第九十九話:新たなオッサンとプリンセス
武道とは礼に始まり礼に終わる。
道場では座った状態での座礼はもちろん立礼も徹底的に爺ちゃんに教えられてきた。
見よ! 異世界に来て身についたこの体幹! 微動だにしないこの安定感!
【ふんばり】を駆使することで一分の隙もない完璧な立礼を、おおよそ中学2年生くらいの少年にかましながら「道を教えてください」と懇願する男がいた、僕だ。
なんか最近、『リトルオーガ』とか『デッドライン』とかあだ名をつけられているが、これならば相手を恐がらせることなく、穏便に話を進められるだろう。
「えっ? あっ……いや」
ドン引きされていた。なんでや?
おもわずエセ関西弁でツッコミを入れる。
「マスター、ドンマイ」
「そりゃあ、素手で魔物を倒した冒険者が唐突に頭を下げりゃ、混乱するべな」
「すみません。ご主人様は世事に疎いのです」
フクちゃんに頭をなでなでされて慰められる。
異世界のコミュニケーションって難しいぜ。
僕等の会話を聞いて少し落ち着いたのか、ハッと目を覚ましたように少年も頭を下げた。
「よ、よくわかんねぇけど、助かった。……それで、勝手なお願いなのはわかってんだけど、弟分を助けるのにスコルピオの殻がどうしても必要なんだ。後ろにあるリトル・スコルピオでもいいんだけどヴェノム・スコルピオなら申し分ない薬が作れるんだ。冒険者にこんなこと言うのは間違いだってわかってんだけど、殻を少しだけ譲ってくれねぇか?」
ふむ、話の内容について解釈を求めるためファスを見ると、すぐに説明してくれた。
「リトル・スコルピオなどのスコルピオ種の魔物の殻は古くから熱病の薬として重宝されているらしいです」
「へぇ、なるほど。別に冒険者に言ってもいいんじゃないのか? 依頼すれば誰か受けそうだけど?」
むしろこういうことは冒険者に依頼するのが一般的だと思うのだが。
「旦那様、依頼ができる立場の人間ばかりじゃねぇべ。この子が魔物が出る場所に直接出ばっているってことは、そうせざるを得ない理由があるんだべ、オラが森へ芋を採りにいったみてぇにな。そんでその子は冒険者に対して対価なしに譲って欲しいっていうのが申し訳ないって言ってんだ」
なるほど、考えてみればその通りだ。
だけども、彼には僕らに払える対価がある。
「殻なら好きなだけ持っていけばいいよ。それで最初の話に戻るんだけど道案内してくれないかな? なにせ僕等が今いる場所がどこなのかすらわからないんだ。報酬はそれでいい」
「ほ、本当か? ウソじゃないよな?」
なんかすごい警戒心の強い子だな。
「トア、適当なやつを見繕ってくれ」
「はいだ。この辺なんてよさそうだべ」
すぐにトアが、僕が殴ってひび割れていた部分の殻を斧で抉りだした。
2~3kgほどだろうか、濃い紫の割れた殻を手渡す。
「これで大丈夫か?」
「……胴体の殻は一番効果があるんだ……ありがとう。これで薬師ギルドへ行けば弟分が助かる。本当にありがとう……えと、ございます」
「楽な話し方でいいよ。僕もそうさせてもらうから、それで弟分へ薬を届けるんだろ? 早いとこ、ここから出ないとな。僕は吉井 真也。吉井がファミリーネームで真也がファーストネームだ。好きに呼べばいいよ。一応冒険者ギルドに所属している」
「ファスと申します、ご主人様の一番奴隷を務めさせていただいています」
「フクだよ、ボクが二番!」
「オラは三番奴隷のトアってもんだ、料理人だべ」
僕等の挨拶を聞いた、少年がワタワタと服を整える。
身長は140後半くらいだろうか、かなり小柄だ。フクちゃんよりは少し大きいくらいか。雰囲気で中学生くらいといったがもっと小さいかもしれないな。
肌の色は褐色で瞳は鳶色で髪は黒髪だ。
服装はテレビなんかでみたことある砂漠でよくみる白い(といってもかなり汚れているが)貫頭衣にターバンだ。
生でこんな服装みるとちょっとテンション上がるな。
トアと僕は割と軽装だからまったく違う服装だが、フクちゃんは白いワンピースなのでちょっと似ているかもしれん。
「お、オレはマイセルだ。奴隷を三人も……アニキとよんでもいいかっ?」
「……悪いけど、僕はまぁ変わった境遇なんだよ。好きに呼べばいいって言ったしアニキでいいけどさ。それよりその殻早く届けなくていいのか?」
「おっと、そうだな。付いてこいよ」
マイセルはどこからか煙草のようなものを取り出し、腰のベルトに下がっている金属製の小箱に入れる。
その箱にはいくつか穴が開けられていて緑の煙が勢いを増した。
「それなんだ?」
「冒険者なのに知らないのか? 虫避けの香だよ。ヴェノム・スコルピオみたいな大物には効果ないけど、小さい虫系の魔物なら寄ってこなくなるんだ」
へぇ、便利だな。
「うーん。まだ解体が終わってねぇんだがな。まぁ針とハサミと食えそうな部位は全部入れたし、いいか」
「じゃあ食べるねー」
僕が虫避けの香について聞いている後ろで、トアが急いで部位を切り分けてアイテムボックスに詰めていた。
そしてあまりをフクちゃんが……。
「マルセル、今後ろを振り返るなよ」
「な、なんでだよ」
「ちょっと、ショッキングだからだ」
自分より小さな女の子が物理法則を無視した勢いでちょっとした戦車みたいなサソリを殻ごと食べている図なんて情操教育によくないのは明らかだ。
時間にしてほんの4・5分ほどでヴェノム・スコルピオは跡形もなくなってしまった。
「ゲップ、おまたせー」
「何か私もお腹減ってきました」
「調味料が手に入ったら今日こそはサソリを美味しく食べるだよ」
「それもいいけど、砂漠のご飯が気になるな」
「えと……アニキ達って、本当に何者なんだ?」
こっちが聞きたい。どうしてこうなってしまったのだろうか?
