14 王雀鬼
香港。
中国海軍香港総司令部。ドーベルマン犬にエサをやるひとりの青年将校。
「司令官、軍部最高会議をまもなく始めるという連絡が入りました。」
青年将校は振り返り、笑顔を浮かべて言う。
「最高幹部のお年寄りには引退してもらいましょう。いちいち会議をしていたら、歴史が前に進みませんからね。」
爆撃機が香港から北京へ向かい、軍部を攻撃。軍の主要人物はほぼ死亡した。爆撃機に日の丸を描いて攻撃したため、日本による攻撃とメディアは報じた。
麗が推理したとおり、中国の新しい指導者は『王雀鬼』だった。王は、メディアの姿を見せず、『軍部』と称して国民にプロパガンダを行った。日本にいるスパイから、ミヤビが総理になったことを知らされていた。
「司令官、張が面会に来ました。」
「張? ああ、あの悪人面の・・・。かまわん、消していいよ。」
「情報があると言っていました。」
「それでは、聞いてから殺してしまえ。ここに通すな。わたしが行く。」
張は、客間で待っていた。王を見ると起立し、慇懃に頭を下げた。
「やあ、張さん。北京はどうでしたか? なにか情報があるとか?」
「日本では、小娘が総理大臣になったそうですな。」
「まあ、かけなさい、張さん。」
「その小娘、見たことがある。」
「そう? それはすごい。」
「名前は、美都ミヤビです。言われたとおり、日本人を捕まえて留置場に入れていましたが、日本人を逃がそうとする裏切り者がいると知り、調べたら、陽麗だとわかりました。」
「陽麗?」
「知りませんか? 陽教授の孫娘ですよ。」
「興味ありませんね。確か、考古学者でしたか?」
「数年前、わしは陽に、美都ミヤビを誘拐するように頼まれた。美都は高校生、修学旅行に来ていた。妙な邪魔が入り、美都は脱出、わしが捕まえようとすると、孫娘の麗が美都を連れて逃げ―。」
「もうよい! 話が長すぎる。日本の総理など、誰がなってもよい。」
「知ってますよ、東京の空爆が失敗したのを・・・。」
「それは、国家機密だ。張さん、それを知っているとは、侮れないね。」
「わしを消すつもりでしょうが、それはあんたにとって不利益だ・・・。」
「それは、どうでしょうか?」
「日本の総理大臣、美都ミヤビは、簡単に殺せない。中国軍など片手で壊滅させる力をもっている。」
「まさか・・・。言ったでしょう、わたしは―。」
「見たんですよ! 爆撃機を剣でぶった切るのを!」
「だめだ、頭がおかしい。病院に行ったほうがいい。いや、死んだほうがいい。」
王は拳銃を懐から出した。黒装束の賊が現れる。
「王雀鬼、わしを殺せば後悔するぜ。知ってるか? 『後悔先に立たず』」
王の額の血管がぴくりと動いた。
「日本の爆撃が失敗したのは、自衛隊が応戦したからじゃない。美都ミヤビが、戦闘機を切ったからだ。陽教授と麗が、美都ミヤビに不思議な力を与えたのは間違いない。そして、麗は日本に向かった。」
「張よ、あなたは、なにが望みだ?」
「日本だ・・・。日本を、わしにくれ。」
王は、にやりと笑い、ゆっくりと拳銃を下ろした。