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110. 2Pカラー

 ゾッラの『意思』を封印するための筐体:ドッペルゲンガーがどうしてこんな姿に設計されたのかというと、もちろんミリスの悪ノリによる。


 金髪幼女と言えばツインテールとか言って髪型も指定された。ツインだけならまだしも巻き髪ドリルにされている。これでツンデレだったら最強だったとミリスは悔しがっていたが、飛逆はどうツッコミ入れればいいのかわからなかった。


 ミリスの出身は飛逆のそれと異なる。そのせいか「お約束」が共通しているかと思えば微妙に齟齬(例えば『ヒトを操る声』を遣うゾッラのツインテと言えば碧髪じゃないのかとか)があったりして、今ひとつ適切なツッコミがわからないのだが、そういう話ではなく。


 そういう方向の悪ノリなのか、ということだ。

 わかりきっていたことだけに、逆に予想外だった。


「あのですね~、芸人はたとえウケが取れなくてもいきなり斜め上を狙っちゃいけないんですよ~?」


 というのはミリスが口を尖らせて言った抗弁である。


 お前芸人なの? とこれにはツッコミ入れられた。芸人(イロモノ)の自覚があったんだな、とは辛うじて喉元で留めた。芸人が即ちイロモノではなくイロモノ芸人というカテゴリがあるのであって、つまりそのツッコミは誤りなのだが、そういうことでもなく。


「武術で型が見極められても変に工夫を加えたりしないほうが結局はいいみたいなもんか」


 言ってる内容自体には納得してしまう飛逆だった。苦境にあってこそ特別なことをしない。それは兄の教えと合致する。


 おかげでゾッラのドッペルゲンガーの容姿は金髪白皙幼女で決定されてしまった。


 その理屈で言ってもゾッラの本体の印象とかけ離れた自己像復体という『変な工夫』はしていいのか、というツッコミを入れる者はその場にはいなかったのだ。そもそもそこでの主題が逸れていることに、気付いていないわけではなかったのだが。


 後になって、この容姿ならばシェルター内で彼女が動き回っても、ウリオと出くわし、彼に邪心を誘起させる結果(彼が幼女趣味であれば別の意味に聞こえそうだ)にはならないという利点が見いだされ、余計に変更する理由が失われてしまった。


 そのせいかどうかはわからないが、ゾッラの本体であるところの銀髪褐色幼女に【魂】の固定化は未だ成されず、のみならず一時は動かせていたことが嘘だったみたいに完全な植物人間に戻ってしまった。


「この身体は居心地がよいのですの」


 他の植物人間みたいに『ヒトであることを身体に思い出させる』ための処置を施行しなくてもいいのか、と飛逆が訊いたところ、そんな答えが返ってきた。


 何もかもがヒトとはかけ離れた構造のそれが気に入ってしまったということだ。飛逆から独立的に動くことができるというだけでもありえないのだが、そこは今更な話である。怪物よりも不条理なのが【悪魔】現象なのだから。


 そんなゾッラの近況は「な~んかしっくり来るのがないんですよね~」というミリスの着せ替え人形兼、元塔下街の植物人間たちの調律師だ。


 仮想空間内のアバターの調整はミリスでも(一応飛逆も)できるのだが、基底現実の肉体の操作端末を個々人に合わせて調整することはゾッラにしかできない。


 まるで巫女が洗礼を与えるかのように、植物人間たちは模擬人格を施されていく。


 実質的に現在の元塔下街住人たちはゾッラの支配下にあるということだ。


 参照元の人格が生きている場合はその限りではなく、だから巨人兵のパイロットたちはゾッラの手から逃れられている。


 ゾッラは執行猶予の身分であり、本来はここまでの権能を与えるべきではない。

 だが『敵ではない』ことを彼女が示すためには何らかの行動に就かせる必要があり、それが飛逆かミリスが直接監視の下での調律師なのだ。元塔下街の住人は飛逆の意志一つで死滅させることができるし、ゾッラが何も対策を取らないのであれば彼女も同様である。生殺与奪を握られて何も対策しないということ自体が彼女の恭順の証明となる。


