93. 戦後調整
過ぎてみれば、塔から脱出してから数えても丸一日も経っていなかった。ヴァティに百回もの致命傷を与えた時間も大したことはない。飛逆たちの素早さで行われるそれらは、客観的時間経過としては恐ろしく短い間に行われたことであり、一番長かったのがヴァティを延々と燻していた時間だったりする。塔脱出からこのシェルター部分に辿り着くまでよりも余程に長い。内訳にして六割以上の時間、飛逆はヴァティに炎毒をくべていたということになる。
そう考えると自分は何をしているのかと思わざるを得ない。
予て想定していた内の二番目に位置する結末であり、迅速な決着も悪くはないはずなのだが、すっきりしない。
当たり前だ。そうした予定をすべて台無しにするつもりだった飛逆の思惑からも二番目に遠い帰着であるのだから。
本当に、何をやっているのだろうか、自分は。
合理か不合理かどちらかだけでも徹底できなかったものだろうか。あまりの自分の半端っぷりに、本気で辟易する。
それでも、ヒューリァを待たせている。早期決着はその一事によって『よかった』ほうへと傾く。
何はともあれ一旦報告のために塔に戻ろうと、シェルター内で転移門を開こうとした。
けれど開かない。
原因はすぐに思い付いた。
「月の光が届かないところでは転移門を開けない。そういうことか? ウリオ」
ハルドー他数名のいる会議室に顔を出して、ウリオに訊いた。
「キサマ……空気を読め」
どうやらウリオがヴァティの死去と復活の可能性について話しているところだったようだ。
その死去の原因そのものが何食わぬ顔でひょいっと顔を出したのだから空気も凍ろうと言うものだ。
だがいちいちそんなことに構っていられない。
「質問に答えろ。だからヴァティは俺たちの転移封じのトドメに天井を塞いだのか?」
「その通りだが、それだけではない」
殊更無表情に努めたというような顔で、もったいぶった答え方をする。
けれど、だろうと飛逆は思う。あの転移封じのドームの天井を貫くくらいは、飛逆ならば容易い。あまり意味のあることではなかった。
「わかった。大体想像は付くから続きは言わなくていいぞ」
言いながらおもむろに手首をカット。
新生赤毛狼を顕現する。
新生といっても、まだ【植物操作】の使い方を検討していないので、単にこの地下シェルター内であればほぼ不死身と言っていいだけの赤毛狼だ。要は飛逆の眷属(ウリオたちを含む)であれば何物からでもエネルギーが吸収できるという機能が付加されている。ついでに限定的にシェルター内の植物を操作できるようにした。壁があろうがどこでも通ることができるというわけだ。
「一度塔の中に戻るから、コイツを置いてく」
ウリオ以外の唖然としている連中に向けて言う。
「コイツは見聞きしたことを記憶できるように出来てる。お前らの監視役だ。因みに眼と耳をどこにでも付けられるようにしたから、実質お前らにプライバシーはない」
シェルター内限定だが、つまりはマイク付き監視カメラを設置できるようにしてあるわけだ。
「俺も面倒臭いから変なことするなよ。変なもの見たくもないし」
具体的なことは碌に伝えず、そのまま踵を返す。
ひとまずはこれでいい。
ヴァティとは違う組織運営を目指すからには、いずれは飛逆が介入していかなければならないだろう。彼女はそれほど密に彼らに指示を出してはいなかったようだからだ。だからこそ逆に、飛逆は彼らの自由意志による運営形態から転換していかなければならない。
ややこしいのは、それが元の『クラン』を跡形も無くしてしまってはいけないというところだ。具体的には人事をごっそりと入れ替えるということは不可能だ。あくまでも『ヴァティのクラン』として、自治的に存在してもらわなければならない。
飛逆はそのクランという組織に属してはいないという体裁だ。けれど支配はしている。
国と国との戦争の結末として見てみると少しはわかりやすい構図になるかもしれない。
飛逆は戦勝国なのであり、ヴァティのクランは敗戦国だ。
戦勝国だからといって何でもかんでも要求を通せるわけではない。その敗戦国には独自の文化や不文律が存在していて、それらに則る形式での統治のほうが効率的だからだ。
他所の宗教を取り込み、信仰対象を自宗教の天使または悪魔の位置に配することでその信仰を吸収していった一神教の手管で、それはすでに証明されている。
逆にこれに逆らえば、致命的な叛乱を起こさせる原因となりうる。そうとなれば飛逆は彼らを全滅させなければならなくなり、ヴァティとの契約を履行できなくなってしまう。
