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食事がきらいな王様

作者: こだかあや
掲載日:2010/11/15

 


 あるところに、とっても小さな国がありました。

 その国はとってもえらい王様がおさめていて、戦争もなく平和な国でした。


 王様は何不自由することなく暮らしていました。

 「アップルパイが食べたい」と言えば、3時のおやつにコックが腕によりをかけた、

 天井に届きそうなくらいのアップルパイが出てきます。

 「オセロの勝負がしたい」と言えば、国1番の名手が相手をします。

 名手はてきどに負けるので、王様の気分ががいされることはありません。


 王様がのぞめば何でも思いどおりになるし、いやなことはありませんでした。


 ただ1つのことをのぞいて。


 

 王様はごはんがきらいでした。

 いえ、食べることは大好きなのですが、ごはんの時間がきらいでした。

 ふかふかのイスにすわると、宝石をちりばめたテーブルに、

 びっくりするぐらいごうかなお食事がはこばれてきます。

 あつあつのステーキに、シャキシャキのサラダ。

 デザートは野いちごのプリンです。めまいがするぐらいおいしそうなにおいがします。

 そんなごうかなお食事を前にして、王様はまわりを見回します。

 長いテーブルは、だれもすわっていないのに、反対がわが見えません。


 王様は言いました。


「なぜおまえたちは食べないのだ。一緒に食べようじゃないか」


 ゆうのうなけらいは言いました。


「あなたは王様です。王様とはえらいものです。えらいものはとくべつなもの。

 王様はとくべつでなければいけない。たみにしめしがつくようにしなければ。

 わたしたちと同じ食事ではいけないのです。王様はわたしたちと同じではいけないのです」


 王様は、今日もひとりぼっちでごはんを食べるのでした。




 ある日のことです。

 その日も王様は、いつものようにひとりでごはんを食べました。

 空になったお皿を見て、王様はふと思いました。


「わたしが王様だと分からなければ、みんなと一緒に食事ができるのではないか?」


 それはすばらしい思いつきでした。

 ランチのあとは、とうぶんけらいは王様のへやにはきません。

 王様はさっそく街に行こうとしましたが、すがたみにうつった自分の姿をみて思いとどまりました。


「やや。このかっこうでは、すぐにわたしが王様だとばれてしまうぞ」


 王様は、ごうかなマントをぬぎました。


「まだだめだ」


 王様は、ごうかな冠を外しました。


「まだだめだ」


 王様は、ごうかな服と、くつしたと、くつをぬぎました。


「まるはだかになってしまったぞ」


 王様は王様なので、ごうかな服しかもっていません。

 そこで王様は、けらいの服を借りることにしました。もちろん、こっそりとです。


「これでよし」


 王様はかがみにうつった自分をみて大満足でした。

 かがみには、王様の顔を知らなければ王様だとわからないようなかっこうをした王様がうつっていました。


 みじたくはばっちりです。

 音をたてないように、うら口をそっとのぞきます。

 もんばんはきもちよさそうにねていました。


「やれやれこまったものだ。あとでしからないと。しかし、助かった」


 王様は、もんばんの横をこっそりとおりぬけました。

 もんばんはぐっすりねていたので、全然きがつきませんでした。




「あぁ、楽しいなぁ」


 王様は伸びをしながら言いました。

 王様は王様なので、出かけるときはいつもお付きの人と一緒でなければいけません。

