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欠落百合姫のステイルメイト  作者: 島村時雨
第一章 立花鳴海の一週間
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第九話 支離滅裂のティータイム

 

 知らぬ合間に姿を消した少女、藤咲真弓を探すのに、言葉など要らないのかもしれない。


 ただ見付け出す。たったそれだけの協力で夜桜香織と共に行動する立花鳴海だが、協力する部分にどこか懐かしく感じながらも、心に残るものならない。


 単純に共感すれば、きっとそれは素晴らしいのだろう。


 でもその過去には敵うものではない。非力だった自分を越えるために努力してきた数々は、結果として表に現れる。それは自分を絶対に裏切らない。裏切るのは努力や天才を非難する者だけ。


 他者を非難する者には慈悲は与えない。


 そして、助けを求める声に背を向けるなど、慈悲は決して来ることは無い。



 香織と共に行動した鳴海は微かに開いていた扉を躊躇なく開く。すると視界に広がる光景には、鳴海の部屋にあるベッドに腰掛ける真弓がいた。


 対して彼女はこちらに気付き、肩を竦めて微笑んだ。それはまるで初めから鳴海達がここへ見付けるのを待っていたかのように。


「鳴海くんこんにちは」

「やっぱり君の事を疑って正解だよ」


 今すぐ問い質すと思いきや、鳴海はため息を吐きながら呆れてる。怒らないの? みたいな反応をする少女に対してお返しに肩を竦めた。


 平和なティータイムを挟み、その隙に起きた行動というのは才能の何かに等しい。というか普通の人がしない行動なのでそこまで読める事が出来たら苦労しないのに。


 悪意がなくても悪辣である。こういうの親戚にいそうな人はいるけれど……。


「あ、真弓。こんなところにいたのね!?」


 信頼できる親友がここまで暴走するとなると流石に驚いてる様子。まだ夏は先なのにこめかみから汗が滴るほどの苦労は一様しているのだろう。頑張れと念じてみた。届かないけど。


 それでも列なる氷山のように涼しい顔をしている真弓に問う。


「なんでここに辿り着いたんですかね」

「道が分からなくてたまたま階段を見掛けたから大丈夫かなって」


「真っ直ぐ進めばそのまま玄関ですよ! 言い訳できない理由の癖が凄すぎ」

「でも見付けることは出来たでしょう?」


「この、完璧なプライベート空間にピンポイントで見付けるとかどんな凶運の持ち主だよ。方向性を狂ってるだけで。誰が面白いことを言った!」


 滅茶苦茶すぎて打破できていない。鳴海は椅子に座り二人の方へ回転させる。そこから首を傾げてみせても目が正気ではないのはホントうんざりしてる様子。


「友達でもないのにどうしてこうなった……?」

「なんだかこっちが悪者みたいになっているわね……」

「いっそ友達になる?」


「最後に捨てる友達なんて死んでもいらないよ······」


 まさか自分の部屋までやってくる真弓の精神には読めなかった。


 一体どういう神経をしていてこの余裕もて余す少女。もう引いてしまったが、まだ信用できる香織がいるだけで細い綱に必死で渡るというどんな体育系番組をしてるのか。


 訳が分からなくなったのでついどうでもないことを呟いた。


「だったら百合でも夜桜さんを友達にするけど」

「ちょっ、なんで、百合とか要らなくない!? 普通と友達とかなれないのかな?」

「いやいやいやー、男友達はタブーでしょ」


「そこは聞いてよ!」

「とにかく、今は何かしらの対応が必要なのよね」

「「言える立場間違ってない?」」


 鳴海と香織がハモったところで一旦休憩し円形のテーブルに集まり、会議を開会した。

 まず香織は尋ねた。


「これは何?」


「流石に監視するのはつまらないと思うのでまずは他人の目から違和感がないように、まずは役を設定するところから始めようと藤咲さんが提案したので僕は賛成してる途中」


「役って雰囲気が良かったのに余計に堅苦しくなると思うけど……」


 そこは真弓が理由を述べる。


「なぜ私が提案したかと言うとね、鳴海くんと友達になったら色々面倒になるから、あくまでも仮の友達でいたら両者リスクは減るしストレスにはならないと思うの」


 禁断の愛を育んでいた百合に男友達は不要であって、一様概念がない世界観と市場はそう決めている。暗黙の了解といったもので、リア充は天敵みたいな関係のようなもの。あれ、百合もリア充じゃないか?


