第一話
いつもと同じ一日だった。
朝起きて学校に行った。部活やって帰って宿題した。そして、飯食って自分の部屋で寝たはずなんだけど。
――目が覚めたら目の前に悪魔がたくさんいました。なにこれこわい。
……とりあえず状況を確認しよう。
俺の名前は木村マサト。最近高校3年生になった。好きなものはゲームと漫画。顔は可もなく不可もなくってところだ。彼女はいない。というか人と話す事自体が苦手である。特に、女の人の前では噛みまくってしまう。コミュ力をあげたい。
周りを見渡すと、なんか最高裁判所みたいな所だった。違いは傍聴席がなくて、壁が宇宙空間みたく真っ暗に広がっていることだ。出入り口は見当たらない。
どこだよ、ここ。俺の下に魔方陣っぽいのがあるから、召喚されたのだろうか。ファンタジーだなぁ。
俺の右には誰かが四人、横一列になって立っていた。
いや、絶対人ではなさそうなんだが。みんなすごい威圧感出してるからな。漏らさない俺がすごい。現実味がないだけなんだけどね。
そして俺らの目の前の裁判官席に座るのは7人の悪魔。
すごく、怖いです。
全員が俺のことをじっと見つめてくる。針のむしろってこういうことを言うのか……。
「貴様が、異界の者か?」
真ん中に座っている悪魔が聞いてきた。
「た、たぶんそうなんじゃないっすかね」
ハハハ、と乾いた笑いが響く。異界の者ってなんだよ。なんとなく分かるけど、眼力が強すぎるよ。弱めてくれないとまともに受け答えできない。
「そうか。しかし、人間か……。生き残れるかは分からんが、まあよい。儀式を始めよう」
生き残るってなんだよ、すごい不吉なんですけど。そう思っていると、俺の横に並んでいた一番右のやつが一歩前に出て、名乗りを上げた。
「アーロン・エイブラハムです」
男性にしては高い声が耳を打つ。
アーロンさんね。……なんか聞いたことがある気がするけど、気のせいだろう。青白い肌に、木でできたでかい杖を持っている。ゾンビっぽいな。しかしイケメンだ、憎たらしい。
「うむ。貴様が望むのは、何か?」
「創造を」
真ん中の悪魔がゆっくり頷き、手のひらをアーロンさんのほうへ向けた。
ボッっという音とともに光が手からアーロンさんに入っていった。
アーロンさんは礼をして、元の位置に戻った。
次にその隣の人が一歩出て、
「ベン・バートンだ」
野太く低い声だった。
ベンさんはねじれた角が生えていて、体は茶色の毛皮に覆われて、筋肉質な感じだ。三メートルはあるだろう。腕を組んでふんす、と立っている。ミノタウロス、かな。また聞いたことある名前だな。まさかな。
「貴様が望むのは?」
「破壊だ!」
アーロンさんと同じように光がベンさんに入っていく。どうやら名前と望みを言えばいいみたい。能力でももらってるのか? なら考えなければな。
真ん中の人が、
「チャド・キャンベルである」
ビブラートを響かせながらチャドさんが言う。襟が高く立った真っ黒なマントを羽織り、高級そうな靴をコツッとならす。どう見ても吸血鬼です。本当にありがとうございました。
「反射を望むのである」
反射か。みんなよく思いつくな。
チャドさんの番が終わり、俺の隣の人が、前に出る。
「アナ・エメリー」
高く透き通った声だ。
アナさんはこの中で唯一の女である。小顔で可愛らしい感じだな。小さい角が生えていて、後ろには緑の翼と尾がくっついている。ドラゴンが擬人化したってところか。
「貴様は?」
「吸収」
吸収か。うーん、なるほど。相手の力を吸い取ったり、いろいろできそうだ。
さて、どうしようか。正直、状況があんまりつかめないんだけど、強そうな能力を言えばいいんだよな?
「マサト・キムラです」
「貴様は何を望む」
元の世界に帰ること、と言いたい。だけどこの流れでそれを言ったら殺されそうで、怖い。
もう、適当でいいか。
「魔法をください」
イメージはよくあるロールプレイングゲームのような。あこがれるよな。なんでもできそうだし。
隣の四人から失笑が漏れている。あれ? なんか変なこと言ったかな。
「お前、魔法使えないのかよ! そんな奴が何でここにいるんだよ。弱い奴がいても意味ねーだろ?」
ベンさんが煽ってきた。他の三人も口にはしないが同じように思っているのだろう、馬鹿にしたように見てきた。というかベンさんが魔法を使えると聞いて驚いた。バッリバリの肉体派っぽいのに。
――そして、俺も何でここにいるのか知りたいです。
またベンさんが俺に何か言おうとした時、
「貴様、儀式の途中に無駄口をたたくな!!」
悪魔が叱咤した。頭が真っ白になって何も分からなくなった。たぶん、ものすごい殺気が俺らを襲ったんだと思う。気がついたらベンさんがガタガタ震えて、
「も、申し訳ありませんでした!」
と全力で謝っていた。他の三人も震えている。なぜ俺まで殺気を向けられたんだ。
「……で、貴様は魔法でいいのか?」
「はい、あこがれなので」
真ん中の悪魔が気を取り直して俺に手を向ける。悪魔から出た光が俺の中に入ってきた。
……? 何も感じないんですが。不良品をつかまされたか?
「貴様らに与えた力は、まだ少ししか使えんだろう。しかし、扱う努力をすれば、それだけその力も大きくなる。努力しろ」
悪魔に努力しろと言われた。すごい状況なのではないだろうか。
「さて、貴様らには現世に行ってもらう。そこで現世を支配し、ブレイブを殺した者が王となる。分かったか? では、せいぜい励め」
そう言って悪魔たちが手をこちらに向けると、下に大きな魔法陣が現れた。説明が少なすぎるよ。もっと人に親切にしようよ。
光で白く染められる視界をぼんやりと眺めながら、考えた。隣の四人は聞いたことのある名前。そしてブレイブを殺すという言葉。
どうやら俺は、ゲーム『ブレイブ・スピリット』の敵側サイドとして召喚されたようです。