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36. バトルで読み取る性格診断 ~気になる彼女をいてこませ~

 実はミリスイヂメがしたいだけなんでは、というヒューリァの提案は、けれど採用されるに至った。


 そのためヒューリァの言うところの『コスト』を稼ぐべく、飛逆とヒューリァは上層へ、モモコとミリスは非戦闘員を連れて地階層に行くことになった。


 一旦塔外に出て、すぐに転移門を開けばそこは地階層だ。


 なぜ地階層なのかといえば、飛逆が一度行ったとき、あそこにはクリーチャーが出現しなかったからだ。小規模な集落を作るには充分な広さだったはずだから、手持ちの【能力結晶】でできる限りの準備を整えてもらおうということだ。


 一応モモコは、狩猟採集と彼らの護衛のためという名目で付き添わせた。飛逆たちが向かうのは千階層以上なので、またしてもトップランカーと出遭わないとも限らない。そのため実際の所、今のモモコにそのようなギリギリの戦闘に立ち会わせることが不安だったからだ。


 あとは、ようやく落ち着いてヒューリァと二人きりになるためだ。


 いい加減飛逆も、剣鬼を倒した辺りからのヒューリァの奇妙な言動について、何が原因かということを察していた。


 剣鬼のせいですっかり忘れていたが、その直前までどうして飛逆はヒューリァにその身体を拘束されていたのかという話だ。飛逆の中では、すでに心変わりが始まっていて、その話は終わったものだと思って中々思い出せなかった。


 ヒューリァの中では、飛逆はまだ『ヒューリァを遺せばいつ死んでもいい』とかいうふざけた考えでいることになっているのだろう。だからといってなぜ「ハーレム」なのかは、相変わらず不明な思考回路だったが、要はヒューリァは『飛逆の死への願望の原因を消す』方向ではなく、『生きる理由を作る』方向へとシフトしたのだろう。


 千百階層付近で、なにはともあれクリーチャーを狩っていく。


 飛逆としては、自分の中に貯め込まれた精気の補充を行うべきかどうか迷うところだった。


 最低でも千近くの精気(ヒト換算)を、あの火山を作るので消費してしまったが、飛逆の容貌は相変わらず変質したままだ。


 貯め込める精気の容量自体が拡張された(自然回復する)のか、それとも消費量が足りなかったのか、どちらと考えるべきかわからない。下手に消費しすぎては、今度は【紅く古きもの】を制御するのに必要な精気が足りなくなってしまうかもしれないので、検証するにもリスクが大きすぎる。


 だからヒューリァが原結晶を消費する(千階層では誤差レベルだが)こともあって、収集効率を上げるために、これ以上は疲労回復のため以外の【吸血】をしないという方針で行くことにした。いやまあ、ぶっちゃけると強くなりすぎてしまった飛逆だけのほうが効率はいいので、ヒューリァが戦う機会はほぼゼロなわけだが、それを言ったらヒューリァを連れてきた理由がなくなってしまう。


 純粋に採集のことを考えるのであれば、千階層あたりでモモコとヒューリァがコンビを組んで、飛逆は千二百階層あたりを単身でというのが最も効率的だろう。


「それで、話があるんだよね?」


 前述のメンバー構成を飛逆が提案さえしなかったことで、ヒューリァは察したようだった。


 狩りもそこそこで切り上げて、水場の近いシェルターにて、彼女はタイミングを見計らったように確認してくる。


「まあ、……でもどう言ったらいいのか」


 熱の出力調整の訓練のために、右腕で湯を沸かすというシュールなことをしていた飛逆は問いかけられて、どう話した物かを考えていなかったことに気付いた。


 考えは改めたからもう要らぬ気を回さなくてもいい、と言えばいいのか。


 つまりハーレムだとか訳のわからないことを言って、たとえばモモコをけしかけてくるとか、ゾッラとノムの加入に特に何も口出ししてこなかったこととか、そうした諸々を改めろと言うべきなのか?

 それは何か違う気がする。その内心はともかく、ヒューリァが飛逆以外にも寛容になるのは悪いことではない。むしろありがたい。なぜなら今のヒューリァには、他の仲間を殺す手段がある。そして状況的に、それをしてもデメリットが特に存在しない。外敵に備える必要性を飛逆が消し飛ばしてしまったからだ。現状警戒すべきはトップランカーだけだ。


 そのトップランカーでさえ、飛逆がよほど油断していない限りは最早敵ではない。どんな勇者も近代兵器を凌駕する火力に耐えることはできないはずだから。なんだったら剣鬼レベルが五、六人まとめて来られても一撃で吹っ飛ばせる。


 従って、モモコたちのことを思えばヒューリァの誤解は解かないほうがいい。


 そんなことに今更気付いた。


 苦し紛れに、


「……疑問だったんだが、ヒューリァは、解呪の方法がそのままあるって思ってるのか?」


 一応本当に疑問だったことを訊いてみた。


「ん? どういう意味?」

 質問の意図がわからない、とヒューリァは首を傾げる。


「いや、ほら。俺を無理矢理解呪するつもりだったんだろ? もし君の思うとおりに進んでた場合、俺をどれくらいの期間、身動きできない状態でいさせるつもりだったんだろうなって疑問に思って」


 飛逆があの時点でヒューリァの策を読めなかった理由の一つだ。


 あの時点でも強大な戦力だった飛逆を拘禁したまま解呪の術をどのように手に入れるつもりだったのか。その間、飛逆をどんな風に扱うつもりだったのか。それはどの程度の期間を見込んでいたのか。


