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欠落百合姫のステイルメイト  作者: 島村時雨
第一章 立花鳴海の一週間
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第五話 その日、彼女達は告げる。

 昨日の出来事を振り返る。

 念のため、復習みたいなものだ。


 帰宅部である立花鳴海は、いつもリュックに入れている動物ビスケットを持ってきて習慣のように動物にあげている。様々な場所で会うために早く下校して、それから食べている姿を見ている日々に価値があった。自分もビスケットを食べながらその時間を過ごしていた。


 それも二年前から続けている情報はさておき、当然のように昨日は黒ネコを観賞していた時に、それらは始まった。


 強いて言えば幕開けだ。


 路地裏でとてつもない違和感を感じた。とても人為的ではない、不気味な雰囲気を黒ネコが駆けて行ったのが全ての始まりだった。


 釣られる形で鳴海も駆けていった。


 誰もが将来を当てる事はできない。そう証明するための大した行いは超常現象を見るための行為。黒ネコでは欧州とは異なって、かつて魔女狩りによって印象が同等だった黒ネコも殺していたという。年々に渡って不吉の印象となって流布したが、対して日本は江戸時代から縁起が良い存在と見なしてる。


 結果として不吉を位置付ける事になってしまったが、露知らず、危険な道を歩んでしまうのが人として皮肉に出来ている。


 ある意味で超常現象を見た気がした。

 気がどうも進みそうにないのでここはカルチャーに変えることにする。


 なんと目にした光景が無垢な少女と制服姿の少女がキスをしていたのだ! 衝撃にして最大の隠れイベントは、目が合ってしまったのたがらそれはもう大変! その場所から離れるがごとく必死に逃げてきた鳴海は、はたして平穏を取り戻せるのか!?


 黒ネコを追い掛けた挙げ句根本全てに少女達に尽きてしまった。


 昨日の全体の記憶が彼女達色に染める百合色に広がってしまっていた。それほどの人生最大の一撃は今日に至るまで続いている。


 何せ。

 堂々と正門前で構えていたら、逃げるなす術もないのだから。


 そうして正門を抜けた光景というのは、何度も何度も見続けた変わることのない当たり前の世界であった。高層マンションや摩天楼のビルが聳えていて、隙間から覗かせる太陽の日差しにとても眩しいもので。


 繰り返して見てきたのに、今日だけは違って見える。


 何でだろうと疑問に思っていると、双美公園の場所を知っている無垢な少女は鳴海の隣に平行して歩いていた。


「申し遅れたわね、私の名前は藤咲(ふじさき)真弓(まゆみ)よ」


 誰にも見せてくれる微笑みは本物であるのか分からないが真弓は好意に見える。


 内心では凄いことになっている。自覚しているのは当たり前の常識で、初対面にして名前を知ることはこのご時世有り得ない。これを稀有ではないのはこの先が真っ暗でしか無いのをとっくに昨日から察知してるからである。


 自己紹介のシチュエーションは抜群だ。


夜桜(よざくら)香織(かおり)。言っとくけどお前の名前なんて聞きたくないから」


 自己紹介のシチュエーションは毒々しいものだった。


「そう、ですか……」


 もう何も言えない。というか待遇と立場が酷すぎる。後を付いていくものの全然可愛くない少女、香織に対してはどう言っても駄目なので諦める。


 下手したら後ろでグサリ。バットエンド積みです。

 言う気が失せたので本当に鳴海は先頭に沈黙を貫いたまま歩いていく。


「……」


 さらに雑音消しにイヤホンを耳に当てては音楽を流してみる。メガネを掛けてみるが、これでも足りないのか片手に携帯端末を持って今時の女子高生のように画面をスクロールさせる。


「ちょっと、聞いてるの?」


 どうやら思う気持ちが少しあったのか香織は困った顔をして鳴海に言うが、本人は当然のように無反応。それから白昼堂々のパズルゲー。介入しない真弓は鳴海と平行して見てるだけ。