 しかしかっこいい美少女はイケメンと例えられる。某歌劇団みたいにな。


 もちろん、現実では存在しない。


「(百合には百合、常人には時間を)」


 こちら側のプライベートを表に出さない方が最善の答えだった。

 しかし聞こえていたのか抗議してきた。


「百合って言うな! っていうかそれこそ面倒な話よ。いちいち空気を読むとか私自信がないわ」


「え、普通に内輪モメもあるよ?」

「ホントあなたと真弓って気が合わないよね……」


「合うのは方針だけね。そうでしょ? 鳴海くん」

「方針とかじゃなくて僕は最善の選択肢と道理に沿っているだけだよ」


「……つまりどこも合っていないのね」


 それはそうとも。裏切るような相手に信用という概念は要らないのである。

 容姿がどれだけ良くても絶対に友達になりたくない。


 というか百合の友達なんていらない。


「とにかくこれは三人の秘密の領海とする。約束だ。僕は当然他言しないよ」

「私も、鳴海くんが怪しい行動をした瞬間に痴漢として通報するから」

「多分無理だよ。理由はとにかく、もし学校に転校してきたら絶対に気絶するね」


「そこまでする努力はしないわ」

「……」


 香織だけが会話の中には入らずただ黙っていた。どこか抵抗に感じていて、結構悪口を言っているのにも関わらず、屈しない笑みを見せる鳴海と真弓を見て自分だけが違う場所に立っているようだった。


 どこか違和感を覚えて。

 心の中から沸騰する熱が著しく冷めていく。

 そこから未だに感じたことのない何かが目覚めるようで。


「夜桜さん?」


 ふと気付けば鳴海はこちらに心配そうな顔を向けている。平常心でいないといけないのに相手を困らせてはいけない。何ともなかったように香織は笑顔を振る舞う。


「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事していたわ」


 どこも暗そうな雰囲気が一切しなかったので鳴海は確信して頷いた。


「よし、この話はこれまでにしよう。今思ったけど妹が帰ってきたら厄介事が増えるから」

「私達が厄介に聞こえるわ……」

「そう聞こえるだけです」


 新たな存在の意味にガラス越しの景色を見ていた真弓は言う。


「そういえば妹さんは部活とかやっているの?」


「んー、一様テニスをしてるんじゃないか。まだやっている時間帯だし、日が暮れる頃には帰ってくるからその前に帰ってもらえると理解したいかな」


「分かったわ。私も鳴海くんの生活に無理に入る事はしないと約束するわ」

「そこは決してだろ」


 なんで入ろうとする。とあまり意識すると終わらないので内容には関わらない。スルースキルが上がったのも彼女達のおかげなのは釈然としない。


 感覚の鋭い香織は何かしらの違和感があるのか怪訝そうに、


「? どうかしたの?」

「別に、何でもないよ」


 笑顔をするが正直ここまで疲労を感じたのはいつだったのだろう。香織と真弓と会ってざっと二日しか経ってないのに、受けた刺激の負担が大きい。あのスタンガンのせいだ。


 頭が重い。くらくらする。紅茶を飲めば少しは休めるかもしれない。


「一階に戻ろう。まだ紅茶残っているだろうし」


 香織はもう一度アールグレイが飲める喜びからかとても嬉しそうに明るい表情をする。その反応は輝きがあり親しみのある印象がそこにはあった。


「そうね。名残惜しまないようにしっかりと紅茶を飲むことにするわ。今更だけどこんなに美味しい紅茶を飲めたことは感謝しているの。本当にありがとう」


「夜桜さんって紅茶とかコーヒーが好きなんだね。こういうのは……」


 少し目線を外しながら頬をほのかに染めている香織に鳴海は間を置いた。


「こういうのは母さんに感謝しないとね」

「?」


 特に深読みする内容ではなかったが、実に引っ掛かりそうな言葉だった。

 十割で母が作った紅茶が鳴海を助けているとは絶対に言えない。


「よし、それなら行こうか」


 先導して立ち上がる鳴海に続いたのはここまで無言で聞いていた真弓であった。


 どうやら賛成のようで真っ直ぐ立ち上がった真弓は凛々しく、それで可憐さを表に出して素直に告げる。


「私も鳴海くんの意見に異議はないわ。私も香織も同じようにあの紅茶が好きになったの。せめてだけど、もう一度風味を味わえるのなら歓迎するわ。それも今のところ飲まないと、もったいないから」


「まず始めに家を荒らすなと言ったんだけど」

「でも、こうして楽しくしてるじゃない」

「た、楽しい?」 


 昨日から今日に至るこの許されない会話で、一度も楽しいとは思わない鳴海。日常が崩れてしまいそうな状況の中で維持することだけでも至難で精一杯なのに告げられた言葉には納得がいかない。


