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第二話


 さて、『ブレイブ・スピリット』とは、現世の小さな村に住んでいた主人公(デフォルト名・レオ)が、魔界から現世を支配しに来た四体のモンスターを倒し、世界を守るゲームである。


 ストーリー自体は王道なのだが、このゲームの最大の特徴は圧倒的なヒロインの多さだ。多種多様な可愛いヒロインをいかに落として仲間にするか。もはや出てくる女の中で攻略不可能な子をさがすのが難しい、というギャルゲーも真っ青なレベルで、ある意味とても自由度が高いと言えるだろう。


 ヒロイン一人一人にある重厚なストーリーやビジュアルの良さ、音楽、声優の豪華さなどが高評価を得て、発売後すぐに大ヒットした。


 俺もやったことがあるのだが、あまりに(ヒロインの)攻略に時間がかかるため、一周やったら疲れてやめてしまった。そのためぼんやりとしかストーリーを覚えていないが、そもそも俺がいる時点でストーリーとかあまり関係がない気がする。まあそれでも主人公やヒロインたち、四人のボスキャラの力は知っているわけで。うまく立ち回れば生きられるんじゃないのかなーと考えたりしたわけなんだけど。


 「甘かったなあああぁぁぁぁ」


 後ろからは追手の重い足音が聞こえてくる。

 木村マサト、17歳。ただ今、ラストダンジョンにて怪物に追われています。





 ■◇■◇■◇■





 魔法陣の光に包まれた後、俺は気を失ったらしく、目が覚めたら雲の上に一人で寝ていた。うん、何言ってるか分かんないと思うんだけど、事実だから仕方ない。ランダムに転移されたのかなと周りを見渡すと、高い塔がたっていた。雲の上に。宇宙でも目指すつもりなのか?


 他にも何かないか探したが、めぼしいものは特に見つけられなかった。雲の切れ間から下を見ると、地上の物がとても小さく見えた。とりあえず飛び降りるのは無理、という事が分かった。


 塔の周りを調べてみると、入り口を見つけたので、少しお邪魔してみた。中は古代の遺跡のように入り組んだ構造になっており、外で見た胴回りより明らかに広かった。魔法かな、とあたりをつけて、とりあえず外に出ようとすると。



 ―――入り口がなくなっていた。



 一瞬でパニックになった俺は、泣きながら入口を殴ったりけったりした。……すぐにあきらめたけど。体育座りで入り口だった場所に背を向けて、さめざめと泣いた後。泣いてすっきりした頭を働かせ、ようやくこの場所に見覚えがあることに気づいた。


 「ここ、天空の塔だよな……」


 そういえばこのゲーム、ダンジョンが空にもあった気がする。俺、迂闊。マジ迂闊。せめて入る前に気づけよ。


 ダンジョンとは、主人公に与えられる試練の一つである。

 村で平和に生きていた主人公はある日、夢に天使が出てきて、魔界からの使者が現世を支配しようとしている事を伝えられる。そして対抗できるのは勇気ある魂――ブレイブ・スピリットを持つ人。つまり主人公だけ。どうか助けてくださいと天使に頼まれて、主人公は世界を救うために旅立つわけだ。


 なんか詐欺に引っかかりそうな主人公である。


 しかしただの村人にいきなり世界を救えと言われても、さすがに荷が重い。そこで登場するのがダンジョンだ。ダンジョンは天使が作った訓練場であり、今いる塔や遺跡、森など色々ある。主人公はそこで自らを鍛えるのだ。そしてダンジョンの最奥地にはブレイブ・スピリットを持つものしか使えないという装備品やアイテムが置いてあるという。


 そして今いる天空の塔は、数あるダンジョンの中でも最難関。この塔を攻略するよりボスを倒す方が楽ってくらいの難易度だったはず。俺がやった時はあきらめた。


 あれ、これって詰んでないか? いやいや、まてよ。詰む=死だからな、よく考えろ俺。


 「とはいってもごく普通の人間に何をしろと。せめてなにかがあれば……、ん? っそうだよ! 魔法があるじゃん! テンパりすぎだ俺!」


 冷静になろうと頑張っていた俺だが、どうやら全然冷静ではなかったらしい。まさかついさっきのことを忘れてしまうとは。


 では早速試してみるか。


 「ファイアーボール!」


 俺は腰に手を当てて、もう片方の手で入り口であった所を指さして叫んだ。しかし何も起こらない。


 「アクアカッター! サンダーボルト! アースクエイク!」


 いい加減恥ずかしくなってきたが、やめない。努力すればするほど大きな力になるって悪魔さんが言ってた。だからきっと……!


