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DevilSleyer  作者: ゼロセフ
5/6

泥だんご

猪ノ国


ザーザー町にて


「ふぅ~。


今日も無事に終わったねぇ」


アンナが額の汗を拭きながらそう言った。


「また俺が一人で終わらせただけだ」


そして、シアンはその言葉に違和感を持ち、ため息混じりにそう口にする。


「えへへ。


でも今回の任務は楽チンだったね!


ペット探しだなんて」


「確かに。


これもデビルスレイヤーの仕事かな」


ルーカスが首を傾げながら、不思議そうに口にした。


それに賛同して、ゼンも頭をたてに振る。


「まあ厳密に言えばデビルスレイヤーはこんな任務はしない。


だが、0班は例外だ。


どんな任務でも0班は…」


プルルルルルル♪


シアンの言葉の途中で、通信機が鳴った。


シアンは直ぐに通信ボタンを押した。


「こちら、シアン。


用件はなんだ」


通信機越しでシアンと誰かが会話を交わしていく。


「誰だろうね?


もしかして、彼女さんだったりして!」


「それはないだろ」


アンナの身勝手な想像をゼンがキッパリと否定する。


「ええ~。


まあ、確かにシーちゃんあんまりそういうの興味なさそうだしねぇ」


「いや、そういう意味じゃない」


「えっ、どういうこと?」


「シアンさんの顔を見てみろ」


ゼンにそう言われると、アンナとルーカスはシアンの表情を見ることにした。



そしてそこには、今までに見たことのないシアンの顔がそこにあった。


冷静であるはずのシアンの頬から冷や汗が流れていた。


「今は単独行動をしている。


………了解した」



そして、通信をすること数分、シアンは通信機を切り直ぐにゼン達の方を向いた。


「今すぐここから立ち去るぞ」


そして、緊張感の漂う声でそういい放った。


「な、なんかあったのぉ?」


「いいから、ここから立ち去るんだ!!!」


初めて聞くシアンの怒鳴り声。


あまりの迫力に3人は萎縮し、そして、素直に立ち去ることを従うことにした。


「お兄ちゃんたち、もういっちゃうのぉ?」


そして、その様子を見ていたザーザー町の少女が話しかけてきた。


手に泥だんごを持っていて、どうやら猫を見つけてくれたのを礼に来たようだ。


「ああ」


「そうなの…。


でもまたきてね!


これあげる!」


少女はそう言って、シアンたちに一人ずつ泥だんごを渡した。


「受け取っておく。


早く家に帰っておけ」


「うん!


みんなありがとね!」


少女は笑顔でそういい、そして、シアンの言う通りに素直に家に帰ることにした。


それを見送り、四人は早速その場から立ち去ることにした。


「………」


しばらく先頭を早歩きで進むシアンの背中を見て、アンナは不安を隠しきれずにいる。


しかし、なぜか急にザーザー町の少女が頭に浮かんできた。


「あ…、あの子


いい子だったよね~」


そして、絞り出したかのような声でなんとか空気を変えようと試みる。


「そ、そうだね。


ザーザー町はいいところだね」


それにルーカスも乗っかるが、


しかし、意外にゼンは黙ったまま手に握られている泥だんごに目を向けているだけである。


「ゼンちゃん。


どうかしたの?」


それを不思議に思ったのか、アンナが心配そうにゼンの様子をうかがう。


「あ、ああ…。


シアンさん」


ゼンは一瞬アンナに笑顔を見せたあと、前を進むシアンを呼び止めた。


「なんだ」


シアンはピタッと歩みを止め、ゼンの方へ向いた。


そして、その場に緊張感が走る。











「オレトイレ」





しばらくその場は静寂に包まれた。




「ぷっ…ぷぷ」


そして、その静寂もあってか、状況がおかしく思えてアンナとルーカスは吹き出した。


「もお~、ゼンちゃん!


