第百一話:ここで強くなれッ!!
僕等にかけられた懸賞金や貴族からの狙いを解決するために、アナスタシア姫(マジでこんな名前あるんだなぁ)の話を受けたものの多分言葉以上の意図とか色々あるんだろうなぁ。
まぁ、ナノウさんが手配してくれた話だし、何より面白そうだ。
「それで、僕等はどうすればいいですかね? この街にも来たばっかりで何がなんだかわからないんですけど」
懐かしの手甲をしまいながらそう尋ねると、アナスタシア姫(面倒なのでアナさんでいいか)とこの街のギルマスであるヒットさんが顔を見合わせた後笑顔でこっちを向いた。
「そうねぇ、やることはたくさんあるけど……まずは遊びましょ♪」
「遊ぶ?」
僕等も顔を見合わせる。それなりに追い詰められているはずの女王からの指令を出されると思っていたのだが、何を悠長なことを言っているのだろうか?
「ふぅん、いいんでねぇか」
トアがすぐに答えた。えぇ、トアさんまさかの賛成ですか。
「なるほど、そういうことですか」
トアの反応を見たファスがなんか納得したように首肯した。
待って、僕は全然わからないぞ。
(ドユコト?)
フクちゃんからの念話が僕等のパーティーだけに響く、そうだよな、わかんないよなフクちゃん。
「聞けばここは歓楽の街だって話だべ、つまりこの街を知るためには遊ぶのが一番ってことだな」
「交易の街ではトアが土地勘を持っていましたが、この街のことは私達の誰も知りません。何をするにもまずは知ることが肝要です」
……なるほど、そりゃそうか。
来たばかりの僕達がやることはまずは、この街のことを実際に見なきゃ始まんないよな。
よし、ここはわかっていた振りをしてよう。
「そゆこと、ということで、軍資金を渡すわね」
そう言ってヒットさんが、ドンッと机に袋を置く。おかれた袋の口からは金貨がのぞいていた。
いやいや、これ何百枚あるんだよ。
「言っとくけど、これは正当な、あなた達のお金よ。白金貨でもよかったけど遊ぶなら金貨の方が便利でしょ」
「はぁ、僕等の金?」
こんな大金貰うようなことに覚えはないぞ。まさか姫様からか?
と思って横にいる姫様を見るけど、首を振られる。
「言っとくけど、今の私ってば自分のお金にすら手を付けれない状況だからね。当分金銭的な支援は無理だから」
と言われた。じゃあ一体何の金?
すると、ファスがポンッと手を鳴らし、トアが何かに気付いた顔をする。
不味い、また僕だけわからないパターンか、ちょっと待って。フ、フクちゃんまた聴いてくれない?
(イッパイ、タオシタカラナー)
フクちゃんも答えに気付いたらしい。……いっぱい倒した?
「呆れたわ。ヨシイちゃん、貴方スタンピードで自分が何したか忘れたの? 私が聞いているだけでも、数十の魔物の討伐、戦線の維持、一団の殿、ユニークモンスターの討伐、魔王種の討伐は討伐部位が無いから証明できてないけど、そもそも、そこのお嬢ちゃん二人と報告にある従魔ちゃんの分も含めた報酬があるでしょう」
「あー、色々あってすっかり忘れていました」
というか僕というより、ファスによる砦の防衛やフクちゃんによるユニークモンスターの乱獲の方が凄そう。
「ファスちゃんの功績は、貴族側が手を回したらしくなかったことになっているわ。ただし冒険者の中では『氷華の魔女』の名前は広まってるけどね。この報酬はギルド側から貴方達パーティーに向けての報酬の一部よ」
「お金は残念ですが、私的にはそのままなかったことにしてもらえるとありがたいです」
「まぁファスは目立つべなぁ」
「アラ、トアちゃんも二つ名がついているわよ」
「へぇ、なんて呼ばれてるんです」
「いや、なんでオラに二つ名なんてつくんだ? 『炊き出しの獣人』とかかなぁ」
それはそれで、トアに似合ってるけどな。
しかし戦闘でも結構活躍してたと思う。斧で戦う人は何人か見たが『飛斧』を使ってる人は見なかったし、何より高身長で全身をフルに使って動き回るトアのスタイルはカッコイイもんだ。
「『野風』って名よ。野を吹く風の如くってね。いやぁん、カッコいいわね」
「あぁ、トアの唸り声とか風の通る音っぽいもんな」
「斧の文様も風を連想しますし、しっくりきます」
「いや、普通に恥ずかしいべ、オラ別にそんなすごいことしてないしな」
何ていうかマジでかっこいいな、やっぱ二つ名ってのは男のロマンだ。
「ヨシイちゃんには色々あるみたいだけど、手配書に二つ名つきで張り出されていたわよ」
「……嫌な予感しますけど、聞きたいですね」
すでに『リトルオーガ』とか『デッドライン』とかあんまりな名を聞いているので期待できないがもしかしたらかっこいい名前とかきたら嬉しい。
(キニナル)
フクちゃん、世の中には知らない方がよいことってのはあるんだよ。
「プクククク」
横でアナさんが口を押えてるしな。絶対ろくでもない奴だ。
「き、気を落とすでねぇだ。きっとカッコイイ二つ名がついてるべ」