 割と無視できない疑問だった。


「え? そんなのいつま……」


 あっさり何かを吐露しようとしたヒューリァは、一瞬右上に視線を向けて口を噤んだ。


「おぃ……」


「ちゃ、ちゃんとお世話するつもりだったよ?」


「それは前提だろう。いくら俺でもあの状態で放置されたら死ぬって……って? マテ」


 問題は、そのお世話の内容がどこまでなのか、ということだ。


 飛逆だって一応ヒトなのだ。必然的に発生する生理現象その他を、ヒューリァはどうするつもりだったのか。


 そこに思い至って、飛逆は軽い目眩を覚えた。


 ヒューリァは飛逆を飼い殺しにするつもりだったのだ。身動きできないように拘束して食事を与えて生理現象の処理さえも彼女がするつもりだったのなら、それは尊厳的な意味で殺されるようなものだ。


 最短でも数日の間。下手をすれば何ヶ月もの期間、そうするつもりだった。それを想像してウキウキしていたのか、さては。


 なにそのヤンデレの所業。 


 思わず剣鬼に感謝した。あの時の飛逆は反省していたのでどんな仕打ちも従容として受け入れる心づもりだったのだ。


 飛逆は彼女と出会ってから初めて心底から冷たい目で彼女を見詰めた。


 『~デレ』とかの属性付けたら何でも許されると思ったら大間違いなんだぜ?


 そんな目だ。


 ヒューリァは冷や汗をだらだらと垂らして(飛逆は感覚値がヘンタイなので匂いで発汗量がわかる)明後日の方角を向いて飛逆の視線から逃げる。


 二人とも察しは悪くないのでお互いが何を看破したのか丸わかりだった。


「ヒューリァ……俺たちにはきっと会話が足りてないと思うんだ。色々と、話し合おうか」


 がしっと左手でヒューリァの肩を掴んで、顔に笑顔を貼り付けた飛逆は逃がさねーぞとばかりに迫る。


「そんなことよりお風呂入ろう? 汗搔いちゃった」


 おもむろに服をはだけて必殺、飛逆の苦手な女の色香を示唆して逃げようとするヒューリァだが、今の飛逆には通じない。なぜなら飛逆は『心変わり』して『ヒューリァと共に生き残る』という方向に傾いていたからだ。それはつまり責任を取る覚悟が決まったということで、言い換えれば『間違い』を犯してしまってもそれを受け入れる覚悟ができたということでもあるからだ。飛逆は古風なのだ。


 動揺しない飛逆にヒューリァは焦りを見せる。


「え、えと、いいの? 脱ぐよ?」


「やはりか……」


「な、何が?」


 ヒューリァは自分から迫るのは全然平気でも、迫られるのは苦手なのだ。


 何が「やはり」なのかというと、ドSは自分が攻められるのは苦手と相場が決まっているからだ。というのは冗談としても、ちゃんとした会話ができる状態だと頭を撫でるだけで照れたり、邂逅時に飛逆が懐に入っただけで焦って判断を誤ったりしていたことで概ね推測は得られていた。


 ヒューリァのその後の戦術的なセンスを見るにつけ、【紅く古きもの】が理性を浸食するタイプの化生だとしても、邂逅時のあれは変だと思っていたのだ。飛逆は偶然、ヒューリァにとっての最大の弱点を突いていたわけだ。


 そういうことなら、と飛逆は少し強引に「ゃ、ぁ……」ヒューリァのおとがいを持ち上げる。


 途端に潤み始める彼女の瞳をじっと見詰めた。


 あわあわと慌てる瞳はやがて、ぎゅっと瞼を閉じられることで隠される。


 焦らすように頬と頬を合わせてちゅっと音を立てるとぴくっと震えた彼女の肩を押さえて、唇を掠めるようにバードキス。


 驚いたのか思わず瞼を開けるヒューリァの唇を、唇で塞いだ。


「~~~!」


 思わず息を呑むように口を開けた彼女の口内に舌先を侵入させて、歯茎の裏をぞろりと撫でる。「――~~――!!??」驚いて暴れる舌を舌で捕まえて絡ませ、自分の口内に引っ張り込み、甘噛みして舌を逃がさないようにして、息を吸う。「ぁ――!?」無理矢理に人工呼吸をさせた後には首裏を手で押さえてから舌を離し、今度は息を吹き込む。嘔吐きそうになる彼女の背中を軽く撫でることで落ち着かせ、今度はゆっくり舌を搦めて唾液を搾り取り、わざと音を立てて吸う。これ以上はないと思われた彼女の紅潮した顔が、やや色合いの異なる、羞恥の色に染まった。そんな彼女に畳みかけるようにこちらから、彼女のそれと混ざった唾液を流し込む。


 あとはエンドレスだ。歯茎を撫でて息を交換し舌を搦めて唾液を交換した。


 それはキスという名の暴力だった。


 それは彼女が酸欠だけが要因ではない原因で気絶するまで続けられた。


 途中からは半分気が遠くなっていた彼女からも行為の返しがあったので、やりすぎではないと信じたい。


 征服感なのかなんなのか、いわゆる賢者タイム入った飛逆は呟く。


「戦いの後はいつも虚しい……」


 というかなんでこんなことになったのか、自分でやっておきながら飛逆はてんでわからなかった。

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