10 選挙参謀登場
伊達先生が「手伝うわよ。」と言ったのには訳が有り、伯父が代議士の秘書だった。
伊達先生の仲介で、まず地元の代議士と面会、続いて県議会議員と会談。二年前の上海誘拐事件の知名度と、持ち前の美貌を生かして政治活動を開始した。
「朱里、おもしろいぜ。政治家と話してるとさ、相手の目がさ、だんだん動かなくなって、俺が言ったことにさ、従ってくれるんだよ。」
朱里はもちろんミヤビの第一秘書になった。
「それもミヤビ姫の能力でごじゃろう。」
「俺じゃなくて、これだろ?」
ミヤビはマゼラン・ブレスレットを左手で撫でる。
「それに、なんか秘密でもあるわけ?」
伊達先生は第二秘書に就任した。伊達先生には、朱里から説明した。
「ミレニアム・レディ? ミヤビが? わたしも、ミヤビ様と呼んだほうがいいかしら?」
「きしょいぜ、伊達先生。」
美都家は元々大きな屋敷だが、朱里が蔵から埋蔵金を発見。屋敷を改築、武装する一方で、選挙運動員を厳選確保した。
屋敷の地下に会議室を建築。選挙の準備を調えた。
「被選挙権は参議院が三十歳、衆議院が三十五歳、ミヤビは十八歳。さて、どうしましょ?」
伊達秘書は『政治家になるには』と書かれた本を片手にしながら言った。
「歳を誤魔化せばいいでおじゃる。」と朱里。
「年齢詐称は、ちょっとねえ・・・。」
地下の会議室は、まるで地球防衛軍の本部のようだった。電光の世界地図があり、主要国の首都が赤く点灯している。十数名が座れる円卓、そして通信機器、パソコンなどがある。
「来客でおじゃる。」
大画面のモニターにある人物が映った。
「知らないやつだ。」とミヤビ。
モニターに映った人物は、身分、経歴、犯罪歴などをコンピューターが分析する。
「僧坊です。」と人物は言った。
モニターに分析結果が表示される。
【代議士秘書 僧坊竜馬 東京大学卒 二十五歳・・・ 】
「僧坊? 思い出したわ。伯父が信頼できる秘書をひとり寄越すって言ってた。」
「すみません! 僧坊ですが!」
モニターの人物がやや大声で言う。
「短気でおじゃる、この人。大丈夫でおじゃるか。」
「おもしろい顔相をしてるぜ、この人。いいじゃん、通せば。」とミヤビは言った。
朱里がボタンを押すと、扉が開かれた。そのとき、マゼラン・ブレスレットがほのかに光る。
「ブレスレットが、なにかに反応した・・・。伊達先生、モニターを巻き戻して、スロー再生してくれよ。」
僧坊秘書が玄関をくぐるところで、その背後に素早く動く影が見えた。
「動きが速いな。いち、にい、さん・・・四人賊が入った・・・。」
「ミヤビ姫、本当でおじゃるか?」
警報が鳴る。屋敷内部のモニターに切り替える。柱に仕掛けた散弾銃が炸裂し、逃げ惑う僧坊秘書の姿が見えた。
「やばいやばい、利右衛門、自動防御システムを止めて!」
屋敷内の防御装置は、使用人の利右衛門が担当している。幸い僧坊秘書は無事だったが、突然爆発音が響いた。
「西方で爆発がありましたあ。燃えてますう。」と利右衛門が言う。
「やっぱり、中国から来やがったか・・・。」
ミヤビは世界地図で中国を見た。
「あの、張のやつね、きっと。」と伊達秘書。
「僧坊秘書は無事か?」とミヤビはモニターを見る。
伊達秘書は日本刀を帯刀した。
「ミヤビが出る幕でもないわ。わたしが片付けてくる。」
「頼むぜ、伊達先生!」
伊達秘書は地下会議室を出ると、エレベーターで屋敷に出た。僧坊秘書の身柄を確保しようとした伊達秘書だったが、僧坊秘書は賊の一人と応戦中だった。
「何者ですか! こいつらは?」と僧坊は怒鳴った。
伊達秘書は殺気を感じ、刀を抜くとそのまま下から刃を振り上げた。天井から襲撃した賊をひとり切った。