何はともあれマルセルのおかげで何とか進んでいけそうだ。
道中マルセルが持っている地図をみせてもらったが、僕が知っている地図とは違い複数の絵を重ねてそれに延々と文字による説明を加えているような作りのそれは到底理解できなかった。
今いる場所について説明を求めると、ツラツラと説明が返って来た。
マルセルは貧民街に住んでいるらしいが、地頭は良さそうだな。
「――だから、ここは複数のダンジョンが重なってるんだ。ダンジョンマスターも複数体確認されているし、最近になって新しいダンジョンが増えてもう収拾がつかないんだよ。昔から砂海のダンジョンは攻略不可能って言われてる。馬鹿みたいに広くて、なんせセーフティーゾーンの中に宿場がある位だからな。魔石もダンジョンの宝も魔物からとれる資源も危険を冒せばなんでも手に入る。ここは夢の街だったんだ……オレが生まれる前には悪夢の街になっちまってるけどな……」
「どういうことだ?」
「アニキが自分で見ればいいさ、ここからはダンジョンとダンジョンの隙間にできたとっておきの裏道だから人も魔物もいないよ。ここを真っすぐ登ればダンジョンから出られる。この街の冒険者ギルドのマスターは変な奴だからすぐわかるよ。俺は、薬師ギルドへ行くから出たら一旦お別れだな。このマルセル受けた恩は返すからなっ」
そう言って、先に行こうとするがその手に持っている殻ってのはそこそこ価値があるんじゃないのか?
「護衛はいいか? 俺達は時間あるから薬師ギルドまでついて行ってもいいぞ」
「裏道通るから大丈夫だい、オレの生まれた街だ。アニキがくれたこいつを盗られるようなへまはしねぇよ」
「まぁまだ予備もあるから、無くしたらすぐにこいよ。多分冒険者ギルドにいるから」
そう言って、砂の道を駆け抜けていった。
何事もなければいいが……。
「ダイジョブだよ。ボクの糸付けてる」
フクちゃんがピョンと後ろから出てきた。流石フクちゃん頼りになる。
マルセルが先に行ってしまったので、僕等はのんびり歩いてこの砂岩の道を進む。
周囲は砂のカーテンで、下から上にあるいは螺旋状だったりわけわからん方向に流れている。
薄い砂の幕を何枚もくぐるように進んでいくと、徐々にダンジョンのそれとは別の明るさが目に入る。
「やっと着いたな」
「ご主人様出た先に誰かいるようです」
「誰かって?」
「わかりませんが、この感じどこかで……」
「まぁ行ってみるべ」
最後の砂の壁を抜けると、そこは船着き場のようだ。なるほど本当に裏道だったんだな。とにかく出てみようと前を見ると……紫とピンクのモヒカンに革ジャンとレザーのスカートを履き、さらに網タイツにハイヒールまで履きこなしている、痩せマッチョの厳ついおっさんがジョジョ立ちをしていた。
「「「…………」」」
スッ
無言で砂の壁を戻る。
「やべぇよ、やべぇよ」
「どっかの女将とにた雰囲気を感じるべ」
「うーん、私が感じた魔力とは違うようです」
「……かくれる」
フクちゃんが子蜘蛛モードになってファスのローブの中へ入ってしまった。
できることなら僕もそうしたい。いや避難したいという意味で。
だがここに居ても問題は解決しない。
というか絶対あれがギルマスだよ、わかるよ! ふざけんな異世界! たまにはまっとうな人出せよ!!
意を決し、再び砂の壁から踏み出すと……。
微動だにせずにモヒカン革ジャン(革ジャンの下は裸)スカートハイヒールのオッサンがそこに立っていた。
その光景に膝をつきそうになるが、ここまでの異世界での激闘が僕を強くした。
なんとかふんばり、先の展開を待つ。
オッサンはツカツカとハイヒールを鳴らし歩み寄ってくる。
一応警戒しているが、微かに魔力を感じたかと思えば、本当に一瞬で間合いを潰され目の前にいた。
鷲鼻に鋭い眼光が目の前にある。
そして口紅で彩られた唇が開く。
「心配ぃしたのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
そう叫んで、抱きしめて来た。
うぉおおお気持ち悪い、というか力が強い。
無理やり外そうとするとスッと離れる。やばいこの変態そうとう強いぞ。
「本当だよねー、この場所で逢うために、ちょっと苦労したよ」
その声の方向には船を固定するロープに座るメイド服の女性がいた。
オークデン家、闘技場で出会った彼女だ。
「いやいや、なんでここに居るんだよ。……第三王女様」
「ニヒヒッ、覚えてくれてたんだ」
そう言って彼女はアイドルのように可愛く小首をかしげて笑みを浮かべた。
残念だったな、今回もオッサンだよ!! というわけでなんとこの話でメインストーリー百話達成です!!これからも吉井君達をよろしくお願いします。そろそろレビューとかくれたら嬉しいです(懇願)
次回予告:あぁ人生に涙あり
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