 ゾッラがやっていることはいずれは技術として汎用化が可能であるため、実際的にはそれほど強大な権能ではないということもある。


 何よりこれが一番重要なのだが――ゾッラについては興味深いことがある。


 彼女は本体の身体とどんなリンクも見当たらないのに、ドッペルゲンガーのほうにも元の彼女の記憶があるということだ。

 つまり本体から記憶の抽出、そしてドッペルゲンガーへの記憶の定着が行われていると考えられる。飛逆たちにも観測不可能な経路があるという可能性は否定できないが、そちらよりも考えやすい。


 それは飛逆が欲しい技術だ。


 彼女のドッペルゲンガーをできるだけ多様なパターンで動かすことでその情報を参照記録として蓄積し、その技術を獲得したい。


 そんな目論見がある。


 ――つくづく、都合がいい。


 もちろん飛逆は自分の目的に対して能動的に動き、探索することを怠っていない。いくつかは失敗しているし、優秀な仲間たちと共にトライアルアンドエラーを繰り返している。だからこうした『発見』を得ることは必然的とは云える。一つブレイクスルーがあればこんなものだとミリスが言うのにも納得している。


 けれどどうしても不安になる。

 何かを見落としているのではないかと。

 自分が間違っているとしたら、その視点そのものなのではないか?


「天使様は天使様ですの」


 不安を直視せざるを得なくなるから、ゾッラの監視に飛逆はあまり乗り気ではない。


「ああ……いい加減言うほうが面倒臭くなってきてる」


 彼女が飛逆を『天使』と呼ばわることにも何か意味があるかもしれない。ないかもしれない。あったとしても大したことではないかもしれない。


 彼女に訊いても相変わらず答えは要領を得ないし、深く頓着しないのが一番なのだとわかっているのだけれど。


 彼女は万人にとっての鏡だ。

 自己を映し出す鏡、というわけではない。鏡と言うより、彼女は見本なのだ。


 ある時には理想像であり、またある時はそれが裏返った何か。

 良きにつけ悪しきにつけ、なんらかの情動を掻き立てずにはおかない、デキのいい偶像。


 例えばヒューリァ。

 彼女が飛逆から一時的に離れる動因となったのは、ゾッラが【悪魔】として目覚めたことがあったからだと飛逆は見ている。


 劇的な反応があったわけではないが、どこか居心地が悪そうに、ヒューリァはゾッラを直視しようとしなかった。


 この側面だけを見ていれば、ヒューリァはゾッラから逃げるためにシェルターに居着かないようにしているのだと言っても誰も異論を挟まないだろうというくらいの態度だった。人一倍程度に感覚(というより感性)が鋭いヒューリァは、ゾッラに深淵が見返してくる悪寒を掻き立てられている。そんな風に飛逆には見えた。


 飛逆にとってゾッラは壊れかけの自動人形(オートマタ)みたいなものなのだが。

 その感想も、己に抱く印象を投影していると見なすことはできる。

 けれどそういう存在(モノ)でしかない。ただそれだけのモノ。


 仮に彼女が何か大それたことを視ていて聴いていて識っていたとしても、彼女自体はなんら恐れるべきモノではないし、警戒するだけ無駄なのだ。


「あと九万人強……」


 ゾッラが施術するべき残りの数がそれだ。彼女の執行猶予にはどこかで区切りをつけなければならないため、元塔下街住人すべてにアバターを作製するというのがその労役ノルマということにした。けれどやはり十万は、いかに彼女の施行が早くとも中々追いつかない。おそらく彼女以外でも施行できるように技術が確立するのが先だろう。


「どれが先に来ると思う? 君の労役が終わるのと、成長した哲学的ゾンビが襲来するのと、あるいはヴァティの復活とか……つまりは何か大きな節目が到来するのは」


 戯れに訊いてみた。


 なるべく情報を与えないように遮断しているため、彼女に預言者としての精度は期待できない。だから本当に戯れだった。

 現在は他の仕事を遠隔で行いながら、目下はゾッラが施行していく端末にそれぞれの個人名を言わせてから戸籍データベース化しているところだ。だから暇ではないが、退屈していた。物事をシステム化すると、どうしても退屈に陥る。


