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DevilSleyer  作者: ゼロセフ
1/6

DevilRabbit

荒廃した街中に、一匹の猛獣が次々と人を殺しては喰らっている。

猛獣の名は【デビルラビット】。


名の通り兎だが、まがまがしいオーラに包まれて、巨大化している兎である。


「助けてくれー!」


そしてどうやら、一人の男性がそのデビルラビットに狙いを定められ、追いかけられている。


「死にたくねえよ!俺にはまだ守らなきゃいけない家族がいるんだ!」


悲痛の叫びをあげながら、その男性は走り続けるが、むなしいことに、すぐに追い付かれてしまったようだ。


「キキキッキキキキキキキキ!!!」


興奮した様子のデビルラビットはヨダレを垂らしながら、奇妙な鳴き声をあげている。


「や、やめろ!やめてくれよぉ!!!」


男性は目に涙を浮かびながら、命乞いを懇願する。

恐怖のあまり男性はその場で腰を抜かせ、尻餅をつく。


「あぁっーーーー!!!!嫌だぁアアアア」









「キキキキッキッ!」


そして、そのまま無惨に喰いちぎられてしまった。


あたりには血が散漫し、デビルラビットの咀嚼(そしゃく)音が生々しく鳴り響いている。


そんなひどい光景を目の当たりにしても誰もその悪魔に立ち向かおうとは思いもしなかった。


皆わかっていたのだ。


敵わないことぐらい。


「パパ~!!!」


しかし、それが判断できない者も存在する。


10にも満たない、男性の娘が残骸となった父の元へと走っていく。


「キキッキ!」


そしてそこには当然、デビルラビットがいる。


デビルラビットには、エサが自分のほうへ向かってくれているという認識だろう。


すぐに娘のほうへ体を向けた。


「やめなさい!エリー!!!」


母親らしき女性の声が鳴り響くが、時すでに遅し。


デビルラビットは、その娘に向かって、飛び込んでいた。


それに反応してエリーは立ち止まったが、遅すぎたようだ。




「エリーーーーーーッ!!!!!」





母親の悲痛の叫びもむなしく、エリーという名の娘はデビルラビットに押し潰されたようだ。


そのあたり一面を砂ぼこりが舞った。


しかし、母親は自分の娘の命がそんなに軽々しく無くなることを信じられないのか、その場をじっと見つめている。


娘が生きている偶然を信じて。


しかし、この残酷すぎる世に偶然を期待する事よりも愚かなことはない。


やがて、現実を見せつけるように、砂ぼこりが風に流されていく。



「エリー……」


おえつとも呼べる母親の声が響く。











「キ、キキッキキキキ」


しかし、奇妙なことに、デビルラビットが鳴き声をあげながら、何かを不思議がっているようだ。


回りを見渡す動作をする。


そこにあるはずのものが存在していないからだ。









――――「この世界に偶然を信じられないのなら…」


一人の少年の声がその場に鳴り響いた。


母親はその声のするほうへ目をやった。




「必然を起こすしかないんだ…」





そしてなんと、少年の肩には、エリーの姿があった。


「エリー!!!」


母親はすぐに少年の元へと駆け付けた。


「エリー!!!無事なの!?」


「ちょっと気絶してるだけだよ」


少年はにっこりと笑い、エリーをそっと母親に渡した。


「エリーッ!」


母親は娘を受けとると一目散にその少年に背を向け、その場から走り去った。


少年のほうへは一切振り返らずに。


しかし、人間とは本来そんなものだ。


自分と家族さえ無事ならそれでいい。


それを優先してしかるべきだ。






しかし、たまに例外も存在するわけだが。







少年はその背中を見送ったあと、鼻息の荒い怒り狂っている化物に目をやることにした。


「キキキキキキキキキキキキキッキキ!!!!」


耳をふさぎたくなるほどの声量でデビルラビットが鳴き声をあげている。




その声に少年は全身に冷や汗をかいていた。


恐怖で手足がフルフルと震える。


もう死ぬかもしれない。






「きなよ。


剥製にしてあげる」


デビルラビットは巨大な爪をその少年に振り下ろす。


しかし、少年は間一髪でそれを避けることに成功した。


そして、そのままデビルラビットの顔面に蹴りを入れるが、当然効くはずもない。


デビルラビットは嘲笑うかのように少年を頭突きで吹き飛ばした。


少年は地面をコロコロと転がり、そして、背中を民家の壁にぶつけた。


「がぁっ!」


衝撃であばらの骨がいくつか折れたらしい。


痛みで悶え苦しむ。


目の前が真っ暗になりそう、


そんなときに一つの声が鳴り響いた。


「ひぃーー!か、神様ぁ!」


どうやら、未だにその場に少年以外の人が存在していたようだ。


足の骨が折れて、動けなくなっている老人だ。


そして、少年はその老人に目をやってみると、驚くべき事実がうつしだされた。




「キキキッキキキキキキキキ!!!」




老人のそばに、


もう一匹デビルラビットが存在していた。



「た、助けておくれ…」


老人の懇願するような目が少年に向けられた。


しかし、いけば確実に己の命はない。


簡単な計算だ。


普通いくはずがないのだ。


「ああああァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


少年は、脇腹の激痛を無視し、老人のそばにいるデビルラビットに向かって走った。


「キキッ!」


そのデビルラビットは老人を殺す一歩手前で動作をやめ、素早く少年のほうへ目線をやった。



少年は、走る勢いのままそのデビルラビットの脇腹に拳を入れた。



「し、少年……」


それを見ていた老人が思わずそう呟いた。





「大丈夫ですよ。必ず、守りますから…」


次の瞬間、その少年はデビルラビットの前足によって吹き飛ばされた。


そして、再び民家に体がぶつかり、その場で倒れる。


左半身の感覚がない。


しかし、少年はなお立ち上がろうとする。


二匹の怒り狂った化物が、少年に殺意を向ける。





「きなよ……。





もうだれも




殺させないっ…」




少年はそう言って、ふらふらと立ち上がり、デビルラビット達に背を向けて走った。


とにかく遠くへ、さらに遠くへ走っていく。


老人はその背中を見送ることしかできなかったが、しかし、それを追いかけていくデビルラビット達を見て安堵していた。


そして、少年とデビルラビットの姿が完全に見えなくなった頃には命が助かった喜びしか残ってはいなかった。



「はぁはぁ」


少年は混沌とした意識のなかで、走っていく。


「オレはもう死ぬのかな…」



後ろから追いかけてくる化物どもを見て、そう思わずにはいられなかった。


そして、ついに疲労からなのか、少年は足元の木の枝に引っ掛かり、その場に倒れた。


「はぁはぁ」


やけに息が上がる。


「はぁはぁ」


ドクンドクンと心臓の音が鳴り響く。


「はぁはぁ」


視界いっぱいに絶望がうつしだされる。








「「キキキッキキキキキキキキ!!!」」








そして、少年はもう一度笑った。


最後に


「オレの勝ちだ…」


と呟きながら。




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