 前提に友達とはなろうとはしない。

 彼女達には彼女達なりの人生がある。同じにしてはいけない。


 先に廊下へと歩いていった真弓の後ろ姿を鳴海は追うことに無理があった。未だに考えてどうも正しい結論が思い浮かばないのだった。


(これが楽しいとか、本当に見えているつもりなのか)

「……」


 そんな険しい顔をしていた鳴海を、香織は見ていた。


 優秀で優柔な部分は若干否定したい。けれど自分の問題に触れてみると立ち止まったように動かなくなる。そう、まるで想像でもしなかった出来事には危惧しているように。


 どこか似ている。

 だから思うところがある。そしてなんとなく伝えた。


「でも、立花くんが優しい人だったから、私達は笑顔でいられるんだと思う」

「一様保証されてるからな」


 どうしてそんな結果になるのか分からない。


 完璧な答えを導くためには最善の選択肢を選ぶものなのに、この展開には想像を絶した。思う通りにならない結果に、鳴海はどこかで急に冷めた気がした。


 今までの行動の意味が理解する。


 誰にでも対応できるように培ってきた会話の技術。それは疑うための判断じゃない。単純な意識だけで人助けをしていた理由が相手を救うことになっていた。だからこれまでしていた意味は自身のためでもなく、まして最善の答えでもない、当然のことをしていただけだった。


 自分も救われていて、彼女も救われる。

 鳴海でさえ知らないところを気付いた香織は置いていくように身を翻した。


「それから、私を信じてくれたら、嬉しいかな」


 颯爽と姿を消した。ただ一人鳴海は自分の部屋に残されてしまった。


 何かをすれば、歯車は狂う。

 拳を握れば、その意識は頑なに揺るがない。


「……百合は正義なんだ。絶対に関わってはいけない存在なんだ」


 どうもその揺るがない意思は単にアニメの常識に偏り過ぎているだけだと本人には気付いていないらしい。けれど最も笑顔で終わる事に切り替わったのは彼女達に覚えさせられるものがあったから。


 そこには必ず答えがある。変わりはない。

 とても気乗りしないほどの長い時間を掛けて。


(彼女達が諦めるまで、何度でも会ってやるさ。どんなにその道が長くても答えは必ずある。時間潰し。それでいい。でも、それが終わらせることが出来るのか……?)


 訝しく自分の部屋から出たものの、ため息しか出ない。これ絶対にストレスになると確信してしまう辺り、余裕は感じられない優しくない世界。


(嫌だな。明日も続くとか辛いかも……)


 ふらふらと貧弱そうに歩いていくその姿を見れば情けなく思えるだろう。誰もが経験したことのない領域を攻略するのに負担がどれだけあるのか。


 せめて貧弱な姿を見て心配を掛けたくない。


 何としても平常心でいられるよう、再びダイニングルームへ足を運ぶ。辿り着いた鳴海に一ヵ所に集中するティーカップが置かれたテーブルが目に入った。


 故意に向きが変えられている事に気付く。

 そこで振り向いた香織はこちらに向ける。目が潤んでいた。


「ど、どうしよう。真弓が、誰のか分からないよ······」

「犯人誰だかそんなの分かっているからな!」


 流石畜生百合。勢い良く指を差された真弓は何てこともなく椅子に腰掛けていた。素朴ながら香ばしいビスケットを小さく食べながら、ふと呟く。


 薄く細めた瞳の中に鋭い光がこちらへ向きながら、


「少しでも、せめて感謝したいのだから私も心を込めて二人に紅茶を淹れようと思ったの。けれども、……私のした事がまさか誰のティーカップなのか忘れてしまったわ」


「普通に注ぐだけでいいのに絶対面白いからやってるだけだろ……」

「でも心配しないで。私はちゃんと覚えているから」

「やっぱりそうじゃん! ペテン師過ぎる!」


 頭を抱えてうーと唸るしか出来ない。余計な問題が増えるばかりで何も進展しない。というか嫌な予感しかしなかったのは出会った全てで分かっていたのに、もしかして呪われているのか。


 しかし深く考えるものではない。

 立場上断然ホームになのは鳴海の方。ここから巻き返すだけだ。


「仕方ない。新しいのを用意して……」

「妹さんが帰るまで居続けようかしら?」

「よーし、頑張るぞー」


 いきなり挫かれた。

 渾身の笑顔を浮かべて言っても内心はボロボロである。もうどうでもいいや、というほどに疲労感がさらに積み重ねるのであった。


 今更ながら何も変わらぬ当たり前の日常より刺激がある。

 それも退屈のしない、散々な一日になりそうな予感が鳴海には薄々感じていた。 



 さあ、時間稼ぎしかならないゲームの始まりである。

 と早速始まってみたものの、


「うーん、これって考えてみたら僕だけが当たっても問題にはならないかと」

「なっ!?」


 何事にチャレンジ。どんと来い、超常現象。ゲームには得意とする鳴海は思慮深い様子でなんとなく言ってみたら、香織は顔を真っ赤にした。


「この状況でも普通は恥ずかしいところでしょ!?」


「その所は他人有意義なんだろうけど、どうなんだろうね。女の子同士でも弁当は食べられるのにこの場合では無理とか。まあ、ランダムに誰のか分からないティーカップを選ぶのには抵抗はあるし選びたくない。ごく自然の意識さ」