怪物の本能に逆らうということは、それだけでも相当の負担になりうる。また、飛逆は自分の判断における責任というものに固執する傾向があるため、意地でもこのクランとやらを生かすつもりだった。
そのためのリスクファクターは極力排除していく。
最大のリスクファクターは飛逆の存在自体だ。ヴァティがどれだけの求心力を持っていたかにも依るが、それを殺した張本人がおいそれと姿を見せては神経を逆なでるばかりだろう。
故に、今すぐに塔に戻るつもりでないのに、自分の監視の存在を植え付けた上で姿を彼らの眼の届かないところに移動した。
適当な壁を操作してめり込むように通り抜ける。
そして地下茎を伸ばして穴を掘り進めて、適当なところで腕輪に原結晶を詰めてミリスと接続できるかどうかを試した。
〈終わりましたか~。さすがはヒサカさん、あっさりですねぇ〉
「そっちで異常は?」
簡潔に確認を取り合う。
〈さすがに特筆すべきは~、何も起きてませんね~〉
「今お前はどこにいる? 研究棟か?」
〈え? はい~。ちょうど資材取りに来たんで~〉
「資材置き場か。ちょうど良い。念のため、扉閉じろ」
〈ふぇ? まぁ、はい~〉
意味不明の指示にも、とりあえず従ってくれる。
〈おけ~、ですが~。どういう意図です~?〉
「簡単に説明すると、ネリコンで光を遮る必要があった」
〈ああ~、やっぱりダークエルフは~、塔から監視を受けてたんですね~〉
「正確には月だがな」
さすがはミリスだ。飛逆が塔から脱出した後、飛逆が考察したような、不自然な点を説明するだけの理屈を推察していたのだろう。
〈ってことは~、交渉する気だったっていうのは~、マジだったんですね~〉
そう。ヴァティは、交渉によって決着を付けるつもりだった。
しかし、それは月から光によって監視されている状態では行えなかった。だから天井を眷属で塞ぎ、月光を遮る必要があったのだと、推測できる。
「ああ、けど喰った」
〈ヒサカさんって~……まあ、何があったかわかんないのでとやかくは言いませんけど~……大丈夫なんですか~?〉
これ以上怪物を宿しても大丈夫なのかということだが。
「不思議なことに、まだまだ余裕がある。むしろ余裕が出来た」
因みに、飛逆は即席の通路の中にいるため、真っ暗だ。飛逆の姿をミリスは見えていない。
「詳しいことは後で話すが、さし当たって、お前たち全員外に出ないか?」
〈全員っていうと~、イルスとかもってことですか~?〉
「そうだな……。そこはアイツらの自由意志に任せることにしよう。種の除去をしてない連中も、発芽しないように設定できる」
だがまあ、赤毛狼が蔓延した塔の中ではやることがない。トップランカーは結局の所、戦闘廃人なわけで、ただ食料を提供されるだけの今の自堕落な環境に鬱屈を抱えているに違いない。外に出ることを選択する見込みが高かった。
〈通達しておきますが~、これも一応ネリコンで囲まれた空間で行った方がいいですか~〉
「そうだな。後、言い忘れてたんだが、ダークエルフは地下に眷属にしたヒトで組織を作ってた。それを乗っ取った形になっているから、このこともイルスたちに伝えた上で選ばせてくれ」
〈言われてみれば~、その可能性はあったんですね~……。というかヒサカさんらしくもなく~、厄介な選択をしましたね~〉
「悪いな……」
〈まあ、仕方ないです~。どの道国を作るつもりなら~、どこかの小国を乗っ取ることになるだろうな~っては想定してましたから~〉
飛逆はそれを予定していなかったが、ミリスはおそらく、静的な侵略を予定していたのだろう。経済から牛耳って国の権力に食い込み、いつの間にか頭をすげ替える。あるいはクーデターでも起こせばいい。
飛逆がしたことで厄介なのは、そうした下準備の一切をせずに武力によって侵略したというところだ。それも、相手がかなりの譲歩と共に降伏する姿勢を見せていたというのに。
「ダークエルフはヴァティって言うんだが、コイツの腹心のウリオって奴に限定的な協力を取り付けた。当面はなんとか回ると思う」
〈限定的……っていうのが~、ちょっと気になりますが~。これも後にしますか~〉
「ああ。所用を済ませたら迎えに行くから、ヒューリァにも月光の話を伝えておいてくれ」
ゾッラとノムをヒトに戻さなければならない。ウリオの腕を修復したときに、それができることはすでに確認してある。
