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ガチャ廃人のガチャ運営  作者: ペロロンチーノ


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8/11

責任と後悔

ギルドマスターの執務室は、

いつもより静かだった。


書類に目を通しながら、

彼は何度目か分からない溜息を吐く。


「……またか……」


机の上に置かれた報告書。

赤い判が押された紙が、何枚も重なっている。


・ガチャ資金を巡る冒険者同士の口論

・パーティー内の金銭トラブル

・資金不足による深い階層への遠征中止

・資金不足による借金申請


どれも、

ギルド公認ガチャ開始以降のものだ。


「まさか……ここまでとは……」


彼は、額を押さえた。


ギャンブル性があることは分かっていた。

だが、あくまで“自己責任”。


冒険者は大人だ。

金の使い方くらい、管理できる――はずだった。


ギルドマスター自身、

ガチャというものに触れたことがない。

だからこそ、どこか甘く見ていた。


元々、冒険者というのは

そういう気質の者が多い。


「……甘かったな……」



部下が、控えめに声をかけてくる。


「マスター」

「今月分の収支報告です」


差し出された書類を受け取り、

目を通す。


……数字が、はっきりと目に飛び込んできた。


「……黒字、か」


しかも、

想定以上の黒字。


ガチャの利用料。

ギルド買取による手数料。

ガチャを回すために依頼を受ける冒険者の増加。


副次的な利益まで含めれば、

過去に例がないほどの収益だった。


「……皮肉なものだな」


冒険者が揉め、

壊れていくほど――

ギルドは、潤う。


「このまま続ければ」

「設備投資も、人員増強も可能です」

「その分、トラブルも増加すると思いますが」


部下の言葉は、

現実的で、合理的だった。


「……分かっている」


分かっているからこそ、

胸が重い。


どれだけ綺麗事を並べようとも、

ギルドを存続させるには――

金が、必要だ。



「ガチャを止めるのは……やはり、難しいか」


ギルドマスターの問いに、

部下は首を横に振る。


「現時点では、反発が大きすぎます」

「特に、当たりを引いた冒険者からの反対が……」


――当然だ。


Aランクを引いた者。

Bランクを引いた者。

一夜で人生が変わった者たち。


彼らにとって、

ガチャは“救い”だ。


特に、

低ランクの冒険者にとっては。


「……注意喚起は?」


「掲示板と受付で行っていますが……」

「効果は、限定的です」


それも、無理はない。


注意を読んで、

止まれる者は――

そもそも、深くはハマらない。



ギルドマスターは、

椅子にもたれた。


「冒険者を守るのが……ギルドの役目だったはずなんだがな……」


だが、現実は違う。


冒険者は、

自由で、無茶で、危うい。


収入は不安定。

すべてが、自己責任。


そんな彼らから

一攫千金の“夢”を奪えば、

反発される。


だが、

放っておけば――

壊れる。


「……板挟み、か」


誰に向けた言葉でもない呟きが、

静かに漏れた。



その時。


窓の外から、

ギルドホールのざわめきが聞こえてきた。


歓声。

落胆。

怒号。


――誰かが、当たりを引いたのだろう。


「……あのS級」


ガチャを持ち込んだ男の顔が、

脳裏をよぎる。


冷静で、

感情を見せず、

すべてを理解した上で、設置を持ちかけてきた男。


「……どこまで、読んでいたんだ……」



ギルドマスターは、

決断を先延ばしにするように、書類を閉じた。


止めれば、

ギルドは損をする。


続ければ、

冒険者が壊れる。


「……正解は、ないか……」


それでも――

選ばなければならない。


彼は、机の引き出しを開け、

一枚の白紙を取り出した。


そこには、こう書かれていた。


【ガチャ運営に関する規約・改訂案】


まだ、白紙だ。


だが、

何も書かれていないその紙は――

人の欲を軽く見ていた、自身の甘さを

雄弁に物語っていた。



ギルドホールでは、

今日もガチャが回る。


誰かの人生を削りながら、

一攫千金の夢を膨らませながら。


そして、そのすべてを――

公認した責任が、

彼の肩に、静かにのしかかっていた。


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