「わかりませんの。ただ……」


 ゾッラは小首をくりっと傾げて、ただのレンズでしかないはずの義眼でどこか遠くにフォーカスを当てる。

 そうした仕草のいちいちが意味深だった。


「天使様は何かをお見落としされている……ような気がいたしますの」

「見落としていることなんて五万とあるだろうよ、そりゃ」


 ないはずがない。第三の眼は見えすぎるため、記憶の物理メモリはもちろん情報処理のタスクを圧迫する。だから普段はかなりレベルを落としているし、それは各地の【眼】も同様だ。現在の飛逆の感知力はかなり恣意的なのだ。見えるものにバイアスをかけている。有り体に言えば見たい物しか見ていない状態だ。そうでなくとも、見えている範囲でさえ知らないことはいくらでもあるし、知っていることでさえも思い至らないことなど、やはりいくらだってある。


 単に飛逆が『大事にしている何かについての見落とし』を疑っていたから、それを彼女は察知したのだろうと、些か憮然としてしまう。


 飛逆が彼女で戯れに占おうとしたのは、事件発生の順序であって、内省の解決についてではなかったからだ。


「わたくしにはそれが何か、わかりかねますけれど……それは多分、天使様にとってはとても単純なことであるように思えますの」


 飛逆の失望に気付いていないかのような態で、虚空に描いたもやもやした感じのイメージを身振りで弄びながらゾッラは述懐する。


「単純なこと、ね」


 気付いてみれば単純なことなど、大概がそうだ。

 意識的にやっているかどうかは定かではないが、それは所詮『どうとでも取れる』ような話術に過ぎない。


 やはり深く考えない方が良い。

 その時はそう思った。


 けれど結局、彼女は話題をすり替えたわけでも、鏡を演じようとしたわけでもなく、飛逆が振った話題の通りに実際的な話をしているだけだったのだと、比較的すぐに明らかとなった。




〓〓




 飛逆との相似性が【悪魔憑き】を成立させる条件であるならば、それが出てくることは、なるほど予想できたはずのことだった。


 正確には飛逆が保有する形質因子との相似性だ。

 その中には微小であり普通にしていれば見えない生命という存在がいる。


 細菌である。バクテリア的な性質を持つアカゲロウの形質。


 飛逆の中でウィルスが『生命』に含まれていなかったのは幸いと云えるだろう。それは飛逆が保有する【能力】因子の内の一つであり、そんなものが多数の生命体を殺すことで成長したならば、気付いたときには手遅れだったはずだ。


 まあ、細菌だからといって、これも気付いたからといって手遅れではないとは言い切れないわけだが。


 気付いたのは、各地に常在させている巨人兵の故障がきっかけだった。


 各地のトラップ型森林では、殺傷性の罠を潜り抜けてきた魔獣を、巨人兵で仕留めるという形式にしていた。そうでなければ操縦士が実質九人しかいないために、手が回らないのだ。無人で減らせるだけ減らし、トラップの網を潜り抜けてきた敵を感知してシェルター内のイルスたちに信号が行き、その敵の数に応じて巨人兵が起動してそれに対処する。


 それでもイルスたちからは操縦士を増やしてくれという嘆願が再三に渡り上がっていたが、いずれは巨人兵の操縦士を要らなくする予定だった飛逆は却下していた。彼らが戦闘経験を積めば積むほどそのためのデータ蓄積が捗るため、彼らが各環境で頻繁に操縦することは都合が良かったのだ。


 そういった意味で、故障することは決して悪いことばかりではない。その原因を探ることで更なる巨人兵の進化が見込める。


 巨人兵がいなくなるということは、そのエネルギースポットの【眼】は魔獣に破壊されてしまうということであり、その原因究明を遠隔では行えないと言うことである。だから回収する必要があったのだが、各地で同時的に故障が発生したために、ヒューリァたちだけでは間に合わないということになってしまった。原因究明とエネルギースポットの再構築が急務だったのである。