 王様にとってこれが初めての、一人きりでのお出かけなのでした。


「ふむ。ここはにぎやかだな。お祭りでもやっているのだろうか」


 街はひとびとのかっきにみちていました。

 王様はじっくりと街のなかを見たことがなかったので、ゆっくり見て回ることにしました。


 くだものをうっているひと。

 うつくしいそうしょくひんを眺めているひと。

 バイオリンを弾いているひと。

 にがおえを描いているひと。


 たくさんのひとがいて、ひとびとはみな笑顔でした。

 王様はとてもわくわくしました。



 きがつくと王様は、街のまんなかぐらいまであるいてきていました。

 もうお腹がぺこぺこだったので、王様はレストランに入ることにしました。


 なかに入るとたくさんのひとがいて、やはりみな笑顔で食事をしています。

 王様もいすにすわって、ウェイターに注文をしようとしました。


 そのときです。

 王様は突然きづいてしまいました。



 ここにはたくさんのひとがいるけれど、そしてみな楽しそうにしているけれど、

 かれらの笑顔はそのどれもが、かれらと一緒にいる家族や友だちや、

 あるいは恋人に向けられたものなのだ、と。


 やはりここでも、わたしはひとりぼっちなのだ、と。


 王様は急にさみしくなってしまったので、何も食べずに店をでてしまいました。



 ぐーぐーと、王様のお腹が鳴ります。

 しかし王様は、それを忘れるくらいさみしくなってしまったので、お城に帰ることにしました。


 てくてく、てくてく。

 王様は来た道を辿っていきます。


「おや ここはどこだ?」


 どうやら、どこかで道をまちがえてしまったようです。

 あたりには、たくさんの石づくりの家が、左右にどーんと立ち並んでいます。



 王様は、

 ひとりぼっちで、

 道もまよってしまい、

 おなかもぺこぺこです。


 王様はだんだん寂しいきもちが強くなって、ついには泣きたくなりました。

 しかし、王様は泣きません。泣くことはありません。なぜなら王様は王様だからです。

 王様は、ぐっ、とこらえて、寂しいきもちを飲みこんでしまいました。


「立ち止まっていてもしかたがない。とにかく、すすもう」


 てくてく、てくてく。

 どんっ。


「!?」


 王様の前には、赤い服を着て髪を高いところで2つに結わいた、

 ちいさな女の子がひとり、ころがっていました。

 いえ、この女の子はこんなところで寝ていたわけではありません。

 とたとたとたとた走ってきて、王様にぶつかり、

 王様の大きなお腹にぽーんとはじかれてしまったのでした。


 王様は、女の子を抱きおこして言いました。


「こら、むすめ。こんなところで寝るものではないぞ」  


 女の子がころがっていたのが自分のせいだとは、つゆ(・・)ほどにも思っていません。


 女の子はしばらく大きな目をぱちくりしたあと、王様にたずねました。


「あなたはだれ?」


「わたしか。わたしはこの国の……」


「このくにの?」


「………」


 王様はだまりこんでしまいました。かわりに、


 ぐううぅ。


 王様のお腹から大きな返事がきこえました。

 女の子は、大きな目をまたぱちくりさせました。

 そして、ひまわりのような笑顔になっていいました。


「おなかすいてるの? わたしのうちもこれからごはんなの。ごちそうしてあげる、いっしょにたべよう!」


 その申し出に王様はちょっと迷いましたが、いっしょにたべよう、の言葉にこころがとてもとてもどきどきしてしまったので、女の子についていくことにしました。


 


