第百話:異世界で水戸黄門
器用にもロープに座り、絶妙な角度で中が見えないように(別に見ようとしてないよ)足をブラブラさせている、赤毛のメイド服の女性、僕等よりも少し年上に見える彼女はオークデン家にいる僕とファスを牢屋から出してくれた伯爵についていた謎? のメイドだ。
まぁ、その後闘技場で第三王女として紹介されているのを見たわけだけど。
勇者との試合の後は全く接点はなかったはずだが……なんでまたこんなところに?
「えと、王女?」
「旦那様? とんでもないこと言ったような気がするけんど、オラの聞き間違いだよな」
ファスとトアが困惑している。
ファスはやや警戒した様子で王女を見て、トアは冷や汗をかきながら僕の服をチョイチョイ引っ張っている。
そういえば、ファスは彼女が王女なのは知らなかったのか。
「ちょい、ちょい、いくら人気がないからってあんまり大声は困るよ。よいしょっと」
そう言って、高い位置から数メートルは離れているはずのこちら側へ跳んだ。
やっぱ、身体能力高いな。牢屋で会った時も強い魔力を感じたし、スペックが高そうだ。
彼女は本日も落ち着いた紺のワンピースにフリルのついたエプロン、白い襟裳のリボンと、いわゆるメイド服を着ている。
近くで見てみると、メイド服って意外と作りがしっかりしてるんだな。
「フフーン、ここではアナちゃんって呼んであげてね、ヨシイちゃん♡」
ゾワゾワッ
モヒカンのおっさんが裏声混じりでそう言ってきた。
「よろしくねー」
ドン引きしていると、おっさんが続ける。
「私はこの町の冒険者のギルドマスターのヒットよ。とりあえずここじゃなんだからギルドへ案内するわ~」
バチコンッとウインクされた。また濃いのが来たな。
「えーと、わかりました。よろしくお願います」
そう言って体の砂を払いながら、船着き場の道路へ上がるとまずその眩しさに驚いた。
ラスベガスかよ。思わずそう思うほどにその町は明るかった。どう見たってネオンとしか思えない電飾で彩られた摩天楼が立ち並んでいる。
「す、すごいべ」
「ま、眩しいです。でも綺麗ですね」
「アリヨリ、ノ、ナシ」
ファスはわりと気に入ったようだが、フクちゃんはあまりお気に召さなかったようだ。
ファスのローブから少し顔を(子蜘蛛状態で)出してすぐに引っ込んでしまった。
「ウフッ、あんまりキョロキョロしないほうがいいわよ。この街じゃあ常に誰かがカモられるんだから」
「意外とヨシイは慣れた様子だね。向こうで見たことあるのかな?」
向こうってのは元居た世界のことだろう。
「まぁ、ある意味見慣れた光景ともいえるかも」
一応それなりに都会にいたのでこういった明かりは見慣れているほうだろう。
「旦那様、もしかして元居た世界では身分が高かったんだべか」
「いえ、トア、普段のご主人様のことを考えればそんなことはないと思います」
「普通に庶民だよ」
町の反対側は砂の海が広がっている。
地中街と言うわりには別に地下に町があるわけじゃないんだな。
遠くには帆船が何隻も行ったり来たりしているのが見える。市場みたいなのもある。
不思議な感じだ。まるで港街のようだし、歓楽街でもある。
それなのに絶対に元の世界じゃあみない光景だ。
「ほらほら、止まらずに歩いて頂戴。話すことがたっくさんあるんだから」
ボケッとしていた僕等にヒットさんの声がかかる。
確かにこのままここにいてもあれなので、さっさと進んでいくと。人通りもそれなりに増え喧噪が増してきた。
そんな中で一際大きな声が聞こえる。見てみると白を基調とした軽装に曲刀を差した兵隊が8人ほど目の前に見えた。彼の足元には大人の男性が転がっている。酷い怪我だ。
「あれは――」
「目を合わせちゃダメよ。今は貴方にできることはないわ」
ギルマスが表情を変えずにそう言った。
その口調は変わらないが、真剣さが伝わってくる。
止まらず歩き続けているうちに男の声が聞こえる。
「俺は、賭けちゃいない。本当だ! なんでこんな……」