 当然、飛逆が単独で向かった。


 炎龍ゾンビとの邂逅の折に得た反省から、なるたけ空気抵抗を受けないようなフォルムにした翼状外装を頭から纏い、その上で第三の眼の視界が及ぶ範囲で航路上の空気を薄くして、ものの十分足らずで問題のポイント上空に到着する。


 そして原因究明に取りかかろうとしたら、一目瞭然だった。


 トラップ型森林では、【悪魔憑き】を呼び寄せるためにその中心的な位置に一際大きなエネルギーを溜める樹木を生やしている。その樹木を破壊すれば【悪魔憑き】は一気に成長してしまうというリスクと隣り合わせだ。だからその中心から腐食が広がっていたのも納得はできる。爆発的に『成長した』のだろう。


 腐り落ちた樹木がヘドロ状になって溜まり、泡が弾けてガスを放出する湖と化している。

 さすがに呆気に取られた。


 しかも――飛逆の到来を受けてだろう。

 そのヘドロが規則的に波だったかと思えば渦となり、その渦が浮き上がって螺旋状になって、飛逆に襲いかかってきた。


「あ、これヒューリァには行かせないで正解だ」


 分割思考の一角を遣ってその旨をミリスに伝える。他方でこうした森に向かっている途中であるヒューリァを引き留めるためだ。


 それはまるで巨大な蛇がとぐろを巻きながら昇ってくるかのような光景だったから。


 加速された飛逆の思考速度では、その昇ってくるヘドロ――おそらくは複数の細菌が共生して粘菌のような群体生物となってしまったそれは、大した速度ではない。


 充分に右腕で溜めを作って――指向性爆撃を放つ。


 【悪魔憑き】には【理】による炎自体は効き目が薄い。全く効かないわけではないのだが、一定の閾値を越えた密度で与えなければ攻撃として成立しなくなる。けれど例えば今飛逆が放ったような、熱された空気を衝撃波として与えれば、ほぼ十全に攻撃として通る。


 要するに炎自体で攻撃しているわけではないためだ。それに、閾値が存在するということは、一度に無効化できる精気の量に限度があるということでもある。【理】のそれであっても高密度の炎の塊などであれば充分に焼き尽くせる。


 そうしてほとんど一撃で一掃した――かに見えたが、飛逆の眼下には未だに動き続ける存在があった。


「耐熱性を付加したのは間違いだったな……」


 ネリコン製の耐熱装甲を纏った巨人兵が、その装甲の隙間からヘドロを零しながら活動している。どうやら群体生物に入り込まれて乗っ取られたようだ。


 予備を含めて十五体の巨人兵すべてがそんな有様だった。

 本来の巨人兵が持つような機敏な動きでは全くない。それはとても鈍重だ。二足で立つこともできていない。


 けれどその巨人兵を解体しなければ、群体生物(以下、群魔獣)を駆逐できない。

 手間が掛かる。

 ただそれだけでも充分に憂鬱な事態だった。

 何せほとんどの地域でそれを行わなければならないのだから。

 溜息を吐きながら飛逆は地上に降り立ち、素手で巨人兵(中型)の解体に取りかかった。

 パーツを再利用する気にはなれなかったので、もうホントに力任せに、壊しまくった。

 なぜならこれのおかげで、今までの【悪魔憑き】への対処のスキームをほぼ一から見直さなければならなくなったのだ。


 軌道に乗ったかと思えばこれだ。自分の不明に本当、嫌気が差す。ゾッラが曖昧な言い方でこれを予言していたことに思い当たれば益々苛立ちが募った。


 意思無く飛逆に襲いかかってくるだけの物体をいくら壊しても、多少の憂さ晴らしにもなりはしなかったのだけど。




〓〓




「本格的に嫌気が差してきた」


 各地を飛び回ってなんとか一日ですべての処理を終えた飛逆は、ミリスとゾッラとその傍に控えるアバター憑きのノムを前にして、げっそりと呻いた。


 というのも、群魔獣の種類の多さだ。


 最初の例は一掃できるだけまだマシだった。他の箇所ではスライム状の流動生物が個々に分かれて方々に散ろうとしていたので、一体ずつ片付けていかなければならなかったり、まるで黒い霧みたいに空中に密集していて、どうしても取り逃しがでるような種類もいた。