「枢軸を言われてもわ、私は、は、恥ずかしいよ!」

「これじゃあ何もできない。こっちも飲めたもんじゃないし……」

「そうよね、た、立花くんも抵抗はあるもんね」


「いやいや、そんな相手は話にならないよ。ただでさえ百合だから全然チャレンジどうのこうの僕はただやりたくない」


「理由が偏見的過ぎる!」


 何かを求めていた方向が叶わなくていよいよ泣きそうになる香織。乙女の心境として危惧するものを察知する。分かったら分かったで間抜けに気付く。


「あ、分かった間接キス駄目だ!」

「今まで何を思っていた!?」


 とてもアホっぽい感じになっていたが、こう考えてみると羞恥より焦りが急に強くなる。あれ、百合の間接キスは完全にタブーであることを越えて、常識ってなんだっけ? 一瞬分からなくなる。


 なにこれこのシチュエーション……。


「ね、ねえ、さっきの自信は……?」


「あはは……、僕だけ勝ち抜けてもいいですか?」

「むしろ確信してるし!?」


 全くもって未開拓の領域だった。どうやったら新世界に辿り着いたのかさえ知る由も無い。

 勝手に確定する鳴海では頼りにならないと香織は行動を取る。


「と、とにかく真弓からヒントを出してもらうわ」


 しかしこれらを目視していた真弓は猛烈に有終の美に浸っているようで、足を組ながら一人だけ微笑み笑ってた。


「そんなの茶番よ」

「うわ、君の友達酷くない? 紅茶だけあって茶を濁してるよ……」


 改めて真弓という少女を知った気がした。単に男が嫌いじゃなくてこれが性格であると証明する。嫌がらせを超越した何かに一番の被害者は鳴海ではなく香織だと思う。唐突の身内攻撃。


 これは人間不信にもなるな。


「……ねえ真弓、ヒントをくれないの?」

「それはどうしてかしら? ただ私はあくまでもクイズとしてやっているのだけど」


「考えてみなさい。私達がしている行為では秘密を知っている彼を本気になれば世間にバラす可能性のあることを知ってる?」


 確かに言った気がする。


 いつでも脅迫できる立場にあるのは鳴海だという事を。それを知りながらも鳴海は常時にまで脅かさなかったのには良心のある人だからこそ、人のプライバシーを守り、関わらない程度で今に至る。


 理由として信じているからだろうか。

 だが彼女はこう捉えているようだ。


「も、もしもの話よ、あんまりいじめたら非行に走るかもしれない。……あんなことやこんなことも、き、脅迫で何をやらせるか、分からないのよ……ッ」


 自身でも言うのが恥ずかしかった香織はもじもじと挙動不審をしているのを、黙ってみていた鳴海は興味というよりも、あるべき思考に戻った。


 冷静さを保つ意識は鳴海らしい行動を示す。


(誰が手を出すかこの欠落百合め……! 後で切り捨ててやろう)


 中庸な立場を取り戻すと彼女達に向ける目付きが完全に殺気を放っていた。この事態を終わらせる切り札があるため冷静にいた。それをチラチラ見てた香織は意味不明に目線を送る。


(なんで怒っているの!? 男の子の考える事は分からないけど、この気迫はもしかして……)


 お互いの示す道は誰も乗らない。

 そして各々は決める。


(藤咲さん、最悪なシナリオになる前に僕にしか知らない答えがあることだ!)

(フフ、どう打開してくれる? 鳴海くん)

(今すぐに、止めなきゃ……!)