様子がおかしいと思ったらトイレ我慢してただけなのぉ?」


アンナが笑いながら、少し怒ってるふりをする。


「ごめんよ。


もう我慢できないんだ」


ゼンは真剣な表情でそう口にする。


しかし、それがおかしかったのかアンナとルーカスは更に笑い声を上げた。


「そうだな。


まあ、結構ザーザー町から離れたか…。


よし、行ってこい。


ただ、直ぐに戻ってこいよ。


ここで待ってるから」


シアンも仕方がないみたいな表情をし、ゼンを便をする許可を与えた。


「……………」


そして、ゼンはなにも言わず草むらの方へ急いだ。


その背中を見送り、シアンたちはその場で座って待つことにした。


「もお、ゼンちゃんたら~。


意外にあんな一面があるなんて知らなかったよぉ」


「確かに、意外だよね」


そして、アンナたちはしばらくその場で談笑をすることにした。


色んな事を話し、会話に花を咲かせること15分。


「遅い…」


さすがに、ゼンの帰りが遅すぎることに気がついていく。


「調子悪いのかなぁ」


「僕もたまにあるんだ。


調子悪い日が」


もおルーちゃん下品だよぉ~、とアンナが言って更にしばらく笑いあったが、


しかし、さすがに帰りが遅すぎるということで、ゼンの向かった草むらの方へ行くことにした。


「あれの途中だったら嫌だなぁ~」


アンナは嫌そうな顔をしながら、向かう。


そして、地面を見るとそこにはどろどろとした茶色い物体が落ちていた。


「きやぁあああああああああああ!!!!」


これにはたまらず、アンナは叫び声を上げた。


ルーカスも「おお!」とさけび、半歩後ろへ下がった。


「これは…」


しかし、シアンだけは冷静にその物体に近づき、そして、手に持った。


「シーちゃん!?


何してるのぉ!?」


その行動にアンナは驚かずにはいられなかった。


「お、おおぅええー」


ルーカスもその行動を見て嗚咽をあげる。










「さっきの泥だんご…」


少女から貰った泥だんごが、ザーザー町の方面へ向かってポロポロと落ちている。


シアンは嫌な予感がした。


すぐに泥だんごをその場におき、そして、ザーザー町の方へ走って向かうことにした。


「えっ?


ど、どういうこと?」


それに、困惑しつつもアンナたちもシアンについて行くことにした。


「ねえ、シーちゃんどうしたの?


ゼンちゃんをさがさなくていいの?」


「そうだよぉ。


ってか、まず手洗わなくていいんですか…?」


アンナとルーカスは当然の疑問をシアンにぶつける。


「あいつ、全部気づいてやがったのか」


「気づくってどういうことなの!?」


「………」


疑問をぶつけてみるが、シアンは答える様子がない。


しかし、ただ事ではないことは何となく理解できる。


二人は素直についていくことにした。


そして、しばらく走ると、3人はザーザー町にたどり着いた。



「ど、どういうことだ…」


シアンがたどり着いた瞬間に放った言葉だった。


「どういうことって、何も変わってないよ?」


「変わってないハズがない」


シアンが少し取り乱した感じで、そう言い放つ。


「どういうことなのか、そろそろ教えてよシーちゃん。


ゼンちゃんになにかあったの?」


アンナがいつにない真剣な表情でそうたずねた。


シアンは状況が状況なので、二人に話すことにした。


「さっきの通信は、もうすぐザーザー町にランクE~Gの100数体のもデビルの大群が来ると言う報告だった」


「な、なんだって!?」


ルーカスが冷や汗をかきながら、その事実に驚く。


「そして、そのまま撤退しろとの指示だ」


「そ、それじゃあ…」


「そうだ。









ザーザー町を見殺しにしろという命令だ」






シアンのこの言葉でその場の空気は凍り付いた。



「そ、そんなのってぇ………。



で、でもぉ!大群何てどこにもないよ!


間違えたんじ…」


「それはありえん」


アンナの言葉をバッサリとシアンが否定した。


「そんな事例は一度も確認されたことはない。


そして、相手は大群だ。


どんなに型の古い探知システムでもデビルの大群は必ずとらえられる」


「だったら、なんでデビルが一匹もいないの?」






「まだわからないのか?」





シアンの言葉に二人の表情が徐々に強ばっていく。



「ど、どうして…」



「理由は知らん。


俺の通信の音が聞こえたのか、それか大群の足音でもしたのか」


「ゼ、ゼン…」


そして、ついには二人の顔から血の気が引いて、真っ青になった。



「とにかく、俺は大群の進路予告を便りに、あいつの所へ行く。


お前らはこの町を守れ。


抜けてきたデビルの討伐をしろ。


一匹たりともザーザー町への侵入を許すな!」


「は、はい!」


「シーちゃん、ゼンちゃんをよろしくね」


ルーカスとアンナはゼンの心配をしつつも、しかし、ザーザー町を守るためにすぐに町の様子を見回ることにした。


そして、それを確認するとシアンもゼンのところを目指して、全速力で走って向かうことにした。





「アンナちゃん!


