともできないべ」
「それもそうだな。えっと、僕はヨシイ シンヤと言います。もしかしたら力になれるかも知れません。どこか落ち着いた場所で、お話を聞かせてくれないでしょうか?」
「……どうせ、俺には何にも残っちゃいないんだ。いいぜ、ついて来いよ。何があったか教えてやる。俺の名前はボルテスだ」
ボルテスと名乗った小人族の男はチョビ髭を引っ張りながら、スタスタと歩き始めた。
その後ろを歩きながら、トアに説明をお願いすると、移動しながら念話で情報を共有してくれた。
『ごめんだべ旦那様。勝手なことしちまったな』
『それに関しては大丈夫。ただ状況がさっぱりわからないから、今わかっていることを教えて欲しい』
『そうですね。私とご主人様はほとんど情報を集められなかったですから』
まぁ普通に遊んでいたしな。というかほとんどデートだったような気がする。
……うん、後でトアとフクちゃんには謝ろう。
『この街で仲卸をやっている商人から聞いた話だべ。この街は――』
様々な色のネオンのような電飾とごった返すような人の波を進みながら、トアからの話を聞く。
一応トアとフクちゃんが周囲の警戒をしてくれているので、人混みに紛れて奇襲されることはないだろう。
トアから聞いた話は、この街の現状に対するものだった。
この街、グランドマロは元々は今のような歓楽街ではなく、砂河が合流し幾層ものダンジョンの上にできた街として、冒険者やダンジョンからとれる魔石、あるいは魔石を加工する彫金師達の街だったらしい。
特にこの街は優秀な彫金師達が集まった為、周辺諸国からも大いに商人や冒険者が訪れ、発展したそうだ。
風向きが変わったのは、先代の領主が病死してからだ。不幸なことに領主の子供も相次いで病や事故でなくなってしまい。後を継いだのが、サルコ・デルモという男だそうだ。
サルコ・デルモがグランドマロの領主になって初めに行ったことは、税金の引き上げとそれに伴う権力の集中だった。
物を売ることはもちろん、物を買うこと、作ることまで税金がかかるようになり、その額は増えていった。
そしてその金を以って次々と彫金師や鍛冶師などの生産職の職人達を雇い、終いにはギルドごと彼の物としたそうだ。
流石に冒険者ギルドまでは手を出せていないが、その冒険者達が装備を買うために落とす金はデルモへと落ちていく。デルモは集まった金を使ってそれまでの冒険者が装備に使うような品物から貴族達が好むような物を作らせ、さらには次々にカジノや娼館を建てていく。
かつては冒険と物作りで成り立っていた街はあっという間に歓楽街へと姿を変えていった。
そうしてデルモはこの街で絶対の地位を手に入れていった。不思議なのはデルモがこの街の領主になってからすでに20年は経っているというのに彼は一向に年を取らず、今だに夜になると美女を何人も連れて、街を練り歩き、贅の限りを尽くしているという。
『なんだかそのデルモって人が魔物だった、なんてオチな気がするな』
『だべな、ただ本人は砂漠の精霊の加護だとか吹聴しているらしいだ』
『要は、そのデルモという男が、この街を支配しているわけですね。しかし、それでどのような問題が実際に起きているのでしょうか?』
『それなんだけんどもな……』
と、トアが説明しようとした所でボルテスさんが歩みを止めた。
今だ周囲には良い身なりの人が多く、話をするような場所ではなさそうだけど。
「俺の寝床はこっからの方が近いんだ」
そう言って、建物の間の路地へ入って行く。
すると、妙に開けた場所に出た、建物と建物の間にできた不思議な空間だ。
大通りからはそう遠くなく、喧噪がはっきりと聞こえる距離だ。
目の前には小さな流砂が渦巻いており、何人かの人間がそこにゴミを投げ入れていた。
「ゴミ捨て場みたいだな」
「……そうだな、その通りだ。ゴミ捨て場さ」
ボルテスさんはそう吐き捨てた後に、流砂に飛び込んだ。
「下に空間があり繋がっているようです。砂が魔力を含んでいるので見通しは悪いですが……100mほど下に人が何百人もいるようです」
ファスが目を凝らして流砂の下を見る。街の下はダンジョンがあるはずだけど……。
「とにかく行ってみるか」
「了解です」
「だべな」