まあおそらく赤毛狼化した連中と同じく、意思無き人形状態にまでしか戻せないだろうが。
一度発芽し、ヒト部分を圧迫してしまうとどうしてもそうなってしまうのだ。
〈了解です~。お待ちしてますね~〉
接続が切れる。
といっても、原結晶は腕輪から抜かない。単にミリスの意識が腕輪から去っただけだ。最近はそれがなんとなくわかるようになってきている。
それはともかく『所用』を済ませるべく動き出す。
ネリコン製のブーツは飛逆の指示を神樹に伝え、その地下茎をどんどん伸ばして地中を掘り進め、やがて塔からの脱出転移ポイントの直下に辿り着く。
適当にそこらの神樹の根と通路を接続させて、ドームを構成している神樹の根と接続して、修復させる。
少し時間がかかった。さすがに一度破壊されてほぼ死んだ状態の神樹の修復は手間だったのだ。いっそのこと分解毒でも送り込んで土に返した方が早かったかもしれない。
飛逆しか開けない転移ポイントのはそうすることにして、とりあえず今回はこれでよしとする。
縦穴の直径を拡げ、一カ所以外は穴を塞いだドームの修復を終えると、飛逆は通路の横を空けて土石を掘り出す。
その土石を焼成してドームの縦穴と同じ面積の円盤を作り、ドームの縦穴の直下まで掘り進めた根の空洞に嵌め込み、縦穴まで押し上げる。
要は眷属のように月の光を遮らなければいいわけで、これでエレベーターの完成だ。
これは別にヒトを運ばせるつもりではなく――それならこの通路まで縦穴を伸ばせばいいわけで――資材の運搬を見越した仕組みだ。赤毛狼が脱出転移門に資材を放り投げればブロック状の資材がこの円盤の上に乗る。その重みが一定以上に達すれば自動で地下茎が蠕動して収納できるようにすれば、オートで資材が集まっていくというわけだ。
その試作品だ。ゆくゆくは穴をもっと拡げるか形を変えるか、資材の種類によって仕分けさせるところまで自動化するか、色々とできることを考えるが、今のところはヒトを運べればいいだろう。
後はミリスや、気に食わないがウリオなどと相談して決めていくことにする。
所用が済んだ飛逆はその円盤の直下で転移門を開いて、塔に帰還した。
〓〓 † ◇ † 〓〓
やるべきことはあまりにも多すぎた。
地下都市と言えるまでの規模にまで拡大した地下シェルターに拠点を移し、資材の搬入経路を整理し、ウリオたち“クラン”の連中と連携して体制を整備した。
幸か不幸か“クラン”でヴァティを心酔していた構成員は多くはなかった。それぞれの区画代表者や生産活動の責任者など、直接の面識があった者たちを除けば、存在は知っていてもただ単に『偉い人』というレベルの認識だ。
ただし、飛逆という侵略者に対する悪感情は全員がしっかり持っている。ヴァティに心酔していた連中のほうが聞き分けがいいくらいだ。なぜならそうしたただの構成員は、ヴァティがなぜ戦っていたのかもわかっていないし、ヴァティの言葉通り『彼らは戦ってもいない』。ただ単に“クラン”に属しているというだけで、自分たちが攻撃を受ける謂われがないと思っているのだ。
そしてそれは事実に程近い。ヴァティにしかその謂われは存在しない。言い方を変えるならば、彼らの家族や友人が失われたのは、ヴァティが前々回勝者であったためだ。
ヴァティは『クランを創るべきではなかった』と言っていたが、おそらくはそういう意味であろう。己が己に匹敵するだけの戦力と対決しなければならない立場であるにも拘わらず、そうした足枷にしかならない組織を作り、そこに自分の望みを託してしまったことを後悔していたのだ。
ウリオやその他十数名の、ヴァティという個人が背負う宿命を理解して“クラン”に属している連中――『戦った』連中は、飛逆に負けたという結果を納得することができるが、彼らただの構成員はできない。
けれど、だからこそ彼らには飴が効く。
塔からの資材を自由に使わせることをまず行った。
次に、地上の掃除を行った。
元塔下街を埋め尽くしていた発芽した連中を、ヒト型に戻して、新しく地下に作ったシェルターに搬入する。
これによりかなりの神樹が失われ、神樹による自己生産によるエネルギーがかなり減じたが、塔から赤毛狼がもたらす原結晶で充分に賄えるし、そもそも飛逆の保有量ならばわざわざ神樹が生産するエネルギーを当てにする必要がなかった。
かなりの時間が掛かったが、これを終えた後に新たに神樹を生やし、その神樹の葉から鉱物を分解して砂状にする毒と有機ポリマーを分解する毒を撒かせる。