そっちにはデビルいた?」


ルーカスが町の様子を一通り見回したあと、アンナにそう問いかける。


「ううん


一匹もいない…」


アンナはその問いに首を横に振ることで答えた。


「やっぱりゼンちゃん…


一人で…」


「そうだね…」


アンナは不安感をぬぐいきれず消え入りそうな声でそう言った。


「一人でデビル100体の相手なんて無茶だよぉ…」


アンナは震えた声で、そう呟く。


「大丈夫だよ」


しかし、ルーカスは意外にも不安を感じていない様子だ。


「な、何でそういえるのぉ?」








「友達だから」





ルーカスは笑顔でそう口にした。





≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒





「はぁはぁ」


シアンは息を切らしながらも、しばらく全力で走った。


「くそっ!


あいつの様子は目に見えておかしかった!


ちゃんと、ひき止めてやれなかった俺の責任だ!


頼むから、間に合ってくれ!!!」


シアンはそう叫び、走り続ける。


そして、更に走ること数分、人影のようなものが目に入った。


走るのをやめ、ゆっくり歩きながらそこへ向かっていく。


「なんだこれは…」


そして、シアンは驚きの光景を目のあたりにすることとなった。












「し、信じられん…」











――――ただそこには、無数のデビルの(しかばね)の上に立つ一人の男の姿があった。








その男の手には、血で染められた折れた刀が握られていた。



シアンは、美しさと力強さを重ねもった一枚の壁画を見ているような気分を味わった。




「シアンさん…」



そして、シアンの存在を確認すると同時に、ゼンは意図の切れた人形のように倒れた。


シアンは直ぐにゼンの元へと走り、そして、肩を抱き寄せた。



「こ、これはお前が一人でやったのか…?」


シアンは真っ先に体の心配をするべきであったのは分かっていたが、しかし、思わずそう質問していた。



「ザーザー町の人たちを…


あの女の子を、守りたかったんです…」


「お、お前…」


シアンは思わずゼンという男に、恐怖心を抱いた。


「(命知らずの男だとはわかっていたが、


俺の予想を遥かに越えている)」


そして、シアンは初めてゼンの体に目をやった。


そして、直ぐに事の悲惨さを理解できた。


痛々しく刻まれている、無数の傷。


胸から腹にかけて、大きな爪痕と思われる傷口から、血がにじみ出ては流れ落ちる。



「ザーザー町は…、大丈夫…ですか…?


無事なんですか…?」


ゼンは絞り出すように、そうたずねた。


自分より先に、町の人の安否を心配するゼンの姿を見て、シアンはいたたまれなくなってしまった。


「あ、ああ。


みんな無事だ」




「よ、…ぐっ!


よ、よかった…」


ゼンは言葉の途中で口から血を吹き出し、そして、微笑みながら弱々しく言葉を続けた。


「お前のおかげだ。









ゼン」


シアンは優しい笑顔でそう言った。


「シアンさん…、


初めてオレの事をゼンって…」


ゼンも笑顔で、そう口にする。


しばらく二人は笑顔を交わすが、しかし、


突然傷が痛みだしたのか、ゼンが素早く傷口に手を置いた。


「ぐっ!


や、やっぱり…、シアンさんの言った通り…


オレは…、早死にする…らしいです…」


「ゼン…」


ゼンは最後にそういい、そして、笑った顔で静かに目を閉じた。


それを最後まで見送り、そして、シアンは瞳から一粒の涙をこぼした。





















―――――「泣くのはまだはやいぜシアン!」



突然後方から聞き覚えのある声が鳴り響いた。


そして、その声のする方へ振り向くと、覚えのある顔がそこにあった。



「ダースさん!」


「挨拶は後にしてもらうぜ。


とにかく、俺のお気に入りがまた無茶した見てえだから引き取りに来たぜ」


「引き取りに…ですか?」


シアンはダースの言葉をあまり理解していないらしい。


「おうよ!