「黙れ! 金が無い奴はこの街でなんの価値もねぇ。騙されたとかそんなことどうでもいい。俺達は罪を裁くだけだ。……この街じゃあ金がないことが罪なのさ。テメェの嫁さんは俺達が大事にしてやるよ。ほら砂ザメと泳がせてやるよ」
「やめてくれ、俺は砂を泳げな……助けて……」
そんな悲鳴が聞こえる。正直さっさと助けに行きたい。
騒ぎにして不味いなら、何とかバレないように……。
「大丈夫ですご主人様。砂の中に人がいます。恐らく彼は助かるでしょう」
動き出す前にファスがそう言った。
「誰でも助けられるわけじゃないけど、ギルドは益を見逃さない。彼にはまだ船もあるし金になるわ。それにしても、この砂海は魔力を含んでいるから【遠視】や【透視】持ちでも見えないはずなのに、流石は翠眼と言ったところかしら」
ファスは無言を返す。どうやら彼は助かるらしい。
ただし、助けるかどうかは金になるかどうかって言い方だ。
……何よりもあの騒ぎを見ている通行人の誰もが視界に入っていないように楽し気に談笑を続けているのが不可解だ。
そこからは何度か同じ格好の兵隊を見かけたが、特に何もなく。砂岩で綺麗に舗装された道を進むとこれまた電飾で装飾された建物に案内された。
建物の割に狭い入口の横には依頼を貼り付ける大きな板があり、重なるように依頼が張り付けてある。
「ここがこのグランドマロの冒険者ギルドよ。ささ、入って頂戴」
「入口が狭いですね」
僕が気になったことをファスが言った。
「あらぁん、いいとこに気が付いたわね。それはね……中から急に逃げだしにくくするためよん♪」
「……そうですか」
「旦那様、本当にここのギルド大丈夫だか?」
「冗談よ、砂が入ってこないように結界を入り口や窓に張るんだけど大きいとコストがかかるでしょ? だからよ」
「なんだか胃が痛くなってきました」
中に入ると、かなり広い。奥には交易の町のギルドのように闘技場があるようだ。
解体場は見当たらないな、食事場も併設はしてない。
ただ、クエストを貼り付ける板の量と受付の数がすごい、前いたギルドの倍以上はある。
依頼に来た人と依頼を受ける冒険者でごった返している。
後は……なんだろう。情報コーナーみたいなのが見えるな。物販も色々ある。
こうしてみると、前のギルドとは色々違うようだ。
少し圧倒されていると、メイド姿の第三女王……アナさんだっけか、がハタキを取り出していた。
「はい、とりあえず三人ともこっちー」
そう言われ、ギルドの隅のガラスで区切られた場所に入れられる。
「部屋に入る人はここで砂を落とすから」
そう言って、全身をハタキで叩かれると不思議なことにジャリジャリしていた砂だけが綺麗に落ちていく。
「おおー便利だべな」
「すごいですねー。この町では必須かもしれません」
「ギルドで売ってるから適当に買えばいいと思うよ。はい後ろ向いてー、ほい終了」
あっという間に砂を落とされた僕等は、そのまま闘技場をすり抜け、一階の奥の部屋に通される。
部屋には机に革のソファーがあり、ヒットさんに促されるままに座る。ついでにアナさんも自分で椅子を引っ張って来て座った。
ギルマスが鼻唄を歌いながら、ガラスのコップを前に置く。
中には薄い緑の飲み物が入っており、匂い的にはハーブティーのようだ。
全員の前にコップを置くとギルマスも座って溜め息をついた。
「フゥー、やっと落ち着いて話せるわね。改めて名乗るわね、ここのギルマスをやってるヒットよ。あなた達のことはオババやお姉さまから聞いてるわ」
うん? オババはナノウさんだろうけど、お姉さま? 誰だ?
困惑を察したのか、ヒットさんがこっちが質問する前に応えてくれた。
「ラーバお姉さまよ。ワイト討伐でお世話になったってオババの手紙に追加でお姉さまの手紙も入ってたの」
ラーバ……?
「女将のことですね」
「あっ女将か」
「女将だべな」
(オカミー)
ラッチモの件でお世話になった元A級冒険者の女将だ。
「んもう、察しが悪いわね。まぁその辺の繋がりもあるのよ。そしてこちらでお茶を飲んでいるのが……」
横を見ると、アナさんは普通にお茶を飲んでいた。普通にお茶を飲んでいるはずなのにどこか上品なのはやはり育ちの差だろうか?
