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3 張の反撃

 ミヤビは、ビッグマックとチキンバーガー、テリヤキバーガーを交互に食べた。もちろんポテトとチキンナゲットも注文した。

「そうだよ、俺、腹が減ってたんだよ。あんたと闘ってて、イマイチ、力が出なくてさ。でも、こんなことしていいの? 俺を逃がしてさ。」

「わたしの名は、麗。」

「俺、ミヤビ。美都、ミヤビ。」

「よろしく。」

「おう、よろしくな。って、だから、いいのかよ。」

「わしは、代々美都家に仕える、大洞神官の末裔、朱里でおじゃる。よろしくお願いするでおじゃる。」

「おい、朱里。口にケチャップついてるぞ。」

「ミヤビ姫、この方は敵ではごじゃらん。わしには、わかるのでございまする。このポテト、うまいでおじゃる。」

 上海タワーから街を見下ろすと、スモッグが消え、きれいな夜景が見える。

「あの男、張は、わたしの祖父の使いの者です。」

「ってことは、あんたのじいちゃんの仕業か。って、やっぱり敵なんじゃないか?」

「誘拐したのは、悪かったわ。でも、これは、四年前から計画してきたことなの。」

「どういうことだよ。」

「祖父は、北京大学の教授です。専門は、考古学。祖父は、ある偉大な発見をしました。その偉大な発見に、ミヤビさん、あなたが必要なんです。」

「どういうことだよ。って、二回も言わすなよ。」

「それ以上は、わたしにもわかりません。さっき電話が入って、張が心配だから様子を見に行ってくれって、上海に住んでるわたしに頼んだのです。」

「誘拐させるなら、もっとまともな人間にさせてほしいでおじゃる。あの男、もう少しでミヤビ姫をキズモノにするところだったでおじゃる。」

「朱里、まともな人間が誘拐なんかするかよ。」

「張署長も、元はいい人でした。お金が入るようになってから、大分、変わりましたね。北京は、世界の中心になりましたが、そのぶん、失ったものも多いのです。」

「麗さん、バーガー、食べないの?」とミヤビが言った。

「ミヤビさんの食べる姿を見ていたら、わたしも満腹になりました。」

「それで? わしたちはどうすればよいでおじゃるかな?」

 朱里がコーラを飲み干して言った。

「わたしのマンションに泊まってください。張が、どんな動きをするかわかりませんし、それ以外の勢力も、動き出すかもしれません。」

「おもしろくなってきたじゃん!」

「ミヤビ姫! はあ、女の子なのに、こんなに好戦的で。困ったもんでおじゃる。」

「明日、祖父に会っていただきます。」と麗は言った。

「いいぜ、その、偉大な発見とやらを知りたいし。なあ、朱里。」

「ミヤビ姫、ポテトの持ち帰りを買ってくださいまし、でおじゃる。」


 上海郊外の高級マンション街にある、麗のマンションに向かった。車の窓から夜空を見上げると、黄色い三日月が見える。

「あの月、日本の月より色が濃いぜ。」

 ポテトをかじりながら朱里も空を見上げる。

「ミヤビ様、月は一個でございますよ。国ごとに月を持ってるわけではございません。」

「知ってるよ。でも、そんな気がしねえな。同じもんには見えねえ。朱里、今のはボケか?」

「なんでもございません・・・。」

「スモッグのせいで、あんな色に見えるんです。夜になれば少しはましになるんでのですが、上空には残っているのでしょう。」

 麗はウインカーを点滅させて、ステアリングを大きく回転させた。

「着きました。」

 エンジン音が停止すると、どこからともなく黒い人影がわいて出た。麗は運転席のドアを開き、外に出た。

「誰?」と中国語で言った。

「警察です。ちょっと、ご協力ください。」

「なにを?」

「ニュースをお聞きになりましたかね? 日本人の女性が行方不明になったんです。それで、行方を捜してましてね。」

「知らないわ。」

「座席にいるのは?」

「友達です。日本人の・・・。」

「ちょっと、調べさせてください。」

「いいけど、その前に、張署長に電話させてくれる?」

「これは、署長の命令なんです。」

「わかったわ。じゃあ、窓から覗いてくれる? 行方不明の日本人かどうか。」

 警官は、後部座席の窓に顔を近づける。麗は、ミヤビに向かって大きく肯く。

「暗くて、見えないな。おい、出てこい!」と警官が怒鳴った。

「わかったよ、出てってやるよ!」

 ドアが突然開き、警官の顔は窓ガラスを突き破った。呻く警官を押しのけて、ミヤビは外に出た。朱里は空中に浮かび、目を閉じて合掌している。

「この度の殺生、お許しくださいまし、でおじゃる。」

 警官たちは朱里に驚いたが、すぐに気を取り直し、ミヤビと麗に襲いかかった。少林寺拳法で技をしかける者もいれば、空手、柔道を使う者もいる。警官は五人。ミヤビがふたり、麗がふたりと闘った。朱里は一番弱そうな警官と空中から応戦する。

 打ち合い、受け合う肉体の音が駐車場に響く。ミヤビと麗の手足が警官の顔や胸にヒットする。技は互角だが、勝敗を分けたのは手足の長さだった。朱里が相手をした警官は、呪文をかけられ、歌を歌いながらどこかへ消えた。

「バーガー、食い過ぎた・・・。」

 ミヤビは、おなかをさすりながら麗を見た。麗は、回し蹴りで警官を倒し、一息ついたところだった。

 突然、ケータイが鳴る。警官との格闘しているとき落としたのだろう、麗は、車の下に落ちているケータイを拾った。

「おじいちゃん?」

「麗か・・・。張が、来たな?」

「手下よ。わたしのマンションで待ってたわ。」

「二時間ほどまえに張から電話があってな。逃げられた、と言ってきた。わしは、あの男は必要ないと思っとったから、女の子は捜さなくてもいい、この件から手を引けと言ったんじゃ。すると、勝手にさせてもらうと言いよった。悪い予感がしてな。」

「もっと早く電話してくださいな。」

「悪い悪い、うたた寝しとった・・・。お前がいるし、と思ってな。」

「今から北京に向かうわ。」

「それがいいじゃろう。張は、地下組織ともつながっとる。わしが、命の保証はないと脅かしたから、どう出るかわからん。追い詰められた鼠じゃからの。」

 麗は、ケータイを切って、ミヤビと朱里に声をかけようとした。

「わかってる。しかし、あんたのじいさん、声でけえな。ばっちり聞こえたぜ。」

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