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11 選挙法改正

 ミヤビが首相になるには、まず国会議員にならなければならない。

「憲法を改正するしかありません。」と僧坊秘書は言った。

「そんなこと、できるわけないじゃない。」と伊達秘書。

「ミヤビ姫、話しているうちに、相手の目がとろんとなって、言うことを聞いてくれそうだって、さっき言ってたでおじゃるな。」

「ホントですか? それ!」と僧坊が身を乗り出す。

 ミヤビは肯いた。

「はっきりとはわからん。そんな気がしただけだ。それも、このマゼラン・ブレスレットの威力だろうな。」

 恵比寿教授、僧坊秘書は改めてブレスレットに見入った。

「これが・・・マゼラン・ブレスレットか。」と恵比寿教授は言った。

「教授は確か考古学って言ってたよな?」とミヤビ。

「さよう。兄弟で同じ考古学。しかしこれも、兄の陽が仕向けたこと。」

「『推背図』の別冊資料、だろ?」

「陽が日本に留学したころ、わしは中学生じゃった。突然、腹違いの兄だと知らされ、驚く間もなく、『推背図』の予言を聞かされた。それ以来、大して興味もなかった考古学の本を読み出したんじゃ。」

「教授は、予言のことを、どう思ってるんだ?」

「わしは、兄の意志を継ぐために、ここに来たんじゃ。『推背図』の解釈は幾通りでもできる。わしも生い先長くはないが、この日本のために、兄の母国、中国のために、できるかぎりのことをしたいと思う。」

「ありがとう、教授。よかった。さすが兄弟。陽教授は、ここに生きているぜ!」

 ミヤビは笑顔で言った。

「近い将来、ミヤビさんが日本の頂点に立つのは定められた運命じゃ。きっと実現するじゃろう。それでな、わしは、マゼラン・ブレスレットに、なぜこのような力が備わったのか、研究しておる。博多の小さな研究所におるが、時々はミヤビさんの顔を見に来るから。」

「ここには、いてくれないのか?」

「ミヤビさん、うれしいことを言ってくれますのう。今日会ったばかりのわしを、そのように慕ってくれる。兄、陽のことがあるとはいえ・・・。やはり、あなたは、情の深い方だ。」 そう言い残して恵比寿教授は、にこにこ笑いながら帰って行った。

「僕は、すごい人のところに来たんだな。」と僧坊が言った。

「命もやばいわよ。逃げるなら今のうちよ。」と伊達。

「伊達さん、でしたっけ? なんか、やけにつっかかってきますね。」

「伯父さんも、なぜこんな若造を寄越したのかしら。文句言ってやる。」

「僕、帰りませんよ。ミヤビ先生の、第一秘書ですから。」

「なにいい! 第一秘書は朱里で、第二秘書は、あたしなのよ!」

「じゃあ、第二秘書でいいです。東京大学を二番で卒業した僕ですよ。僕の方がふさわしい!」

「二番だって! どうせなら、主席で卒業したって法螺を吹くぐらいの度胸を持ちなさいよ。」

 朱里は、ミヤビにレモンティーを手渡して言った。

「ミヤビ姫、第一秘書は、わしでおじゃるな?」

「なんだよ、朱里まで・・・。」

 

 僧坊は、国会議員に面会のアポを取り続けた。面会まで運ぶのは至難の業だが、ミヤビのお色気写真を同封し、議員のスケベ心をくすぐる作戦を取った。これが功を奏し、衆議院議員五十数名との面会を実現させた。

