男の願い
ありきたりなことに男はランプを拾って魔神を呼び出した。
だが、男はいささか常識はずれな面があった。
「さぁ、三つのねがーー」
「てめえの力を丸ごと寄越せ」
「遠慮ってもんをしろよ!」
男はそれはそれは汚らしいモノを見るように魔神を見た。そして一言つぶやく。
「役立たず」
「本当に遠慮がねえな。駄目なもんは駄目だ。上司に怒られちまうからな」
魔神が譲らないことを見て取ると男はため息を吐いた。
「じゃあ、世界平和をくれ」
男が無愛想に言った。
魔神は一瞬だけ惚けたがすぐ輝かんばかりの笑顔になった。
「誤解してたよ良い奴だったんだなぁ。よし、叶えてやるぜ!」
魔神がぐっと親指を立てる。
男はそれに釣られるように笑いながら次の願いを口にした。
「次に平和を壊す魔王をくれ」
「台無しじゃねぇか! 上げて落とすを世界規模でやるとかスケールデカ過ぎんだろ!!」
魔神が即座にツッコむ。
だが、最後の願いを聞いていないことに気が付いた。
「ちなみに最後の願いは?」
魔神が促すと男は照れながら口にした。
「魔王を陰から操る側近の立場がほしい。失敗しても頭すげ替えればいいし」
「魔王の立場弱えぇぇぇ! てか黒幕じゃねえか!! 政治屋みたいなこと言ってんなよ!!!」
要所すべてを的確にツッコむ魔神。
「駄目だ、そんなもん全部なし」
魔神が手をヒラヒラさせながら一蹴する。
男はひどく落胆した様子でうつむいた。
「じゃあ、密室と練炭と睡眠薬」
「何する気だよ!?」
魔神は慌てて男を揺さぶる。
男はガクガクと頭を振られながら虚ろな瞳で見返した。
「だって願い叶わないし……。」
「思い直して!? あぁこいつめんどくさすぎる!!」
魔神が頭を抱えて天高く叫びあげた。