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16 麗の中国奪還

 麗が中国に帰ると間もなく、王雀鬼がメディアに登場した。王はイケメンで若く、若い世代から圧倒的な支持を受けた。

「中国こそ世界のリーダーである。アジア圏の国々は中国の属国とし、史上最大の強大国を作りあげる。それが、わたしの夢だ! 同胞たちよ、民族を越えた同胞たちよ、そなたたちの血をわたしに飲ませるがいい。わたしは始皇帝の生まれ変わりである。」

 扇動的な演説が毎日メディアで放送され、元々好戦的な民衆は、王雀鬼が理想とする民衆へと洗脳されていった。

「中国の民は、互いに血を血で争い、国家を立て、文化を華開かせてきたのだ。これだけの人口の民衆が、わたしの理想とする民となれば、最強の国家が誕生する。ただ、半分はわたしに従わないだろう。血の粛清は、この中国の伝統と言っていい。」

 王雀鬼は、極秘裏にアメリカ、ニューヨークにいた。通信会社を騙る指令本部を設立し、中国全土の陸空海軍に命令を出していた。日本以外のアジアの国々を制圧し、原子爆弾を越える破壊兵器の開発を急いでいた。

「日本などの小さな国は、一発あればよい。一発の爆弾で消し飛ばしてくれる。」

 ロシアはヨーロッパの小国を制圧したが、イギリスがフランスと連合、防衛圏を張り、抵抗してた。王雀鬼はロシアのフィガロ大統領と会談。最終的にアメリカ、中国、ロシアの三国で世界を統一することを決めた。ただ、この会談にアメリカは賛成しなかった。

 中国に影武者を立てていた王雀鬼だったが、すでに三人暗殺された。

「やはり、表だって出るとこうなる。つくづく、中国は怖い国だ。」

 ある日、張からの電話を受け取った。

「大変ですよ、王さん。」

「美都ミヤビが暴れ出したのか。かまわん、多少攻撃されてもな。」

「陽です。陽麗です。」

「陽? 経済界の楊貴妃か。いずれ会いたいと思っていた。」

「それが、暴れ方が、半端じゃない・・・。いつか俺が見た美都ミヤビのように、ひとりで軍隊を全滅させた。王さんの影武者を殺ったのも陽だ。」

「・・・そうか。アメリカに来て、東京爆撃のビデオを入手して分析したら、確かに爆撃機を切りまくる美都ミヤビが映っていた。まったく、この時代に信じられん。しかし、なぜ陽麗がスーパーウーマンになってるんだ?」

「マゼラン・ブレスレットだ・・・。」

「なに? マゼラン?」

「マゼラン・ブレスレットを美都ミヤビから譲り受けたらしい。」

「それは、なんだ?」

「陽教授の研究室を調べた。というより、研究室にあったパソコンのハードディスクのデータを復元した。やはり、研究室の資料はすべて捨てられ―。」

「張!」

「わかった・・・話は短く、だな? 地球を破壊するパワーをもつブレスレットだ。ブレスレットが剣に変わり、信じられない破壊力を発揮する。」

「張・・・。おまえは、すばらしいじゃないか!」

「だから言ったろう? 役に立つと。」

「それで、どうやって麗を倒す気だ?」

「だれも、倒せない・・・。ビデオがある。後で見てくれ。」

 張は電話を切った。

 王は、張が司令部に送ったビデオを見る。こめかみに、血管が浮き出た。

「これは、人間ではない・・・。」

 人間でない者とどう戦うか、王は考えを巡らせた。


 麗は北京に司令部を設置した。会社組織を中心に、反軍部派と合流、新体制を整えた。

「次から次に影武者が出てくるとは・・・。王雀鬼は中国にいないのかもしれない。」

 中国内の軍部は半数ほど制圧しつつあった。ただ、東南アジア、インドなど、王雀鬼の支配下にある国は、情勢が不明だった。

 張は香港、南京を中心に、麗に抵抗。中国は南北に分裂した。

 