 そんな感じで数分後。

 そこにはうずくまる俺の姿があった。


 このゲームの魔法や、他の魔法っぽいことをいくつも叫んでみた。が、結果は全敗。もらった力さえ満足に使えないとか、本格的に生存の危機なんだが。


 「悪魔さんは少ししか使えないって言ってたよな。なら少しは使えるはずなんだけど」


 使い方が分からない。やっぱり不良品じゃないのか。

 息が落ち着いたところで、もうちょっと試行錯誤しようと立ち上がろうとした、その時。

 ゴツッ、ゴツッと石と石がぶつかり会う様な音が聞こえてきた。


 恐る恐る後ろを振り向くと、通路からこの部屋に向かって歩く大きな人型の石の塊が見えた。その全身には網だ上に張り巡らされた赤い線が浮かび上がり、目があるはずの場所には代わりに赤い石がはまっている。


 心なしかこちらを見据えて一歩ずつ近づいているように見える。というか確実にロックオンされているよな、これ。


 「シンニュウシャハッケン。コレヨリハイジョニウツリマス」


 俺は一目散に他の通路へ逃げ出した!





 そうして今に至るわけだ。


 「はあ、はあ、まだ追ってきやがる……!」


 ピラミッドみたいに石でできた通路をひたすら走っている。引き離そうとしているのだが、あの巨人、でかいくせに俺と同じくらい速く、差が全く広がらない。しかも途中でもう一体の巨人と遭遇。もれなくもう一体追加です。一対一でもきついのに、一対二とかいじめだろ。


 だが、勝算はある。


 ダンジョンはだいたいが廊下→小部屋→廊下→小部屋というような構造だ。そしてその中には、入ったら仕掛けを解くまで出れません、というタイプの小部屋もある。つまりその小部屋へ入ることができたら、追っている二体の巨人は入ってこれないのだ。


 まあ、このモンスターを倒したら出られますという部屋もあるから、必ずしも事態が好転するとは限らないが。できれば謎解き系であってほしい。


 そんなことを考えていると次の小部屋が見えてきた。


 全力で小部屋に飛び込むと、そこは――

 


 ――行き止まりだった。


 「は、はは、おいおいマジで勘弁してくれよ。シャレになってないからさあ……」


 これは、詰んだのだろうか。


 息を整えつつ後ろを見ると、もうすぐそこまで巨人は来ていた。ゴッゴッと足を踏み鳴らし、俺に迫ってくる。

 まだだ、まだ何かあるだろう。あきらめたら終わりだ。考えろ。死にたくない。


 必至に考えを絞り出そうとしていると。


 巨人の赤い線が光り、数十メートルはあった俺との距離を一瞬で詰めた。


 「っ!」


 とっさに横に跳ぶ。さっきまで俺がいたところの石の床が、巨人の右手によって砕け散った。冗談では済まない威力だ。俺が喰らったら木端微塵だろう。しかし今こいつは何をした。

 そんなことを考える暇もなく、正面に二体目の巨人が立つ。


 「うぁ!」


 後ろへと必死に飛びすさる。鼻先をかすめるように巨人の蹴りが通り過ぎた。ほんとまずい。距離を取らないと対処しきれない。全力で後退しようと後ろに一歩下がる。


 ぺたっ。


 背中に壁が付く。つまり、これより後ろは、ない。


 「あ、これ終わった」


 二体の巨人が俺を囲む。逃げ場がない。どうしてこうなったんだ。家に帰りたい。


 巨人が俺をつぶそうと腕を振り上げる。俺はあきらめてそれを眺める。


 せめて迫る恐怖を和らげようと、壁に手でしがみつくように力を入れる。



 カチッと、なにかが起動する音がした。



 「は?」


 その音と同時に俺の後ろの壁が崩れ、バランスを失った俺は後ろへ倒れる。壁の向こう側は下り坂になっていたらしい。なすすべもなく転がっていく。


 連続の出来事で悲鳴を上げる余裕もなく、俺の意識は遠ざかって行った。





 体中に鈍い痛みを感じつつ目が覚める。何が起きた。わけわからんが、どうやら生き延びたらしい。運がいいのか悪いのか判断に困るな。

 体の調子を確認してみるが、目立った異常は感じられなかった。周りを見渡す。


 そこは今までの部屋よりもずいぶんと広く高かった。奥の壁には古代の壁画のように丸く巨大な魔法陣が描かれている。今までの壁は石だけで茶色一色だったが、この部屋は違っている。鉄のような壁に宝石がところどころに彩られていた。実に目がちかちかする壁だ。


 出口は、なさそうだ。つまり何か条件をクリアしないと出られないってことか。と言っても、あの魔方陣がめちゃめちゃ怪しいわけだが。


 何かあるかなと近づこうと体を起こすと。


 魔法陣が光りだし。


 先程の巨人なんて目じゃない大きさの超巨人が現れました。


 ……あれって、ボスじゃね?


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