簡単に言えば、風化を無理矢理に早めた。同時に蒸散させた赤毛狼に空気中の窒素を固定させ化合物を合成させて、神樹自体の生産効率を高めていく。
これにより瓦礫や火山灰が一様に混ざり合い、頃合いを見て蒸散に切り替える。
改造した神樹による蒸散は粒子状になって風に舞う砂を水蒸気で捕獲し、地上に落とす。
そうした下準備が終わったら、またも神樹を変形させて、建物を作る。赤毛狼と混合された神樹は形状は元よりその色から質感まで自由自在だ。
希望者にはその建物を自由に使っていいことにした。なんだかんだで地下生活には嫌気が差していたのか、これは中々効果的だった。
元々ヴァティの眷属である彼らには地上部分の自分の家に当たるそれの操作権を与えるというおまけ付きだ。
ただし、その操作が行えるのは当然、その家だけだし、その家が生産するエネルギー以上のことは不可能だ。それでは家具の形状に変化させたりするのが精一杯で、大規模な模様替えをしようと思えば足りない。そこはウリオらクラン代表者たちによる議会に要望を出して審査に通れば飛逆が叶えるという形式にした。
これによりクランが主体を維持しているということを印象づけると共に、飛逆たちがそれよりも上位でありながら、要望を受け容れる姿勢であることを示した。
支配者が寛容であれば、民衆にとってはそれだけで別に構わないのだ。身内を殺されたことによる悪感情は緩和されないまでも、表立って反抗するまでには至らない。
要望を通す基準である、クランへの貢献度は、議会から斡旋される職によって判断される。
飛逆はこの辺りにはノータッチだ。
職と言っても、衣食住は足りている。百名余りの人数だろうと余裕で賄えるどころか、過剰供給ですらある。すると必然的に職業内容は文化の発展の方向性だろう。
つまり単純な生産ではなく、二次、三次的な産業に職は集中される。
文化を発展させてもらうのは飛逆にとっても望むところだが、ここに手出ししては、娯楽がマッチポンプになってしまいかねない。
何か技術的に問題が発生しそうになったら相談するよう言い含めるだけに留めた。
クランの側は大まかにはそれでいい。後は議会に任せる。
問題はこちらだ。
眷属化した連中を含めても三十名に届かない構成員しかいない。しかもイルスらトップランカーどもの使い道もない。
戦闘職というのはつくづく平時には役立たない。
「しかもお前ら、実はクランの連中より弱いしな」
致命的なことに、事実である。
「なんかよ、本気でオレ、なんで生きてんのかって、哀しくなるな……」
地上に於いては【能力結晶】を影に一つ分しかインジェクトできない。するといざとなれば身体の一部を神樹化して戦うことができるクランの連中に勝てない。神樹化すればオリハルコンの装備を貫けるし、そういう装備を製作したのがクランである。当然のように彼らはオリハルコンの扱いを習熟しているし、【能力結晶】も同様である。クリーチャー相手に積み上げた戦闘経験など、対人では碌に役に立たないし、そもそもクランの連中は基本的に長生きだ。ヴァティの恩威で老化を止めている者がほとんどであり、見た目にはそれがわからないが、中には元トップランカーもいる。クラン加入の条件がなんらかの才能に秀でていることだったのだから至極当然である。そうした才能を不老長寿によって時間をかけて磨いてきているわけで、彼らに掛かれば現役のトップランカーなど歯牙にも掛からない。
そうした現実に直面したイルスが黄昏れるのもさもありなんである。
「思えばギィはクランに勧誘される直前くらいだったのかもな」
ふと思い出す。トップランカーの中でも特に変わり種だった剣鬼こと、ギィ。彼ほどの戦闘技量であれば、クランの連中にも引けを取らないだろう。
「ああ、そういや……ってか、アイツの場合は、むしろそのクランってのの奴だったんじゃねぇか?」
「それはないな。アイツは追い詰められても神樹化しなかったし」
イルスにしてみれば、そうであってほしいところだろうが、否定材料に事欠かない。
「むしろ何らかのきっかけでクランの存在を知って、それで対人方向に特化した技術を修めようってなったって考える方が自然だ。それが勧誘されるためだったのか、それともいざとなれば敵対するためだったのかは、わからんが」
ただ、戦う相手を求めている感じだったし、おそらくギィはクランのレベルの強敵を倒すことを想定していたのではないだろうか。単独行動に固執していたのは、仮想敵であるクランのメンバーがトップランカーの内にいる可能性を考慮して、手の内を隠す意図だったのだとすれば、辻褄は合う。