 双方が叶わないものだど思い始めていた時に、急な意識の温度差があった。思い通りにならない現実に諦める形で悉く時間を過ぎようとしていた、その瞬間に明らかな変化を生み出すきっかけが現れた。


「立花くん、ちょっとだけ、私を見て」


 気付いたのは鳴海だった。

 諦めて自身の選択で決めようとしていた。それを越える別の意識に、心境は理屈が通じない。


 だけどその含まれる意味に皮肉に思考が真っ白になっていた。


 ただ単純に香織がメガネを外しただけの行動の先にある景色、その容姿はどこまでも澄みながら綺麗だった。


 明らかとなる容姿端麗はまるでどこかのお嬢様の気高く、それでいて誰でも愛しい心を持っている。そう、目の前にいる少女は認めてしまうほどとても綺麗で、とても可愛くて、そして遠い場所に立っていた。


 それから、どこかで見掛けたような覚えがいる気がした。

 だがそれは曖昧で分からない。


(んー……? 僕は、一体何を見せられてるんだ……?)


 鳴海にとってそれらの意味が分からなく、意味不明。対して何かに気付いた香織は身を縮めて恥ずかしそうにメガネを掛けては鳴海を見ていた。さっきとは違う何かがあるのに意識は言うことを聞いてくれない。


 目が合う中でそれを強制的に終わらせたのは俯けにティーカップを取った真弓だった。


 小さくとも声は静寂に包まれた部屋に響かせる。


「……私はこれを選びさせてもらうわ」

「あ……」


 香織は横にいる真弓の行動に驚いて声を出してしまっていた。その拍子で鳴海は忽ち正気に戻る。すると、ぶわりとざわめくこめかみに透明な滴が伝う。けれど視線をティーカップに戻して手元に収める。


「それなら、僕はこれで」

「……」


 心の中では動揺していたのを、香織は然りと見ていたのだろうか。

 こめかみを押さえては考える。


(その名門校の制服、そして名前、初めて聞いたものじゃない気がするけど、勘違いかもしれないな)


 違和感が拭えない。むしろ謎が増えてくる。

 変に感覚だけが覚えてる。なのに途中に引っ掛かってしまう。けれど鳴海は次に向けて冷静さは取り戻していた。神妙な雰囲気を変えさせる力は前からあった。


「……意外とせっかちなんだね、藤咲さんは」


 ニヤリと笑うと真弓はこちらを向いた。その表情に少なくとも焦りが出ていた。


 だがそれを隠そうとしない彼女なりのプライドがあるのか?いつもの涼しい笑みを返した。百合さえ関係のない意地はまるで目の前にいる人物に負けたくないような。


「そうかしら? 私は長ったらしい茶番を変化を与えようとしただけの事よ」

(イライラしていたと留めておこう)


 思う出せそうにないので素直に諦める。今は目の前に集中する。

 女の子を怒らせると怖いのは分かっている。その理由はなんとなく分かる。


(これまでの行動を照り会わせてみると、やっぱりきみだったんだな。どれだけ持て余す力に溺れていたきみに今の行動で晒していたと)


 どこまでも余裕を見せる鳴海に、これらを見ていた香織は彼の至る行動に驚きを隠せない。

 まるであらかじめ理解していたみたいに。


(なんで彼はあれだけ余裕そうにしてるの……? まるで答えが分かったみたいな、挑戦する前から自分が使ったティーカップが分かっていたの?)


 残る一つのティーカップ。誰が飲んだのか分からないのに抵抗がなかった。


(あ、あれ? どうしてだろう。全然、緊張しない)


 ふと気付いたら鮮明に見えてくるものがこちらに向けてくる二人の視線。

 色褪せない瞳と何かと奥で微笑んでそうな瞳が期待を寄せて香織を見ていた。


「え、ええーっ!? ものすごく期待されてるー!」


 先に行動させまいと双方は睨み続ける。ティーカップを持ちながらも飲まないのは香織が持たないと始まらないといけないみたいで、その裏に何らかの作為があるのを、香織は純粋で気付かない。


 でも、それでいいと思ったのは鳴海だ。


(藤咲さんが見方がなんなんのか分からないけど、微かな焦りを見せた。僕が二番手にティーカップを持った所。だったそれだけ)


 分かるものは一つ。先に真弓はティーカップを選んだ。本当は二人に選ばせるようその時間を楽しむつもりだったのだろうか、予想をしなかった出来事で狂った。


 運が悪い。

 しかしその運は鳴海を味方をする。


 この静かなる攻防戦に動き出したのは、前者の真弓だった。


「ごめんなさい、やっぱり選び直すわ」


 困惑そうに告げたものの鳴海に見せた一瞬の表情が、笑みを返していた。


(そう来ると思ってた!)