「ん? 私? この国の第三王女やってるアナスタシア・ラポーネ・コルルハットです。絶賛追放中なんでよろしくね」
物騒な単語が飛んできた。しかし改めて名乗られるとどうしていいかわからないな。
とりあえず助けを求めて隣を見てみる。
(ファイトですご主人様)
(オラには手に負えないべ)
とアイコンタクトが飛んできた。チクショウ。
「あー、えーと、王女様……がなんでこんなところに…いらっしゃるのでしょうか?」
「敬語はいいよ。一応お忍びっていうか身分隠してるわけだし、むしろ止めてね。さてどっから話そうかな」
チン、と音を立ててコップを置いた彼女は指を組んで唇に指先を当てて少し考え込むとすぐに顔を上げた。
ヒットさんは任せているのか優雅にお茶を飲んでいる。
「まずは私の立場から話すね。私はまぁ、お父様……この国の王様の三女なわけなんだけど、上二人とは違って正室じゃなくて側室、つまり妾の娘なのよ。そういうわけで特に期待もされず自由に暮らしてたんだけどね。長女のネリ姉さんになぜか気に入られてちょいちょい公務を任せられていたわけ。そのせいで次女のマル姉さんにすっごい嫌われていてね」
「今のこの国の政治は王に代わって、長女のネリネスト王女主導で行われているわ。そしてそのネリネスト王女はアナスタシア様の手腕を買っているの、実際アナスタシア様は経済の部門で大きな功績を上げていらっしゃるしね。次女のマルマーシュ王女はいくつも事業を立ち上げては潰していて、政務の方も才能がないともっぱらの評判だったわ」
アナさんの説明を補足するようにヒットさんが真面目な調子でそう言った。
……いや、真面目な場面なんだろうけど、なんていうか、奇抜な恰好のオカマなため話が入ってこない。
そんな僕の葛藤をよそに話は進んでいく。
「ギルドマスターもそんな話し方やめてね。私ってホントそういうの苦手なのよね。この格好も敬われる煩わしさから逃げる為の趣味だったしね。えーとどこまで話したっけ。そうそう、それでもともと嫌われてたんだけど、私ってば別に政治とか興味ないし、ネリ姉さまにお願いされているから手伝ってただけだったから。
まぁたんに嫌われているだけですんでたんだよ。それがねぇ、転移者が召喚されてからかな? なぜかマル姉さまの元に貴族連中が何人も集まって、露骨に持ち上げ始めたわけ。
そんでマル姉さまもおだてられるがままに、神輿に担ぎ上げられちゃって、ちょっとした勢力っていうかマルマーシュ一派みたいな嫌な集まりができたのよ。そこに転移者を抱えていた貴族達も入ってね。ネリ姉さまも最初は身内の甘さで放っておいたんだけど、徐々に無視できないっていうか好き勝手し始めちゃったんだよね。主に税金とか転移者の配置とか、もうやりたい放題。そういうわけで、お父様が調子悪いのもあって政務に追われてるネリ姉さまの頼みで、私がマル姉さまの一派の力を削ぐために色々しようとしたんだけど……」
そこまで話してアナさんは頬をポリポリと掻いた。
「まぁなんていうか、手痛い反撃に遭っちゃいまして……具体的にいうと、マル姉さまの抱えている貴族の不正とかそういうの告発して、そこから空中分解まで持って行こうとしたんだけど、当てにしていた、ほらバルモ伯爵に裏切られちゃって。逆に適当な罪をでっちあげられて挙句の果てに暗殺されそうになったから、なんとか逃げて、ギルドに匿ってもらってたんだよねー。一応ネリ姉さまにも連絡入れてるんだけど、あの人政務に関してはプロだけどそれ以外がポンコツなのよね。いやーまさかマル姉さまにそんな手腕があったとはね、完全に見誤っちゃったよ」
タハハーと笑っているが、かなりヤバイ状況じゃん。
というか、この話僕等が聞いて大丈夫?
「逃げるどころか、追手をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、自分の屋敷を魔術でぶっ飛ばして寝るところがないってギルド本部長の所へ正面から行ったって話よ」
「流石にそこまでじゃないよー。部屋が吹き飛んだだけで」
……どうやらこのお姫様かなりダイハードな経験をしてここにいるようだ。
しかしどうしてまたこの町へ?