余談である。ウリオに訊けば何かわかるかもしれないが、そこまですることではない。
「どうするかね……とりあえず装備をネリコンにすればお前らの戦闘力の底上げにはなるが」
オリハルコンはいかんせん重いし柔軟性がないという欠点がある。重さに対する強度の比は悪くないが、地上で『運動能力強化』の付加に限度がある状態では致命的なまでに動きが阻害される。
その点ネリコンは、金属に限らず精神感応性を付加できるし、素材によっては軽くできる上にオリハルコンを凌ぐ強度を実現できる。精神感応性を持つ範囲を拡げれば、それだけインジェクトできる【能力結晶】の量が増えるし、総合的な戦闘力は跳ね上がる。
「けどな、それでもお前らがザコいって事実は変わらんし、そもそも戦う機会とかってないしな。クランに対する上位組織の構成員としての説得力がなさすぎて、表に出せん。翻って何もさせてやれない」
まさに飼い殺し状態だ。
「マジで死にたくなってきたんだが……」
戦闘力に秀でたトップランカーという最後の自負を失ったイルスは鬱入ってしまった。
〈そこでワタシの出番ですよ~〉
腕輪からミリスが唐突に声を出す。
「なんか案があるのか? この産廃をリサイクルするのに」
〈彼らには巨人兵の搭乗騎士になってもらいましょう~〉
飛逆が毒を吐くのに構わず案を出してみせるミリスだ。
〈オートで動く巨人兵も悪くはないんですが~、やっぱりあらゆる状況に自動で対処するまでには難しいところがあります~。アカゲロウちゃんが一見して上手く動けているように見えるのも~、実は環境が固定されているからなんですよね~。なので~、現場判断ができる巨人兵っていうのも~、割と使い出があると思うんですよ~。大量の『運動能力強化』を付加しての駆動に慣れている彼らなら~、操縦適正もありそうですし~、精神感応性兵装の扱いも同様ですしね~〉
「それで行くか」
大して悩まずに決定する。どうせ他に使い道もないのだ。ミリスの玩具として利用できるならそれに越したことはない。
「オレは何をしに呼ばれたんだ、結局……」
イルスが呆然と、ふて腐れたようにも聞こえる呟きを零す。
「嫌なのか?」
「そもそもあんたらが何を言ってんのかがわかんねぇし」
嫌とかそういう以前の問題だったらしい。
「理解できるんだったら生産職でも仕込むんだけどな」
これくらいは勘でなんとか察してくれるくらいであれば、見込みもあったのだが。
いやまあ、ヒトが搭乗して操作する巨大ヒト型カラクリなど、そう簡単に発想できないとも思うが。
〈その辺は~、もうクランの連中に任せましょう~。アカゲロウちゃんズ三次元プリンターも~、そろそろできそうですし~〉
「どうやったんだ?」
〈アポトーシスに使われているオートファジーシステムを流用して~、体内で素材を合成するところまでは出来ました~。今なら断面直径ナノミクロンのチューブとか出せますよ~〉
「なるほど……すげー時間かかりそうだけど、ナノチューブが平行に重なり合うと結合するような性質にすれば、それで形を編めるんじゃないか? 金属でもそこまで細いと柔軟性があるだろうから、一部の剛性が強い素材以外ならなんとかなりそうな……」
〈時間がかかりすぎるのと~、アカゲロウちゃんにその形を編ませるプログラムに汎用性を持たせるのが難しいんです~。だからチューブじゃなくて塊を作れるようにして~、それを成形する専用のアカゲロウちゃんを作ろうかな~って。大体の素材は溶解毒でなんとかできますしね~〉
「なるほど。単純だが、結局は単純でいいのかもな、こういうの」
分子構造が壊れるだろうから、強度の維持は難しいかもしれないが、まずは実現してみないことにはわからない。
〈はい~。ややこしく考えるから上手く行かないんじゃないかな~って最近は思ってます~〉
イルスは置いてけぼりであるが、二人とも気にしない。
しばらくついでに報告と相談をしてから改めてイルスに向き直る。
「まあ、というわけだから、お前らしばらくテストパイロットな」
「何がというわけなのかさっぱわかんねぇんだけどよ、まぁわかったよ……」
「成果如何によっては衛兵として働いてもらうことになる。まあだから当面はお前ら仲間内で対人戦闘の訓練でもやってたらどうだ? ネリコンで強化外装を作ることになったから、それの馴らしも兼ねて」
そういうことになった。