「……」


 状況を伺うだけで何もしない。

 意外と楽しんでいるのがくすくすと微笑む。


 これまで鳴海は独りで帰っていたのだから会話の輪にはとことん加担するつもりも無かった。この状況でもイヤホンを耳に当てたのは、これまでの生活とは変わらない。


 温度の無い行動に、香織は強い言葉で応答する。


「な、何で言わないの。馬鹿じゃないの!?」


 予想通り、人が変わったメガネの少年は語らない。


 だんだん雰囲気が悪くなっている中で、香織の心境を焦り色に塗り潰しているのを分かっていた真弓は首を左右に振る。妥協しない彼女は蚊帳の外の事情。何か言いたいようだが、どう流れに切り替わろうがどうでもいいらしい。


 頼みの綱である味方がいない。


 振り向きもしない背中姿に、ダサい星形のメガネを掛けた香織には限界が早かった。

 自分が言った事が相手にとって不快に思えるのが。


「わ、悪かったわよ。確かに私は聞きたくないって言った。でも聞いてくれないのは相手にも不愉快なのよ! 謝る! というか歩きスマホ反対! ……って痛!」


 いきなり立ち止まるものだからぶつかってしまった香織は危うく転びそうになる。その手を掴んだのが真弓ではなく鳴海なのは彼なりの考え方があった。


 容赦のない鋭い眼差しが香織の目線を逸らさせる。

 淡々とした口調は静かながらとても意味が思いものだった。


「世界には強くない人がいる。言葉は簡単だよ。簡単だから人を傷付けるものがある。何も知らないで大口を叩いていると、後悔するのは君なんだ、夜桜さん」


 どこまでも正しくどこまでも鋭い。

 曲がることのない正論は気持ちを籠る鳴海の意志の強さを上乗せさせている。


 人が弱い。そして自分も弱いと知ってるから、正しい事が誰に対し言える。間違った方向性を協調するなら鳴海は利益にならなくとも教える。


 相手が百合ならなおさらだ。

 手を離すとメガネの奥でギラリと光らせる。


「信用をなくしたらそれで終わりなんです」

「だから黙っていたのね……ッ!」


「簡単言うとその気持ちを分かってもらいたい、という感じかな。イヤホンは耳に当てただけだしゲームなんて暇さえあれば出来るしね」

「っていうことは、……結局全部聞いてたじゃないの!」


 あれこれグーで叩こうとしてきた香織を、微々たる正確さで避ける鳴海。


 音楽を流したけど消音なのは誰も気付かないだろう。あくまでもしただけなのでまんまと鳴海の策をはまっていた結果だった。


 しかし余計なお世話は時間を無駄にする。早くささーっと済まして自宅に戻りたいのに香織はそうさせない。何がしたいのかな、このダサいメガネを掛けた女の子。よく周りから注目を浴びないなと思っていると、


「あ、そうだ。アドレス交換、しよ」


「自己紹介してないのになんでそういう言い方なんですか!? お母さんは絶対に反対ですからね!」


 もう面倒くさかった。寛大さがオカン級では無かったら青少年センターに連行していた。


 というかホントに出会わざる者に会ってしまったのを感じつつ、


「危なっかしいな! 異性とは会話してないんじゃないのかこれ」


「なに言っているのかしら。私は君と会話しあなたを監視するためにアドレスを交換しましょう。そのための自己紹介、してほしいな」


 誰も見せる柔和な微笑みは誰から見ても美しい……! と言える。けれど行ってる事と行動が並みの高校生じゃない。何者なの!? 脳裏からこだまが響いてくる。


「タチバナナルミ」

「? バナナ?」


「……立花鳴海です。今後ともよろしく」


 笑顔で自己紹介してみせたが二人に見えない角度で嫌そうな表情をする。綺麗じゃなかったらざっぱりと切り捨てていた。くそ、百合は綺麗が必定でしたね……。


「これならアドレス交換出来るわね」

(正論どうのこうの、反論出来ない……)


 すんなりと携帯端末を出してアプリで切り取ったコードを真弓へ見せた。それから真弓も同じように携帯端末の画面を見せる。共に性能がいいのかブレても認識される。


 久し振りにメールアドレスを交換した。何とも思わないし、嬉しくない。


「え、えええ? 何で!?」


 顔を真っ赤にしてまで言葉を発したのには鳴海という人間が、そう簡単にアドレス交換するとは思わなかったらしく、肩透かしを食らったように戸惑うばかりの香織は疑問しか思考に浮かばなかった。