「えーと、それでどうして僕等がその話を聞いてるんですかね。ナノウさんからは僕等の状況を改善する一手があるとか聞いたんですが」
このままだと、面倒くさいいざこざに巻き込まれかねん(もう無理だろうけど)。
「それはね、私を助けて欲しいわけだよ。その代わりお礼としてお姉さんが君達のパトロンになってあげるってわけ。そうすれば貴族達からのやっかみも減るし、勇者だっけ? マル姉さまの所にいるソラノが権力を使って危害を加えるのも減ると思うよ。他にも特典がたくさーんあるよ。ちなみに私が手遊びにやってる事業って冒険者、商人、錬金術師、薬師、鍛冶師、等々色んなギルドとも繋がってるから、冒険するうえでの手助けもがっつりできるし、どうかな?」
「僕等がお役に立てるとは思いませんが……」
「アハハー、いやいや、ヨシイは自分の価値をわかってないね。冒険者として経験を積んでいる転移者がどれだけの価値を持っているかってことだよ。言っておくけど私は君達に首輪をつけるつもりなんてないよ。ただケツを持ってやるって言ってるの。ヨシイはさ、さっきの道で見た男性を助けたかったでしょ?」
アナスタシアの表情が変わる、これまでの陽気なふるまいに隠れていた獰猛な表情が顔を出す。
「……それが?」
「助けてあげなよ。ただし、一人を助けるんじゃなくてもっと大勢を助ければいい。私がパトロンになったらヨシイにその権利を上げる。王女である私が直接任命した世直しをするの。ギルドでもない、貴族でもない、自由な立場で理不尽を叩き潰す実権をあげる。私がこの街にいるのはこの街を牛耳っている貴族の不正を知っているから。かなり悪どいことをもう何十年もやってる。この街が隔離されていて国の目が届き辛いことを利用して何人も虐げられている。
……正直な所、私は正義感だけじゃない。この街を手に入れればマル姉さまへの反撃をするためのこれ以上ない足掛かりになる。それを狙っているのもあるわ。でもそれなら貴方が私を利用すればいい。どう? 悪い話じゃないわ、あなたが抱えている問題である貴族側の転移者の有利をひっくり返すことだってできる。何人かの転移者は各地で貴族の庇護の元、民を苦しめているものもいる。そう言った転移者達のストッパーになってくれない?」
考えるが、どうにも話がうますぎるような気がする。
横を見るとファスも考えていた。
「……申し訳ありませんが、やはり私達を過大評価しすぎな気がします。アナ様はなぜ私達がそこまでできるとお思いなのでしょうか?」
フードを脱いでファスがそう質問した。
アナさんはファスの顔を見て少し驚いたような顔した後、すぐに笑顔になった。
「奴隷ちゃん。そんな顔だったのね。……あなた達のこと、できる限り調べたわ、ナノウさんからも直接話を聞いた。決め手になったのはこれよ」
そう言って、立ち上がり後ろの執務机から何かを取り出した。
すぐにわかった、だってそれは……。
「ギースさんの重りの手甲、なんで?」
オークデン家でのギースさんによる稽古、その際に常に着用していた装着すると重たくなる手甲だった。
「ギースという騎士の遺品だそうよ、貴方に渡すようにナノウさんから預かったわ。ボロボロね。この手甲をこんなになるまで使ったのは貴方くらいだってギースはナノウさんに言っていたらしいわ。そしてナノウさんはこの手甲を私に渡す時にこう言ったの『あの坊やはきっとファス嬢ちゃんやフクちゃんの為にがんばったんだろうね』って、どこまで本当かわからないけど、それって素敵だわ」
そう言って手甲を僕の手に置いた。ズタボロだ。ギースさんこんなの捨てればよかったのにな。
まったく、おっさんのツンデレなんて需要ないぜ……。
「私はね、自由に生きたくて、実際に自由にしてきたけど、やっぱりしがらみも多かったわ。だからずっと憧れてるの、さっきは冒険者をしている転移者の価値なんて言ったけど、もっと大事な価値は貴方自身。しがらみなんて関係なく誰かを助けるヒーローに【クラス】でも【スキル】でもない、ヨシイ シンヤに期待しているの」
手甲を握りしめる。とりあえず、乗ってやろうじゃないか。ダメなら逃げればいいだけだ。
「わかりました。お受けします」
「良かった、これで話を進められるわね。こういうのなんて言うのかしら、世を忍んで悪を叩く。確かヨシイの世界では『ミトコウモン』っていうのよね?」
(トウヤマノキンサンー)
……なんだか随分古風なヒーローを期待されているようだ。
更新遅れてすみませんー、というか一話が長いですね。区切ろうとしたのですが、いい場所がなくガッツリ書きました。というわけでやっと第三王女の名前が出せましたね。彼女は後半色々言っていますが、勿論打算バリバリだと思います。そのうえで期待もしているのでしょう。
次回:ギルマスと模擬戦。それぞれのやること
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