 中国の状況を、ミヤビは東京で見守った。麗の活躍で中国からの攻撃はなくなり、しばらく平和が続いたが、隣国韓国が、米韓協定を破棄して日本へミサイルを発射。近距離のため迎撃が難しく、何発かが日本国土に着弾。五島列島に韓国軍が上陸した。

 韓国の侵攻に自衛隊で応戦するミヤビ総理。

「急いでくれ、麗さん。」

 テレビ電話で麗とは連絡を取っているが、口に出しては言わなかった。


 ニューヨーク。王雀鬼の司令部。

「マスター、インドからの連絡で、例のモノが完成したそうです。」

「早い! さすがにインドだ。早速行くぞ。それから、陽麗に連絡を取ってくれ。」

 

 麗は、王から連絡が来たことをミヤビに話した。

「ディナーをご一緒にって、書いてたわ。それも、おしゃれな封筒に入れて。」

「油断しないで。ポーズかもしれねえぜ。」

「わかってるわ。やっつけるのはすぐだけど、果たして本物かどうか・・・。」

「ブレスレットが反応すると思う。」

「そうね・・・。反応したら、即、地獄に落とすわ。」


 一週間後、麗と王雀鬼の対面が実現した。王が指定した場所はタイ、バンコク。『ホテルリゾート・バンコク』という二流ホテルだった。

 麗はロビーで王を待つ。従業員全員が敵である可能性があるから、油断はできない。ホテルボーイが麗を呼びに来る。ボーイは、二階のレストランに案内する。

 まもなく王が現れた。

「陽麗さん、ですね?」と王は言った。

「陽麗です。あなたは?」

「王雀鬼です。」

「本物かしら?」

「本物です。美しいあなたにお会いするのですから。」

 マゼラン・ブレスレットは反応しない。麗は、王本人に間違いないだろうと、その目を見てわかったが、すぐに殺す気にはなれなかった。

 麗と王は握手はせずに、案内された席に座る。

「おもしろい趣向ですわ。憎み合っているふたりが食事をするなんて。」

 ボーイがワインを注ぐ。

「あなたの腕にあるものを、わたしは知っています。そして、その力もね。さあ、とりあえず、ワインをどうぞ。乾杯はしませんが・・・。」

 王は、麗より先にワインを飲む。毒などは入れていないと言いたげに。

「どうぞお飲みなさい。毒など入れても、あなたは死なないでしょう。」

 麗はグラスに口を付けた。

「いつか、あなたにはお会いしたいと思っていました。経済界からは、援助をいただかないといけないので。ところが、あなたは中国を裏切り、日本と手を組んだ。そして中国が二つに分裂・・・。今日は、ふたりだけの首脳会議ですね。」

「中国を裏切ったのは、どちらなのか、その辺りから始めませんこと?」

「あなたとの時間をゆっくり過ごしたいから、そうしたいのは山々ですが、それほど意味のあることだとは思いません。中国の未来を、話しませんか?」

 マゼラン・ブレスレットが反応しないのは、距離が遠いためと麗は考えた。王に近づく必要がある。すぐにでも殺したい衝動を抑えながら、麗は辛うじて会話をしていた。

「未来? あなたの口から出る言葉としては、そぐわない気がしますわ。中国の未来は、あなたなしのほうが、明るいと思いますが・・・。」

 ボーイが料理を運んでくる。

「わたしはけっこう・・・。ワインだけで。」と麗。

 王はフォークとナイフを手に取った。

「では、失礼。わたしは、いただきます。うん、うまい!」

「マゼラン・ブレスレットに興味はございませんの?」

「そうですね・・・。見せてもらえますか?」

 麗は、右腕をテーブルに置いた。

「一言で言えば、見事な宝石ですね。美しいが、どこにあんなパワーが備わっているのか、まったくわかりませんね。わたしはビデオで見ただけだが、是非変身したあなたを見てみたい。」