 この短期間で起きたものが全てだと、時間が逆行してくれない。


「とりあえず完了ね」


 唯一納得したのは真弓だけである。初めて異性とのアドレス交換に歓喜を浸ってそうな景色だった。自分から言っていた部分は危惧しかねないが。


「立花鳴海、いい名前ね」

「女の子ぽい名前だけど」


 名前に関しては苦笑しながら肩を竦める。


 しかし癪に触る香織は平行に歩いてまで知りたがろうとしてきた。やたら顔が近いがダサい星形のメガネパワーで解消する。消臭力の何かか。


「どうやったらそうなるのよ!」

「こっちは不可抗力なんだ、抗ったら殺られるんだよ!!」


 申し分のない本音が炸裂。穏便な学校生活を送ると思いきや常識を覆す彼女達に遭遇したのがオチにして最悪だった。未来が見えないのが当然。なのに平等とは思わない。


「やられる? 一体何が……」


 この子ピュアでした。強く言い放った自分が悪くなってしまうほどの純粋さが一つ一つ分かっていくあたり、他の人に見られたらどうなっていたか、想像もしたくないほどだ。


 より正確的根拠を求める香織は鳴海の携帯端末を見た。快く見せた鳴海はどうでもよく相手の気にするより信号が早く青にならないかと問題視されていた。


 覗き込むように画面を見れば一覧した会話の内容が分かる。

 絶賛一色スタンプ祭りである。


「な、何これ、何でスタンプしまくってるの真弓! こんな全く知らない狼の毛を被ったこの人でなしにアドレス送るだなんて……!」


「や、ランサーは悪く、じゃない。うわ、イタズラにも程がある……」

「それはどうして?」


 疑いようの無い真弓はただ首を傾げていた。


 多少のインパクトの違う表現を含んでいるが、それを省くと香織が言ったことは間違ってなどいない。そこだけは協調する。


 鳴海でさえ思う所はあるのだから。そのため初めからポーカーフェイスで凌いでいた部分を気付かれずに今を流していた。本性を表さない美少女二人に板挟みされても。


 この日に限って不幸体質じゃないのに、事態は急にエスカレートしていく。膨張して鳴海では抑えきれないほどの問題に発展してしまう予感しかしない。


 それに、これほどにまでスキンシップに接近してくる真弓という無垢な少女にも大きな疑問が概念として強くなっている。


 それにしても。


(彼女達は本当に百合なのか? 今の所頬を染める動機もなければ動揺も無し。至って普通の女子高生、いや一人は違うか。お嬢様高校ではあるけれど)


 考えさせてくれる時間に感謝する鳴海は信号が青になって先行する。兼ガードマンになって後方の話をとりあえず聞いてみる。


 というかなんだこの待遇は。


「いや、本当よ。大体こんな価値もなさそうな一般人が私達の秘密を黙ってくれるの? 否! 偏見の酷さ、誰もが認めるわ。危なっかしい性質に!」


 よくよく考えてみれば本当の被害者は鳴海であることが前提にあるのだが、知るのに方法が無い。見知らぬ人に声を掛けるのは親切な人だけだが、彼女達は勇気とは裏腹に大変ながら危険になる部分が痛々しい。


 だがそれでも下がらない真弓という少女は、本当に度胸があった。


「でも立花くんは悪い人に見えないし私には優しそうに見える。これから続くのだもの。私の事、知ってほしいから」

「はい?」


 どこか不穏なワードが出ていたいたが流れ的にそうさせない雰囲気があったがあえて突っ込まない事にする。


「私は立花くんを知りたいの」

「いやいや、僕はあなたの事を知らなくてもいいです」

「そうすればいつかきっといい方向で進められると信じているから」


 未来を明るい方針を向けている真弓の言葉は、本当に綺麗なものだった。

 本当に綺麗なものだ。


 色んな人が望んでいた展開は否定できないほどの正当なもので、あれほど真弓にも好戦的の状況が嘘のように静まり返る。聞こえてくるのは聞き取れない雑音が一瞬だけやってきた。その静けさが強く思えていたのは、未だにも鳴海は二人の事を何も知ってはいないのだから。


