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13. SSWD

「ヒューリァ、『古き言葉』で答えろ。ちゃんとミリスはいるな?」


 薄い壁一枚を隔てて、ミリスの髪を介してヒューリァに『古き言葉』で確認する。ミリスが都合のいいようにヒューリァの言葉を捏造することを防ぐためだ。


〈「……是。然し彼の女、髪→→埋→身体……繭?」〉


 ミリスと対面してはいるが、彼女の姿は髪に隠されていて見えないという。小さな穴が天井近くに空いている上に薄い壁のため、音声は二重に聞こえた。 


〈疑り深いですね~。そんな簡単に見破られる仕掛けなんて打ちませんよぉ。っていうか二人だけで通じる会話とか、感じ悪いですよ~?〉


「そういうならヒューリァにちゃんと姿を見せろ。あんたの髪なら、下手したらあんたがそこにいるって見せかけることさえ可能なんだからな」


〈……驚かせないようにっていう配慮なんですけどね~……〉


〈「驚かないっていう保証はできないけど、……気持ちわかるし。気をつけるよ?」〉


〈……貴女なんかにわかるわけないですよ。……どうせ後でヒサカさんにワタシの特徴を話すでしょうから、もうワタシから言っときますけど、ワタシの目も耳も鼻も、縫い付けられて塞がってますし、喉も縛られて、体のあちこち縫合痕だらけなんです。前の世界でわたしがなんて呼ばれていたか、【つぎはぎだらけの糸吊り人形】ですよぉ? なまじヒトガタのままだから、……ほら、余計に不気味でしょぅ?〉


 しゅるしゅると繭を解く音を立てながら自嘲的に自身の特徴を話すミリスに、けれど飛逆は別のところが気になった。


「『なまじヒトガタのままだから』? ミリス、あんた俺たちの他に【魔生物】を知ってるのか?」


〈ああ、そこ引っかかるんですね~。でもちょっと違いますね~。ワタシは直接は知らないですがぁ、白虎のヒトはあなたたちの知り合いですよね~? 放火魔事件の噂で~、小耳に挟んだだけです~。ちなみに~、ヒューリァさんが放火魔だっては思われてませんので~、特徴は官吏にも伝わってませんので~、ご安心を~〉


「……やっぱりあんたは頭が切れるな」


 飛逆が懸念していたことを先読みしてそれを払ってくれたわけだが、まだ同盟が確定していない状態では必ずしも嬉しいことではなかった。


〈あははぁ、皮肉ですか~? それともお世辞のつもりです~?〉


「世辞はともかく、皮肉ってなんだ?」


〈白虎さんがぁ放火魔なんだって噂話を信じてしまったせいで~、それだけ特徴的なヒューリァさんがそっちだって気付かなかったんですよ~。もし貴方方がワタシの同胞だって気付けていたらぁ、こんな腹の探り合いみたいなこと、省けたんですけどね~〉


「つまりあんたは、元々同類を捜していたんだな?」


〈この世界でのワタシたちの境遇を知ればぁ、信用できるのは同じ境遇の同類だけじゃないですかぁ~。当然、その情報を集めますよ~。

 誤算だったのはぁ、完全ヒトガタの二人連れが揃って同胞だったってことですね~。過去の資料を盗み見た限りでは~、かなり珍しい、というか無い例みたいですよ~。

 正直言ってぇ、妬ましいです~。ワタシにしてみればぁ、白虎さんでさえうらやましいのに、貴方方は同じなのに、違うじゃないですかぁ。本当に正直なことを言えばぁ、そんな貴方たちが憎いですぅ。同じだからこそ味方にしたいのにぃ、同じだからこそ憎いっていうこの感情を、どうしたらいいんでしょうね~〉


 内容の割には愉快げな語調に、飛逆は内心で舌を打つ。


(気付いてるっぽいな……まあぽろっとカストに言っちまってるしな)


 前例のないことが二つも同時に重なるなどということがあるのか、とミリスは疑っているのだ。即ち、飛逆とヒューリァのどちらかは元はヒト型などではなく、誰の目からも明らかな異形だったのではないかと。そして飛逆の【吸血】を知ったミリスは、ヒューリァのほうが異形だったと考えているに違いない。


 そうすると先の言葉は少し違った意味合いで聞こえてくる。即ち『どうしてヒューリァだけ、異形から解放されているのか』という糾弾だ。『協力するならワタシもヒトガタに戻せ』と。


 とはいえ確信しているわけでもないのだろう。


 異形で苦しんでいるからこそ、それから解放されることが現実味のない与太話に思えてしまう。だからこそ、こちらを揺さぶって確証を得ようとしている。ヒューリァと飛逆を形式上だけとはいえ離したのも、個々の反応を見るためだろう。何割かは本気で『恥ずかしい』からなのだろうが、尋問時に共犯者をそれぞれ分けるのは定石であるため、やはりそれが本命だろう。


 まあ、事前にその可能性をヒューリァと打ち合わせていたため、飛逆が動揺を表に出すことはないし、意外なほど演技力があるヒューリァがボロを出すとも考えておらず、その心配が態度に影響することもない。


「なるほど、確かに俺らにはあんたの気持ちなんてわからないだろう。境遇が同じだけに、っていうのも理解できなくはないが、共感はできないかもな。


 モモコ――あんたの言う白虎だが、そいつにも似たようなこと言われてな、俺たちの目的はそれが一つだ」


 モモコには悪いが、でっち上げさせてもらう。


〈はい~?〉


「【能力結晶】の仕組みを利用して、どうにか俺らに憑いてるモノだけを抜き出せないか、ってな」

〈……〉

「決してありえない話じゃない。そもそもこの街の連中は俺たちのことを塔による被造物(クリーチヤー)だと思ってるから、その発想自体がない。だから試してみたら案外、簡単にできてしまうかもしれないぞ?」


〈「共感はできなくても、同じ目的を追うことはできるでしょ? わたしたちだって……祓いたいモノがあるから……」〉


 ヒューリァのその言葉には真実だけが籠もっている。むしろ飛逆などより余程、今は飛逆に憑いている【紅く古きもの】を祓いたがっているのだから。


「疑うなら、一つ実験してみようか」


〈実験、ですか~?〉


「ああ、今後の俺たちの協力関係をやりやすくするために、夜なべして作ってきた」


 完全不眠症の飛逆は独り寂しい時間を潰すために色々と考えたり、手作業したりすることが最早癖になっている。元々手先は器用なほうなのだ。型紙がないので多少苦労はしたが。


「まさかあんたが【つぎはぎだらけの糸吊り人形】なんて呼ばれてたこと知らなかったから、これが皮肉や当てつけじゃないのはわかってくれ」


 そう言って飛逆は、懐からお手製の人形を取り出した。



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