 かたくてつめたい木のイスにすわると、ところどころヒビがはいったちいさなテーブルに、びっくりするぐらいしっそなお食事がはこばれてきます。

 冷めてしまったきのこのスープ、かたいパンがちょびっと。デザートはありません。

 めまいがするぐらいおいしそうなにおいがするはずもなく、王様は、文字通りめまいがしました。

 そんなしっそなお食事を前にして、王様はまわりを見回します。

 ちいさなテーブルのまわりは、王様と女の子、女の子のおかあさんがすわっているだけで、ぎゅうぎゅうになっていました。


「いただきます!」


 女の子は元気に言って、きのこをぱくっと食べました。


「いただきます」


 王様はつぶやくように言って、スープをひとくち、おそるおそる口に運びました。



 味は、普通でした。

 おいしくはありません。まずいわけでもありません。普通でした。

 ただ温かかったら、もう少しおいしかったかもしれません。


 王様は女の子をちらりと見ました。


「おいしい! ねえおじちゃん、おかあさんのおりょうりおいしいでしょ?」


 女の子はかがやいた目で王様をじっと見ています。

 女の子のおかあさんは、にっこり笑って二人を見ています。

 王様も二人を見ていると、ふしぎな気持ちになりました。なぜだかはわかりません。


 そして王様はもう一度、スープを口に運びました。

 なんだかさっきよりもおいしいような気がしました。

 もうひとくち、スープを口に運びます。

 もうひとくち、もうひとくちと口に運んでいくと、そのたびにどんどんおいしくなっていきます。

 ときおり、かたいパンをスープにつけて、やわらかくしてから食べました。

 とうとう王様は、お皿を空にしてしまいました。


「ごちそうさま。こんなにおいしいものは、初めて食べたよ!」


 王様は、持っていたハンカチで口元をぬぐいました。

 そして女の子と、女の子のおかあさんを見て、にっこりと笑いました。

 女の子と女の子のおかあさんも、にっこりと笑いました。

 


「それにしてもふしぎだなぁ。どうしてこの料理は、こんなにおいしかったのだろう」


 冷めたスープには、ほんの少しのきのこしかはいっていませんでした。

 かたいパンには、味はありませんでした。  

 デザートなんてものは、ありませんでした。


 いくら王様のお腹がすいていたからって、いつもごうかなお城で、ごうかなお料理を食べている王様には、とうていおいしいと思えるようなものではありません。


 なにかふしぎな魔法でもかけてあったのでしょうか。

  ――いいえ、この国の魔法つかいは、ずいぶんまえに旅にでてしまったのでちがいます。

 なにかふしぎな食材をつかっていたのでしょうか。

  ――いいえ、つかわれていたのは、ごくふつうの野菜とごくふつうのこむぎこ、それからごくふつうのお水だけでした。


 では、どうして?


「それはね!」


 おかあさんのひざにすわった女の子が言いました。


「みんなでたのしく食べたからだよ!」


 女の子はきらきらと顔をかがやかせました。




 あるところに、とっても小さな国がありました。

 その国はとってもえらい王様がおさめていて、戦争もなく平和な国でした。


 その国には少しまえまで、ごはんの時間がだいきらいな王様がいました。

 その国には少しまえまで、とてもとてもしっそなごはんしかたべられないひとがいました。



 ふかふかのイスにすわると、白いクロスをかけたテーブルに、とってもおいしそうなお食事が、たくさんたくさんはこばれてきます。

 あつあつのハンバーグに、つけあわせはホクホクのポテト。

 デザートは山ぶどうのタルトです。めまいがするぐらいおいしそうなにおいがします。

 そんなお食事を前にして、王様はまわりを見回します。

 長いテーブルは、りょうがわにたくさんのひとがすわっていて、みんなわくわくしながら王様をみています。


 王様は言いました。


「さあ、今日もまた、みんなで一緒に食べようじゃないか!」


 けらいとたみは言いました。


「いただきます!」


 


 その国をおさめるとってもえらい王様は、食事がきらいでした。


 ある日こっそり街におりた王様は、じぶんの国にまずしいたみがいることをしりました。

 お城にかえった王様は、こっそりお城をぬけだしたことを、ゆうのうなけらいにたっぷりと怒られました。

 それから王様は、お城のなかのつかっていない冠だとか、アクセサリーだとか、宝石をちりばめたテーブルだとかを、うりはらってしまいました。

 そしてそのおかねを、まずしいたみに公平にわけあたえました。

 つぎに王様は、とてもとてもごうかだったお食事をほんのちょっぴりごうかにするようにかえて、そのぶん量をふやしました。

 そして、ゆうのうなけらいに言いました。


「わたしは王様だ。しかし、王様はとくべつなものでもなんでもない。たみやけらいをたいせつにするからこそ、王様は王様でいられるのだ」



 その国では、きぼうするものはだれでも、お城でごはんをたべられるようになりました。まずしいものでも、ゆうふくなものでも、だれでもです。

 王様の食事はほんのすこしだけしつ(・・)がおちてしまいましたが、そのかわり王様は、このうえなくすてきなものをえることができました。


 ひとりぼっちではなくなった王様がおさめている、戦争もなく平和なとっても小さな国は、とてもとてもしあわせな国になり、そこにくらすひとたちはみな、末永くしあわせにくらしたということです。



end.

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