 やっぱり真弓は曲者の権化であった。変化の消えた空間に強制的に流れを生み出す一手。その悪辣な趣味は混沌に導くもので、始めからそのつもりでいない。


 やりたいからやっているのだと知った。

 だが、あくまでも個人の意見に過ぎない。


「あ、ごめん。持っちゃったけど……」

「よしこれで決まりだな早速決着を着けようか」

「え、ちょっと待って、判断し損ねたわ。せめてだけどティーカップの交換はしてもいいと思うわ。流石に権利はある」


 すんなりと香織が取った行動で本気で困る真弓。

 その会話を聞いた鳴海は全ての条件で優勢に立つ一撃を決める。


「権利とか今更何を言うか。そんなの甘いまやかしだよ。……ところで夜桜さん、交換したらまさしく百合ですよ。恥ずかしいんだろ、あなたはそれでもいいのかい?」


「完全に脅迫してる立場よね!?」


 百合とはいえ、女の子同士は飲めるものなので普通と思うが、自覚をすると飲めない模様。なにそれ、言葉だけでも反応して周りが見えなくなりそう、危なっかしい。


 だから戦局をひっくり返してしまえばいい。


「自分が決めたことなんだ、自信持った方がいいよ?」


 そう言って見せると呆気なくアールグレイを飲んだ。全部飲み干してしまう結果に香織と真弓でさえ羞恥を越えて忘却するしかなかった。


 イレギュラーの存在が状況をひっくり返す。


 確信していたからこそ鳴海は行動を取った。しかし香織は消えない不安で恐る恐ると一気飲みした彼に尋ねた。


「もしかしたら違ったりして……?」

「間違いなんてない。自分が使ったティーカップだから問題ないよ」

「その前になんで鳴海くんはそれを選んだの?」


 とても怪訝そうにしている真弓に鳴海は嫌みなくありのままの事を話す。


「このティーカップはアンティークにしてオーダーメイドなんだ。装飾の中に数字が入っていた。ちなみにその数字は3。小皿にも数字があってバラバラに置かれていたけど、問題じゃないね」


「怒っていたんじゃないの……?」


「いや、最初から答えを知ってたから。でもきみがいきなりメガネを外してきたからさ……、あれって何の意味があるの?」

「な、なんでもない」


 別に絶望を覚えることはなかったものの、なんとなく真弓の意地悪に乗った。それが少しだけ楽しんでくれたならの感覚で過ごしていた。鳴海が分かるものなら真弓は気づいているはず。


 知らなかったでこんなことはしない。


「ふぅん。見掛けに寄らず、やるわね。鳴海くん」

「単なる紛れだよ」


 最後まで聞いた真弓は頷く。納得した上でゆったりと鳴海を見つめてきた。どう答えればいいのか分からないのでとりあえず微かに苦笑する。


「そっか、そうなんだ……」


 一方で納得の理由に安堵を浮かべる香織は大きく息を吐いた。安心しきって渇いた喉を潤すために紅茶を一気に飲んでいく。無事に飲み干すと笑みが戻る。


「安心したからなのかな、とっても美味しいわ」

「それさっき聞いたさ」


 ようやく呪縛たる時間を乗り越えた。肩の荷物が取れた気がして内心では撫で下ろしていた。しかし未だに飲まない真弓の異変に気付く。


 ティーカップを覗いて、表面に映る自身の顔を見ている彼女の静かな瞳を見て。


「あ、ちなみに確認なんだけど二人が持つてに振られている番号は何かな?」


「え? 1だけど」

「あー……、そうだったのか……」

「と、突然何!?」


 恐ろしく鳴海が困惑するためか黙っていられなくなった香織。冷ややかに行動が薄い真弓にも反応は察してくれない。可哀想だから言ってみた。


「実は1が藤咲さんで2が夜桜さんだったんだ。まさかきみが誤って持っていたなんて知らなかったよ。別に問題じゃないよね?」


 のほほんと言うがやはり地雷に変わった。


「嘘でしょ、こ、これは真弓が飲んだティーカップ……」


 何故顔を真っ赤にするのか分からなかった。華奢な体は震えていてどちらとも向けられないのかティーカップを凝視していた。動揺していてかつ意識し過ぎている。たかが飲んだくらいで……


 しかし飲んでしまったのでどうにでもならない。


「や、女の子同士なんだから平気なんじゃ……」


 励まそうとしたら、本当に泣きそうな雰囲気を漂う様子だったので告げる言葉が詰まってしまった。どれだけ百合に意識しているのやら。


「はぁ……」


 すると何かを感じ取った真弓は同情のため息を吐いた。手助けすると思いきや香織の前に手を出して、渡す。


「もう、要らないわ」

「せめてフォローしてやれ!」

「そろそろ時間なのだし、これ以上飲んだら夕食を残しそうだから」

「う……っ!?」


「うーん、正しい事を言っているのに刺があるみたいな……?」

「ほう、その言い方だと欠落しているとでも?」


「出会ったときから欠落してると思いますよ?」

「それじゃあ鳴海くんもね」


 突然の両者の清々しい笑みを浮かべる。椅子越しで共に握手した。忽ち深い頷きの後、謎の感動が生まれる。しかし意味はなくて頭上にはてなマークが浮かぶ。


 一方で何かを留め切ったのか香織は俯いた顔を前へ向いた。その瞳は燃えたぎる意志があるのではないかと思うぐらいに揺るがない自信があった。


「ようやく決心した。明日も行くと決めたわ」

(どうしてそうなったんだろう……?)


