ボーイズサイド1
獣じみた臭いと、顔を舐め回される不快感で目が覚めた。僕は力任せに布団ごとそいつを払いのける。そして、後悔した。
寒い。めちゃくちゃ寒い。
ベッドに戻ろうとしたが、そいつは僕を無垢な瞳で見つめていた。
「馬鹿犬」
僕がそう呟くと、そいつは、楽しそうに尻尾を振り回した。
溜息を吐く。
真っ白い息が、これでもかと寒さを伝えている。
その一瞬のやりとりが致命的だった。戻ろうとしたベッドからは温もりがすっかり消えていた。
また、溜息を吐く。
「行くぞ、テン」
諦めた僕は、ルーチンワークをこなすため、服を着替え外に出る。
そして、再び後悔した。
これでもかと厚着しているはずなのに。刺すような冷気が体の中に滑りこんでくる。
曇天の空は、これからの天候を物語っていた。
帰ろう。
踵を返して戻ろうとすると、テンの期待に満ちた眼差しが目に写った。
さらに半回転。
華麗なターンを決めることになった僕は、馬鹿犬の可愛さに負けたなんて思いたくはなくて、しばらくテンの方を見ずに散歩を開始していった。
風花の街は、活気づいていた。
そういえば、今日はお祭りだったと思い出した。僕は人混みが嫌いなので面倒なものが来たなと思って終わりだったけど、それでは終われなかった馬鹿もいた。
街の内部に入らないように避けて歩いていたのに、急に街中目がけて駆け出そうとするテン。突然リードを引っ張られ、倒れそうになるのをなんとかこらえてリードを引き返す。
ただ一つ誤算があった。馬鹿犬は、馬鹿力だったみたいだ。
僕は、力負けしてテンの走るままに引っ張られることにした。
てっきり街の内部の美味しそうな匂いに誘われたのだとばかり思っていた僕は、屋台の用意が進む街中を突っ切って、街の反対側の街路樹が並ぶ地区に行くとは思っていなかった。そして、さらに街路樹から逸れ暗い林の中に侵入する。
いくら毎日、こいつとの散歩で体力はあると行っても、今回ばかりはもうついて行けない。リードを離してしまおうかという判断が頭をよぎった時、急にテンは立ち止まった。
自分の息が酷く激しい。
そりゃ当然だ。ここまで十分以上全力疾走だったんだから。
だから、その場所のその光景を目の当たりにしたせいで、こんなにも息が切れていると思わずに済む。
開けた広場のような場所だった。中央には巨大な切り株があって。ちょうど空からは、雪が降り始めて。林から急に出てきたから、光が眩しい。見慣れた雪が綿みたいだ。
僕は、あまりのショックに意識を必死で逸らしていた。
だって、その巨大な切り株の上で、可愛いらしい少女が死んでいたんだから。