 地下会議室の円卓で僧坊は言った。

「ミヤビ先生と話をしていると、まず、その美貌に心を奪われます。これは、健常な男子であれば間違いなく、わかりやすく言えば、イチコロです。」

「イチコロねえ。古い言葉だわ。」と伊達。

「・・・。そして、話しているうちに、奇妙な酩酊感を感じるようになります。わかりやすく言えば、酎ハイを三杯飲んだくらいの酩酊感。」

「なんで、そんなことわかるのよ?」

「昨日実験したんです。ミヤビ先生と見つめ合って。」

「ちょっとちょっと、そういうことは、わたしに相談してからやってよ!」

「だあっ! もう、うるさい!」とミヤビ。

 朱里が会議室に遅刻して入って来た。

「どうしたでおじゃるか。はあ、眠い・・・。」

 がっくりうなだれるミヤビ。

「こんなスタッフで、大丈夫かな? 俺・・・。」

 ミヤビの脳裏には、麗の顔が浮かんだ。

 麗は、恵比寿教授の話では、中国の経済界で活躍しているという。陽教授の死はどんな気持ちで受けとめたのだろう。別れるとき、ケータイの番号を聞こうとして聞けなかった。またすぐに会えると思ったからだ。

「だから、議員の先生方にミヤビ先生が会いさえすれば、こっちの思惑どおりに事が運ぶわけだよ。」

「そんなにうまくいくわけないじゃない。」

「自民党の、堂本幹事長がポイントです。堂本先生を味方にできれば、来年、僕たちは国会にいます! 伊達第一秘書、ご協力、よろしくお願いいたします。」

「やっと立場がわかったようね。わかったわ。協力するわよ。って、わたしはミヤビの担任で、剣道部の顧問だったのよ。上海誘拐事件以来、ミヤビのために生きるって決めたの。あんた、途中から入ってきてさ、仕切りすぎよ。」

「わかりましたよ、伊達第一秘書。張り切りすぎて、ちょっと図に乗っていました。それは、反省します。」

「あら! 素直になったら、かわいい顔してるじゃない! 僧坊ちゃん!」

 ミヤビは、またため息をついた。


 僧坊の考えたとおり、ミヤビと面談した議員は、術中にはまった。被選挙権を二十歳からにしたいと要望したミヤビに対して、最初は『なにを馬鹿なことを小娘が』的な態度だったのが、面会が終わる頃に態度は一変、人が変わったようにミヤビに賛同するのだった。

 伊達の伯父、大河議員もすでにミヤビの虜となっていたから、選挙法改正は議員の間で話題になっていた。

 自民党幹事長の堂本は、さすがに一筋縄ではいかない。

「美都さん、といいましたね。被選挙権を二十歳からと言うのは、あなた自身のためですか?」

「俺・・・わたしも、国政に参加して、若い世代のために役に立ちたいのです。」

「そのお気持ちは、たいへんよい。ありがたい。しかし、ね、美都さん。若い世代には、まだ経験がない。国を動かすには、知恵と経験が必要なんです。だから、選挙法で三十歳以上となっている。わたしたちも、若い世代の声を聞き、国政に生かそうと努めておりますよ。」

 僧坊は落胆した。

「効きませんね、ブレスレット・・・。」

 堂本議員が中心となって選挙法の改正案の作成が始まった。五十六名の議員をまず味方につけた。

「五十六というのはすごい数です。この数で他の議員を説得すれば、改正案は通るでしょう。ただ、やはり安藤首相が賛成しなければ参議院で通過しない。堂本幹事長をなんとかしたいなあ!」

 僧坊は寝る間も惜しんで働いた。


 その日は突然来た。

 事件が起きた。

 防空圏で米中の爆撃機が接触。中国が米軍機を攻撃した。パイロットは無事だったが、日中米に緊張が走る。日米安保会議が東京で開かれ、それに対抗するかのように、中国でクーデターが発生。軍部が政権を取ったと報じられた。

「中国が、始めやがったぜ・・・。」

 ミヤビはつぶやいた。

 日米は、軍事政権の出方をうかがう一方で、思い切った経済制裁を断行した。中国から外国人が出国を開始。中国の軍事政権は日本人の帰国を許さず、日本の世論は戦争論へと過熱した。

 そしてついに、大規模テロが発生。

 ある日、朱里が叫んだ。

「国会議事堂が・・・空爆されたでおじゃる!」

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