 見るに堪えないこの自信に満ちた笑み。一体どこに目を向ける要素があったのか尋ねたら怒られそう。と思っていたら香織と目が合い、彼女は言葉を告げる。


「まだあなたを信じられる要素は少ない。でも私はもっと知りたい。だって、あなたっておかしいもの。本当におかしな人……」


 微かに笑っていて、一体どこが変なのか知る由もない鳴海は訝しくなりそうだった。おかしいのは彼女達でもあり自分にどこが変な要素があるのか、見当も付かない。


「変なところって……、癪に触るものがあったのかな」

「あ、変態という事じゃないわ」


「ペテン師が言う事は違いますね! とにかく、紅茶を気に入っただけでも嬉しい限りだね」


「本当は紅茶だけかもしれないわよ?」

「藤咲さんには聞いてないよ」

「むっ……」


 すると途端に不機嫌に頬を軽く膨らます真弓。どうやら無視とか素っ気ない態度に対して反応するらしい。大体最後に裏切るという要素を出していた彼女が悪い。


「確かにこの紅茶は素晴らしいものだわ。何度飲んで飽きないしそこから深い苦味が出ている。正直これを飲めるあなたは羨ましい」


 ここまで褒め称えるなんて母の作る紅茶は認めるほどだった。誰かに飲んでもらいたい気持ちで溢れそうになるくらいに鳴海は嬉しく思う。しかし真弓は飲まない。


 しかしながら香織と真弓の動作にはそれぞれの礼儀と作法が正しい。中身は百合であるが。お嬢様高校の生徒とはいえ、華やかなオーラは全く色褪せない。


「……なんだか、本当にお嬢様ぽいよな」


 何となく呟いたら聞いた二人は目を合わせた。すると小馬鹿そうに笑ってみせてくれる。嫌とは思わない軽やかさを含んで。


「ふふ、私と香織は同じ高校ではないのだけれども、鳴海くんが言うお嬢様のこうは間違っていないわよ。環境の中に居たら自然とそうなるわ」


「でも本当にいるんだっけ」

「確かにいるわ。飛びっきり秀でた人とか少なくないわね」


 本物のお嬢様とは一体どのような性格で信条を貫いているのだろうか。一度は会ってみたいが、どんな人か分からないし噂で聞いた話に過ぎない。


 そもそも立つ場所が違う。

 やはり見たことがあるのだろうか香織は分かった顔をして言ってきた。


「あなたが思う高飛車な人はいたわ。てもね、根はね……」

(気高いお嬢様とか普通に近付きたくないわ)


 鳴海が思う最も理想とするお嬢様、それはもちろん清楚で優雅な人に限る。しかしこれらはつまらない幻想。思うより他に集中した方が都合がいい。


 紅茶とお菓子を与えてしまえばどうってこともないのは分かった。

 消費はどうなるのかな。


 なんて思っているとようやく香織は立ち上がった。身なりを整えていると真弓も知らない内に立っていた。


「……そろそろいいかしらね」


 笑みが浮かびそうになったが彼女の表情に剣呑が走っていた。


「最初は疑うしかなかったけど、分かってくれる人だった。……けれどね、その微かな疑いがあるとしたら私はきみを糾弾する。心の奥で思いなさい」


 だから脅迫する立場が違うとあえて言わないのは実に紳士である。


「……深情しとくよ」


 どれだけ状況が意趣返しにひっくり返っても、抗い続ける。


 日常を取り戻すまでは、その先にあったであろう時間を潰してでも野心は消えたりしない。


 負けたくないという精神が鳴海の気力を取り戻す。


「さて、お客様をお返ししますか」


 改めて決意を固めて速やかに立ち上がる。それはとても素敵な百合少女をお返しするために先行して細長い廊下から玄関へ着く。香織は順応よく付いて来てくれたのだが、未だに二階に名残惜しい真弓は見続けていた。