 一番精神的に面倒臭かったのは、土葬の習慣がある地域で死体が土中から這い上がってきていたところだ。哲学的じゃないゾンビは歩くこともできないくせに、蠕動だけでうぞうぞと這い回っていたのだ。さすがの飛逆も精神的打撃を受けた。アレは気持ち悪い。


「しかも~……これって明らかに~、【悪魔憑き】は遺伝するっていう示唆を含んでいますしね~……」


 そうなのだ。

 彼らは精気を莫大に含む樹木や【眼】を破壊することで、爆発的に『繁殖』したのだ。細胞一つ一つで成り立っている群魔獣が、分裂してもその性質を失わなかったということは、【悪魔憑き】同士で交配してその性質が子に受け継がれるということを示している。【悪魔憑き】とそれ以外とが交配して子ができるかどうかはわからないので、それも実験してみなければならない。


 種類が多いということはそれぞれで対処法を別に構築しなければならないということであり、そこに加えて繁殖実験なども入ってくるわけで、その結果如何では新たに対策をぶち上げる必要が生じるわけで、もうやることは山積みである。やっと平定させたと思った南大陸でさえもこれだ。北大陸東北部ではどうなっていることやら、想像するのも憂鬱である。


 わかりやすい敵を想定して対処していたときとはまるで違う疲労感だ。対処療法とはかくも不毛なものである。


 今の状況はマッチポンプであり、飛逆の存在に九割が起因している。だから文句を言うのは筋違いなのだが、いい加減投げ出したくなってくる。


 どこでどう間違えたのかは判然としているが、どこでどうしたらこうならなかったのかはさっぱり見当も付かない。


 正直なことを言えば、【悪魔憑き】が莫大な精気を持つ者を破壊しようとする、という性質さえなければもう投げ出しているところだ。


「本格的に~……【悪魔祓い】を創出しないと、終わりがありませんね~」


 根本的療法を創出しなければ、終わらない。結局、【悪魔憑き】は後から【能力結晶】をインジェクトしたところで治らなかった。その仕組みを考えれば当然のことではあったが。【能力結晶】をばらまいて【悪魔】現象を終息させるという案は棄却されたのだ。


 哲学的ゾンビとの共生は、不可能ではないと思えるが、次々と現れる様々な種類の魔獣はもう対処療法ではとても追いつかない。


「それって結局は変異情報源の正体を探らないといけないってことで、今の状況ではそんなことやってる暇がない。というか今のままだとどこまで行ってもその暇ができる気配がないってことで俺は絶望してるんだが」


 【悪魔】現象をなかったことにするためには、変異情報源という、ひねくれ者を恣意的に把握して【悪魔】を媒介し、投射するという過程を踏む必要がある。そしてそれは飛逆が行わなければならない。ヒトに媒介感染させることは、例えばゾッラでもできるだろうが、その他の魔獣に媒介できるのは飛逆だけだからだ。


「なにか、何かないですかね~……。暇を作り出すのでも~、もしくは他の方法でもなんでも~……何か」


 ミリスは言いながら、何かを期待するようにゾッラに視線をチラチラと向ける。

 ゾッラは小首を傾げるばかりだ。

 飛逆は無視して話を進める。不安定な預言など当てにする気はない。


「とりあえず、異能に頼らない兵器の開発。これが必須だ。そしてその兵器の流布。もう最低でもこの大陸の文明水準を無理矢理に引き上げて、各自で魔獣に対処してもらう」


 要は殺させなければ成長しないわけだ。だからもう各人に武器を持たせて、細菌が原因である病気ならば早期に撲滅させ、均衡を図る。各国に力を与えるのは後々のことを考えると危険だが、四の五の言ってられない状況だ。とにかく飛逆やミリスが別のことをするだけの時間を生み出さなければならない。


「仕方、ないですよね~。詳細を詰めたいんでまた会議招集かけます~」


 そうして、南大陸に魔獣討伐ギルドと無国籍医療団体が組織される運びとなった。

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