「うーん?」
フクちゃんが流砂を見ながら首を捻っている。
「どうしたんだフクちゃん」
「えーとね、なんだか、へん」
「何が変なんだ?」
「わかんない、考える」
フクちゃんの違和感は気になるが、今はボルテスさんについていこう。
流砂に飛び込むと、身体が沈み、ウォータースライダーに流されるように滑り落ちていく。
ちょっと楽しい。
「うぉおおお、凄いな、意外と息は吸えるみたいだ」
「砂と一緒にゴミがあるのが嫌ですね」
「し、尻尾が擦れるだアアアアアア」
「たーのしー」
ワーキャー言いながら、降りた先には、ごみ溜めができていた。
汚いのでファスは僕が抱えて、ジャンプする。トアとフクちゃんは自分でゴミ溜めを跳び越えていた。
「ほい、着地」
「あ、ありがとうございます」
「イチチ、次からは尻尾用に布を巻いとくだ」
「マスター、もっかい、やりたい」
「遊びじゃないからな、フクちゃん」
改めて周囲を見渡すと、人工の洞窟のような場所に、ゴチャゴチャと人がいた。
大通りで見た華やかな恰好をした人間とは違い、皆布を巻いたような簡素な服装で、一様に表情が曇っている。
天井は砂河のように砂が流動しているが、側面は普通の岩のような壁で横穴が幾つも開いており、そこで生活しているようだ。壁中に足場があり、高い場所にも横穴が彫られている。
住人の中には子供もおり、上から落ちてくるゴミを漁っていた。
「……ここは」
「ここが俺達の寝床さ、上に住めるのは金を持ってくる奴らだけだ」
先に降りていたボルテスさんが、砂を払いながら歩いてきた。
そのまま一つの横穴へ案内される。中はちょっとしたアパートの一室のようになっており、ランタンが下げられ、廃材を利用した棚には工具のようなものが所狭しと置かれていた。
「本当は、一部屋に数人入るのが決まりなんだがな。皆の生活に必要なものをゴミから作っているうちに一部屋空けてくれたんだ。汚い場所だが座ってくれ」
促されるままに座る。床の上には何かの動物の皮が敷かれているが、ヒンヤリとしていた。
「さて、何を話せばよかったんだか」
そう言いながら、ボルテスさんは誰かの吸い残しの紙巻煙草に火を付け紫煙を吐きだした。
「彫金師ギルドであなたが言っていたことについてです。『工房を返せ』と」
「……この街のことはどこまで知っている?」
「デルモという男がこの街を支配しているということだけです」
とりあえず、トアが道中で説明してくれたところまでボルテスさんに話す。
「そうか、そこまで知ってんなら、まぁすぐに済む話さ。昔はよかった。ガキだろうが大人だろうが、ダンジョンへ入って金を儲けていた。俺達職人はしのぎを削って、技を磨いて少しでも良いものを作っては売っていた。誰もが金を手にするチャンスがあったんだ。この街は夢と希望に溢れていた。それがだ、デルモの野郎が領主になったとたんに、全部が変わっちまった。俺達がどんな仕事をしようが関係ねぇ、税金だとかなんだとかで上前を全部跳ねられる。冒険者がどれだけ質の良い宝石や鉱石を持ってこようが、デルモの息のかかった職人にしか材料はいかねぇ、冒険者達だってそうだ。初めは甘い言葉で誘惑され、今やこの街の冒険者のほとんどはカジノや女に金を吸いとられて借金持ちばっかだ、逃げ出すこともできず。金を返すことばかり考えて、ダンジョンへ向かっていく」
そこまで話すと、ボルテスさんはシケモクを吸い、握りつぶした。
「そうして、ついには金も払えず、返す当てもなくなった人間が集まったのがこの穴倉だ。この街にはかつての採掘跡を利用した穴倉がいくつもある。ここには、デルモに逆らった奴らや怪我で追いやられた冒険者、そんな奴らが住んでいる。地価が高くてな、上に住めるようなやつらはここ数年でいなくなったよ。上にいるのは金を落とす貴族か、商人、デルモの靴を舐められるやつしかいない。そんなんでも俺は自分が立てた工房を守ろうと必死に働いたんだがな、数ケ月前に転移者様がこの街に貴族共と一緒に来てから、どうしようもなくなっちまった」
「転移者? ダンジョンを攻略したとか?」
カジノで出会った転移者は張本で【煽動】のスキル持ち、パーティーならタンクのポジションだろうか?