「ご主人様ならきっと素晴らしい名前がついているはずです」
「やめてくれッ、絶対オチ付けられるから!!」
「『宴会芸人』ね」
「そっちかッ!!」
戦闘方面じゃなかった。
ちょっと懐かしいじゃないか。絶対宙野とかが付けた奴だろ。
まだ『リトルオーガ』の方がマシだった。
「アハハハハッ、『氷華の魔女』ファス、『野風』のトア、『宴会芸人』ヨシイってアハハハハハッ間抜けすぎるプクククク。前二人が普通だからさら、イヒヒッ、ツボに……お腹痛い」
アナさんが転げまわってる。というかヒットさんも顔を背けて笑ってる。
(カッコイイヨ、マスター)
「ご主人様の宴会芸は一流です」
「オラまだ見たことないだ。見せて欲しいだ」
「フクちゃんありがとう、ファスもな。……芸は今度見せるよ」
宴会芸に関しては実は小ネタをいくつか更新しているのだが、この虚しさはなんだろう。
あと、ファス、フォローになってないぞ。
これなら普通に悪口の方がよかったよ。なんかこの成立してる感がすごい嫌だ。
「……話をもどしていいですか、とりあえずこれが報酬なんですね?」
「えっ、あー、そうよ。脱線してごめんなさいね。まだライノスちゃんの報告分の上乗せがあるらしいけど、それはギルドの口座に回してるわよ。それと……これもね」
まだ少し笑っているヒットさんから、カードをそれぞれ渡される。銅のような色合いの金属のカードだ。
「C級の証明書よ、これで一人前の冒険者ね。スタンピードでの活躍を評価した結果ね」
おー、D級から昇格できたのか。ちょっと嬉しい。
「そういえば、現状僕等お尋ねものですけど、街に出れるんですか?」
これ聞いとかないと、街へ出ることもできないしな。
「僕等というか、ヨシイちゃんだけね。問題ないわ。この街の冒険者には賞金首の子も何人かいるしね。ここはラポーネ国の領地ではあるけど、ちょっと特別なの。他の国との国境の近くにあることもあって一種の治外法権ってわけ。もちろんヨシイちゃん達には極力正体を隠してほしいのだけど、貴方達は冒険者としてもまだルーキー扱いだし、懸賞金も少ないわ、そもそもこの街に来ていることはまだ気づかれていない。この街は今、『転移者優遇条例』のせいで何人か転移者がいるから、ヨシイちゃんはそこだけ注意してね。まぁ顔を隠せば大丈夫でしょう。その辺の事情もまずは自分の目で見てきてね」
すごい雑な理屈だな。まぁわざわざ僕等を狙っているのは転移者の中でも宙野くらいだろうし、それほど気にしなくてもいいか。
「『転移者優遇条例』とはなんですか?」
ファスが質問する。
「国が認めた転移者を優遇するってこの街限定の条例だね。具体的には転移者は犯罪を犯しても原則罰せられないとか、賭博での優遇とか、ダンジョン入る際は護衛が何人もつくとか、まぁ転移者に来て欲しいからって割となんでもありだね。カジノへ行けば会えると思うよ」
なんか特典があるらしい。まぁ僕にはないだろうけどね。
うーん、ここで聞きたいことはこの辺か? 後は街を見てから決めるかね。
「わかりました。じゃあ、適当に街を回ってきます」
「楽しんできてね。あぁ、その前に少しだけいいかしら」
「何でしょうか?」
ヒットさんが遊んで来いと言ったはずだが。
「どうせなら、寄って欲しい所があるのよ。ただちょっと事前に知りたいことがあってね」
そう言ってヒットさんが半歩前に出る。
次の瞬間には拳が目の前に在った。
……おいおい、確かに足は見えたはずだ。拳だって見えた。反応はできている。
それなのに、振り切られていたら当たる間合いまで詰め寄られていた。
「ご主人様っ!?」
「何するだッ」
(コロス?)
三人を手で制す。殺さなくていいぞフクちゃん。オカマ独特の雰囲気で分かりづらかったけど、この人根っからの武闘派だ。そして目の前にある拳には年期の入った拳ダコがある。
皮膚が破れた上からさらに物を殴り続けたようなその拳。
【クラス】が存在するこの世界でそんなことをする理由は簡単だ。
「フフッ、いい目だわぁ。初めて報告を聞いた時からずっと気になっていたのよねェ」
「……ナノウさんやライノスさんがこの街を薦めた本当の理由が分かった気がします」
間違いない、この人は僕と同じ【拳士】のクラスだ。
この世界では武器を持てないチンピラのクラスと蔑まれている【拳士】を磨き上げた武人。
懐の手甲が音を立てる。まったく、ヒーローとかお姫様とか変な展開だと思ったらこれだ。
『あったりめぇだ、馬鹿野郎』
ギースさんのニヤニヤ笑いが思い浮かぶ。
つまりはここで強くなれってことだ。
更新遅れてすみません。というわけで、ヒットさんとの模擬戦……まで進みませんでした。
次回は丸々模擬戦です。ちなみにトアは自身をフクちゃんやファスと比べているので評価がかなり低めですが、実際はスタンピードでの活躍でファンがいる程度には有名です。
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