 絶対的な拠り所。お互いを抑えるためのトリガー。


 欠落した者同士、惹かれ合うものは支えるための心。心を満たすために、お互いの信頼を確かめるために強い絆は一線上を越えた。そうネットで載ってあった。


 残念ながらキスはしなかった。流石に公共の場はなかったか。

 そして導き出した答えが全くもって認識した。


「……そうね。一様信じてみるわ」

「ありがとう、香織」


 こっちは信じられる要素の欠片もないからな、と心中で思いながら鳴海は先行しながら歩いていく。紛らすために携帯端末の画面を少しだけ見てみる。


 よく分からなかった。

 その文章は果たして善意があるのか、探求はしない。


『出来たら真弓って呼んでね』


 画面を暗くした。こんなのは有り得ないと分かっていて、現実が我が身を戻らせる。本来の目的を忘れないためにもここで受かれてしまえば、きっと、取り返しの付かない事態になるのを避けるまでだ。


 改めて出会う前の、他人行儀に戻った鳴海を知らずに、どこか聞き出した嬉々としている香織は覗き込むように鳴海の顔を見ていた。


 伺うだけなのか何もしてこない。こうして黙って見ると香織という少女は本当に乙女な良心を備わる環境の中で育ったのだろう。ずっと見てると怒られそうなので前に進もうとする。


 だが香織から声を掛けてきた。


「……そういえばさ」

「何かな」


「私を説教するためだけなら、どうしてメガネを掛けたの? 音楽を聴かないならイヤホンの使用の無駄よ。あと誰から見ても奇行しか見えなかったわ」


 ああ、本当にこいつは人を小馬鹿にした教育をしてないんだな、と鳴海は即座明らかに優しそうな笑みをしながらカチンと来ていた。


 教えてあげようじゃないか。

 意味は確かにあったんだよ。


「イヤホンは本気で音楽を聴こうとした。夜桜さんが謝る前までは」

「……あっそ」


「ちなみにメガネは伊達」

「嘘でしょ!? なんで付けているの! 意味がないのに」

「ちゃんと度が入っているよ。ところでそのメガネはどういう意味があるんだ?」


 ブロウからのアッパー返しを炸裂した。要である香織の特にダサい星形のメガネを追求する事になったが、メガネの話題になると途端に香織は抵抗した。


 まるで身の危険を感じるレベルで。


「わああああっ、そこだけは向けないでよ。わ、私でもタブーなんだから!」

「ふむ」

「何考えてるのかな!?」


 何かと騒がしい中で香織は一段と顔を赤くして鳴海を詰め寄った。揶揄されるかもしれないけど、並び合わせるとダサい星形のメガネが浮いてしまうものだと見られてしまうのに彼女は知っているのだろうか。


 とにかく本題に戻ろう。

 鳴海はある方向に指を指して、


「この路地裏を越えれば双美公園が見えてくる」

「へ……?」


 まさしくアホらしく声を発した香織だったが、意外にも声が可愛かった事に見るに堪えないものだ。ギャルゲーよりも破壊力は一撃必殺じゃないか。


 ただでさえ美少女と会話する概念もなかったし。


 向ける先では昨日とは違う雰囲気を漂らせていた。幅が広くて太陽の日差しが差している所は昨日の路地裏がどれだけ不気味に思えていたか。あそこは名前の知らない公園があっても、動物達も立ち寄らないのだ。


「行きましょうか」


 何の躊躇もなく先行する鳴海と同行する真弓。


 吸い込まれそうな勢いで路地裏へ歩いていくその姿に、香織は置いていかれるような気がして、つい衝動で恐れながらも二人の後を追い掛けた。


「ちょっと待ちなさいよー!」


 ……なにそれ。


 名前の知らない公園の近くでいたのを思い出せば、そっちの方が怖いと思うけど。

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