「よそ見しない!」


 お母さんばりの叱り方で唱えると真弓は髪を揺らしながら玄関の方へ歩いていく。無口なのはいつものことのようが、微かに甘い香りがするが訝しむだけ。


 こうして二人が靴を履くのを露骨に待っていたら後ろ姿が無防備過ぎている。気まずくなるかと思えば自分の後ろ姿があんな感じだったのかと謎の感心を浮かべる。


 とりあえず帰らすのであった。


 香織が玄関の扉を開くと黄昏色の世界が待っていた。どうもあのティータイムで時間が掛かっていたらしい。陽射しに浴びて香織と真弓の印象が悔しく綺麗だ。この境遇は有り得ないのだが。


「私はとても楽しかったわ」

「……お陰様で」

「鳴海くんは楽しまなかったの?」


 嫌みなく笑顔が可愛すぎる上に首を傾げて答えてきた。内心が分かっているから苦手だが、策士た。絶対に騙される人間は多いだろう。


「疲れた」

「疲れるほど楽しかったのね。その正直さ、嫌いじゃないわ」

「意地悪する人嫌い」


 どれだけ美人であろうとジト目ができる自信のある鳴海。それでも真弓は小さく笑っていて気にしていない様子。虚ろに視界が霞むので目元を擦ると香織は心配そうに声を掛けてくる。


「平気?」


「あ、ああ。その気遣いありがとう。そろそろ妹が帰ってくるから、その前に帰ってもらえると嬉しいかな」

「……そうね、笑顔が弱々しいわ」


 スタンガンを仕掛けた張本人が何を言うか……、それは事実で眠くて仕方がない鳴海は一気にここぞの所で気力を振り絞る。


「さーさーさー、帰ってもらおうか。また明日!」

「ちょ、まだお礼を言って……、あ」


 せめてのお礼を拒否して香織と真弓の背中を強引に押しては外に追いやった。言うに当たらず玄関の扉を閉じては即行に鍵を掛けた。


 レディーファーストもなければ何も起きない。

 こうして監視一日目は終了した。


「……」


 何かを言い残したものがあって、香織は心残りにしょげていた。その隣では手を振るう真弓。その姿は心境も揺るかずに悠々としている。


「真弓……」

「何かしら?」


「体に気を付けて、って言いたかったけど最後の方怒っていたかな······?」


「さあ、私には分からない。でも普通なら家に上がる直前で嫌なら全力で拒否したでしょう。紅茶はとても良かったけど、退屈な人ね」


 くるくる回転しながら言葉を告げる真弓は止まるポーズを決めると香織を見た。

 向けられたのは刃物のように鋭い眼差し。


「彼を信じる要素を捨てなさい。騙されるのが分かるわ」

「でも、私は信じたい」

「それはなんでかしら? 信じたとしても意味がないなら無駄だけよ、その夢は」


 清々しく笑む真弓。何かを求めていた香織はほのかに頬を染めてしまう。どうしても言えない事情がある。それを言ってしまえば、きっとそれは詰まらないと知って。


「今日は奇跡でもなにものでもない。ただの、茶番よ」


 ざっぱりと切り捨てる精神。揺るがない己の正義に、香織は言葉が出せない。けど、諦めたくはない。込み上げてくる何かが香織に変化をもたらす。


 震える声は弱くても、意味はあった。


「真弓は、本当にこのままで、いいの?」

「……」


 彼女達にしか知らない事情。誰も知ることが出来ない秘密という苦しみは決して忘れるのではない。


 けれどそれは何も変わらなければ始まりもないという事を。


「私は真弓を信じたい。それから彼も信じたい。だけど変わらないと駄目なの。この痛い気持ちに、耐えられないの……」


「へえ、鳴海くんの事でも好きになったって言うの!?」


 とうとう堪忍の袋が弾けた真弓は本気で感情を愛しい人にぶつけた。両肩を掴んで、真実を問い質す。そうでもしないとうやむやした気持ちが、散らない。


 でも、後退しなかった香織の行動に真弓は微かに驚いた。


「違う! あなたの事が好きだから、信じてほしかったから……!」

「……どうでもいいんだけど、夫婦喧嘩は他所でやってくれないかな?」


 感極まる直前で別の部屋の窓から突っ込んでくる鳴海。あまりの展開破りに、香織と真弓は思考が真っ白になってしまっていた。だが雪解けのように和らぐと、今の現状に片方は頬が真っ赤になりもう片方は真っ青になっていた。


 それはそうだろう、初めて会った時と瓜二つに密着しているのだから。


「やっぱり百合で確定だね」


 確実な追い討ちと率直な感想を述べる。無駄にかっこよく決めてそう言った。自覚はしている香織はどうも見られたくなかったらしく、体が震えてはメガネがポロっと外れた。


 もう一度露となった顔を簡単に晒してしまった。羞恥と憤慨を含めながら本音をぶつけた。


「この、馬鹿っ!!」

 

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