「【煽動者】のジョブ持ちの転移者様だよ。ダンジョンから魔物をつり出して、まとめて罠に嵌めりゃ、あっという間に一網打尽だ。後は魔物がいなくなった浅い層の儲けをデルモの息がかかった冒険者や私兵がかっさらうのさ。素材を独占されりゃ俺達はデルモの言うことを聞くことしかできない。逆らったらこの様だ、めでたく俺は工房を奪われたってわけさ」
「あー、なるほど」
「【煽動】は人間だけじゃなくて、魔物にも有効なのですか。確かに、それなら有用なスキルです」
ファスが頷く。まぁ【威圧】の上位互換的な感じはする。
「結果、この街では職人はほとんど働けなくなっちまった。デルモの野郎はこの街をカジノと宝石、魔石だけの街にするつもりだ。元から住んでいた連中は穴倉送り、冒険者はカジノで借金まみれにされた挙句、最近じゃあおかしな薬まで出回って完全に骨抜きだ」
「薬?」
「あぁ、鼻から吸うもので、一吸いすりゃ。気持ちよくなる代物だ。この街が国からの目が届きにくいからってやりたい放題さ。この街はもう終わりだ」
金と薬、そして転移者のチートで牛耳っているわけだ。
しかし、転移者は張本だけなのだろうか?
そのことを聞いてみる。
「ちなみに【煽動者】以外に転移者はいるんですかね」
「あぁ【魔剣士】が二名【上級騎士】が4・5名ほどか。どいつもこいつも、カジノで遊んでいるよ。近々他の転移者もくるって噂だな。何が、異世界からの救世主だ。クソどもが」
「…………」
「マスター、よしよし」
フクちゃんに慰められる。いや、まぁ、転移者に関しては僕も思うことがあるんだけどさ。
「オラが聞いた話とは少し違うけんど、デルモってのが何がしたいのかわからねぇが、このままほおっておくと間違いなくこの街は潰れるべ。正しくまつりごとができるところに治めてもらわねぇとな」
そこで、アナさんってわけか。しかし、僕等に何ができるのだろうか?
「旦那様、だからこそ、オラ達がこの街にいるんだべ。ようはデルモの行っている、不正の証拠を集めて、それを材料にアナ姫さんがこの街を取り返せるようにすればいいだ」
「なんとなく、それはわかるんだけど、具体的にどうすればいいんだろう?」
「まぁ何とかして潜入するしかねぇだな。多分あのバッジはその為のものだべ、ただカジノで目立ちすぎたから、商人としては潜入は難しいべな」
「あぁ、そういうわけだったのか。アナさんには悪いことしたな……」
次にどうするかは一旦ギルドへ戻って、ヒットさんやアナさんも交えて相談するか。
「……おい、まて。お前等本当にデルモを潰してくれるのか?」
ボルテスさんがあっけにとられたように質問をしてきた。
「どうなるかは、わかりませんが、この街をどうにかすれば僕達にも益があるんです」
具体的にはパトロンがつくし、僕に掛けられている賞金がなんとかなるかもしれない。
「そうか、それなら俺も手を貸してやる。潜入したいんだろ? おいヨシイとかいったな。お前、腕に自信はあるのか? もしあるなら……闘技場で拳闘士になれ」
……よくわからないけど、面白そうな単語が飛びだしてきたぞ。
更新遅れてすみません。結局話が進みませんでした。次回から動いていくと思います。
ブックマーク&評価ありがとうございます。励みになります。
感想&ご指摘ありがとうございます。今回たくさんの誤字報告をしてくださった方がおられます。本当にありがとうございました。