すぐそこに最高の医療を施してくれる救急車と医者をパクってきたわけよ」


「ぱ、パクってきた!?」


シアンは驚きのあまり、大きな声を上げていた。


「おう。


とにかく、細かい話はあとだ。


ちょっと借りるぜ」


ダースはそういって、大きな体でゼンを肩にかついだ。


そして、豪快に笑いながらゼンをその救急車に乗せ、風のように去っていった。


その様子をシアンはポカーンと眺めていることしかできずにいた。




≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒


救急車内にて



「ゼ、ゼンの様子はどうなんだ!?


助かるのか!?」


ダースはさっきとはうって変わって、かなり焦っている様子だ。


「今の段階ではどうも言えませんね。とにかく、早急に手術をしなければまず助かりません」


眼鏡をかけた、医者らしき男がダースに向かってそういい放った。


「た、助けてやってくれ。


頼む…」


ダースは真剣な表情で頭を下げた。


「あ、はい。


全力を尽くします」


その様子に萎縮して、眼鏡をかけた医者はそう口にした。



「なんで一匹の奴隷のためにダース様があんなに頭を下げているのかしら…」


そして、その様子を見ていたナースたちが、影でこそこそと話をする。


「なんでも、この救急車をあの奴隷の所に向かわせるために


土下座までしたそうよ。


奴隷のために救急車が走るなんて前代未聞よ。


しかも、医者とナース付き」


「まあ、そんなことできるのはダース様ぐらいでしょうね」


そして、その陰口はしばらく続き、当然救急車が走るのを止めた。


「着きました!」


「よし、慎重に下ろせ」


「「はい!」」


運転手が病院に到着したことをつげ、先生がナースたちにゼンを下ろすことを命じた。


素早い手つきでゼンはおろされ、そして、直ぐに手術室に向かわされた。


ダースもついていき、そして、手術室前のベンチに腰かけることにした。


手術中のランプが光る。


このランプが消えれば、ゼンの、生か死


いずれかの結末を知らせられる事となる。


そして、待つこと一時間、ダースのベンチにシアンが座り込んでいた。


「おお、シアン!


今ちょうど止血をして無事に帰ってくるとこ…」


「わかってますよ。


俺を誰だと思っているんです?」


シアンは落ち着いた雰囲気でそう口にした。


「ちぇ、隠し事はできねえってことか」


ダースはため息混じりにそう呟いた。


「ダースさん、大丈夫ですか?」


「はぁ!?


誰に向かって言ってんだ!」


「手…




震えてますよ」





「お前もじゃねえか…」


シアンは、自分の震える手を握りしめた。





「正直言って、俺はまだあいつを認める気にはなりません」


シアンは表情をひとつも変えずに、淡々とそう口にする。


「そうか」






「でも…」


ダースはシアンの顔に目をやった。





「ゼンが百体のデビルの屍の上に立っていた時、



俺はこいつなら、


ゼンならこの世を変えてくれるって


素直に思いました。


だから、絶対にここで死んでほしくないです」


ダースはまさか、シアンの口からそんな言葉が出てくるなんて思いもしなかったのか、驚きを隠せずにいる。


「ふふふふ、


ふははははははははっ!」


そして、突然大声で笑い声を上げた。


「ど、どうしたんですか?」


それに驚き、シアンが戸惑いぎみにたずねる。


「俺はな、



初めてあいつを見たときからそう思っていた」



ダースは自慢そうにそう言い放つ。


「はぁ」


シアンは多少あきれながら、しかし、無意識に笑顔を見せながらそう呟いた。



そして、しばらくその場に留まっていると、突然手術中のランプが消えた。


手術終了の合図。


苦しいほどの、沈黙が続く中、一つの音が響き渡った。



手術室のドアの開く音だ。



ゆっくりと開かれ、そして、疲労困憊(こんぱい)の医師が出てきた。












―――――「落ち着いて、聞いてください」
















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