妻を満たせなかったと気づいたので、別れることにした
※本作は作者の構想をもとに、AIの補助を受けて執筆しています。
※また、本作はNTRというジャンルに対する個人的な解釈と応答を含みます。
夜の街は、思っていたより明るかった。
少し離れた場所から、夫はその背中を見ていた。
見慣れたコート。歩き方。
そして、隣にいる男に向ける、やわらかい視線。
――まだ、引き返せるかもしれない。
そう思いながら、足は止まらなかった。
二人はそのままホテルへ入っていく。
夫は数秒だけ遅れて、その後を追った。
責めるためじゃない。問い詰めるためでもない。
ただ、最後まで信じるために。
エレベーターの表示を見上げる。
扉の向こうで何が起きているか、
想像しないようにしても、頭から離れなかった。
それでも、怒りは湧いてこなかった。
ゆっくりと息を吐く。
もう、十分だった。
胸に来るはずだった痛みの代わりに、
奇妙な感情が残る。
――ああ、そうか。
彼女は満たされていなかった。
そして、自分では埋められなかった。
今、その代わりを見つけた。
それだけのことだ。
「……よかった」
小さく、言葉が漏れた。
その夜、妻は男の隣で横になりながら、天井を見ていた。
確かに、満たされていたはずだった。
求められて、応えて。
そこには熱があった。
けれど。
ふとした瞬間に、思い出してしまう。
違う、と思ってしまう。
何が、とは言えない。
ただ、どこかが噛み合っていない。
その違和感に気づいた瞬間、
それを無視しようとする自分に、わずかな嫌悪を覚えた。
数日後。
食卓は静かだった。
子供が寝た後の、遅い時間。
「話があるんだ」
「離婚しよう」
空気が、わずかに揺れる。
「……どうして」
夫は少しだけ考えてから答える。
「君が満たされていないまま一緒にいるのは、良くないと思う」
「そんなこと……」
言葉が続かない。
「責めるつもりはないよ」
穏やかな声だった。
「俺では足りなかった。それだけだ」
否定できなかった。
離婚の話は、驚くほど静かに進んだ。
ただ一つだけ、最初から決まっていたことがある。
「子供のことは、二人でやる」
それ以外は、何も残さない。
判を押す直前、妻の手が止まる。
「……待って」
声が震える。
「やり直せない?」
あの夜のこと。
その後に残った違和感。
すべてが一瞬で繋がる。
夫はすぐには答えない。
少しだけ時間を置いてから、静かに言う。
「やり直すことは、できると思う」
一瞬、光が差す。
「ただ」
「それは“俺と”じゃない方がいい」
理解が追いつかない。
「見たから」
血の気が引く。
責められない。
怒られない。
ただ、理解されている。
それが一番、逃げ場がなかった。
判が押される。
小さな音で、すべてが終わった。
浮気相手との関係は、しばらく続いた。
けれど長くは続かなかった。
喧嘩をしたわけでもない。
壊れたわけでもない。
ただ、どこかで続ける理由がなくなった。
「ごめん」
と彼は言った。
「ううん」
と答えた。
それだけで終わった。
残ったのは、満たされなかったという事実だけだった。
仕事で失敗した日。
スマートフォンを握る。
連絡先を開く。
止まる。
――頼れば、楽になる。
けれど、閉じる。
自分でやる。
初めて、自分で選んだ。
「ねえ」
帰り道、子供が聞く。
「うちって、変?」
少しだけ考える。
「ちょっとだけね。でも、悪い変じゃないよ」
「そっか」
それで終わる。
春の朝、校門の前。
「いってきます!」
「いってらっしゃい」
声が重なる。
子供の背中が見えなくなる。
少しの沈黙。
距離が、ほんの少しだけ近い。
昔の癖で、手を伸ばしそうになる。
止める。
それでいい。
「……元気そうだな」
「うん」
少し迷ってから、会話が始まる。
「最初はさ」
彼女が言う。
「なんでこうなったんだろうって思ってた」
「でも今は分かる」
「満たされなかったのは、誰かのせいじゃなかった」
静かな時間。
「私が、自分で満たせなかっただけ」
夫は小さく頷く。
「……そうか」
それで十分だった。
校門の奥で、子供が手を振る。
二人は同時に手を振り返す。
並んでいる。
けれど、戻らない。
「じゃあ、また連絡する」
「子供のことでな」
「うん」
二人は別々の方向へ歩き出す。
振り返らない。
ポケットの中の小さな箱に触れる。
開かない。
ただ、そこにある。
前を見る。
誰かとすれ違う。
名前も知らない誰か。
それは、過去ではない。
満たし合う関係は終わった。
けれど、
選び直すことはできる。
誰かに奪われたわけじゃない。
ただ、
選ばなかっただけだ。
そして今、
それぞれが、自分で選んでいる。
それが、
三人の形だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この話は、よくある「奪う・奪われる」という関係の先にあるものを、
自分なりに考えてみたものです。
誰かが正しいわけでも、間違っているわけでもなく、
それぞれがどう選ぶのか、という話として書きました。
読んで何か感じるものがあれば、それが答えだと思います。