「お望みなら・・・。」

 麗は右腕をゆっくり回し、ブレスレットを剣に変え、変身する。麗が変身しても、ワインを飲み、ステーキを食べる王雀鬼。

「すばらしい! 見事だ! 手品みたいじゃないか。」

 麗は、剣を振り上げる。そのとき、剣が細かく震えた。

「王雀鬼、間違いないわ!」

「そのまま剣を振り下ろし、わたしを殺すつもりですか?」

 落ち着き払った声で王は言う。

「ワインを飲み、悠ミヤビに食事をしているわたしを、剣の一振りで殺すほど、陽麗、あなたは残酷になれるか?」

 剣を持つ麗の手が緩む。

「陽麗、あなたは、もはや最強なのだ。わたしなど、いつでも殺せる。そのブレスレットは、美都ミヤビという日本人から拝借しているものだろう? もしそれを返すつもりなら、あまりにももったいない!」

「なにを・・・言ってるの!」

「あなたはモンゴル系、わたしは漢民族・・・。民族は違えども、同じ中国人というアイデンティティは持っているはず。わが母国が、かつてないほどの大国になるこのチャンスを、同じ中国人同士でつぶすのはもったいない! 中国を思う気持ちは同じはず、ただ、方法がお互い違うだけ。共通点を見出せば、お互いに歩み寄る余地はあるはずだ! わたしは、あなたに従う・・・。あなたに対抗するだけの力はない。ただ、そのマゼラン・ブレスレットのパワーを、祖国繁栄のために生かしてほしいのだ!」

「このブレスレットは、ミレニアム・レディ、ミヤビさんのもの。彼女が持っていてこそ価値があるわ!」

「果たしてそうだろうか?」

 王はワインを飲み干した。

「陽麗、あなただってブレスレットを使いこなしている。誰でも、それを使いこなせるとは思えない。あなただって、美都ミヤビに負けない能力を持っているということだ。わたしのやり方で、まずいとことがあったら指摘してほしい。あなたの指示に従う。わたしは、中国の輝かしい未来を実現したいだけだ。私利私欲のために動いているわけではない。あなたは、日本に肩入れしているようだが、世界の秩序から言えば、小国の存在にこだわるべきではない。中国と、そして世界の未来を思い描いてほしいのだ!」

 麗は、振り上げた剣を下ろす。

「具体的な話に移ろう。陽麗、あなたは、南北を統一し、国家元首として、新しい中国を作っていただきたい。わたしは、僭越ながら補佐に回る。できれば、外交を担当させてほしい。アメリカ、ロシア、イギリスと連携を取らせてください。」

「待って!」

「待ちましょう。ちょっと、食事の続きをさせてください。」

 そう言うと、王は残りの肉を食べ始めた。麗は剣をブレスレットに変え、ブレスレットをじっと見つめる。王はボーイを呼び、ワインを注文した。

「陽麗、あなたはいい人だ。心根が優しい。しかし、世界の大事を為すからには、心を痛めることも必要かと思うのだ。美都ミヤビを裏切ることになると、心苦しく思っているのだろう? その気持ちはわかるが、中国、世界のため、あなたがそのブレスレットを持つことは、決して罪ではない。」

「帰るわ・・・。」

 王は席を立つ。

「それは残念だ。今、シャンパンを注文したばかりなのに。」

「すべての軍部を返還してください。南京、香港を制圧し、新国家を建国します。」

「それを引き替えに、日本のことはわたしに任せてください。いいですね。」

「それは・・・。」

「日本が中国にしてきたことを忘れてはいけない。これから起こることも、千年後はただの歴史となる。あなたが気に病む必要などない。」

「しかし!」

「お願いがある! もし、よかったら、またこうして、美しいあなたとディナーを供にしたい。」

 麗は、王の瞳を見た。その瞳は、バンコクの夕日を浴びて輝いている。

 ボーイがシャンパンをグラスに注ぐ。王は、麗に目配せをして、シャンパンをゆっくりと飲み干した。

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