「僧坊さんとやら、やるじゃない。互角に渡り合うとは。」
そう言う伊達秘書に賊が仕掛けてくる。応戦する伊達。
「少林寺憲法なのに姿は忍者。このスピード、只者じゃない!」
僧坊は賊に頭突きを食らわす。
「きれいな顔なのにやることはえげつないだろ? 頭突きは僕の必殺技だ。覚えておいて損はないぞ。」
「危ない! 僧坊!」
モニターを見ていたミヤビは、マゼラン・ブレスレットをモニターに向けた。ブレスレットから放たれた光線はモニターに吸い込まれ、僧坊を背後から襲った賊へと突き刺さった。「ミヤビ姫! テレビに映った賊を倒したでおじゃる!」
「これ、なんでもありだな。少し怖くなってきたぜ。」
利右衛門がコーヒーを飲みながら叫んだ。
「爆発したとこ、スプリンクラーで消火しましたですう。」
「様子を見てくるか。行こうぜ、朱里。」
ミヤビが屋敷に上がると、伊達秘書が四人目の賊を倒したところだった。
「僧坊、俺がミヤビだ。よろしくな。」
僧坊は、息を整えてながら会釈をした。
「こういうのは嫌いじゃないので、楽しめましたよ。美都先生、選挙の参謀としてはいささか若輩ではありますが、きっとあなたのお役に立てると思います。」
「それは、今、証明されたぜ。」
廊下のスピーカーから利右衛門の声が響いた。
「ミヤビ様、また来客ですう。」
「張め、また性懲りもなく・・・。」と伊達は戦闘態勢に入る。
そんな伊達をミヤビは左手で制しながら言った。
「賊じゃない。にこにこ笑ってるぜ。」
「顔を見てないのにわかるでおじゃるか?」と朱里。
屋敷に通されたその人物は、意外な人物だった。
「陽教授!」とミヤビは笑みを浮かべて言った。
老人は、確かににこにこ笑っていた。
「こんにちは。おっと!」
老人は素早く杖を投げ、賊のひとりに命中させた。賊の手から、拳銃が落ちた。
「あれっ! さっきチェックしたのに、どこに隠してたのかしら。」
伊達は賊にとどめを刺す。
「ありがとう・・・。あれ、あなたは、陽教授じゃないのか?」
「やはり似ておりますかな?」
老人はそう言って座敷の椅子に腰を下ろした。
「失礼しますよ。最近、めっきり足腰が弱くなってな。ミヤビさん、わしゃ、陽の弟じゃ。母親が違うがの。」
「弟?」
「恵比寿と申す。陽から、電話がありましてな。いよいよ、その時が来たから、と。あなたの手助けをするようにと、言い残しました。」
「言い残した? どういうこと?」
「亡くなったのでおじゃるな?」と朱里が言った。
「朱里、ふざけたことを言うなよ!」
恵比寿と名乗る老人は、それほど悲しい顔もせずに言った。
「死んでしまいました。」
「張のやつにか!」
怒りを露わにしてミヤビは言った。
「いやいや、政府に刃向かった罪で幽閉されていたらしいがの、それまでの功績もあったんで、まあまあ、いい暮らしぶりじゃったようだ。老衰じゃよ。あれも、百歳を越えておったからのう・・・。」
無表情になったミヤビは、しばしうつむいていた。
「恵比寿、さんとかいったわね。あなた、どういう人なの?」と伊達が訊いた。
「わしは、九州大学の教授をしとる。兄、陽と同じ考古学が専門じゃ。」
「麗さん・・・。麗さんは、どうなった? じいさん、知ってるか?」
「ミヤビ姫、この方は教授でおじゃる。」と朱里。
「かまわん、かまわん、じいさんでよかばい。麗ちゃんは、元気にしとるそうだ。会社を経営しとったが、これがまあ、でかくなって。経済界のトップにいるそうじゃ。」
「よかった・・・。」とミヤビは言った。
利右衛門が地下会議室から出てきた。
「ミヤビ様、賊を片付けますので。」
「わかった、下に戻る。恵比寿教授、僧坊先生、先ほどは失礼した。これからよろしくお願いするぜっ!」